仲良しの秘訣


 今日10月9日は、オレにはもったいないくらいの彼女、姫川琴音ちゃんの誕生日なわけで…。でもオレは女の子の好みなんて言うもんはテンで分からん。去年は確かコンビニで見つけた絵の展覧会を見に行くのとあかりのおじさんの友達の人がやっている美術の卸売店から2万もするような高級な油絵の具のセットと、展覧会のペアチケットを手に入れて一緒に見に行ったんだっけか? 琴音ちゃん、嬉しそうにはしゃいでたよなぁ〜…。そうか…。あれからもう1年か……。早いもんだよな? そう思った。
 オレは大学1回生。今は去年までいた高校からさほど遠くない大学に通っている。あかりや雅史、それにおまけの志保なんかも一緒だ。あかりや雅史はともかくあいつと同じだなんて言うだけで気が滅入ってくる。これじゃ高校にいた頃と変わりがねーじゃねーかよ? そう思った。まあ悲しかったり嬉しかったりする訳なんだがこれは今回は関係がないので置いておこう。問題は今年の琴音ちゃんの誕生日のことだ。高校3年生になった琴音ちゃん。チカラのコントロールが出来るようになってからと言うもの、男子からの告白が多数あったと歩く3面記事からそう聞いた。オレよか素敵な男なんて五万といるはずなのに、琴音ちゃんはすべて断っている。ちょっともったいねーとは思うが、それだけオレのことを思ってくれてるんだと思うと正直嬉しい。
 そんな琴音ちゃんの親友であり良き理解者となってくれているのが葵ちゃんだ。もっともこの2人を巡り合わせたのは、このオレだけどな。葵ちゃんと琴音ちゃん、一見タイプが全然違うように見えるが、これがなかなか仲が良い。本人たちが言うには、“波長が合うんですよ” とのことだが、オレには磁石のS極とN極のように互いに違うものを持っているので惹かれ合うんだろうと思う。とそのことをこの前二人に話すと、
「そうでもないですよ? 藤田さん。わたしたち、けんかもよくしますし…」
「この前なんか、琴音ちゃんったら“絶交ですっ!!” って言って一日口を聞いてくれなかったんですよ…。藤田先輩」
 “もう! それは言わない約束でしょ?” ちょっとぷぅ〜っと頬を膨らませて怒ったように言う琴音ちゃん。葵ちゃんは“ご、ごめん” と言ってぺこぺこ頭を下げている。そんな二人が微笑ましくてずっとやり取りを見ているオレがいた。そしていつも心の中でこう言うんだ。
“よかったな…。二人とも…”
 ってな?……。でも今年の誕生日のプレゼントはどうしようかと考えている。去年みたく絵の展覧会に連れて行くって言うのも手なんだが、生憎とそっち方面はてんで分からない世界なんでオレ的にはパスしたい。って言うか去年の展覧会でこれでもかというくらい思い知らされたしな? あのヘンテコな絵が、時価数10億もするんだそうだ。オレにはテンで分からん。デートといってもいつも大学の帰りに歩いてるしなぁ〜。カラオケはあいつの独壇場になる可能性が100%なんでオレ的には当然パスだ。ゲーセンは琴音ちゃんの感覚とは180度違う世界なのでこれもパス。と言うことは、映画か…。でも最近面白そうな映画なんて入ってなかったような気がするんだが…。そう思いつつ映画館の方に向かうオレ。と誰かが後ろから声をかけてきた。誰だぁ〜と思い振り返ると、
「先輩? どうしたんですか? こんなところで…」
「うわっ! ととと…、な、何だ。葵ちゃんかぁ〜。…いやなに、ちょっと考え事しててな?」
 もう一人のオレの可愛い後輩、葵ちゃんがオレの横にちょこんといた。さすがはエクストリーム初代チャンピオンだ。そう思ってると、“あっ! 考え事って、もしかして琴音ちゃんのお誕生日のプレゼントのことですよね? 先輩” にこにこ顔でそう言う葵ちゃん。頬をポリポリ掻きながら、“あ、ああ……” と単簡に答えるオレ。葵ちゃんのほうを見ると、何故かもじもじしながらこっちを見ている。はっは〜ん、葵ちゃん。プレゼントまだ決まってね〜んだな? そう思ったオレはこう言う。
「いや、オレあんまり女の子の好みとか分からねーし、葵ちゃんだったら琴音ちゃんの好みとかも分かるんじゃねーかなーと思うんだけど…。どうかな? 一緒についてきてくんねーかな?」
 そう言うとどことなしかほっとしたような葵ちゃん。にっこり微笑んで“は,はい、私でよければ” と言う。“それじゃ善は急げだ! 行くぞ! 葵ちゃん” そう言うオレに“はいっ!” といつもの元気な声が聞こえてきた。
「でも先輩? 琴音ちゃんのプレゼント何にするつもりだったんですか?」
「うーん、それをまだ決めかねてるところなんだよなぁ〜。葵ちゃんは何か決めてる物なんかあるのか?」
「はい、あ、あの。実は私もまだ決めかねてて…。洋服とか結構いいななんて思ってるんですけど…。お、お金の方がちょっと…」
 そう言うと俯いてしまう葵ちゃん。まあ高校生の小遣いではなかなか買えないのも事実。ましてや部活動に精を出してる葵ちゃんのことだ。絶対バイトとかしてないんだろうな? そう思う。かく言うオレは大学に入ってバイトを始めた。コンビニのバイトなんだがこれが結構忙しい。まあそのおかげで毎日あかりのノートを見せてもらってるわけだが…。“浩之ちゃんももうちょっと講義に出ないと単位落とすよ?” と言って口を尖らせていたか、あいつ…。まあ重要な講義には出ているつもりなので単位を落とすということはさすがにない…、と思う。うん。
 でも洋服か…、買ってあげたら喜ぶだろうなぁ〜。と思っていると今度は葵ちゃんが聞いてくる。オレ自身何を買っていいのか悩んでいるんだが、さっき通りかかった貴金属店で、“おっ! これは?” という物があった。よっぽど買ってやろうかとも考えたんだが、もっと他にいいものがあるだろ? と思ってその場を後にしたわけだが…。やっぱりあれがいいかな? 値段も手頃だったし…、と思ったオレは葵ちゃんの手を持つと引っ張っていく。
「これなんかどうかな? 結構洒落てて琴音ちゃんにぴったりだし金のほうもちょうどいい値だと思うけど?…」
「うーん…。私、宝石とかよく知らないし、それにそう言うセンスもないので先輩におまかせ…ってダメ…ですか? やっぱり…」
 上目遣いに見つめてくる葵ちゃん。その顔が琴音ちゃんと同じくらい可愛かったことはオレだけの秘密だ。“ま、まあ、いいんじゃねーかな? でも服のほうは頼むぜ?” そう言うオレに“は、はい!” と元気よく答える葵ちゃん。買い物は続いた。


