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銭湯狂想曲


 今日1月24日はオレの女友達でオレの彼女・葵ちゃんの憧れの人である来栖川綾香の誕生日だ。しかしながらオレは綾香の誕生日のことをすっかり忘れていて、今現在、両端の2人に涙目の上目遣いにぐぐぐっと睨まれてる。今年も葵ちゃんの誕生日に一緒の綾香の誕生日もしちまおうかと考えていたのだが、エクストリームの大会が入ってしまいちょうどいい日が綾香の誕生日となったわけだ。エクストリーム大会のほうは言わずもがな決勝戦でこの2人が出会ってしまったわけだが、地力では綾香のほうが勝っていたのだが結果は今年も葵ちゃんのほうに軍配が上がったわけで…。終わった後で“私も彼氏でも作ったほうが良かったのかしらねぇ〜?” と少々恨めしくオレたちを見つめていってたっけか。
 で、今日も葵ちゃんのスパーの相手をし着替えていざ帰ろうとすると、葵ちゃんから“先輩。今日何の日か知ってますか?” とちょっとむぅ〜っとした顔で尋ねられる。何かあったっけ? としばし考えるがこれと言って思い当たる節もなく、はてな顔になりながら“何の日だっけ?” と聞き直したところが、今のこの状況に追い込まれる発端なわけだ。まあ言うのはあれだが、綾香の誕生日なんて全然覚えてなかったわけで…。と言うかいつも葵ちゃんの誕生日のときに一緒に祝うために正確にははっきりとした誕生日は知らなかったと言うのが正直なところだ。
「2人してそんな顔で見ねーでくんねーかなぁ〜。オレの顔…」
 と言ってみるものの、頬をリスが食べ物を詰め込んだときのようにぷく〜っと膨らませて、なおかつ上目遣いの涙目でじ〜っと見つめてくるのでどうすることも出来ずに両脇を2人の修羅に固められふらふらと街中を歩いている。よそのおばさん連中がオレたちのほうを見て何やら囁いていたがそんな些細なことは気に止めることも出来ずオレはどうにかこの状況から逃げ出そうと必死でない頭をフル回転しながら考えているわけだが…。そういや家の風呂釜がこの間から調子がおかしくなっちまってて、昨日お亡くなりになったんだっけか。オレとしては別に台所の湯沸し器の湯をバケツに張って風呂桶まで持っていってもいいわけだが元来面倒くさがりなオレでは1、2回持っていくだけで嫌になっちまうだろう。と考えてあかりの家でも行こうかとも考えたが、何だか気が引けるし、その前にこのむぅ〜っとした顔を何とかしたいなぁ〜っと考えて、ふっと見遣ると昔ながらの煙突がでんとあった。そこでピンとひらめくオレ。まあ綾香も一応はお嬢様なわけこんな庶民的なところには入ったことはないだろうし、葵ちゃんもこんなところは久しぶりだろう。そう考えて未だにぷぅ〜っとむくれている2人に今考えたことを言うオレだったわけだが…。
「家族風呂のあるところじゃなきゃいや!!」
 とお嬢様がこんなわがままを言ってくる。葵ちゃんを見ると葵ちゃんはまだご機嫌斜めなのかまだむぅ〜っとオレの顔を見遣っていた。何で家族風呂なんだ? と言うかこんな町にそんなもんあるわけねーだろ? 百歩譲ってそう言う施設があったとしてオレがお前と葵ちゃんと一緒に入ると思うのか? とは思ったが、こう言ってしまうとストリートファイトが始まっちまうような感じがしたので、その言葉は心の奥にのみ込んだ。しかし、ここら辺にそう言った豪華な施設を備えた銭湯ってあったか? と思いつついつも風呂釜の壊れたときに世話になる銭湯へと足を向けるオレたち。一応着替えは2、3着は用意してあるのでその辺は心配はないのだが…。と銭湯の前までやって来て、唖然とした。“出来てんじゃねーかよ?” と思いつつ綾香のほうを見ると何だか知らんが勝ち誇ったような顔でオレの顔を“ふふん♪” と見遣っていた。後で聞いたところによると、情報は前から掴んでいたらしいとのことだ。セリオのサテライトサービスの情報で知ったんだろうな? 綾香の勝ち誇った顔に少々ムカつきながらもそう思った。
 右に男湯、左に女湯、真ん中に家族風呂。と言う構造の銭湯の前、やってくる。じゃあオレはこの辺で…とばかりにシュタッと手を上げて颯爽と脱走を試みるも相手は百戦錬磨の2人だ。オレの行動パターンなんてお見通しなんだろうか逃げる前に両手を掴まれて身動きも出来ず、“さあ背中流しっこしましょうね〜。浩之〜” と嬉々とした声で言う綾香と、“綾香さんだけずるいですよ〜。私も先輩の背中流したいですし〜” と昔、付き合いだしたばかりの頃だったらこんなことは絶対言わないであろうオレの彼女がむぅ〜っとした顔でオレの手に自分の胸を押し当てて文句を言っているわけで…。いつから綾香ばりな言動になったんだ? と思いつつずるずる引き摺られていくオレがいるのだった。で結局…。


「ああ、花畑でじいちゃんが手を振ってる〜…」
 と、我ながら情けないがこうなってしまうわけで。そういや去年は綾香の行きつけの温泉宿に世話になったわけだがそのときにも勝手に入り込んできたよなぁ〜っとそんなことを考えちまう。葵ちゃんは終始赤い顔をして俯き加減でいたっけ? そこへくると綾香は大胆と言うか何と言うか、女はまあ好きなほうなオレだが、あんな恥じらいを忘れたような女は好きにはなれん。百歩譲って均整の取れた姿態は拝ませてもらったが…。腹の筋肉が凄すぎてそこばかり見ていて肝心のところは見ていなかった。…ってオレは変態かっ? と自問するわけで。しかし…、葵ちゃんも5年も経つとかなりのプロポーションになったよな〜、と思う。あのむにっとした感触は綾香にも負けず劣らずな感じだったよなぁ〜っと思っているとまた鼻血が…。って! なに考えているんだ? オレは! と寝かされた台の上、首を横に振るとはらりと目隠しが落ちる。と、一糸纏わぬ2人の姿態が朧気ながら目に見えてきてオレはまたぶーっと漫画であるような感じに鼻血を盛大に噴き出してそのまま意識の底に落ち込んでしまった。
 その落ち込む一瞬の刹那、とにかくもうこの2人とは水のあるところへは行かねーっと思った今日1月24日、オレの遊び友達で彼女の憧れの存在な来栖川綾香の誕生日だ…。ぐふっ…。

END