理緒ちゃんのペンダント
「ふ、藤田くんが私に? あ、開けてもいいの?」
今日11月24日は、オレの彼女・雛山理緒ちゃんの誕生日だ。理緒ちゃんの家はあまり裕福とは言えない。親父さんは早くに他界し、母さんは病気がちだ。だから理緒ちゃんが家の生計を立てている。まあ学校はバイトOKなんで、それは大丈夫なんだが…、休日は朝から晩まで働いているんで体が持つのかどうか心配だ。当の本人は“大丈夫だよ? 私、体が丈夫なだけが取り柄だから…” と言って聞かない。まあ本人はそう言ってるが、かなり無理をしていることは明らかに分かるので俺も時々は手伝うことにしている。
で、つい先日…。理緒ちゃんの弟の良太と妹のひよこちゃんと一緒にプレゼントを選びに行ったんだが…。
「なあ、良太…。姉ちゃんの好きなものって何か知らねぇ?」
「浩之兄ちゃんの選んだものだったら、何でもいいと思うぞ? オレは…」
ある意味、予想通りの答えが返ってくる。まあ男っつうもんはその辺には疎いからな? 仕方ないと言えば仕方ないか…。だから今日は女の子を連れてきてるんだ。期待をしつつひよこちゃんに聞いてみると…、
「お人形さん…」
ずるっ! とまるでどこぞの漫才師のように盛大にずっこけるオレ。“そ、そりゃひよこちゃんの欲しいもんであって、お姉ちゃんの欲しいもんじゃねーだろ?” と言うと、急に涙顔になる。あ、あわわわわわ…。唇をぷるぷる言わせて泣きべそをかくひよこちゃんを前に四苦八苦するオレ。こんな時にあかりか志保がいてくれたら…、とは思うが、生憎と2人でどっかに出掛けていていなかった。ちっ、使えねーやつらだ…。そう思い泣きべそ顔にひよこちゃんをあやしていると、
「あれ? 浩之ちゃん。こんなところでどうしたの?」
「あれー? ヒロじゃん。って、あ、あんた、まさか…」
「まさかってどういう意味だ? まさかって? 俺が誘拐犯にでも見えたっつーのか?」
こくんと首を縦に振る志保。こ、こいつぁ〜!! とは思ったがこいつと遣りあってると時間がいくら合っても足りんので話題を変えることにするオレ。理緒ちゃんの誕生日プレゼントのことを話すと…。“うん。別にいいよ? 私たちもぶらぶらしてただけだから…” とあかり。さすがは幼馴染みNo.1。話が分かるぜ。“まあ、志保には期待してねーけどな?” と小さな声でぽつりと言うと…。
「何よ!! あかりには期待してもこの志保ちゃんには期待してないって訳? 相変わらず失礼なやつね? あんた…」
「ちっ、聞こえてやがったか…。でもよ、正直に言っただけじゃねーか? おめぇがまともなもんを買ったところなんて見たことねぇぞ? オレは!!」
「まあまあ、2人とも落ち着いて…。良太くんやひよこちゃんも見てるんだから…」
不毛な言い争いに待ったをかけるあかり。さしずめオレたち二人のブレーキ役だろう。そう思った。“ふんっ! あかりに感謝なさい” と口を尖らせている志保。まあ、こいつの場合何だかんだ言って最後にゃ笑ってバイバイだからな…。と、そうだった。プレゼントを選ばにゃならんかったんだ!! そう思い、二人に協力を要請することにする。あかりはいつものタレ目な顔で、“うん、いいよ〜” と言うがもう一人の女はそうはいかなかった。
「あんた、人に物を頼むって時には……」
ぶつくさ口上を述べている隙に退散だっ! ひよこちゃんを背中に背負い、良太とあかりの手を引いてすたこらさっさと逃げ出すオレ。約100メートルばかり言ったところで、“こらーっ! 待ちなさいよ〜っ!!” と言う怒号が聞こえてくる。ふぅ〜。ヤレヤレ。立ち止まり後ろを振り返ると案の定ボブカットの女が肩を怒らせながらずんずん近寄ってきていた。
「あ、あ、あんたねぇ〜。人の話は最後まで聞きなさいよっ!! 気がついたら誰もいなくてものすごーく恥ずかしかったんだからねっ!」
「おめぇの話は誇大広告の塊じゃねーかよ!! 全く…。良太やひよこちゃんがまねしたらどうすんだ?」
またしても不毛な言い争いをするオレたち。あかりははぁ〜っとため息を吐きつつ、“行こうか? 良太君、ひよこちゃん。これじゃあプレゼント選べないよ?” と言って良太とひよこちゃんの手を引いて歩き出す。慌てて追いかけるオレたち。あかりの顔をうかがうと相当怒ってるみたいだ。長年幼馴染みをしているオレが言うんだから間違いない。志保も気がついたんだろう。むぅ〜っとむくれているあかりにぺこぺこ頭を下げるオレたちがいるのだった。
