飲食店のバースデーケーキ


 今日5月17日は俺の後輩であり、このみの親友の1人でもあるキツネっ子、山田ミチルの誕生日だ。と言っても俺には関係ないんだけど、このみともう一人のこのみの親友であるタヌキっ子・吉岡チエに否応なく連れて来さされたわけで…。2人して俺が女の子が苦手って知ってて俺の腕に体を摺り寄せてくるんだもんなぁ〜。特にタヌキっ子はタマ姉にも負けないくらいな胸をわざとに摺り寄せて来るもんだから非常に困った。
「ねえ、もう少し離れてくれない?」
 って言おうものなら…、“ダメッスよ〜。離した途端に先輩逃げちゃうかもッスから〜” とある意味俺の行動を予測したようにそう言うタヌキっ子。このみも、“よっちの言うとおりでありますよ〜っ!! この前だってわたしと買い物に行ったらいつの間にかタカくん逃げちゃったし…” そう言うとむぅ〜っとむくれた顔になる。こ、このみ? あれはこのみが女性用の下着売り場に俺を連れて行きそうになったからなんだよ? って前にも言ったんだけど、“恋人さん同士なら何も恥ずかしいこともないであります。タマお姉ちゃんもそう言ってたでありますよ〜” とある意味俺の想像していた通りの言葉が返ってきたっけ? やっぱりあのお姉様の影響なんですね? と、いつになく深いため息をつく俺がいるのだった。
 で、どうにかこうにか左右からのぽよんぽよんした感触にも耐えてキツネっ子の自宅兼お食事処に到着する。古めかしい佇まいは昭和初期のものだろうか…。タマ姉や草壁さんなんか連れてきたら喜ぶと思うんだけどなぁ〜。そう独り言のように呟いているとぽよんと歩いていたときより強い感触が腕にかかった。見るとタヌキっ子がむふふふふ〜ってな具合に俺の顔を見ている。“なっ? 何なの?” このみに聞かれないような小さな声で言うと? “帰りし、何か奢ってくださいッスね?” とウインクしながら言うタヌキっ子。聞かれてたのか…。そう思った。玄関の戸をガラガラッと開ける。先には怖そうなお兄さんが立っていた。このみとタヌキっ子は何回か来たことがあるらしいのか普通に入っていく…。対する俺はおっかなびっくりで入った。とそ〜っとそのお兄さんの顔を見る俺。筋肉モリモリのお兄さんが目を光らせながら睨んでるんですけど…。大丈夫なのか? そう思いながらこのみたちの後ろをついていく。そばを通るとどすの聞いた声で“らっしゃい” と言うお兄さん。ちらりと顔を見ると俺の顔をこれでもかっと言わんばかりに睨んでいた。
「別に裏口からでも良かったんじゃない? あのお兄さん、俺の顔、ギロリって睨んでたみたいだったし」
 店屋の奥の家との渡し通路まで来て俺はそう言う。“確かに睨んでたッスね? …はっは〜ん、そう言うことッスか。先輩も隅に置けないッスね〜” 意味深にそう言うと一人合点したようにうんうん頷くタヌキっ子。どう言うことなのか聞こうと思っても、“皆まで言わなくても分かってるッス。でも先輩、このみのことを一番に考えてあげなくっちゃダメッスよ〜?” こう言いながら半分笑って半分真剣な目で言うタヌキっ子に、うんと頷く俺。とそうこうしているうちにキツネっ子の部屋の前に到着する。ここも立派な日本家屋なんだね?…。あちこち見遣ってるとこのみが“ちゃる〜、来たよ〜?” そう言って襖を開ける。中を覗くと着物姿のキツネっ子。って! ええ〜っ?! 何で着物姿なの? 普段は洋服なのに? と俺は混乱する。でもこのみとタヌキっ子は至って普通だ。何だか腑に落ちない。そばにいたこのみに聞いてみるとこうだ。
「うん、ちゃるは家にいるときは着物姿が多いんだ〜。おじさんが何か“日本人は着物だ〜!” とか言ってるから…」
 そ、そうなの? 今度はキツネっ子本人に聞いてみる。少々顔を赤くしながら、こくんと首を縦に振った。それにしても…、なんていうか似合ってるよなぁ〜。じっとしていればお人形さんみたいだ。しばらくキツネっ子のほうばかり見ていた俺。実際は見惚れていたんだけど…。むぎゅ〜っと頬を抓られる。抓られた先を見てみると案の定このみだ。ぷぅ〜っと頬を膨らませて俺の顔を上目遣いに見つめている姿は、あのお姉様と同じだよなぁ〜と思った。
「タカくん!! 浮気しちゃダメなんだよ〜!! さっきからちゃるのほうばっか見てるし〜…」
「ちょちょ、ちょっと待ってよ? 俺はただ着物姿が珍しいなぁ〜って思ってみてただけだよ? 何で浮気とかに繋がるんだ?」
 上目遣いに見遣るこのみを目の前に、俺はこう言う。このみはと言うと、“だってタカくん、ちゃるのほうばっか見てるんだもん。タカくんの彼女はわたしなのに〜っ!” と大変ご機嫌斜めな様子で俺の顔を上目遣いを一層厳しくして見つめている。一方のキツネっ子はと言うと、何だか顔を赤らめていた。タヌキっ子が、“あ〜あ、先輩…、これであたしが“先輩のことが好き!” だなんて言っちゃうとドロ沼四角関係ッスね?” とにはには笑いながら言う。や、や、やめてくれ〜っ!! とこのみにギロリと睨まれながら心の中で絶叫する俺がいるのだった。


「タカくん! さあ、あ〜んするでありますっ!!」
「先輩…。あ〜ん」
「あ、あのさ。き、今日は君の誕生日なんでしょ? な、ななな何で君が俺に接待と言うかそういうことをするの?」
 女の子二人を両脇に大、いに困った顔をキツネっ子に向けてこう言う俺。“先輩はこう言うの…、嫌?” ちょっと涙目になりながら言ってくるキツネっ子。その顔に思わずうっ! となる俺。このみはこのみで“またタカくんがちゃるのほうばっか見てる〜っ!! もう! こっち向くでありますっ!!” と不機嫌そうに言うと頬を抓ってくる。“ああ〜、もう! 分かった。分かったから! 頬を抓るのは止めて〜” と言いながら、このみの手を頬からどかせる俺。顔を見るとこれ以上ないというくらいにぷく〜っと頬を膨らませて俺の顔を上目遣いに見遣って、いや、睨んでくるこのみ。テーブルの中央にはここで作ったんだろう大きなバースデーケーキが置いてある。それはまあいいんだ。うん。問題なのは、このみとキツネっ子が俺の両脇に座っておいしそうな料理を食べさせようとしていることなんだ。このみはともかく何でキツネっ子までがそういうことをするのかなぁ〜。なんて思ってふと前を見てその原因が分かったような気がした。
「さあ、先輩はどっちを選ぶッスかね〜? ふふふっ、楽しみッス」
 そんなことを言うと、妖しく笑うタヌキっ子。その顔があのお姉様に似ていたことは言うまでもない。そんなイジワルなことを言わないで助けてくれ〜…。とは思うものの、この状況を楽しげに見つめるタヌキっ子には通じるはずもない。ある意味タヌキっ子がタマ姉よりも恐ろしく思えた今日5月17日は、俺の後輩でこのみの親友、山田ミチル(キツネっ子)の誕生日だ…。ちなみにケーキのほうはすごくおいしかったことを今日の日記に記しておこう。あっ、あと作り方なんかも聞いておこうかな? その…、将来のお嫁さんに作ってもらうためにね?

END