笑顔のゲンキ!
「わ〜ん。遅れちゃうよ〜っ!」
今日も私は走ってます。今日11月24日は私の二十歳のお誕生日。無事に高校を卒業した私。今は奨学金を貰いつつ大学へ通っています。家が貧しい私は就職という方向で進めていました。実際中学を出たら働こうと思ってましたが、学校の担任の先生にもお母さんにも、高校くらいは出ておかないと…。と言われ勉強に勉強を重ねて、奇跡的に高校に入学できました。これも担任の先生のおかげかな? と今更ながら思っています。高校一年の夏にはお母さんが無理が祟ったのか体を壊して病院に入院して…。あの時ほど苦しい時期はなかったように思います。でも、そんなどん底の暮らしの中で運命的な出会いがありました。彼にとってはほんの些細なことかもしれないけど、私にとっては本当に運命的な出会いだったなぁ〜なんて今思い返してみてもそう思います。
そう、あれは6年前だったかな。クリスマスの売れ残りのケーキを売っていた時に偶然声をかけられて、悴んだ手で取ろうと思って逆にケーキの箱を崩しちゃって…。でも、落ちないように支えてくれて、唯一落ちてしまったケーキの箱を取り上げて、“かろうじて原形はとどめてるな?” って言って、お取り返しますっていう言葉にも耳を貸さずにお金を払うちょっと怖そうな男の人。その人こそが私の彼。彼曰く、“あん時は食えりゃいいもんだったからなぁ〜” なんて言ってますけど、彼の優しさがひしひしと伝わってきます。見せかけじゃない本当の優しさが…。
お父さんは私が12歳の時に亡くしました。それ以来私はお母さんや弟・妹と4人で貧しいながらも楽しく暮らしてきました。私が高校入学と同時にバイトをやることになってから生活のほうも以前よりはましになりましたけど、まだ貧乏のままでした。その中で同じ高校に彼がいることが分かって、思い切ってラブレターを靴箱に入れて…。そこから本格的に付き合うようになって、いつの間にか恋人と言う風な関係になっていました。今でこそ自然体で話せるけど、付き合った初めは敬語が多かったなぁ〜なんて。まあ彼にも注意を受けたんだけどね? でもあれから4年もたつんだなぁ〜っと思うと正直驚いちゃうわけで…。
大学は教育学部の幼児教育科と言うところに籍を置いている私なのですが、彼は経済学部の情報経済学科と言う私ではやや難しいところに籍を置いています。彼の幼馴染みで今の私の親友でもあり相談相手でもある神岸あかりさんは、私と同じ学部の児童教育科と言うところで学んでいます。“将来何の先生になるの?” と聞くと、“やっぱり家庭科の先生かな?” っていうある意味彼女らしい回答が返ってきました。その回答に思わずうふふって微笑んじゃう。言った本人も私につられて笑ってるからほかの人から見ればちょっと変だったかも…。“ごめんね? 神岸さん” と心の中で謝ったことはこの前の出来事です。
弟はやんちゃ盛りなころを過ぎてちょっと大人になったのかな? そんな感じです。妹は元からおすましさんだったので物静かですが、友達は割と多いのでその辺は安心しています。彼に言わせるところが、“良太もちっとは大人になったな?” だって…。姉の私からすると、本当に? と思えてなりません。だってよく忘れ物とかするし、ケンカもするし…。お母さんや時として私も学校に呼ばれることもしばしばあって、ちょっとと言うかかなり不安なんだけど…。でも良太曰く、“弱い者いじめしてるやつに制裁してただけだ!!” と言うし、学校のほうも、“暴力は確かにいけないことだけれど、雛山君のやったことは本来なら私たち教師がやらなければならないことですし…。申し訳ありません” と学校側から謝られてしまって…。でも暴力は絶対にいけないことなので十分に叱ってやります。でも叱った後、にっこり微笑んであげることにしています。彼に言わせるところが、“理緒ちゃんはいいお母さんになりそうだ。あっ、つまりオレの嫁さんな?” って言うことだそうですけど…。えへへ。妹は黙々とやるタイプみたいですが、人見知りが激しいのか人前ではあまりお喋りしないのでちょこっと不安です。でも家やお友達や彼の前では普通にしゃべってますけどね?
お母さんはあまり体が丈夫なほうとは言えませんが、それなりに体調には気を付けているみたいなので私とすれば安心です。高校時代に倒れた時は自分でも大変だったのでしょう。それからあまり無理な仕事はしなくなりました。今はパートでスーパーのレジ打ちの仕事をしています。でもこんなことを言うとお母さんに怒られちゃうけどあまり無理はしてほしくないなぁ〜って思います。お父さんの時がそうでしたから尚更なのかも…。そんなことを考えてふと、駅前の大時計を見ると…、完璧に遅刻だぁ〜。そう思いながら必死で歩き出しました。そして…。
「ちょっと遅れたくらい何ともねえって。だからもう顔上げなよ? なっ? せっかくの可愛い顔が台無しだぜ?」
そう言って微笑んでくれる彼。私の憧れだった人は今は最愛の彼になっちゃってて…。世の中って不思議です。でも不思議なこともあってもいいよね? そう思いながら照れ笑いを浮かべる私。そんな私の顔をどう見たのか、彼はちょっと気恥ずかしそうに頬をポリポリ掻いてました。その仕草が何だか弟に似ていてより一層にこにこ微笑んじゃう。何かにつけてぎくしゃくしていた昔の自分と自然体でいられる今の自分。もちろん今の自分があるのは彼のおかげです。ありがとう。こんな私でもいいよって言ってくれて。こんな私に真剣に叱ってくれて。そして…、こんな私を好きでいてくれて。本当にありがとう。そう思いながら彼に手を引かれて初冬の街を歩く今日11月24日は私の二十歳のお誕生日です。
END