 そして今日は10月9日。琴音ちゃんの誕生日。ささやかながらオレん家でパーティーなどを催すことになった。志保のヤローはかなり不満そうだったがあかりがうまく言いくるめてくれたおかげで何とか丸くおさまった。っていうかあいつはあかりの言うことには素直だな? そう思う。で今日の主役、琴音ちゃんだが…。今オレが買ってやった洋服と葵ちゃんが買ってあげたネックレスを身につけに行っているためにここにはいない。まあ選んだのは逆なんだけどな? と雅史が、
「ねえ浩之。どんな服を買ってあげたの?」
 と聞いてくる。“まあ、見てのお楽しみさ?” と単簡に答える。葵ちゃんも、“内緒ですよね〜? 藤田先輩” とにっこり微笑みながら言っている。とそこへいつものにこにこ顔のあかりがこれまたにこにこ顔の志保と出てくる。“あかりのにこにこ顔はまあ分かるが、てめーのにこにこ顔は何か裏がありそ…、うげっ!” 志保に不意打ちを食らう。“こ、こいつは〜っ!!” などと思いながらその向こう側を見ると葵ちゃんが選んでオレが買ったシックな黒の服に白いロングスカートと言ういかにもお嬢様なオレの彼女の姿があった。先輩以上か、この可愛らしさは? と思えるくらい可愛い。当の本人はもじもじと恥ずかしそうに下を向いているが、オレにはその仕草がたまらなく可愛かった。
「あ、あの…、似合ってますか? 藤田さん…」
 そう言うと手をもじもじさせる琴音ちゃん。オレはにっこり微笑むとこう言った。
「ああ、どこかのお姫様みたいだ…。っていうかオレだけのお姫様になってほしんだけどよ?
 最後のほうは琴音ちゃんにしか聞こえないようにぽそっと呟く。赤い顔をさらに真っ赤にして俯くオレの彼女。琴音ちゃん、これからもよろしくな? 周りはわいわいがやがやうるさいが、オレたちの周りにだけ静寂な音しか聞こえない。琴音ちゃんがオレにしか聞こえないような声で言う。“わ、わたしでよろしければ…” って。言われたオレもドキドキして俯いてしまう。そんな静寂を破る賑やかしいと言うかうるさい声が聞こえてくる。
「ヒロ〜、あんたたち何二人して俯いてんのよ?」
「うるせ〜っ!! 人がせっかくいい雰囲気に浸ってる時に大声出しやがって…。てめーにはデリカシーっつうもんはねーのかよ?!」
 ほとんど恥ずかしさをごまかすための八つあたりだな? オレ…。志保と言い争っている時にふっと琴音ちゃんたちのほうを見ると、おかしそうにオレと志保のやり合いを見てにこにこ微笑んでいた。首には親友・葵ちゃんからのプレゼント10月の誕生石、“オパール” のネックレス。それは秋の夕日を浴びながらきらきらと美しく輝いていた…。まるで二人の友情の証のように……。

END