虹の橋
むかしむかし、ある村にあかりちゃんという可愛い女の子がいました。あかりちゃんは大変まじめでよくお母さんの言うことを聞く心優しい女の子です。あかりちゃんには浩之ちゃんと雅史ちゃんという幼馴染みがいます。中でも浩之ちゃんとは家もお隣同士でした。
じつはあかりちゃんは浩之ちゃんのことが大好きなのでした。だからあかりちゃんは、いつも浩之ちゃんを誘ってから、遊びに出かけます。でも、浩之ちゃんはとてもお寝坊さんなのでなかなか起きてくれません。浩之ちゃんのお父さんとお母さんは今、遠いところに働きに出ているので、家には浩之ちゃんしかいません。
浩之ちゃんのお母さんに、浩之ちゃんのことをお願いされたあかりちゃんは、気が気ではありません。だって考えても見てください。浩之ちゃんのことが大好きなあかりちゃんのことですからね?…。
内心ドキドキしながら、今日も寝ぼすけの浩之ちゃんを起こしに行きます。でも、今日はあいにくの雨。お外では遊べません。そう思うとあかりちゃんはちょっとだけ悲しくなりました。
「ひーろーゆーきーちゃーん!! あーさーだーよー?」
傘を差しながら窓の外からそう叫んでは見るものの、浩之ちゃんの部屋の窓は閉まったままです。あかりちゃんは少し不安になりました。と、そこであかりちゃんは思い出します。
「あっ、そうだ! おばさまから鍵を預かってるんだ……」
傘を片手にごそごそと持っているかばんの中をを探すあかりちゃん。浩之ちゃんの部屋のカギを見つけるとにっこり微笑みました。そしてカギ穴に持っているカギをさしこんで、カチャッとカギを開けます。
ドアノブをつかんでキィ〜と開けると、いつもの風景が目に入りました。散らかしっぱなしの部屋…。浩之ちゃんは片付けるのが嫌いな男の子です。ですから後片付けはあかりちゃんの役目なのでした。
“はぁ〜あ、しょうがないなぁ〜…。ひろゆきちゃんは……”
ふぅ〜っとため息をつくと、あかりちゃんはお部屋の後片付けや朝ごはんの用意をします。あかりちゃんはお母さんのお手伝いをよくするいい子だということは前にも言いましたが、お料理なんかもときどきお手伝いします。簡単なお料理なら一人で作れます。
今日も浩之ちゃんのおうちに行く途中でお買い物をしてきました。お母さんからも、おいしいスープを作ってもらってあります。あかりちゃんは腕まくりをしてお料理を作ります。
でも、火はまだ危ないのでハムサンドしか作れません。ちょっと残念そうな顔になるあかりちゃん。お母さんが作ってくれたあったかいスープをお皿に移します。
「うん…、朝ごはんの準備はこれで終わり!! ひろゆきちゃんを起こさなくっちゃ…」
そうつぶやくと浩之ちゃんの寝室へと向かうあかりちゃん…。前まで来るとちょっとドキドキしながらトアをノックします。たぶんまだ寝ているのでしょうか……。起きてくる気配はありません。
「はぁ〜…。しょうがないなぁ〜……。ひろゆきちゃんは…」
ため息を吐きながらそう言うと、あかりちゃんは戸を開けます。キィ〜っという音がして部屋の戸を開けると中に入りました。そこには案の定幸せそうな顔をして眠っている浩之ちゃんがいました。あかりちゃんは嬉しそうに微笑むと浩之ちゃんの体をゆさゆさと揺らします。
「ほらぁ〜。朝だよ? 起きてよぉ〜」
ゆさゆさゆさ…。と体をゆすりますが、浩之ちゃんはなかなか起きてくれません。半分泣きそうになりながらもゆさゆさ体を揺らします。実は浩之ちゃんのお母さんから、起きなかったら頭を叩いてでも起こしてね? と言われているのですが、あかりちゃんはそんなことなんてとても出来ません。
