姉ちゃんのエプロン
「藤田浩之はどんなのがいいと思うか?」
「オレか? オレはまあそうだなぁ〜…。まあ金との相談だな?」
今日11月23日はオレの彼女の理緒ちゃんの誕生日の1日前だ。だからオレはこうして理緒ちゃんの弟の良太と妹のひよこちゃんと一緒にプレゼント選びに付き合っている。でも、付き合っていると言うのは半分は間違いだけどな? 何せオレ自身また決めかねてるっつうのが正直なところだ。理緒ちゃんは今日もバイトらしい。ウチの高校はバイトは許可制になっていて、先生から許可が下りねーと出来ねーらしかった。まああかりから聞いて初めて知ったわけなんだけどな? この前だったか、理緒ちゃんのプレゼントの誕生日も近くなったしバイトでもすっかな〜なんて思って先生のところまで行って許可を取ろうと思ったんだが、途中であかりに呼び止められて…。
「えっ! 浩之ちゃん知らなかったの? バイトにはそれ相応の理由と許可が必要なんだよ?」
なんて言われちまって、結局あかりのおばさんに親父たちへの取り次ぎをしてもらい、臨時と言うことで5万ほど定期のほうに振り込んでもらったわけだ。で先週の金曜日の午後、都合よく学校のほうが早く終わったもんだから銀行に行って3万ほど下ろしてこうやって財布に忍ばせてある。
良太とひよこちゃんもそれぞれ貯めた小遣いを持ってきてるみたいだ。家の手伝いなんかで理緒ちゃんから小遣いをもらってるんだろうな? それぞれのポシェットを見ながらそう思った。ついでを言うとこれも理緒ちゃんの手作りなんだそうだ。あかりが家庭的だとするなら、理緒ちゃんはあかりを越すよな? “神岸あかりここに敗れたり〜っ!” とも思う。そんなオレの邪な考えをよそに、あちこちと物珍しそうに見ている良太とひよこちゃん。さて、どういうものを買うか…。要点はこの一つだ。あまり豪華なものを買っちまうと理緒ちゃんが恐縮しちまうんでオレとしては却下と言うことになる。また安いものを買うとなるとオレの彼氏としてのプライドが許さない。うーん、悩む…。
「姉ちゃんだったら何をプレゼントしても嬉しいと思うぞ? 藤田浩之」
考え込んでいるオレの横で良太がこう言う。って言うかフルネームで呼ぶのそろそろやめてくんねーか? とも思うが元々こう呼ばれているので今更変えられると逆にこっちの方が調子が狂っちまう。でもどうすんだ? このままおけらってわけにもいかんしなぁ〜。良太と二人して考え込む。と、そんなオレたちを見ていたひよこちゃんはこう言う。
「お姉ちゃん、いつも使ってるヒヨコ柄のエプロン、破れてたよ? それから新しいお洋服がそろそろ欲しいなぁ〜って…」
それだ!! 良太と二人キラーンと目が光る。早速生活雑貨のコーナーまで行き、エプロンを選ばせる。気に入ったものが見つかったんだろう。二人で一つのエプロンを持ってくる。500円か…。まあだいたいの相場は知っているのでこれはこれでいいだろうな。そう思って、レジのおばちゃんのところまで持っていく。良太が300円。ひよこちゃんが200円と出し合ってそのエプロンを買った。タマゴとヒヨコと鶏のアップリケのついたエプロンを理緒ちゃんがつけて料理しているところを想像する。うん。似合ってるな? そう思う。
と今度はオレの番だな? とは思うものの服のサイズを知らないオレにはどういう風に選べばいいのか分からん。男はぱっぱと選べばいいんだが、女の子はそう言うわけにもいかんだろう。良太たちに聞けば…、とも思ったが知らんだろうしなぁ〜。とりあえず洋服売り場に戻って考えるか…。そう思い踵を返すように洋服売り場に戻るオレたち。とそこへ…。
「浩之ちゃ〜ん」
大声でオレの名前を呼ぶ声が…、って言うか“ちゃん付け”で呼ぶやつなんざあいつぐらいだな? はぁ〜っとため息をつきつつ振り返る。当然のことおさげ髪の幼馴染みことあかりが立っていた。あかりがいるっていうことは、まさかヤツも?! と思ってきょろきょろ見回してみるが…、
「志保ならいないよ? 今日は何でも外せない用事があるとかで出かけちゃってるんだって。で、浩之ちゃんは理緒ちゃんのプレゼントを買いに来たんだよね?」
「分かってるなら話は早い! なあ、あかり。プレゼント買うの手伝ってくんねーか? …オレ一人じゃどうも選びにくくてよ」
