雛山家からの招待状
今日11月24日は理緒ちゃんの誕生日だ。だからオレはあかりたちと一緒に理緒ちゃんの家へと向かっている。一応ではあるがオレは理緒ちゃんと付き合っている。いわばまあなんつーか彼氏彼女の仲な訳で……。横であかりが、にこっと嬉しそうに笑みを浮かべてやがるし、志保に至っては“ふふふふ〜ん♪” などとまた訳のわかんねー歌を歌ってやがる。雅史に聞くと?
「ああ、多分、理緒ちゃんちに行くのが嬉しいからなんじゃないのかな? だって初めてでしょ? こうやって理緒ちゃんちにお呼ばれに行くのって…。だからだよ。多分ね?」
“そうなのか? でも普通の民家だぞ?” とオレは言う。オレたちの話を聞いていたのかあかりが話に割り込んできた。
「雅史ちゃんの言うとおりだよ? 浩之ちゃん。何でも初めてのところってドキドキしたりするものじゃない? まあ、浩之ちゃんはいつも来てると思うけどね〜。うふふっ」
そう言うとふふふふぅ〜っとイタズラっぽく微笑むあかり。その顔が何か心を見透かされてるような感じがしてちょっと腹が立つ。が今日はオレの天敵なあいつ・長岡志保もいるんで妙なまねは出来ない。デコピンなんぞをしようものなら何を言われるか分かったもんじゃねーしな? でもなんでオレの考えてることがこうもあかりや雅史は分かっちまうんだろう。あ〜あ、嫌だねぇ〜、幼馴染みっつうもんは…。ふぅ〜っとため息を一つ。
でも何でオレたち4人がオレの彼女の家に向かっているのかと言うと、そう! 招待状が届いたのだ。オレの家に…。あれはそう…、4日前だったっけか? 家に帰って来て玄関のポストを見ると、1通の手紙らしい封筒が入っていた。差出人のところを見てみると、でっかい字で“ひなやまりょうた” と書いてある。もちろんその名前には聞き覚えもあるし、見知った名前だ。何だろう…、そう思って封筒をポケットに入れて、とりあえず家の中に入る。11月ともなるとさすがに冷えてくる。今年は特にそう言う感じだ。“う〜、さみぃ〜” そう言いながら部屋に入りエアコンのスイッチをつける。カチッ、ブイ〜ンと鈍い音を出しながらエアコンは回りだした。まああと少ししたら暖かくなるだろう。そう思いつつポケットに入れておいた例の手紙を取り出すオレ。下手くそながらイキイキとした字でこう書かれてあった。
“ひろゆきにいちゃんへ…。こんどねえちゃんのたんじょうび会をひらくことになった。にいちゃんにも来てほしい。あっ、友だちもつれて来てもいいぞ。ねえちゃんも大よろこびだ。どうだ? もし来なかったら一生オレのけらいにするからな? りょう太”
良太のやつ…。とは思うがこれを一生懸命書いている良太の姿を思い浮かべると、ちょっと微笑ましく思えたりする。多分理緒ちゃんの誕生日に誰も来なかったらということを心配して書いたんだと思う。姉ちゃん思いっつうかなんつうか…。でもこなかったら一生家来ったあ…。ぷぷぷっ。思わず笑っちまった。まあオレも正直理緒ちゃんの誕生日のことで悩んでたし、これはまさしく“渡りに船”っつうやつかな? そう思った。
次の日の朝、いつものように幼馴染み2人と登校中そのことを話すと、“うん、私は別にいいよ” とあかり。雅史も部活は休みなんだそうだ。まあこれでいいか? と思いその話はお開きとなる。志保はあかりが言うだろう。が正直俺はあいつを連れて行きたくはない。なんでかって言うと、あいつのどーでもいいおしゃべりが良太やひよこちゃんに移っちまうのが教育上問題だと思ったからだ。まあムードメーカーにはもってこいの存在なんだが、あの喋りをひよこちゃんがまねしてでもしてみろ。理緒ちゃんの慌てる姿が目に見えちまう。で昼休み。志保は案の定オレに文句を言いに来る。
「ちょっと! あんた! この志保ちゃんを誘わないってどういうことなの?」
「おめぇのそのうるせー喋りが教育上悪いと思ったからだ。まあ大人しくしてるんだったら連れて行ってやらんこともねーがよ?」
“な、ななな何を〜っ!!” とこっちを睨みつけて文句を言う志保。昼休みの恒例行事と言ってもおかしくないオレたちの言い争いが始まる。あかりや雅史が、“またやってる…” ってな目でオレと志保の不毛な言い争いを苦笑いで見つめていた。
で現在。志保も入れての4人で理緒ちゃんちに向かっているところだ。秋も終わりかけの冷たい雨の降る中、各々のプレゼントを持って雛山家に向かう。あかりは無難に料理か何かの詰め合わせだろう。オレも半分持ってるが中からいい匂いがしてくる。雅史はこれも無難なものだろう。小さな手提げ鞄に入れてるんだから見ただけで分かるか…。かく言うオレも同じようなもんだけどな? まあオレの場合理緒ちゃんだけでなく良太やひよこちゃんの分も入ってるんで、ちょっとだけ重いが…。でもって問題なのがあいつの荷物だ。とにかく怪しい。検問所で絶対引っ掛かりそうなほど怪しい。まさかマメカラか? そう思い聞いてみると、
「あら、よく分かったわね〜。もしかしてあたしの歌を聴きたかったの?」
