プレゼント選び
「なあ、琴音ちゃん、ちょっと付き合ってくんねーかな?」
今日10月9日はオレの彼女・姫川琴音ちゃんの誕生日だ。とはいえオレは女の子の趣味なんて知らんし、だいたいどういうものが流行ってるのかさえ分からん。志保にでも聞けば分かるんだが、あいつに言うと翌日には尾ひれをつけて校内中に響き渡って後が大変だ。
この間もオレがちょっと葵ちゃんと腕を組んで歩いている?(実際はスパーでまた無理して立てなくなった葵ちゃんに手を貸してただけなんだけどよ…)のを目撃されて、琴音ちゃんをも巻き込んでのひっちゃかめっちゃかの大騒動になった。
「志保、おめぇはまたオレを校内の笑い者にするつもりか?」
「あら、あたしは真実を伝えたまでよ? それなのに文句を言われるなんて心外だわ!!」
「て、てめぇの真実ってのはぜ〜んぶ虚実じゃねーかよ!! この間もオレと葵ちゃんが腕組んで歩いてるって言いふらしやがって…。琴音ちゃんに弁明するのに一日もかかっちまったっじゃねーかよ? 張本人であるおめぇはとんずらしやがるしよ。ったく…。あの後オレやあかりや雅史がどれだけ琴音ちゃんを説得したことか…」
ぐぐぐっと志保を睨むオレ。負けじと志保もオレを睨み返す。こ、この女は……。自分がわりぃことが分かってねーのか? ま、まあ、前のことをほじくり返すオレもオレなんだけどよ?
「まあまあ、浩之ちゃんも志保も落ち着いて…」
ぐぐぐっと睨みあってるオレたちのの横、あかりがいつものように仲裁に入る。志保は“自称・あかりの親友”と言うだけのことはあってかあかりの言うことは聞いてしまうわけで…。って言うか志保と張り合ってるのってオレだけのような気もするんだけどよ? オレはオレであかりとは物心つく前からの付き合いだからな? あ〜あ〜、嫌だねぇ〜。幼馴染みっつうもんは…。変にお互いの心が分かっちまうんだもんなぁ〜。
「で? 浩之ちゃんと志保が睨みあってた原因は? って言わなくても分かるかな…」
ふぅ〜っとため息をつきつつオレと志保の顔を上目遣いに見ながらそう言うあかり。志保はオレの顔を半眼で睨みながら何やらぶつぶつ文句ばかり言って歩いてやがるが、この際無視だ! 無視!! あかりと話を進めることにする。
「ほら、もうすぐ琴音ちゃんの誕生日だろ? だからな? 誕生日プレゼントどうするかって悩んでたところなんだよな…」
「あっ、もうすぐだよね? お誕生日。それで予算はどれくらい?」
「んっ? う〜ん。今月は先月分の小遣いがまだ残ってるからな…。ざっとこんなもんか…」
そう言って指を3本立てるオレ。ちなみに3本とは3万と言う意味だ。“ふ〜ん、あんたでも貯めてるときがあるのね〜。てっきり宵越しの金は持たねぇ主義かと思ったわ…” こう言うとわざわざオレの神経を逆なでしてくる志保。“うるせー!! てめぇはどうなんだ!?” と言い返してやりたかったが、こう言うとまた志保と言い争いになるし、それでまたあかりに怒られそうな気がするので止めにする。って言うかあかりは怒るとものすごく怖い。普段は大人しいんだけどよ…。どういうわけか怒るとむちゃくちゃ怖いんだよなぁ〜。って大人しいやつほど怒ると怖いって言うもんか?
