いいんちょ、拗ねる!


「そ、そんな上目遣いで見ねーでくんねーかなー、オレの顔」
 彼女のぶすっとした顔がオレの目の前にあった。今日9月10日はオレの女友達である委員長・保科智子の誕生日だ。でも正確にはもう委員長でもなんでもないわけで。と言うのももう大学2回生なわけだが、オレは高校時代からの癖か未だに“委員長”と呼んでしまっていて。と言うか今日も自分では気づかんうちにそう呼んでしまい、今現在のように拗ねられていると言うわけだ。まあもっともこれは前述の通り癖って言うもので、その辺は許してほしいんだが…。委員長曰く、“もう委員長ちゃうねんからちゃんと名前で呼んでーな…” と言うことなんだけどな? しかしながら前述の通りオレは、“委員長”と呼んでしまうわけだ。多分眼鏡で三つ編み姿のイメージが残っているからそう呼んでしまうんだろうと思う。まあ今は髪はストレートにしているし、眼鏡もコンタクトにしているため、お堅いイメージはなくなったんだけどな? しかしオレは高校時代のイメージが強すぎて他のイメージが思いつかんわけで。もっとほかのイメージを持とうとは思ったんだが、生憎とイメージが沸かず仕舞いだったわけだ。
 まあオレの彼女・あかりは無難なところで“保科さん”と呼んでいる。オレのことは“ちゃん付け”で呼ぶくせによ…。って前に言ったら怒られた。“もう、保科さんはもう委員長でもなんでもないんだから、そんなふうに呼んじゃダメ!” そう言ってはお姉さんぶった顔になる。“でもオレのことは未だに‘浩之ちゃん’だよなぁ〜” と言うと、
「だって浩之ちゃんは浩之ちゃんだし…。これからもずっと浩之ちゃんだし…」
 と、“ちゃん付け”を連呼してきやがる。腹が立ったんでデコピンをフルパワーで1発かましてやったら痛そうにデコを擦り擦り涙目の上目遣いに見遣ってやがったか。まあその辺はおいおい後で話すこととして、今のこのヤバめな状況を何とかしなければならんだろう。むす〜っとした顔で恨めしそうにこっちを上目遣いに睨む委員長の顔は正直怖い。おまけにぶつぶつ文句を言われている。まあ文句を言うのはしょうがないとしても関西弁で言わんでほしい。そっち(ヤッチャン)系の関係のようなことみたく聞こえるので関東在住のオレとしてはその文言だけで非常に怖いわけだ。
「いい加減機嫌直してくれよ〜。なあ、委員長」
「またや、また委員長って…。もう知らん! 勉強は神岸さんに教えてもろたらええねん…。ほんまに変わらへんねんから…。ぶつぶつ」
 あ〜あ、本格的に怒らせちまったまたいだ。しかし今更、“保科” とか、“智子” とかはしっくりこないんじゃねーのか? 本人からしても…。と言うと、“まあそれはそうやけど…。でもいつまでも‘委員長’って呼んどうのって藤田くんぐらいなもんやで?” そう言ってはぶす〜っとした顔を向けてくる。じゃあ新しいあだ名とかどうだ? と聞くと、“‘ともぴょん’とか、‘巨乳ちゃん’とかは嫌やで…” と釘を刺すかのように言われてしまう。それはオレが今しがた考えついたあだ名だ。さすがは委員長だぜ。オレが言う前に釘を刺すところなんざ…。でも委員長自体どんなあだ名がいいんだろう? ふとそんなことを思ったオレは聞いてみることにする。すると…。
「普通でええねん。普通で…。‘保科’とか‘智子’とか…」
 それじゃあまりに簡単すぎるだろ。まあどうしてもって言うならその呼び名で呼んでやるけどな? そう思って、“智子” と呼んでみる。呼んでみて思ったんだが、普段“委員長” と呼んでいるせいか、どうもしっくりこない。いきなり呼ばれたほうの当の本人もびっくりしたような恥ずかしいようなそんな顔になっていた。“い、いきなり何、人の名前呼んでんねんな?” とあわあわ慌てながら言う委員長。普段お堅いイメージかあるだけにこう言う仕草と言うか言動は見ていて面白いわけで…。“‘智子’がダメなら‘智ちゃん’とか、思い切って‘女帝’なんてどうだ? イメージ的にぴったりくると思うんだけどよ?” とからかい半分に言うオレ。がその時オレは気がつかなかった。と言うより気づけなかった。背後に忍び寄る熊のような波動と前のどす黒いオーラに…。


「まったく、調子にのったらこれや…。千歩譲って“智ちゃん”はええとしよう。でも、“女帝”はないやろ? “女帝”は…。まったく冗談言うんはええけど、もっとましなこと言うて欲しいわ…。神岸さんも大変やろ? いや、言わんでもええわ。分かっとうから…」
「もう、浩之ちゃんは〜…。名前ぐらい普通に呼べないの? 全く〜…。ご、ごめんね? 保科さん」
 現在、午後5時半。駅前のショッピングモールの前でオレは2人の女性から睨まれていた。いや、睨まれるだけならよかったんだが、今オレは両手に買い物袋を持たされて荷物運びをさせられている。それだけならまだ許せるんだが、その買い物の代金請求がオレのところに来ることは納得できん。まあ百歩譲って委員長は誕生日だからと言うことでまあ何とか我慢はできるのだが…、あかりよ…。恋人同士なのをいいことにバカスカ買うんじゃねーっ!! と思ってると、“なあに? 浩之ちゃん…” と死んだ魚のような目でこっちをギロリと睨んでくる。はっきり言って恐ろしいわけで。まあ後で聞くところによると、オレが委員長と浮気? なんぞをしているように見えたんだとさ。女って言う生き物は正直よく分からんもんだな…。改めてそう思った今日9月10日、オレの女友達、保科智子の誕生日だ。って! もう勘弁してくれぇぇぇぇぇ〜〜〜…。

END