アフタヌーンティーは如何?
「なあ、藤田くん。昼からどうせ暇やろ? それやったら神岸さん誘って一緒にお茶せえへん? 神岸さんもええやろ? 最近私のお気に入りのええ店があんねん」
暑かった夏も終わって、やっと最近涼しさも感じられるようになってきた今日9月10日は、俺の左隣りの関西弁の女友達・保科智子の誕生日だ。高校時代に知り合ってから今大学3回生だから、5、6年が経つ。まあ最初のころは人を寄せ付けないオーラがバンバン出ていて、はっきり言ってオレもどこからとっついていいのやらと悩んでいたわけだが、その辺は幼馴染みで今のオレの彼女であるあかりが何とかしてくれたみたいだ。まあそれ以前に文化祭の出し物とかでクラス内での内紛みたいなのがあって、オレとあかりとで智子の心の内を聞いたりしていたので何となくだが本当は寂しがり屋の口下手な感じの娘なのか? と思った。まあ友達付き合いをしてみて分かったことなのだが、よく笑いよく泣き、ノリツッコミもばっちりと言うオレたち関東人の描く関西人のイメージそのままだったと言うわけで…。
「うん、私ならいいよ? 今日は別に用事も入ってないし。浩之ちゃんも同じようなものだから…」
と右隣りにいるオレの彼女がにこにこ笑顔でそう言う。“って! オレの意見はどうした?” と尋ねるところが、“だって浩之ちゃんってば昼休みに‘今日は昼から講義もなくて暇だなぁ〜’って言ってたじゃない” と急にぷぅ〜っと頬を膨らませてお姉さんぶってこう文句を言う。た、確かにそう言ったのは事実だ。だけどな、一応意見ぐらいは聞いてくれてもいいんじゃねーかとも思う。まあどっちにしろ行くのは確かなんだがな? と言うことで、途中で出会った雅史にも声を掛けて行くことになった。智子の後をオレ・雅史・あかりの順でついて行く。途中うさぎカフェなんかもあって、あかりと、“また2人のときに来ような?” なんてこそこそ話をしていると、“はいはい、惚気話はよそでやって〜な? よそで…” と智子の眼鏡越しの厳しい視線がオレたちを射抜く。その視線の元の耳には可愛らしいイヤリングが光っていた。この前あかりと町をぶらついているときに偶然見つけた代物だ。
オレはあかりに買ってやったんだが、そう言えば智子の誕生日はもうすぐだっけ、と思い直しあかりにもそのことを話して買っておいた。似合う似合わないは別にして、とても嬉しそうにしてくれてたので、これはこれで良かったんじゃねーかなぁ〜っと思う。まあ何だかんだ言って智子は美人さんだからな。でもそれだったら何で彼氏の1人でも作らねーんだろうか? 一度海に行ったときに見たあのゴージャスダイナマイトボディー、あれを見て、“おおっ!!” とならん男なんているわけがないのになぁ〜。ああ、もったいねぇもったいねぇ。…と、講堂前で雅史に出会う。聞くところによると雅史も昼から暇らしいので、これから智子たちと一緒に午後のお茶に行く旨を伝えると、“僕もいいかな?” と上目遣いに聞いてくるので、“当たり前だ!” そう言って智子のほうを向くと何がおかしいのかあかりと一緒にくすくす笑ってやがる。“ちっ!” と何故か心の中を見透かされていているような気がして心の中で舌打ちをするオレがいた。
ちなみにあかりはまあごくごく一般的な体つきだ。胸のほうは高校時代よりか随分とふくよかになっているが、でも智子のダイナマイトボディーに比べると…。あっ、あかりが睨んでやがる。オレの考えてることを読みやがったんだな? まあ後で何か買ってやったら収まるだろう。しかしあの体つき・顔つきを見たら絶対男が放っておかないだろうとは思うんだが、智子の性格上馴れ馴れしいやつは一発で看破してしまうためなかなか彼氏らしい彼氏が出来たことはなく。もちろん本人も重々自分のことは分かっているので、“彼氏なんておらんほうがええわ…。藤田くん見とったら神岸さんの苦労も分かるしな?” なんてオレを出しにしてくる始末で…。“なあ、オレってそんなに迷惑かけてるか?” と隣りのあかりに聞くと、えへへと愛想笑いを浮かべてきやがる。“正直に言え、怒ったりしねーから…” と言うと、待ってましたとでも言わんばかりにオレの1日の行動を事細かく喋りやがる。と言うか最近のエロ本の傾向なんざどこで知りやがったんだ? と言うことまで喋っちまった。さすがに引いてるだろうな? と思って智子のほうをそーっと見遣ると、
「へぇ〜、それからそれから?」
などと高校時代ならそれこそものすごい軽蔑の眼を向けられてもおかしくはない話にも喰いついてくるので、お堅いイメージが先行するオレと雅史にとっては少々びっくりしたり呆れたりとまあこんな感じで聞いているのが常だ。もしここに志保がいたらどんな地獄絵図が広がっていたことだろう…とは思うんだが、どう言うわけかあいつは高校卒業後関西の大学へ行ってそのまま音信不通となっている。親友のあかりには何がしら連絡等は入れているだろうとは思うわけだが、実際のところはよく分からん。オレも聞いてみようとは思わねーしな? と言うかあいつのことだ。案外うまくやっていけてるんだろうと思うが…。正直なところよく分からん。まあ高校時代のあの志保ちゃん情報を知っている身としては、見知らぬ土地である関西でもオレたち(特にオレ)のことを吹聴しまくってんじゃねーか? と思った。と、そんなくだんねーことを考えてる間に目指す喫茶店が見えてきた。
「ちょっとばかり照明が暗いな…。こう言う暗い雰囲気はオレの趣味には合わねーんだが…」
と入った隙からそんなことを言う藤田くん。まったくたまにはこう言う落ち着いたところでゆっくりお茶でも…って思うとった私がアホみたいやわ。そない思うて藤田くんのほうを上目遣いに見遣ると、案の定神岸さんに叱られとった。マスターとはここ1年の付き合いがあって、もう顔馴染み。ちなみにマスターも学生時代は神戸の大学に通うとったんやとかで、よく関西の話題が出る。ちなみに出身も兵庫県の但馬地方のとある海辺の町なんやとか。こっちで店を持つようになったのは神戸の大学で知り合うたこっち出身の奥さんの影響らしい。その奥さんは10年前に病気で他界されたんやそうで…。マスター曰く、“こっちに来て久しく関西弁は聞いたことがなかったんやが、方言はやっぱりええもんやねぇ〜” そう言うてにっこり笑うとったっけ…。
椅子に座ると、“おや、今日は1人やないんやね?” とおしぼりを持ってきたマスターが言う。“ちょっ、マスター!” と言うところで他のお客さんにクスクス笑われてしもうた。“まあまあ、で? 今日はどんなんがええのん?” と聞いてくるので、私はいつものミルクティーを、神岸さんと佐藤くんはダージリンに、藤田くんはブルーマウンテンコーヒーをそれぞれ注文する。って言うかここ紅茶専門の店なんやで? 何でみんなと合わさへんのん? と聞くところが、“だってメニューにコーヒーの銘柄が書いてあるし…。それにみんなと一緒っつうのが何か苦手なんだよなぁ〜…” と藤田くん。まあその個性的な考え方でいろいろ助けてもろうたこともあるし…。今日のところは言わんといてやるかな? そないなことを考えながら淹れられとる紅茶とコーヒーを見つめる今日9月10日、私の21歳の誕生日や。
END