おでんな誕生日パーティー


 今日11月24日はオレの彼女・雛山理緒ちゃんの誕生日だ。前年は良太やひよこちゃんも連れて紅葉狩りへ出かけたわけだが、そこでまあオレの願望ともいうべき“紅葉の天ぷら” って言うものをご馳走になった。オレ自身もう1年も前のことなので詳細は忘れちまったが、何でもオレが“食ってみたいな?” と呟いたことが原因らしい。夜、何気なく見ていた旅番組にちょうど京都の老舗旅館の映像を見てたらグルメレポーターが美味そうにもしゃもしゃ食っていたのを見て、オレも食ってみてーと思ったんだろう。実際のところ味のほうは、何もしなかったと言うか塩の味がしただけであまり美味いもんじゃあなかったわけだが…。
 で今年。今年はいろいろと彼女のほうが大変なわけで、オレもそれを手伝いつつ良太やひよこちゃんから理緒ちゃんへ贈るプレゼントのことなどを聞き出そうと試みているわけだが、“姉ちゃんだったら藤田浩之からのプレゼントなら何でも嬉しいぞ?” と言われる。まあそんなところだろうとは思っていたんだが…。何かもっと具体的にはないのか? と改めて聞いてみると、ひよこちゃんが“そう言えばお姉ちゃん、おでんするお鍋が欲しいって言ってたよ?” と言う。おでん鍋か…。そういやここ最近食ってねーよな〜。おでん。当然一人暮らしなオレには作ってくれる相手なんているわけじゃなし。時々彼女と幼馴染みNo.1であるあかりが作りに来たり、あと、マルチとかも作りに来てくれたりはするわけだが(お約束ではあるがマルチのはミートせんべいなわけだ…)。普段いかにぐーたらしてるのかがよく分かるよな? そう思い一念発起するように立ち上がると、オレは財布をズボンのポケットに突っ込んで、颯爽と商店街に繰り出した。


 さて、商店街に着いた。夕暮れ時になるとどこもかしこも買い物客でごった返すわけだが今の時間は空いている。そりゃあ朝の10時だし当然だろ? などと言うツッコミを自分に入れて、おでんの具材を買い込んだ。締めて4000円也。ついでに本屋に立ち寄って“男の料理・おでん編” なんて言う本も購入し意気揚々と家へと帰ってくる。ちなみに大学は今日は一昨日・昨日の文化祭の振り替えで休みなわけで。一般的に文化祭は11月3日くらいにするのが当然なわけだが、ここら辺はあっちこっちに大学があるからか前期と後期に分けるのが一般的になっている。それも1年ずつの交代制だから、来年はうちの大学が3日、4日と言う感じだ。まあ一般学生にとっては何の問題もないのだが…。あかりや委員長は大変だっただろうな? そう思いつつ、肩から下げた荷物を机の上に置く。ふぃ〜、結構な荷物だったな? そう思い具材を1つずつ取り出した。餅巾着はオレの大好物なので多少大目に買い込む。にしてもあかりが見たら何て言うだろう。“こんなにお金を使ってこれだけ?” と半ば呆れ顔で言われるんだろうな? え〜え〜、ど〜せオレは買いもんは下手ですよ〜っと見えもしない相手に文句を言いつつ準備を始める。
 まずは、鍋を取り出す。ちなみにあかりにも理緒ちゃんの誕生日パーティーをするぞ〜っと声を掛けておいた。まああかりに言えば自然といつものメンバーがそろうのは分かっているのでその辺は割愛するが…。ってそうか、あいつも来るんだったらご近所に今日はちょっとばかりうるさいですと一言言っておかんと…。とばかりに放っ散らかしてご近所にあいさつ回りに行くオレ。何でこんな徒労をせにゃならんのだ? とは思うが、一応女友達の中では一番付き合いの古いやつだし、まあ世話になってないかと言われるとウソになる。ともかく大人数で食うので鍋も大きなものをと相撲取りがちゃんこ鍋で食うような大き目の鍋を用意した。水を入れる。前にあかりん家でおでんの水の分量を教えてもらってかつ、自分でも分かるように目印をつけておいた。その目印にまで水を入れて、だし昆布をちゃぽんと投下。火を入れてぐつぐつ煮る。本当は鰹節で煮たいところだったのだが、後述する通りな理由で今回は昆布と鰹の合わせ出汁と言うふうになった。買ってきた本も読みつつ支度を続けるオレ。時間は昼を回っていた。
 簡単にカップラーメンで昼を済ませると、今度は具材を切っていく。具材を切り分けたりタコや牛スジを串に刺したり下準備をする。ちなみにはんぺんも買ってやろうと思ったが、関西人の委員長が嫌がるだろうと思い買うのはやめにした。オレたち関東の人間にははんぺんは普通に食べているのだが、一回委員長と理緒ちゃん含む仲間数人とで飲みに行ったときにすごい嫌な顔をされた。何でも臭いが嫌らしい。確かにあのアンモニア臭はすごいがそれSWも美味しい匂いだぞ? と言うと、“信じられへん!” みたいに言われ、あと、“関東は何でもかんでもしょう油をかけすぎや!” とか、“何でいっつも阪神は勝てんのや〜っ!” などと? ぶつぶつ関東の悪口に発展していきそうになっていたので話題の方向を変えてやって何とか収まったわけだが。って言うか怖いお兄さんがギロリとこっちを見ていたのはオレだけの秘密だけどな…。そんなこんなで具材をポイポイ切って入れていく。大根だけは面取りって言うめんどくせーことをしないといけないのでちょっとばかり真剣になったわけだが…。あとはこれを煮詰めればいいわけだ。と肝心の味見をするのを忘れていた。出汁を味見用の皿にちょっと入れて飲んでみる。正直もう少ししょう油を足したいわけだが、まあ関西人もいるわけだし最近何かと薄味志向な世間だからこのぐらいでちょうどいいのかもな? そう思いつつことこと火にかけること数時間。ふっと時計を見るといい頃合いになっていた。