「3万円か…。う〜ん」
そう言うと考え込むあかり…。目がタレ目なだけに妙に可愛いところもある。どおりで最近男子に人気なわけだ…。ふとあかりとは逆の方向を見る。こいつもそういや人気があったな? でもこいつの場合は性格が問題だ。ど〜でもいいことをぺちゃくちゃ喋りまくるしよ? 大人しくしてりゃそこそこの女なんだがなぁ〜…。と一人考え込んでいると、
「あんた、今何か変なこと考えてなかった?」
「いや、な〜んも考えてね〜ぜ?」
ギロリとオレに目を向ける志保。すっとぼけるように言うオレ。まあこれがオレとこいつの関係なのかも知れねーな…。そう思い歩いているとあかりが急に“あっ、そうだよ! 浩之ちゃん” 大きな声をあげた。道行く人は一瞬にしてオレたちのほうに振り向く。ハズい。っていうかオレの名前を大声で言うんじゃねーっ! びしっとデコピンをかます。“あうっ!” と涙目になりつつおでこを押さえるあかり。上目遣いに見つめる目は“もう、いきなり何するの〜?” ってな顔だ。
「お前がオレの名前を大声で言うからだ!! こっ恥ずかしい…。ったく……。で? 何かいい案でも浮かんだのか?」
「う〜っ…。あっ、う、うん。琴音ちゃんって確か美術部だよね? だったら油絵の道具とか、どうかな? お父さんの知り合いの人が美術関係の会社に勤めててね? そこの直営のお店が先日この町にオープンしたの。私にはちょっと敷居が高いかなって思ってたけど、琴音ちゃんだったら合うんじゃない?」
確かに……。さすがはあかりだ。そう思って今度は志保のほうを見てみるが、別段これといって言いたいこともないんだろう。でかいあくびをかましてやがった。う〜ん、でもよ〜…。それだけだと何となく味気ねーんじゃねーか? とも思う。まあ後は自分で考えることとして…。
「ありがとな? あかり」
そう言うとオレはあかりの頭を優しく撫でてやる。照れくさそうに、でも嬉しそうにじっとしているあかり。志保は半分呆れ顔で、“はぁ〜、やってられないわ…” と言うと首を竦めていた。
家に帰り晩飯を買いにコンビニへと向かう。時々あかりん家に呼ばれることもあるが、大抵はこんな具合だ。自分で作るのはめんどくせーし、何より作れるものが限られる。まあ努力次第では何とかなるかも知れねーがよ…。と、そんなことを考えつついつものシャケ弁を持ってコンビニをうろうろしているオレ。とふと壁のほうを見てみると、何だかいい感じな絵の展覧会のポスターが飾ってあった。普段なら何もなかったように通り過ぎてしまうんだが、今日に限っては見てしまう。美術っていうもんはちんぷんかんぷんでよく分からねーがこのポスターを見ていると、“いいよなぁ〜” などと見とれてしまう。ふと下の値段表を見ると学生割引も利くそうだ。“連れてったら喜ぶだろーなぁ。琴音ちゃん” と思うより体が早く反応していた…。
弁当とチケットを購入して家へと帰る道すがら、彼女のことが頭をよぎる。初めて会ったときのあのおどおどとした感じは今はもうない。チカラのコントロールも今は出来るようになって普通に暮らしている。自暴自棄になっていた頃はもう今は昔の話だ。それに、友達が出来たこともオレにとっては嬉しい。葵ちゃんとはいい友達だ。もっとも2人をめぐり合わせたのはオレなんだがな? 週末とかには一緒に出かけていることも多くなったしいい感じだ。その中にはオレやあかりや雅史、マルチや委員長、理緒ちゃんに卒業しちまったけど芹香先輩、寺女の綾香やセリオ、それにおまけの志保と言ういつものメンバーも何度も加わらせてもらってるんだけどよ……。
で、10月9日。いつものようにあかりがピンポンピンポンうるせー…。いつものようにクイック洗顔&クイック歯磨きを済ませ家を出る。一応起きたのは7時くらいだったんだが眠くてそのまま二度寝をしてしまったため、朝飯を食う余裕がなかった。横に並ぶとあかりが…。
「また朝ごはん抜いたんでしょ〜? もう、しょうがないなぁ〜」
と言ってくすくす笑う。“しょーがねーだろ? ねみぃんだから…” とでっかいあくびをかましつつ言うオレ。そんなやり取りをしていると後ろから“藤田さーん、神岸さーん” とオレたちを呼ぶ声がした。ふっと後ろを振り返ると、今日の主役のご登場だ。
「オッス! 琴音ちゃん!」
