着物で誕生日会
今日12月21日はオレの…、いや、オレたちみんなの先輩でありお姉さん的な存在である来栖川芹香先輩の誕生日で、明日22日はカリフォルニアの太陽を思わせる笑顔でオレたちを明るく照らしている同級生、宮内レミィの誕生日だ。今年大学生になったオレたち。難関だった先輩のいる大学への道も何とか合格して今はほっと一息ついたところだ。でも全員同じ大学を受験して全員合格って言うのはある意味すごいことなんじゃねーのかと思う。あの落第候補No.1の志保でさえ合格していたんだから驚きだ。もっとも本人の前ではこんなこたぁ口が避けても言えねーけどな? と言うことは葵ちゃんと琴音ちゃんは来年早々に受験なんだよな? そう思いつつ今回の会場である来栖川邸へと足を向けた。
一昨年、昨年同様に今年も先輩とレミィの誕生日会を一緒にすることになった。と言うか元々の言いだしっぺはオレだけどな? 日にちが一日違いだし、先輩・レミィの両方ともそれほど気にしないタイプだからオレとしては助かってるつーかな? これがあいつだったらそうは行くまい。オレの不倶戴天の敵で今オレと同じ学部にいる女、長岡志保。情報経済学っていう学部にオレはいるわけだがあいつも同じ学部になりやがって休み時間になると何のかんのとオレにふっかけてきやがる。無視すると昼休みに一応オレの彼女であるあかりにあることないこと吹き込んでくるので非常に厄介ではあるんだけどな? 一回とんでもねーことになっちまったこともあるが、その後あかりにバレて散々に怒られてたっけか…。まあオレとしては志保の泣き顔なんざ滅多に見られるもんじゃないから、そのときは非常に興味深く見てたけどな? で、その後志保から嫌味をぶつぶつ言われたことは言うまでもない。
と、くだらねーことを考えてる間にいつもの集合場所に来てしまう。一応車の免許は取ってあるが肝心の車のほうがまだないのでバスっつうことになる。プレゼントは一応買った。とはいってもこの間あかりと一緒に買ってきた代物だけどな。“予算はどれくらいなの?” と聞いてくるので“これくらいか?” と指で4を指す。もちろん4万と言う意味だ。あかりも“私もそれくらいかな?” と言う。二人でいろいろと見ていく。がオレには元々そう言うセンスがないのでどこをどう選んだらいいのか分からんから、あかりにお任せすることにした。まあこいつだったら無難なところを選ぶに違いないしな。と思ってあかりの後について行く。と服のコーナーにやってくる。無難っつうか何つうか、あかりらしいな? と思って見ていたちょっと小洒落た服を見つけて、“浩之ちゃん。これなんかどうかな? 値段もちょうどいいよ?” と言うあかりに値段のところを見せてもらうが、あまりに普通だよな? こう言うのは…。そう思って、隣りを見ると向こうが気になるのかあかりはちらちらと先の小物店のほうを見ていた。
「お前、こっちより向こうの小物のほうが気になってるんじゃねーのか?」
そう言うと、“えっ? 何で分かったの? 浩之ちゃん” といかにもな顔でそう言ってくる。ふぅ〜っとため息を吐きつつ、“そりゃおめぇ、長い付き合いだからよ…” と言うと、恥ずかしそうに俯く。そんなあかりがとても可愛かった。結局何も買わずに店を出るオレ。対してあかりはにこにこ顔でオレの袖をくいくい引っ張っている。“どこに行くんだ〜?” と言っても、うふふっ、と笑って答えねぇ〜。洋服店からかなり歩いたかどうかは知らないがかなり歩いた。あかりの足が止まる。オレも足を止める。ここか? と辺りを見回すと遠くのほうに着物を着たマネキンが置いてあった。何でこんなところに? と少々疑問に思いながらもついていくオレ。そんなオレに、
「あっ、浩之ちゃんも選びたい?」
「いや、選びてぇもなにも何でこんなところにきたのかが分からねえんだけどよ?」
「それは……、当日までの秘密だよ? でもここに用事があるの」
と微笑みながらも真剣な顔で言うあかり。初詣用に買うんだな? そう思い、“待っててもどうせ暇だし、それに先輩やレミィのプレゼントもまだだしな。ここで適当に選んで買うわ…” いつものような言葉で返すオレ。それにしてもどこだ? ここ…。と改めてあたりを見遣ると、和風な感じがつくりの小物屋だった。で? 肝心のあかりは…と見ると小物をじ〜っと眺めている。おっ? 選んだみたいだ。鼻歌も出そうな感じでレジへ向かう。さて、オレも適当に選びますかねぇ〜。そう思い、あちこちと物を物色していく。先輩はどうかは知らないがレミィはすごい日本好きだ。例えばこんなかんざし…。プレゼントしてやったら喜ぶだろうなぁ〜。と思ってると、あかりがもう精算を済ませたのかにこにこ顔で立っていた。“あっ、浩之ちゃん。先輩とレミィのプレゼント選んだんだ〜。じゃあ精算しにいこうよ?” そう言って俺の手を掴んでぐいぐい引っ張る。“ちょ、ちょちょちょちょっと待て。何でそうなるんだ” とは言ったが、オレもプレゼントを選ぶのは苦手なほうだから、これはこれで良かったのかも知れん。ただあかりが“ふふふぅ〜” と何か隠してるような顔で見てるのには閉口するが…。