やっぱり……。げんなりした顔であかりたちを見ると、案の定苦笑いを浮かべていた。“やい! てめぇ! 少しは近所迷惑も考えやがれ!! それに良太やひよこちゃんがまねしておめぇみたいになっちまったらどうすんだ?! 没収だ! 没収!!” そう言って取り上げようと躍起になるオレ。志保は志保で…。
「何よ! 歌うことはいいことなのよっ!! ちゃんと医学的にも証明されてるんだかんね?! って! あんたの脳みそはそこまで退化しちゃったの?! ……可哀想に…。はぁ〜」
やれやれという顔でオレの顔を見ると深くため息をつく志保。“何が‘はぁ〜’だ! その台詞こっちが言いたいわっ!!”、“な、ななな何ですってぇ〜っ!!” いつものようにいがみ合うオレたち。まあここであかりあたりが割って入って仲直りとなるんだろうな? いつものようによ…。ふふっ、こりゃ良太やひよこちゃん、大はしゃぎだろうな? そう思った。
今日は姉ちゃんの誕生日だ。だからオレは浩之兄ちゃんに姉ちゃんの誕生日パーティーをしてほしくて、この間、兄ちゃんちのポストに手紙を入れた。次の日の夕方、浩之兄ちゃんに会う。浩之兄ちゃんはにこにこ顔で“おう! いいぜ”って言ってた。それからあかり姉ちゃんたちもつれてくるみたいだ。ひよこも嬉しそうだ。母ちゃんやひよこにも言った。“じゃあごちそう作らないとね〜” 母ちゃんはそれからご機嫌で今日の献立を考えて、今作ってる最中だ。姉ちゃんだけには言ってない。びっくりさせてやろうと思ったからだ。姉ちゃんは美人で優しい。時々怖くなる時もあるけど優しい。そんな姉ちゃんの誕生日。今、姉ちゃんは新聞配達中だ。帰ってくるのは1時間あと。兄ちゃんたち、早く来ればいいのに…。そう思ってひよこと二人、今、外を眺めてる。遠くから声が聞こえてくる。耳を澄ますと、浩之兄ちゃんの声だ!! 思うが早いか足が勝手に動き出す。傘もささずに表へ出ると、浩之兄ちゃんと志保姉ちゃんがケンカをしながら歩いてくるのが見えた。“おーい!” 大声で呼ぶ。
「おっ! 良太じゃねーか? どうしたんだ? 母ちゃんにでも怒られたのか?」
「違うっ! 浩之兄ちゃんたちがもうすぐ来るころだと思って見に来ただけだっ!!」
そう言ってオレは兄ちゃんの顔を睨む。優しいのかイジワルなのか時々分からなくなる浩之兄ちゃん。でもオレやひよこと一緒に遊んでくれるいい兄ちゃんだとオレは思う。
「そうだったか。そりゃわりぃ。って良太。おめぇ、傘は? 濡れたら風邪引くぞ?」
そう言う浩之兄ちゃんに、“すぐそこだから置いてきたぞ?” と言うオレ。と突然デコピンを食らう。“ってー!! 何すんだっ!” そう言って食らわせた相手・浩之兄ちゃんのほうを見ると、ちょっと怖い顔になって、“風邪でも引いたらどうすんだっ?” と怒られる。素直にごめんと謝るといつもの顔になって、“分かりゃあいいんだ。それより理緒ちゃんまだ帰ってきてねーよな?” とオレの頭をポンポンと軽く撫でてくれる。“まだだぞ” とオレは言う。兄ちゃんはほっとした顔になると、“よし、パーティーの準備に取り掛かんぞ? 良太、お前もひよこちゃんと一緒に手伝え!” と元気よくにかっと笑ってこう言う。オレは浩之兄ちゃんたちと一緒に家へ向かった。姉ちゃん、帰ってきたらびっくりするかもな? そう思ってるとあかり姉ちゃんがくすくす笑って、むすっとした顔の浩之兄ちゃんにデコピン食らってた。オレよりか何倍も痛そうだった。
今日は私の18歳のお誕生日。いつもの新聞配達のおじさんから“これ、いつも頑張ってるお礼だから…” と餞別を頂いた。これで良太やひよこが欲しがってるおもちゃにも、後もうちょっとで届くかなぁ〜。そう思いながら帰る道すがら、欲しいなぁ〜っと思ってるアクセサリーを少し見る。でもうちは貧乏なんだからそんな経済的な余裕なんてないの!! そう思って首をぶんぶん振り立ち去る。ケーキでも買ってみんなでお祝いしよう。そう思って駅前のケーキ屋さんでケーキを買う。ここのケーキ屋さんは神岸さんに教えてもらった。優しそうでとてもいい人だから藤田くんも一番信頼しているみたいだ。私から見てもとてもいい人だと思う。それに長岡さんも佐藤くんも…。みんないい友達だ。今日帰って家族でお祝いして、明日こんなことがあったよ〜って話してみよう。私の彼はにっこり笑って、“おめでとう” って言ってくれるだろう。私はその言葉だけで充分嬉しい。にっこり微笑んでくれる彼の顔を思い浮かべて私は心がホカホカ温かくなる。雨の降る町。11月ともなるとかなり寒いんだろうけど、私の心は春の温かさのようにほんわかしていた。
家が見えてくる。お母さんも元気になったし、良太もひよこもいい子だし…。藤田くんと出会ってから本当にいいことづくめだ。そんな私の彼。“大好きだよ、藤田くん…” 家の前、傘を仕舞うとそう思った。今日はケーキも買ってあるからこれでささやかだけど私のお祝いしよう…。そう思って扉のノブを掴む。扉の向こう、更なる幸せが待っていることも知らずに……。
END