良太とひよこちゃんの目線にまで下がって、“こんにちは。良太くん。ひよこちゃん” と言うあかり。と、それぞれに挨拶をする良太とひよこちゃん。歩く歩幅を合わせながら頬をぽりぽり掻きつつそんなことを言うと、“うん、いいよ。私も理緒ちゃんにはお世話になってるしね?” そう言うとにっこり微笑むあかり。さすが幼馴染みNo.1だ。そう思い早速洋服売り場に行くオレたち。面倒見も良くておまけに性格もいいあかりは、理緒ちゃんはもちろん、良太やひよこちゃんとも仲良しだ。現にもう良太やひよこちゃんはオレのそばにはいない。前に一回理緒ちゃんちにあかりたちと遊びに行った時にはもう打ち解けてやがったしな? そう思いながら前を歩くあかりたちを見ながらそう思った。
服を選ぶ。と言っても正式には選んでもらってるわけだが…。“予算はどれくらいなの?” と聞いてくるんで、手をぱっと開かして見せる。いかにも分かったように頷くあかり。もちろん5000円と言う訳だが。本当は3万ほどの服を買ってやりたいんだがあまりに高価すぎて理緒ちゃん着てくんねーかな? と思ったので5000円くらいの服に標的をしぼめた。とオレの考えたとおり5000円台のところに行くからやっぱり幼馴染みっつうかなんつうか、そう言うもんなんだなぁ〜って思っちまう。とあかりがよさげなピンクと黄色のワンピースを持ってきて、“どっちがいいかなぁ〜?” なんて聞いてくる。前述のとおりオレはその辺には疎いので良太たちに選ばせることにする。と言っても良太たちが選ぶのはもう分かってるんだけどな?
その帰りに、あかりに手伝ってくれたお礼にとクマのキーホルダーをUFOキャッチャーで捕ってやった。金のほうは2000円ぐらいつぎ込んだけどな? あいつのクマ好きにも困ったもんだ…。“クマグッズがまた増えたよ〜” って言いながらはしゃぎまくってたもんなぁ〜。ははははっ、はぁ〜……。まあ理緒ちゃんへのプレゼントは明日の帰りしでも渡せばいいってことだ。理緒ちゃんの喜ぶ顔が目に浮かぶぜ。そう思いながら夕食用のレトルトカレーを温めるオレがいるのだった。
今日11月24日は私のお誕生日。そう言えば昨日良太とひよこが藤田くんと一緒に出かけてたけどみたいだったけど…。何だったんだろう。帰って来てからもなんだかすごくご機嫌そうだったなぁ〜。そう思いつつ台所へ向かう。お母さんが先に起きていたみたいだ。お米を研いでいた。“お母さんおはよう” いつものようにあいさつ。“おはよう、理緒” いつものように優しく微笑んでいるお母さん。さあていつものエプロンに袖を通して…と。ふと、机の上に置かれたものが目に入る。綺麗な包装紙に包まれたものだ。なんだろう? 包まれたものの上に手紙が置いてあった。たどたどしい字で“姉ちゃんへ”と書いてある。読んでみる。手紙にはこう書かれてあった。
“ねえちゃんへ。たんじょうびおめでとう。これ、オレとひよこからのプレゼントだ”
えっ? と思い包装紙を丁寧に破り中を見る。真新しいエプロンがあった。お母さんの顔を見ると優しい顔をもっと優しくして私の顔を見つめていた。多分お母さんは知ってたんだろう。そう思う。自分のつけているエプロンを見つめる。ところどころつぎはぎで繋いであるような古いエプロン。これをプレゼントしてくれるために藤田くんに無理言って一緒に出かけたの? 藤田くんも藤田くんだ。嫌なら嫌でちゃんと断ればいいのに…。でも、何となくだけど藤田くんも一緒に選んでくれたのかな? そう思うと顔が真っ赤になった。古いエプロンを脱いで、新しいエプロンへ袖を通す。タマゴとヒヨコと鶏のアップリケのついたエプロンはとても可愛い。お母さんも、“お似合いよ?” そう言って微笑む。良太、ひよこ、ありがとう。それから、藤田くんにも…。と心の中でお礼を言う。さて、今日からこのエプロンでお料理作ろっと…。可愛い弟や妹のためにね? そうそう、古いエプロンのことも考えなくっちゃ。お母さんと朝食の準備とお弁当の準備をしつつそう思っていると良太が目を擦り擦り起きてくる。その後ろにひよこもついてくる。
「おはよう。良太。ひよこ。もうすぐ朝御飯が出来るから顔洗ってきなさい。それと、これありがとね?」
そう言ってエプロンの裾をひらひらさせる私。良太は“おう!” と一言言うとニコッと笑う。ひよこも同じように微笑んでいた。そんな誕生日の朝、私の18歳の誕生日。
もっともその帰りにもっと凄いサプライズが待っていることには今はまだ気が付いていない私だったけどね? えへへっ。
END