そんなこんなで結局かんざし2本買ってしまった。結構値が張るんだな。こんなもんでも…。そう思って隣りを見ると何だか嬉しそうにスキップなんぞをしてやがる。そんなにしてるとコケるぞ? と思った矢先躓きやがった。ハァ〜…。相変わらずドジっつうか何つうか…。とこっちを見たあかりは照れ隠しに頬をぽりぽり掻いてやがる。その顔がいつものあかりらしくてオレも思わず笑っちまった。
「でもお前。何でこんなところに? 先輩はもうすぐ成人式だけどよ…、レミィはお前と同じだから成人式はまだ一年も先だぜ?」
「ふっふっふ。浩之ちゃん。女の子には秘密がいっぱいあるんだよ?」
帰りしな、そう聞くオレに意味深な笑い方をして志保のような言葉を言うあかり。ここは必殺デコピンをお見舞いしてやるか…。と右手の親指と人差し指で丸い輪を作る。エネルギー充填、充填完了とあかりのほうを見るとおでこを押さえてやがった。オレの考えてることに気づきやがったのか。ちっ、と舌打ち。結局最後まで分からずじまいで今日の日を迎えてしまう。
早めに来たと言ってもそんなに早めでもない時間だったがいつも早めに来る葵ちゃんたちがなぜか今日は来てない。委員長もまだらしい。うーん? 待ち合わせ場所を間違えたか? でもここで合ってるよなぁ〜。来栖川エレクトロニクス行きだし。夕べ先輩から電話が掛かってきてマルチとセリオも一緒に連れて来て欲しいってことだったからなぁ〜。とあれやこれや考えながら待ってると、遠くのほうからやかましい声が聞こえてくる。
「おーい。そこの朴念仁」
ああ、間違いない。人前でこんな失礼な物言いをするやつなんざオレの知ってるやつの中ではあいつぐらいだ。そう思って、“なんだぁ〜? 機関銃女…” と言った先を見てみると…。
「驚いた? ヒロユキ。着物でパーティーなんてちょっと変わってるけどアタシはとってもハッピーダヨ? だってこんな可愛い着物が着れるんだしネ? エヘヘッ」
「……私もです……。浩之さん、似合いますか?」
今日の主役の二人がオレの前で笑っている。一人は愛らしいオレンジ色の生地に花柄の刺繍が織り込まれた可愛らしい和服…、と言うよりは振り袖か? これは…。もう一人は真っ白な生地に鞠の刺繍が織り込まれた清楚な振り袖を着ている。こんなことを秘密裏にやっているとは思ってもみなかった。言いだしっぺは誰だと言うことになるが、意外や意外こんなことには一番疎いと思われていた葵ちゃんだったことを付け加えておこう。でも裏で志保が一枚噛んでいることは言うまでもないだろうけどな…。そう思う。とにもかくにも先輩とレミィの着物姿が見られただけでも超ハッピーだぜ。と思いながらこう言う。
「うん。先輩もレミィも、二人ともよく似合ってるぞ? いつも洋服ばかりだから分からなかったけど、和服もピッタリ似合うぜ? あっ、それとこれ、誕生日のプレゼントだ。つまらないものかもしれないけど、まあ受け取ってくれ…」
冗談抜きでそう思う。レミィは今風の可愛らしさがあるし、先輩は落ち着いた美しさがある。甲乙付けがたいな…。そう言ってかんざしかを渡すオレ。レミィも先輩もにっこり微笑んでオレのプレゼントを受け取ってくれる。レミィは早速包装紙をきれいに破いていく。先輩も続いて中を見た。その中には当然と言うか何と言うか店で選んだかんざしが入っていた。金髪と黒髪にそれぞれのかんざしが飾っている。うん。絵になるな? そう思って“似合ってるぜ? 二人とも。今度琴音ちゃんにでも頼んで絵にしてもらうかな?” と冗談半分に言うと、ポッと頬を赤らめる二人。それがほぼ同時だったのでオレはちょっとびっくりした。
「……あ、…ありがとうございます…。…浩之さん……。私の一生の宝物とします……、色も私好みです…」
と先輩はポッと頬を赤らめる。何かこれはこれでものすごく絵になるよな? 向こうで志保としょーもねー四方山話に花を咲かせているあかりと目の前の先輩とを見比べながらそう思った。ともう一方から元気な声が聞こえてくる。
「Oh、Thank youネ!! ヒロユキ。セリカと同じようにアタシも大事にするネッ! ヒロユキにはホントに感謝ダヨ? ニッポンの伝統工芸、アタシ前から欲しかったネッ! こんな素敵なプレゼント…。筆入りにして大事にさせてもらうヨッ! エヘヘッ…」
とウインクしながらこう言うレミィ。先輩もコクコク頷く。“そ、そう言うことを言うのはやめーいっ!! って言うかレミィ、またことわざの言い方が違うぞっ?” と言っても聞きやしねぇ〜。どんなにきれいな宝石も曇るような高貴な微笑みと、燦燦と降り注ぐカリフォルニアの太陽を思わせるような笑顔とがオレの顔を見遣る今日12月21日。オレの尊敬する先輩と、大切な友達の合同誕生日会だ。
END