いじめっ子の浩之ちゃんは、いろいろとあかりちゃんをいじめてきます。でも、それは浩之ちゃんがあかりちゃんのことを好きなくせに素直に好きだと言えないものだっていうことを、あかりちゃんはお母さんから聞いて知っていました。ですから優しく起こします。
それでもなかなか浩之ちゃんは起きようとはしません。いえ…、実はもう浩之ちゃんは起きているのですが、イタズラ心が出たのでしょう。寝たふりをしていたのです。そうとは知らずにあかりちゃんは一生懸命になって起こそうとします。
「起きてよぉ〜。ひろゆきちゃ〜ん。うっ、うううっ……」
でも、なかなか起きてくれない浩之ちゃんに、とうとうあかりちゃんは泣き出してしまいました。あかりちゃんの泣き声にびっくりして、ガバッと布団から飛び起きる浩之ちゃん。……見ると、涙を拭き拭き微笑むあかりちゃんの姿がありました。
「はぁ〜。しょーがねーなー…。オレが起きねえくらいでいちいち泣くことはねーだろーがよ……」
「だ、だって〜…。なかなか起きてくれないんだもん……」
もしゃもしゃとあかりちゃんの作ったハムサンドを食べながらそんなことを言う浩之ちゃん。ちょっとだけ罪悪感が沸いた浩之ちゃんは……、
“しょーがねーなー…”
と言いつつあかりちゃんの頭をなでました。途端に嬉しそうな顔になるあかりちゃん。いっしょににこにこしながらもしゃもしゃと朝ごはんを食べました。浩之ちゃんの顔を見ます。とてもおいしそうに食べていました。そんな浩之ちゃんの顔を見てあかりちゃんはこう思います。
“早くわたしもお料理とか作れるようになりたいなぁ〜…”
って……。朝ごはんを食べ終わります。浩之ちゃんはいつものように顔を洗いに行ってしまいました。
その間にあかりちゃんは後片付けをします。浩之ちゃんの食器を洗って、ふきんでキュッキュッと拭いて戸棚に直しました。浩之ちゃんの家の中は何でも知っているあかりちゃんにとって、後片付けは簡単なことです。外を見ると雨はまだ降っていました。
「お昼過ぎには止むかなぁ? もし、雨が止んでお日様が出てきたら、一緒にお散歩に行こうってひろゆきちゃんを誘ってみよう……」
そう独り言のように呟くと、あかりちゃんはまた後片付けをしだしました。食器もぴかぴかになりあかりちゃんはにこにこ顔です。午前中はお勉強をします。浩之ちゃんはお勉強が嫌いですが、あかりちゃんにそんなことを言うと、決まって……、
「お勉強しないないとだめなんだよ〜っ!! ひろゆきちゃん!! ぶぅ〜っ!!」
と怒られるので、そんなことは言えません。仕方なく浩之ちゃんはお勉強をすることにしました。でも、やり始めると浩之ちゃんはすごく早く、あかりちゃんが問題集を半分終わるか終わらないかというところで終わってしまいます。
「あかり? お前そんなとこで引っかかってんのか? ったく…しょーがねーなー」
「うううっ……」
一足先に問題集を終わらせた浩之ちゃんは、あかりちゃんのほうを見ました。が、あかりちゃんはまだ半分も終わっていません。はぁ〜とため息を吐くと、浩之ちゃんはあかりちゃんの勉強を見てあげることにしました。
「ここがこうだから…、こうかなぁ?」
「違う違う! それだとここがこうなるだろ? だからな…、ここはこう解くんだよ…。ったく。お前って算数の計算はまるっきりだめだな? 文字で書かれてる問題は得意なのに…」
浩之ちゃんはそう言うとあかりちゃんのほうを見ます。あかりちゃんは涙目になりながらこう言いました。
「しかたないんだよ〜。わたしはひろゆきゃんみたいに頭よくないんだもん…。それに文字の問題はお母さんのお手伝いとかしてると自然に覚えてくるんだよ〜! うううっ…」
と泣きべそをかくあかりちゃん。そんなあかりちゃんに、浩之ちゃんははぁ〜っと何度目か分からないため息を吐くと、またあかりちゃんの頭を優しく撫でるのでした……。