 今日は私の誕生日。だから彼の家に招待されて今向かっている最中なんだけど…。良太やひよこまで一緒に行って正直いいのかな? って思ってる。良太自身は、“藤田浩之が姉ちゃんをまた泣かせるかもしれないからな?” って言ってまるでお姫様を守る騎士みたいに偉そうぶって言ってるし、ひよこはひよこで、“お菓子とかあるのかな?” って食べ物の話をしてる。お父さんを5年前に亡くしてからバイト生活の苦しい時期に彼と何気なく出会い、それからあれこれとあって今の彼氏彼女の中になったわけだけど、本当に私なんかで良かったの? っていつも思うわけだ。だって彼・藤田くんには幼馴染みの神岸さんだっているし、ほかにも魅力的な女の子がたくさんいる。なのにも関わらず私みたいな体が丈夫なだけの何の取り柄もない女の子を好きになってくれるなんて未だに信じられないでいるわけで…。今こうして藤田くんの家に向かっているのだって夢かもしれないって思ってる。
 でもこうして歩いている感覚は夢なんかじゃない、現実なんだって思うと何だか妙に嬉しくなってくる。そう思って良太とひよこの手を取ってるんるん気分で藤田くんの家へと向かう私。何も持ってくるんじゃねーぞ? って藤田くんが言ってたけど、何も持っていかないっていうのは、こっちも気が引けるので、この間の話で出ていたケーキ屋さんでケーキを購入した。といってもこの間までバイトをしていたところなのでもう顔なじみって言うかそんな関係なんだけど。そこのマスターは結構いい人で、“またバイトしたくなったらいつでもおいで。待ってるから” とニコニコ顔でそう言ってくれる。ついでを言うと藤田くんもそこのお店の物は結構好きなんだよ? って幼馴染みの神岸さんに言われたんだっけ。
 神岸さんには随分と酷いことをさせちゃったなって思ってるわけだけど、神岸さんはそんなことは一切言わずに逆に私の後押しをしてくれる。例えば、しょっちゅう食べ物の好みが変わる藤田くんの今の好みだとかそんなことを教えてくれる。“幼馴染みだからね? 何でも分かっちゃうんだ〜” とは神岸さんの弁。だけど私は分かっていた。本当は神岸さん、藤田くんのことが一番好きなんだって…。高校時代、いつも目にする光景…。2人仲良く登校したりしてた。長岡さんがよく言ってた“おしどり夫婦” って言う言葉がぴったりくる感じで私の密かな憧れだった。そんな彼女は今でも彼のことが大好きみたいで…。何をやってもかなわないなぁ〜って今でも思っちゃう。でも彼への思いだけは誰にも負けないつもり。例えそれが神岸さんであってもね? とと、いけないいけない考え事してる場合じゃなかったんだった。急がなくっちゃね? そう思い良太とひよこの手を引き藤田くんの家へ向かう私がいたんだよ?


 今夜の主役はいつものように元気だな? とオレは思う。あかりやみんながやってきてあれやこれややっている中で1人だけぼ〜っとしてるのもなんだからと一緒になってやっている。そう言うところにまあ何て言うか惚れたのかも知れない。まああかりがオレのことをどう見ていたのかは知っているし、オレも詳しく詮索はしないつもりだ。だけど今好きになった彼女は気付いているのかもな? なぜか分からないがそう思った。まあそんなこんなで変わる間柄じゃあないって言うことは分かってるつもりだしあかりも変に気を使わないで今まで通り接してくれてるだけで良かったと思う。
 相変わらず寒い木枯らしが街中を吹き抜けていく。そんな中で彼女の優しさに触れ、幼馴染みの優しさに触れ、友達の優しさに触れる。まあたまにはこんな感じの誕生日もいいもんだ。そう思いつつオレが精魂込めて作ったおでんにがーがー文句を言う腐れ縁に、談笑しながら食べている友達と後輩2人組にお手伝いしてくれる? メイドロボ2人、まあ1人は将来のドジっ娘体質なのか案の定ドジをしていたりするわけだが…。まあこれも本来のオレの中では一般的な事柄なんでその辺はご愛嬌…。もっとも味のことでぶつぶつ文句を言う友達にそれを一生懸命フォローしてくれる友達や幼馴染み2人に、相変わらず何かを達観しているのかと言うような表情でもしゃもしゃもぐもぐと口いっぱいにおでんを頬張っているお嬢様と、同じように頬張りながら、“美味しいね〜っ” と互いに言い合う彼女の弟と妹。見渡してまあ何だかいつにも増して賑やかしいな? と彼女と2人見つめ合って思わずくすくす笑いが込み上げてくる今日11月24日はオレの彼女、雛山理緒ちゃんの21歳の誕生日だ。

END