清貧の恩寵


「わぁ〜、こんなにいっぱいケーキが食べられるなんて夢みたい…」
 と妹が無邪気なにこにこ顔でこう言う。今日11月24日は私のお誕生日。いつもなら小さいマグカップに入ったケーキか、自分で焼いたホットケーキでささやかながらお祝いするんだけど、今年は私には不釣り合いなほど格好よくって優しくて頭もいい彼・藤田くんに連れられて、ケーキバイキングなるものにやってきた。もちろん良太やひよこも一緒だ。お母さんは、“いい彼氏さんで本当によかったね?” と内職をしながらいつも言ってくる。私もうんと首を縦に振る。“縁は異なもの味なもの” って藤田くんのクラスの金髪碧眼のレミィさんがよく諺で言っていたんだけど、全くその通りだなぁ〜って自分でも思うわけ。最初は憧れっていうのがあった。声に出して言ってしまうと少しばかり滑稽でかつ烏滸がましいとは思う。だけど、自分の気持ちにはウソは吐けない。そう思って学校の下駄箱に手紙を入れたのが約2年半くらい前。まあ最初はちょっと背伸びしていた私だったんだけど、付き合っていく中でだんだんと自分の境遇と言うか置かれた立場と言うのを話せるようになって、それでも変わらず接してくれる彼のことをいつしか憧れから恋へと変化していったわけで…。まあ最初は勢いで言ってしまった“好き” と言う言葉が、結果的に今の状態になったことは自分でも驚きとともに彼への感謝が大きいかな? って思うの。
 そんな感じで彼の家にもお邪魔させてもらうことが多くなって、仲はより親密になった。幼馴染みのあかりちゃんとは今ではいいお友達。彼の昔から今のことをいろいろ話してくれる。私も日々の暮らしの便利情報なんかを話す。今日のこのケーキバイキングもあかりちゃんから聞いたことだって彼が教えてくれた。もちろん彼女の恋心は知っていたし、私も彼と彼女がお似合いのカップルだと思っていた。だけど、彼は私を選んだ。それが彼女にどう変化をもたらせたのか、私には分からない。ただ、幼馴染みと言う間柄は続いているので私としてはホッとしている。
 で、今日だ。昨日の晩に彼から電話がかかって来て、“明日は良太とひよこちゃんを連れて駅前で待っててくれ” って言うものだからちょっといい物を良太たちに着せて一緒に出掛ける。“藤田浩之とデートか? 姉ちゃん” と良太。まあそういうところかなぁ〜? と私も曖昧に答える。私たちを連れて行くって言うことは何か楽しい場所に行くのかな? って思ってちょっとドキドキしていた。時間はちょっと早く来すぎちゃったけど。5分ぐらいして彼が姿を現す。“遅いぞ〜? 藤田浩之〜” と良太が駆けていく。“ああ、わりぃわりぃ” と頬をポリポリ掻きながらよっと手を挙げて挨拶する彼。ひよこはぺこっとお辞儀する。私も、“何かいろいろごめんね? 藤田くん” と謝る。“そんな謝ることなんてねぇ〜って。第一オレが良太たちの相手するのが楽しいんだから” と彼。そんな屈託のない彼の笑顔に安心させられる。そうしてニコニコ顔の良太たちの手を取って歩き出す私たち。まあデートと言うものだろう。ただ違うところは私と彼だけでなく、私の弟妹も一緒と言うところかな? そう思う。一般的に弟妹を連れて行くことには普通の男性は嫌がるものなのに彼に関しては一切そう言うことはない。逆に連れて行かなかったら私の家まで一旦戻って改めて弟妹を連れて出ると言う感じだ。この間もひよこがちょっと風邪気味でいたら彼が飛んで来てかかりつけの医院に連れて行ってくれた。普通はそこまですると返って何か裏があるんだと思うし、実際こう言う犯罪まがいの行為は何度も経験している私なんだけど、こと彼に至ってはそれが当たり前なような感じがして不思議な気分になる。一回聞いたことがある。“何でそんなに優しくしてくれるの? うちは生活もかつかつで私もあまり可愛くないし、弟はあんなだし、妹だって今日みたいに迷惑かけちゃってるのに…” って。そしたら、
「オレがしたいから。ただそれだけだ。他意はねぇよ。あっと家が貧しいとかそんなんじゃねぇからな? そこんところは勘違いしねぇでくれよ」
 ってにっこり笑ってそう言う。“まあ何だ。心だな? 昔ちょっとかじったキリスト教の教えの中で、‘清貧’ って言うものがあってそれが理緒ちゃん家にぴったり当てはまるんだよな?” とこうも言ってくれる。“私欲を捨てて行いが正しいために、生活が質素であること” と後で辞書で調べたらこう書かれていた。私自身はそれほど感じないけど(と言うか私欲丸出しだけどね?)藤田くんから見たらそう感じるのかな? “隣りの芝生は青い” っていうやつかも…。って一人合点したように頷く私。そんな私に“何かあったか?” と不思議そうな顔をして聞いてくる藤田くんの顔が何だかおかしくて思わず、“あはは” って笑っちゃった。ごめんね? 藤田くん。


「良太もひよこちゃんもたくさん食べたな〜?」
 と言うオレ。まあ甘いものはあまり食わんオレでもあそこのケーキは美味かったわけだ。あかりには感謝だな? そう思う。と彼女の手提げカバンにこの日のために選んだものをそっと忍ばせてやる。あとで帰ってからどう反応するかが楽しみでもあり不安でもあるわけで。やけに感動症のある彼女だからオレがこういうことをすると必ずと言っていいほど電話がかかってきて涙声でお礼か感動の叫びか知らんが“うわぁぁぁぁ〜ん” とどこぞのぽんこつ魔法使いの女の子みたいに泣いちまうからこっちとすればそれがやや難儀と言うとそうなんだが…。さてさて今年はどうなるかな? と期待半分不安半分で彼女の家まで送っていくそんな今日11月24日、オレの彼女・雛山理緒ちゃんの19歳の誕生日だ。

END

おまけ

「また今年もこんなに感動的な言葉で書かれてたよ〜。うわぁぁぁぁ〜ん」
 とオレの家の前でご近所さんにも聞こえるような大きな声で泣く彼女。まあ悪いことはしてないんだけどな…。でも大声で泣かれると非常に体裁が悪いわけで…。取り合えず中に入ってもらえるか? と言うオレにぐすぐす泣きながらうんと首を縦に振る彼女。プレゼントはあかりに任せておいたのでどんなものを買ったのかは分からんわけだが、そうそう悪いもんではなかろうと思う。端書したのはオレだがな? まあこんなことを伝えるためにわざわざやって来るんだからオレの彼女は変わってると言えば変わってるよな? とも思うわけだが、そこが彼女らしいと言うとそうなるかな? とも感じる。で、なんて書いたかって? そんなことはハズいので口では言えん! ただ日頃の感謝とこれからの…って? り、理緒ちゃん?
「“いつもうまい飯と優しい笑顔ありがとな。これからもこんなどうしようもないオレだけどついてきてくれると嬉しいぜ…” ってこっちがお願いする立場なのに〜っ!! こ、こここ、こんな私だけどこれからもどうかよろしくお願いします!!」
 って! ぐおおおおおおおおおおおお〜っ!! 何だか猛烈にハズい気がする〜っ!! と部屋の中で七転八倒する羽目になってしまった今日11月24日、感動症な彼女・雛山理緒ちゃんの誕生日である。がくり…。

TRUE END