お昼になります。朝、あかりちゃんの言ってた通り雨は小降りになってきました。もうすぐ止むことでしょう。浩之ちゃんはあかりちゃんの家に来て一緒にごはんを食べます。じつは、あかりちゃんのお母さんは浩之ちゃんのお母さんから浩之ちゃんのことをお願いされているのでした。
一応先生でもあるあかりちゃんのお母さんは、お勉強もみてくれます。あかりちゃんたちは出来たお勉強の紙をお母さんに見せました。いつもの日課です…。
「今日はいい点だったねぇ。浩之ちゃんもあかりも…」
赤い丸の入った紙を二人に渡すとあかりちゃんのお母さんはにっこり微笑みます。あかりちゃんと浩之ちゃんは顔を見合わせてにっこり微笑みました。お昼ごはんを食べます。浩之ちゃんは今、おうちに一人でいるのでごはんはあかりちゃんの家で食べています。
朝はお寝坊さんな浩之ちゃん。あかりちゃんが起こしに行かないとなかなか起きません。最初は朝ごはんは自分の家で食べていたあかりちゃんでしたが、一人、おうちで食べてる浩之ちゃんがやっぱりかわいそうだと感じて、あかりちゃんは一緒に朝ごはんを食べるようにしたのです。
お昼ごはんは浩之ちゃんの大好きなハンバーグです。あかりちゃんもハンバーグは大好きです。実はこのハンバーグ、あかりちゃんもお手伝いして作っていました。お母さんと一緒にひき肉をコネコネしたりフライパンの上にハンバーグを乗せて焼いたり…。
ハンバーグを焼く時、フライパンに敷いておいた油が飛んで、あかりちゃんの手に飛んだ油がかかります。涙を浮かべながら…、でも、一生懸命にハンバーグを焼こうとするあかりちゃんを見てお母さんはにっこり微笑みました。
出来たハンバーグ。見てみるとお母さんのハンバーグより少し小さくて形もちょっとへんてこなハンバーグが浩之ちゃんのお皿の上に乗っかっています。あかりちゃんははぁ〜っとため息を吐いてしまいます。だって、いつもハンバーグを作るとこうなんですもの……。でも……、
「うん、ちょっと形はへんてこだけど味はうまいぜ? だからそんな泣きそうな顔すんなって…」
そう言っておいしそうにあかりちゃんの作ったハンバーグを食べる浩之ちゃん。泣きべそをかきながら、でも嬉しそうにあかりちゃんは微笑みました。
“ありがとう……、ひろゆきちゃん……。大好きだよ?”
あかりちゃんはそう心の中で言いました。もうすぐ雨も止みそうです……。
お昼ごはんを食べ終わったころには、雨は上がっていました。お昼からは遊びの時間です。あかりちゃんと浩之ちゃんは草原に行きます。あかりちゃんたちの家の近くにある草原は近所の子供たちの遊び場です。今日もあかりちゃんたちはそこに行きました。
林を抜けて、小川の丸太木の橋を通っていつもの遊び場に出てきます。今日は何をして遊ぼうかなぁ?…。あかりちゃんの頭の中はそのことでいっぱいでした。
草原に着きます。普段はもう二、三人は来ているのに今日は誰も来ていません。まだ、ところどころ雨が降っているのでしょう。黒い雲が低く向こうの山に立ち込めていました。あかりちゃんの住んでいるところは山に囲まれた小さな村です。
ほとんどが山のなだらかなところに家を作って住んでいます。また、村のほとんどの人は山の向こう側に住んでいるので、まだ誰も出てこれないみたいです……。
もう一人の幼馴染みである雅史ちゃんも、山向こうに住んでいるため今日は遊びには来れないみたいでした。
「ったく、つまんねーなー…。おい、あかり…、帰ろうぜ?」
誰もいない野原を見回して浩之ちゃんはつまらなさそうにそう言ってあかりちゃんのほうを見ました。でもあかりちゃんは空を見上げていました。なんだろう? そう思った浩之ちゃんはあかりちゃんと同じように空を見上げます。そこには……、
