仲直りの仕方
突然だが、あかりに今オレは怒られている。頬をぷぅ〜っと膨らまして厳しい目つきでこっちを見つめてくるあかり。顔が童顔だからこんな顔も何か可愛い。が、こんなことを言うとぶす〜っとした顔のまま耳たぶをぎゅ〜っとを引っ張られるので、何て言うか非常に恐ろしい。ケンカの原因、それは至ってほんの些細なことだ。オレがあかりとの待ち合わせに寝坊して1時間ばっかり遅刻したことが今のこういう険悪な雰囲気の発端。今日の打ち合わせで雅史ん家に行って、帰って来てからベットでついうとうとっと寝ちまったのが原因なんだけどな?
「もう! 浩之ちゃんは…。久しぶりに浩之ちゃんとお散歩できるから楽しみにしてたんだよ? 私…」
そう言うとますますぷぅ〜っと頬を膨らませるあかり。オレたちはもうすぐ卒業だ。進路はそれぞれ違っているが、オレとあかりは同じ大学を志望した。1月に試験を受けて先日通知が届いた。結果は見事に合格。あかりん家に行って、あかりに言うと、“えへへへへ〜、私も合格だったよ〜” って言ってにっこり微笑んでたっけか? 今のこんなぶす〜っとしたような顔じゃなくてな?
「誰がぶす〜っとしたような顔だよ?! 浩之ちゃん! 浩之ちゃんのせいなんだからね?! む〜っ!!」
「き、聞こえてたのか? ……じゃなくてだな? しょしょ、しょうがねーだろ? 昨日は志保のヤツに付き合わされて、荷物を両手に持たされ続けて大変だったんだからよ? 雅史だってへばってやがったし……」
いつもながらにあかりはオレの考えていたことを言う。ど、読心術でも身につけてるのか? と思った。しかし何故オレが遅刻をしたのかと言うと? …そう、それは昨日のこと…。昨日、オレの不倶戴天の敵、長岡志保に付き合わされてあちこちのデパート巡りをしていたんだ。雅史も駆り出されたんだっけか…。まあ早い話は荷物持ちっつう感じだな? “でもそれぐらいお前一人でいけるだろーがよ?” 不機嫌そうに言うと?
「あんた、あたしに逆らうって言うんじゃないでしょうね〜? この間のあのことあかりに言っちゃおうかしら〜?」
不敵に微笑む志保。ああ、そのことだったらあかりに言ったぞ? っていうか知ってるぞ? あかりは“すごいねぇ〜、浩之ちゃん。ホワイトデーは大変だね?”って言って笑ってやがったけどな? バレンタインにオレが葵ちゃんや琴音ちゃんやマルチにチョコレートをもらってたところ、実はあかりも一緒だったんだけどよ…。まあさして険悪な雰囲気じゃなかったしそれに三人ともオレの彼女があかりだって言うことを感づいてるっつうかもう知ってみたいでな…。どこぞぞの東スポ女の言うことを又聞きに聞いたんだろうけどよ? まあ自業自得ってやつだな…、オレがそう言うと志保の野郎はふらふらと頭を抱えて、“い、いけないわあかり。野獣の餌付けは難しいのに…。みすみす野獣を野に解き放つようなものじゃないの?” とぶつくさ何やら言って首をぶんぶん振ってやがる。まあこいつの言うことはいつもしょーもねーことなので聞き流してやることにした。一応、7時くらいからオレの家でパーティーなんぞを開く予定になってるんだけどよ? まあ、このことはあかりにゃ内緒なんだけどな? でもたかだか1時間ばかり遅刻しただけじゃねーか? そんなに頬を膨らませんでもいいのによ……。
「1時間ばかりって…。その1時間が重要なんだよ? もう!」
「わ、悪かったって! その代わりと言っちゃあなんだけどよ。帰りにオレん家に寄ってかねーか? って、さっきからオレが何か言うたびにツッコんでるけどよ? 聞こえてるのか? オレの心の声が…」
「当たり前だよ〜っ!! だって私、幼い頃から浩之ちゃんとず〜っと一緒だったんだもん。それからこれからもず〜っと一緒なんだもん」
