浩之ちゃん、浮気した?


 むぅ〜っと膨れた顔でオレの顔を見つめている目、一対。その目はやはりと言うか何というか、オレの愛する嫁、あかり。一昨日の夕方仕事から帰って来てからこうだ。しかしなぜオレの顔をこうも睨んでるのか、オレには皆目見当もつかん。かと言ってこのぶす〜っとしたあかりに聞こうと思うと…。はぁ〜、骨が折れる。ちなみに今日2月20日はあかりの誕生日と言うこともあって、プレゼントなんぞを用意してはいるんだが…。
「何をそんなに膨れてるんだ? って言うか一昨日の夕方からおかしいぞ、お前」
 そう言うオレ。でもあかりはぷぅ〜っと頬を膨らませたままこっちをじ〜っと睨んでいる。まあこいつが睨んだところでそんなには怖くはない。と言うよりむしろ可愛い気がするんだがな? でもこいつの場合、料理という最大にして最強の武器を持っているためそうそうにはオレもきつくは言えず……。でも何を膨れてるんだ? 考えるが何も出てこない。と、黙りこくっていたあかりがおもむろに口を開く。
「浩之ちゃん、浮気した…。現場も見たもん…」
 はあ? オレが浮気? と思い出してみるが、別段これと言って何もない。って言うか愛する妻がいるのに、浮気もないもあったもんじゃね〜っつうの!!  深く思い出すオレ。まあ、しいて言えば、一昨日の夕方買い物客でごった返す道すがら、知らない女性から道を尋ねられたことくらいか…。こいつめ、遠くで見てやがったんだな? 一言ぐらい声でもかけてくれりゃいいのによ…。…って、そ、そんなことで怒って拗ねてたのか? ぷっ、と噴き出すオレ。あかりのほうを見ると何が何か分からないような顔をしながら、ぶりぶり怒り出すようにこう言ってくる。
「何を笑ってるんだよ〜っ!! 私は本当に怒ってるんだからねっ! まさか浩之ちゃんに限ってって思ってたのに〜っ!」
「お、お前。何か勘違いしてないか? オレはただ道を尋ねられてただけだぞ?」
 へっ? と一瞬アホな顔になるあかり。“じゃ、じゃあ寄り添ってたのは?” と聞いてくる。オレは、
「相手さんが電子地図を持ってたからな? それを見ながら説明してただけだぞ? って言うかお前もオレがいるのが分かったら声でもかけりゃいいのによ…。ったく…」
 こいつとは物心つく前からの付き合いだからな。オレが嘘をついてるかどうかってくらいすぐにお見通しってなわけで…。まあ、今回は本当にそうだからな。でもなぁ〜。はぁ〜っと盛大なため息をつくオレ。結婚してからと言うもの甘えん坊になったあかりは今日も今日とてオレが他の女の人と話をしただけでこれだ…。まあ、それだけオレのことを愛している証拠なんだと思うと、何だか嬉しい。“ごめんね? ごめんね? 浩之ちゃん…。うううっ…” と泣きじゃくるあかりを前に頭を撫でてやる。
「ったく、しょーがねーなー…」
 そう言いながらポケットに隠していた箱を取り出す。あかりに毎月のお小遣いと称してオレの給料から差し引いた金を何ヶ月か貯めて買ったネックレスだ。手渡すともう声にならない声で、オレの体を抱きしめて泣きじゃくるオレの最愛の嫁。ふぅ〜っと一つ大きなため息をつくとこう言うオレ。


「あかり、誕生日おめでとう。こんなオレだけどこれからも頼むぜ?」
 ってな? 外を見ると冬の風がまだびゅうびゅう吹いている。だけどそれももうすぐ終わり、暖かな春がやってくる。“春になったらまた雅史たちでも誘ってお花見にでも行こうぜ? もちろんそのときはお前の美味い料理を手にな?” そう優しく言うと、うん! と涙を拭き拭きこくっと頷くあかり。そんな今日2月20日はオレの妻・藤田あかりの誕生日だ…。

END