とさわやかな笑顔で言うオレ。腹の虫はさっきから鳴りっ放しだけどな? 横ではあかりが何やら隠し事をしているみたいに含み笑いを浮かべてやがる。何なんだ? 一体…。そうこうしているうちに琴音ちゃんはにこっと微笑みながらオレの隣に来る。と突然あかりが、
「ああっ、そうだった。志保と待ち合わせしてるんだったよ。じゃあ浩之ちゃん、先に行ってるね〜っ」
とまるで見計らったようにそう言うと、先を行ってしまった。“あいつ…。オレたちを2人っきりにさせるためにわざわざ…” 厚顔無恥な志保と全然違うな…。まああれでよく友達になれたもんだと、そう思いながらオレはあかりの走っていく後ろ姿を見つめていた。と、また盛大に腹の虫が鳴る。オレの腹の虫を聞いてしまったのか琴音ちゃんは恥ずかしそうに俯く。オレはオレで“へへっ”と苦笑いをするしかない。と俯いていた琴音ちゃんは突然ごそごそと何やら鞄の中に手を入れて…、
「あ、あの…。これ、どうぞ…」
と可愛く包装された包みをオレに手渡す。“な、何これ?” 一瞬、はてな顔になるオレ。琴音ちゃんは俯いた顔をさらに俯かせて、小声でこう言う。
「ふ、藤田さん、あまり朝ごはんとか食べてらっしゃっらないって神岸さんから聞いていたものですから……。わ、わたし…、作ってきたんです…。神岸さんより、あの…、味とか変かも知れないですけど…、もしよろしければ…」
あかりめ、あの笑いはこのことだったのか? とさっきの妙ににやけたあかりの顔を思い出しながら、“デコピン50回決定!!” と心に誓うオレ。琴音ちゃんはそんなオレの顔をおどおどしながら、まるで捨て猫のようにオレの顔を見つめている。“……でもまあ琴音ちゃんの手料理が食べられるから10回におまけしといてやるか…” と琴音ちゃんの包みを見ながらそう思った。“開けてもいいのか?” そう言うと無言でこくんと頷く琴音ちゃん。そっと包みを開けると…、
「べ、弁当?」
そう、可愛らしいおむすびが6つほど入っていて横には玉子焼きとウインナーが並んでいる弁当。“お昼ごはんの有り合わせで申し訳ないんですけど…” そう言うと俯いた顔を真っ赤にさせて琴音ちゃんはそう言う。“い、いや。そんなことはねーぜ?” そう言ってオレはちょうど通りかかった公園のベンチに腰を下ろす。時計を見れば8時ジャストだ。ってちょっと待て! あかりは確か8時10分とか何とか言ってなかったか? ってことはあいつ。オレに嘘をつきやがったのか? …まあいいや。あいつのおかげで琴音ちゃんの朝飯も食えるんだしよ? まあ今回は大目に見ておくか。…ここから学校までの区間は大きくショートカットできるので、近所の連中はみんなこの道を利用しているわけだが、みんながみんなしてこっちを見てやがる。中には、“熱いねぇ〜。お二人さん” と志保張りなことを言ってくるやつもいたがオレは当然のことながら無視して食い始める。
一口大のおむすびを口の中に放り込む。塩加減もいい塩梅だ。玉子もふんわりしていて美味しい。ウインナーもタコ型やイカ型に切ってあってユニークな構成になっている。手もかかるだろうに…。そう思って琴音ちゃんのほうを見るとぽっと頬を赤く染めていた。2、3分で食べ終わる。しっかし琴音ちゃんもあかりに負けず劣らずの美味しい料理を作るよなぁ〜…。まあこれに関しては葵ちゃんもなんだけどさ…。さてと、ちょうど腹八分目に入ってなんだか心地がいい。琴音ちゃんに感謝だな? そう思いお礼を言うと、
「あ、あの……、お気遣いなさらないでください。神岸さんから教えてもらって、わたし、それで…」
とまたもや俯く琴音ちゃん。そんな彼女がとても可愛いと思った。“じゃあ、そろそろ行こうか? 琴音ちゃん…” そう言って手を出すと、“は、はい” と応えておずおずとオレのほうに手を差し出す琴音ちゃん。繋いだ手の温もりがとても心地がいい。“なあ、琴音ちゃん、今日時間空いてるか?” 学校へと続く道、唐突にそう聞くオレ。
「あ、あの…。今日は美術部もお休みなので…、その、あ、空いてます」
そう言う琴音ちゃん。オレはくるっと琴音ちゃんのほうに振り返るとにっこり笑顔でこう言った。
「じゃあさ、琴音ちゃん。学校の帰り、ちょっと付き合ってくんねーかな?」
ぽりぽり頬を掻きながら彼女の顔を見る。“は、はい! 喜んで!” とびっきりの笑顔でそう言うと繋いだ手をぎゅっと両手で握り返してくる。そんな今日10月9日は、オレの可愛い彼女、琴音ちゃんの誕生日だ……。
END