10%の恋人


「く、く、くやしい〜っ!! 何でよ?! この志保ちゃんがヒロごときに負けるなんて〜っ!! ちょっと、ヒロ! インチキしたんじゃないでしょうね?!」
「インチキもなんでもねーっつうの!! って言うか“ごとき”とは失礼だな? これが実力の差だ、実力の…。このオレが本気を出しゃあてめぇなんざ一捻りだぜっ!!」
 今日11月7日は口うるせー腐れ縁だがオレの一応恋人? な長岡志保の誕生日だ。でいつものようにあかりや雅史も集めて一緒にわいのわいのとゲーセンにやってくる。あかりも雅史もこいつに呼び出されたっつーかそう言うわけなんだが、やけににこにこしてやがる。“何だ? 何かあるのか?” とぶつくさ文句を言いつつゲームの筐体を探す志保を前に、あかりに聞いてみた。すると、
「うふふふふぅ〜。内緒だよ? 浩之ちゃん…」
 って言う答えが返ってくる。雅史にも聞いてみるがあかりと同じように笑って答えようとしねぇ〜。志保はと見るとまだぶーたれながら対戦用の筐体を探していた。まあ性格はあれなんだが、学校じゃあ結構人気もある。オレにとっちゃあ学校の七不思議にでも入るわけなんだが、そんなことを本人の目の前で言うと100倍になって返ってきそうな気がするのでそれはオレの心に止めておく。と、志保が筐体を見つけたのか手を振っている。そりゃハズいから止めろって何回も言ってるのに全く懲りねー女だな? そう思いながら幼馴染み3人で苦笑いを浮かべると手を振ってる方向へと向かっていった。
「遅〜い!! こんな可愛い彼女を待たせるなんてどうかしてるわ!!」
「はぁ〜? どこにいるんんだ? その“可愛い彼女”っつうもんはよ? 目の前にいるのは口喧しい女だって言う……あわびゅっ!!」
 言うが早いか志保の裏拳がオレの胸の辺りに炸裂する。一瞬ボスが見えたことは内緒だ。“って〜な?! 何しやがる!! この暴力誇大広告女!” とはオレ。“あんたが変なこと言うからでしょ? 全くこの男は…” とは志保。お互い顔を見合わせる。ぷんすか怒る志保の顔。その顔がやけに可愛らしく思えるようになったのは、オレがこいつの彼氏になったからだろうか? とも思った。と突然志保が、“あ、あ〜あそうそう…” と別の話題に摩り替えやがった。相変わらずウソの下手なやつだな? そう思いながらあかりや雅史たちと苦笑いを浮かべるオレだった。
 ゲーセンでの対決もほどほどにウィンドウショッピングを楽しんでいる女二人。それを遠巻きに見つめるオレたち。不意に雅史が、
「志保、幸せそうだね?」
 と言う。こいつは時々こんなことを言ってくるから訳が分からん。“なあ、なんでそう思うんだ?” 逆に聞き返してやった。すると、当然と言うような顔でこう言う雅史。
「だって志保、いつも楽しそうだから…。浩之だってそう思わない?」
「まああいつはいっつも楽しそうだからなぁ。学校を遊園地かなんかと勘違いしてるんじゃねーのか? ったく…」
 そう言うと雅史は“あはははは…。そうかもね? でも志保って案外真面目だからそういうこともないかもよ?” と急に真面目な顔になって雅史は言う。そういや前にあかりも言ってたが、あいつに限ってなぁ〜。と思う。でも最近何だか変わってきたような感じもする。現に勉強面で分かるようになった。テストの成績も上がってきてるしな。高校3年生のオレたちは進路と言う問題がある。オレはあかりと同じ大学を受験することにしたし、雅史はサッカー推薦でそっち方面の大学へ進むらしい。かく言う志保はと言うと、まだ決まってないらしかった。まああいつのことだから、期限ぎりぎりになるまで決めんつもりだろう。で、どうせ結局オレとあかりと同じ大学に行くんだろうよ…。あ〜っ、オレの大学生活が〜っ! そう思う。
 でも何となく…、何となくなんだが、遠くに行ってしまうようなそんな気もするのはオレの気のせいだろうか…。と、オレを呼ぶ声が耳に届いた。


 今日はあたしの誕生日。だからあかりや雅史、それにヒロといつものように遊んでる。このまま時間が止まってくれたらどんなにいいだろう。高校3年生になって実感する。楽しい時間、こうして友達や一応の彼氏とともにいる時間。ずっと長く続けばいいのに…、とは思うけど、それもいつか終わりになるときが来る。そうなったときあたし自身はどうするんだろう…。そう考えると夜も眠れない日もある。先週、ヒロやあかりたちには内緒で、大阪の短大に見学に行った。何でもジャーナリズムを扱った一風変わった学科があるらしい。あたしが興味を引かれることを教えてもらえる。
 …だけど正直迷っている。あたしはここで暮らしていきたいし、あかりたちとも別れたくない。もちろん、ヒロともだ。だけどこのままじゃダメだってことも分かる。それに、あたしの横で楽しそうに話しているあたしの親友。この親友だけは裏切れない。もしこのまま、あたしが残れば親友は身を引くことだろう。悲しいくらいな笑顔で…。でもあたしはそう言う親友の、あかりのそんな顔は見たくない。あかりにはやっぱり幸せそうな笑顔が似合うから。そう思えば思うほどぎゅうぎゅうと胸を締め付ける何かがある。そう、言わなくったって分かる。ヒロだ。あいつとは腐れ縁だったのに、いつの間にか好きになってた。いつから? 自分でも分からない。でも気がついたときには頭から離れなくなっていた。
 どうすればいいんだろう。分からない。ただ一つ分かることは、あたしの心次第と言うこと…、それだけだ。ヒロと目が合う。ぶっきらぼうなくせにいろいろと面倒を見てくれる。憎まれ口も叩くけどそれがあいつのいいところだって分かってる。だからワガママも言いたくなる。困らせたくなる。でもそれも今日で終わろうと思う。目が合った瞬間、ドキッと胸が鳴った。あかりは裏切れない。そのあかりを裏切ろうとしている。そのことがあたしの心を揺さぶった。だから今日で恋愛は終わり…。明日からは普通の友達。そう心に言い聞かせながら、いつもと同じような声でこう言うの…。
「ねえ、ちょっとヒロ! この可愛い志保ちゃんに愛のこもったプレゼントはどうしたのよ?!」
 ってね?……。高校3年の秋、いや、今日から暦の上では冬なんだ…。そう思いながら心の中の決心がついた今日11月7日、あたしの18歳の誕生日だ…。

END