あかりがオレの恋人と言う存在になったのは、去年の5月。紆余曲折あったが今じゃ学校公認のバカップルって言うあだ名もついてやがる。もちろんそのあだ名をつけたのは、あの歩く3面記事・長岡志保だ。くそ〜っ! なんであいつはこんなど〜でもいいことばっかり喋りまくるんだ? とは思ったがあかりの嬉しそうな顔を見てると言う気も失せたんだよな? で、現在に至っている。
それにしても2月も後半か。もうすぐ卒業なんだなぁ〜っと思うとやけに寂しくなる。友達や知り合いともお別れか…。そう思いながらあかりの手を引き歩いた。近くの公園を通る。あかりが“ちょっと一休みしていこうよ…” と言うので公園に寄った。
思い出の公園……。昔、オレがあかりを泣かして後悔した公園。そして去年の春、オレたちが幼馴染みから恋人へと変わった公園。ベンチに座る。あかりは? と見ると、自販機のところで何を買おうか迷っているところだった。“ブラックでいいぞ〜”と言うと、“うん。分かったよ〜”と言う声。かこんという音が聞こえる。たったったったっ…。コーヒーと自分のジュースを持って駆けてくる。そう言えばこの公園は全然変わってねーよなぁ〜。ふぅ、とため息。
「はい。これでいいんだよね?」
「ああ、ご苦労さん」
そう言うとコーヒーを受け取る。あかりはオレの横に座ると嬉しそうにプルタブを押し開ける。一口飲むとふぅ〜っと息をついていた。オレも同じように飲むとあかりと同じようなため息をつく。“うふふっ” と笑い出す声に横を見ると、案の定あかりが肩を震わせながら笑っていた。何がおかしいんだとは思ったが、まあ物心つく前からこいつといつも一緒だったから笑ってる理由は言わなくても分かる。あ〜あ〜、嫌だねぇ〜。幼馴染みっつうもんはよぉ…。こっちで考えてることが全部分かっちまうんだもんなぁ〜。
そう思いながら笑っちまうオレもオレなんだけどよ…。まあ、これがオレ達二人だけの仲直りの仕方なんだろーな? そう思った。
「さてと! そろそろ行きますか!」
コーヒーを一気にあおるとオレは言う。立ち上がるとあかりは“ちょ、ちょっと待ってよ〜。浩之ちゃ〜ん” と言って慌ててジュースを飲む。…が慌てて飲んだせいで気管に入ったのかけほけほと咳をしていた。“ったく、しょーがねーなー…” ため息を吐きつつそう言ってあかりの背中を摩るオレ。……ちょっとドジで、可愛くて…。こんなぐーたらなオレの面倒をみてくれるオレの彼女。
「あ、あかり? 落ち着いたか? ったく…。急いでジュースを一気に飲もうとするな!」
「だ、だって……。早く飲まなかったら置いてかれちゃうって思ったんだもん…」
はぁ〜…。置いてくわけねーだろ? オレの大切な彼女なんだからよ…。そう思ってあかりのおでこに軽くデコピンを食らわすオレ。“ビシッ!” といい音がした。“あうっ!” と言っておでこを抑えるあかり。
「もう。いきなり何するの〜?」
そう言いながらいつものように上目遣いでオレの顔を見つめるあかり。オレの一番好きな顔だ。無言のまま手を引くと走り出す。“わっ! ちょ、ちょっと待ってよ〜。浩之ちゃ〜ん” といつものような声を上げ、足をもたつかせながらもついてくるあかり。缶をゴミ箱へ投げる。カンコロン…。見事に入った。見ていたあかりも、“えいっ” と投げる。カンコロンコロン……。同じように入った。
「えへへ〜、入ったよ〜。浩之ちゃん」
嬉しそうに言うあかり。そんなあかりの顔が何だか無性に可愛いと思った。公園を出る。志保たちはオレの家の前で待ちくたびれてるだろうな…。そう思いつつあかりと手を繋いでオレの家へと向かう道。その道すがらあかりの横顔を見ながらオレは心の中でこう言った。
“あかり、誕生日おめでとう…。こんなぐーたらなオレだけどこれからもよろしく頼むぜ…”
ってな…。
END