辺境の女


 オヤジさん、そちらの世界でも元気にやっていますか? 相変わらずソポク姉さんの尻にひかれていますか?

 私、ハクオロは元気です。政事や財政など頭の痛い問題はたくさん抱えている身ですが。

 エルルゥとアルルゥも元気です。アルルゥは新たな友達と楽しく毎日を送っているようです。エルルゥは女官の仕事もこなしていますし、本業の薬師のほうも精進しています。たまにオボロが失敗薬を飲まされ失神してますが、まぁ、失敗は成功の元と、気落ちするエルルゥを励ますのも、私の大事な仕事です。

 エルルゥはアップダウンの激しい性格ですので、その支え役というのは……難かしいものです。

 少しはカルラのマイペースなところを見習ってほしいものですが、いかんせんエルルゥはウルトやカルラやトウカの端麗な容姿に劣等感全開なので、この人たちとは離れるように行動しています。年端のゆかぬカミュにも敗北感があるようですし……困ったものです。

 オヤジさん。

 今日もトゥスクルは平和です。清々しい青空が広がっています。

 クッチャ・ケッチャとの戦など、忘却の彼方に消えてしまいそうです。しかし、オヤジさんやソボク姉さんたちのヤマユラ。その他の多くの犠牲があの戦を忘れさせません。

 あの一件は皮肉なことに、私に皇としての自覚と責任を植え付けました。

 そして思うのです。「二度と戦は起こしてはならない」と。

 

「コラ〜! ムックル待ちなさい! また洗濯物を〜」眼下から、どすの効いたエルルゥの声がします。続いてムックルの悲哀の叫び。毎日恒例の光景を今日も繰り返しています。

 しかしムックルとて、ムティカパのはしくれなのですが情けないことをしています。まぁ、彼の運命は彼女に睨み負けしたところから決定されたものなのでしょう。ムティカパ相手に臆することなく睨み返したエルルゥも凄いのですが、……この頃よりエルルゥも辺境の女としての道を歩み始めた気もします。

 今やムックルを泣くまで説教したり、追い掛け回せる唯一の存在です。

 オヤジさん、すいません。今しばらく一匹と一人の対峙のほうを見ていますね。

「さて、昨日はムックルの鼻面を洗濯物の棒で殴っていたからな、今日は何するのかな?」

 

 しばらくの追いかけっこの末、エルルゥがムックルを敷地の隅に追い詰めた。

「ぐ〜る」とはムックルの弱った声。「もう、逃がさないからねムックル!」息は切れているが勝利の声を上げるエルルゥ。

 先にムックルが右に飛び逃げようとする。が、そこにムックルの動きを完全に読んでいたエルルゥが回りこんいた。

「ふん!」と気合一閃。エルルゥはムックルの急所の鼻面に、全体重を乗せた後ろ回し蹴りを叩きこんだ。ムックルの体重をも利用した、完璧な重心移動とステップワークのなせる蹴りだった。

「きゃうん!」情けない悲鳴が、ここまで届く。たしかにソレは痛いだろう。しかしエルルゥは武術などの経験はないはずだが、今の華麗な回し蹴りは一体……

 

 ……オヤジさん。エルルゥの行く末が怖いです。

 ムックル対エルルゥの戦い? を見ていたのは私だけではありませんでした。

 敷地内で稽古に勤しんでいたトウカも目撃したようです。

 トウカは唖然としてその光景を見ていましたが、我を取り戻した彼女はエルルゥに駆け寄りました。

「エルルゥ殿! その技を是非それがしに伝授を!」「え、はへ?」エルルゥは困惑してます。どうやら無意識に出た蹴りだったようです。

 ……これは、ややこしいことになりそうですよ。

 ちなみにエルルゥの攻撃を見事に喰らったムックルはあおむけに倒れて動きません。完全に意識が飛んだようです。

「さて、一息つけたし、ベナウィに探し出される前に、あの部屋に戻るか」

 私は一人そう言い踵を返しました。

 

 オヤジさん、今トゥスクルは、とても平和です。

 

あとがき

 こんにちは。

 もともと頭の中にあったショートギャグでした。今回ある方の影響で、こちらを書いてみました。前からオチだけ考えついていなかった話でした。書いたらこんなになりました。

 エルルゥがムックルを蹴り倒すという絵だけは前々からありましたけど。(笑)

 それとテオロの台詞を符号させて……「短い話になるな〜」と思ってましたから、予定通り短いです。問題は一人称でいくか三人称でいくかでした。

 結局、ハクオロ視点で天国のテオロに語りかけるという、変な手法を使いました。(笑)

 これから、うたわれるものを書くかは未定です。が、多分書くでしょう。

 そのときは、よろしくお願いします。

クラナドのサントラ大活躍の夏です。 平成十九年七月  taka