ノートに書かれた文句


 9月10日は私の18回目の誕生日。でも今年はそんなお祭りのようなこともなく…。と言うか来年は受験なんやから、当たり前と言えば当たり前かも知れへんねんけど…。でも私の横ですかぴ〜って気持ちよさそうに寝てる男の子の顔を見てるとなぜか無性に腹が立ってくる。“あんたも私の彼氏なんやからもうちょっと彼女の誕生日くらいは何か気の利いた言葉でも掛けてくれてもええのんとちゃう?” と言いとうなる。
 そう、彼は私の好きな人、藤田君。彼と何でこないになったのか私はよう分からへん。でも気がついたら好きになっとった。昔付き合うとったヤツが私の女友達と付きおうとるって聞いた時もそんなにショックは受けんかったし…。……もうその時には彼の事が好きになってたみたいやった。今思うてもそう思う。
 カリカリカリ…。教室に響くチョークと鉛筆の音。私は横で寝てる藤田君の分までノートを取らんとあかんから大変や。体育とかになるとむちゃくちゃ頑張るのに、何で理数系の授業になるといつも寝とうねん? 寝とる彼の横で心の中で言う私。そんなんやから神岸さんが心配するんやろ? …なんや寝てる顔見てたら無性に腹が立ってきたわ。そう思うて愛用のシャーペンの芯をカチャカチャと押し出して、軽く藤田君の頬に刺してやった。と途端に目が覚めたのか藤田君。寝ボケとうのか知れんけど、こんなことを言ってきよった。
「す、すまねぇ。智子。誕生日忘れちまって…。後でプレゼント渡すからそれで勘弁してくれ〜っ!!」
 一瞬教室が固まってしもうた。言った藤田君は訳が分からずにぼ〜っと突っ立ってるだけや。な、ななな何言うとうねん! この男は〜っ!! とは思ったものの、突然そんなことを言いよるから先生に睨まれるわ、教室はわいのわいのがやがやうるさいわ…。その後は、例の如く勉強にならんかった…。
 休み時間は休み時間で藤田君の周りには人だかりが出来てもうてる。それは私も同じやったけどな?…。仕舞いには長岡さんまでやってきてもうひっちゃかめっちゃかの大騒動になってもうた。それも昼休みになるといつもの教室へと戻る。まあ、もうすぐ受験なんやから当たり前か…。ふふふっと笑みが零れた。にしても問題なんは藤田君や! “智子”は、二人でいる時だけの名前やって言うとんのに…。ああ、あかん。なんやムカついてきた。お返しや! 出しっぱなしの彼の机のノートに、文句をぎょうさん書いてやった。これを見たらなんて言うやろ…。またはぁ〜ってため息を吐きつつ、神岸さんにいつも言うように“ったく、しょーがねーなー…” って言うような目で私の顔を見るんやろうなぁ〜。そう思たらなんや笑けてきてしもうたわ。


 帰り道、藤田君が文句の書かれたノートのことを言う。“なあ、智子…。ありゃ、文句じゃなくてお願いじゃね〜のか?” って…。うっ、痛いところをついてきよるなぁ〜。でも文句は文句なんや!! さあ、実行してもらおうやないの。そう思て、彼の腕にぴったり体を摺り寄せる。摺り寄せた体から彼の顔を上目遣いに見ると頬をぽりぽり掻いとった。
 いっぱい書かれた藤田君への文句、その最後にはこう書いてあるんや…。
“私を藤田君のお嫁さんにして…”
 ってな?…。うふふっ…。

END