「……すげーな……。あかり……」
「……うん、そうだね…。ひろゆきちゃん……」
空の向こうにつづく橋のような大きな虹があかりちゃんたちの頭の上にかかっていたのです。赤、橙、黄色、黄緑、緑、青、紫…。七色のきれいな橋が山の向こうへとつづいていくようでした。あかりちゃんは浩之ちゃんの目を見つめてこう言いました。
「わたし、いつか虹の向こう側に行ってみたいんだ…。まだ小さいから無理だろうけどね? でも大きくなってお母さんみたいに一人で何でも出来るようになったら、虹の向こう側に行ってみたいって思うの…」
「ああ、それがお前の夢みたいなものだからな…。まあ、くだんねー夢だけどよ?」
浩之ちゃんはいつものような顔になると、あかりちゃんのほうを見ました。ぷぅ〜っと頬を膨らませて怒ったような拗ねたような顔になるあかりちゃん。頬を膨らませたまま、浩之ちゃんのほうをぐぐぐっと睨んでこう言います。
「もうっ! ひろゆきちゃん! またそうやってわたしの夢をバカにするぅ〜!!」
ぷぅ〜っと頬を膨らませて怒った顔をするあかりちゃん。あかりちゃんが拗ねると朝ごはんが食べられなくなる浩之ちゃん。一回、前にあかりちゃんとけんかをしてしまって、朝ご飯を食べられなかったので、ここは素直に謝ることにします……。えっ? なぜって?
考えても見てください。朝、浩之ちゃんを起こしに行くのはあかりちゃんなんですよ? …謝っている浩之ちゃんを見つめるあかりちゃんの目は、なぜかとっても嬉しそうでした。しばらく浩之ちゃんのほうを見ていたあかりちゃんはまた虹のほうに目を戻すと…、
「……。ねえ、ひろゆきちゃん…。……もしも、もしもだよ? わたしが虹の向こう側が見たいって言って旅に出て、そのまま帰って来なかったら、ひろゆきちゃん、探しに来てくれる?」
急に俯きながら上目遣いで浩之ちゃんにそう尋ねました。
「……ま、まあ、探すだろうな…。でも、探すのめんどくさいから旅に出るって言うとき、“行くな”って言って止めるけどよ…」
浩之ちゃんは頬をぽりぽりと掻きながらそう言います。実は浩之ちゃんは心配でなりませんでした。でも男の子の浩之ちゃんはそう言って強がっていたのです。お母さんから“男の子って言うのはそういうものよ?”と、前に聞かされていたあかりちゃんの心の中はちょっとだけ嬉しくなりました。
大好きな浩之ちゃんが、探してくれると言ってくれたからです。あかりちゃんはにっこり微笑みました、そして今度はちょっといじわるく、こう聞いてみることにしたのです。
「それでも行くって言ったら? その時はどうするの? ひろゆきちゃん……」
「その時はもう知らん。勝手に行け。オレは止めたんだからな……」
浩之ちゃんがあかりちゃんの顔をちょっと怒ったように睨みます。多分あかりちゃんのことが心配になったのでしょう。お調子ノリなところがあるあかりちゃん。大きくなったら本当に旅に出てしまうような感じが浩之ちゃんにはしていたのでしょう。でも……、
「うふふっ、じゃあ、やーめたっ。やっぱりひろゆきちゃんを置いていったら心配だからね?」
「結局そこかよ……。はぁ〜。ったく、しょーがねーなー…」
あかりちゃんは浩之ちゃんの顔をにこにこと見つめています。浩之ちゃんは内心“ほっ”としましたがそんなことを言うのが恥ずかしいのでしょう。ふんっ! とそっぽを向いてしまいました……。
そんな二人を草原の風は優しく、太陽は温かく、そして虹は消えるまで見つめていました。あかりちゃんと浩之ちゃん、二人の笑顔を…。そして、二人の未来を…。いつまでも、いつまでも見つめていました……。
END