「ところで、浩之ちゃん。今日の予算はどれぐらいなの?」
さっきまでのむくれっ面はどこへやら…。鼻歌交じりにそう聞くあかり。志保はと言うと良太とひよこちゃんの相手をしていてここにはいない。あかりが班分け? をした所為だ。まあ、オレとしてはあいつがいない方がゆっくり見られるっつうか、そう言う感じだしな…。あいつはあいつで妙に子供に好かれるっつう特異体質? なのか知らんがいつの間にか良太とひよこちゃんの遊び相手になってやがった…。本人は嫌そうだったが…。
「う〜ん、ざっとこんなもんだけどよ?」
そう言ってピースサインを出すオレ。もちろんピースではなく、2万円と言う意味だ。もちろんその中には良太とひよこちゃんの分も入ってるんだけどな? “2万円か…” ちょっと考え込むあかり。こう言うときのあかりはすごく頼りになる。幼馴染みという贔屓目もなくしてもそう思う。と、“とりあえず回ってみようよ。何かこれだって言うものが見つかるかもしれないし…” そう言うと歩き出すあかり。オレもその後を追いかけた。
あれでもなしこれでもなし…、と回ってみること数店。ふと立ち寄った宝石店のショーウィンドウにそれは置いてあった。トパーズのペンダント。あかりが言うには11月の誕生石だそうだ。価格を見ると2万5千円也。まあ、ちょっとは余裕はあるものの厳しいよなぁ〜。うーん…。他のも見てみるがやっぱりあのペンダントが1番いい。店屋の親父にでも交渉してみるか…、と思いふと横を見ると、
「ねえ、浩之ちゃん。私もお祝いしてあげたいんだけど…。いいかな?」
上目遣いなあかりはこう言うとにっこり微笑む。あかりと理緒ちゃん。何か同じオーラを纏っているように感じられる。だからか、違和感がないのは…。一人合点するオレ。そう言う二人はもう友達だ。まあ2人を引き合わせたのはオレなんだけどよ? でもいいのか? お前だって欲しいものがあったんだろ? そう聞くと…。
「私のは置いてなかったから予約したよ…。それに雛山さんのお誕生日、私も祝ってあげたいしね?」
屈託のない笑顔でそう言うとあかりは店の親父に、“すみませーん” と言う。ったく…。頬をぽりぽり掻きながらあかりの横顔を見る。その顔はどことなしか嬉しそうな、でもどことなしか哀愁を佩びたような顔に見えた。
「サンキュー、あかり。助かったぜ…」
「いえいえ、どういたしまして…。でも、雛山さんが喜んでくれるかどうかなんだけどな…」
「大丈夫だって…。お前と一緒に選んだって言えば理緒ちゃんも喜んでくれるぜ。きっとな?」
そう言うオレ。あかりはうん! と大きく頷いた。志保のところまで行くと、志保は、“はあ、はひぃ〜。おっそーい! いつまでこの志保ちゃんを待たせる気なのよ! 全く…” 良太とひよこちゃんの相手をしながらぶーたれていた。“情けねーなぁ〜。全くよぉ〜” そう声をかけると、案の定罵詈雑言が返ってきたことは言うまでもなかった。とほほ…。
で、誕生日当日。今日は土曜日。授業のほうは半ドンだったのでオレは理緒ちゃんを誘ってオレん家のほうに向かっている。オレの知り合いを呼んで盛大にパーティーを開くためだ。もちろん良太とひよこちゃんも呼んでいる。と、渡すもんがあったんだっけか? 昨日あかりと選んで買ったペンダントを渡すオレ。“わぁ〜。なんだろ? 開けてもいいの? 藤田くん” にこにこ顔で言う理緒ちゃん。“ああ、いいぜ?” とオレ。丁寧にリボンを解き包装紙を解いていく。容器が見えてくる。ふたを開けた途端、“えっ?” と言う顔になった。目をぱちぱちさせながら、オレの顔を見る理緒ちゃん。
「こんな高価なの…、もらっちゃってもいいの?…」
少々震えた声でそう言う。肩がぷるぷる震えていた。オレは何も言わず抱き寄せて頭を優しく撫でてやった。“今まで頑張ってきた理緒ちゃんへの贈り物さ…” オレは優しくこう言う。彼女は静かに泣いていた。何分くらいそうしていたのだろう…。ふと時計を見る。約束の時間に迫っていた。げっ、また志保の野郎に文句をぶちぶち言われる! そう思って抱き寄せていた体をそっと離すと、“いけね! オレん家でパーティーするんだった。良太やひよこちゃんやあかりたちやおまけの志保が待ってるんだった! 急ぐぜ、理緒ちゃん” そう言うとウインクを一つするオレ。ぽろぽろ涙を零しながら、でもにっこり微笑んでうん! と頷くオレの彼女。手を繋ぎ走り出す今日11月24日はそんな頑張り屋なオレの彼女、雛山理緒ちゃんの誕生日だ…。
END