おひるねいいんちょ


 今日5月1日は、俺の彼女であり、学級委員長でもある小牧愛佳の誕生日だ。この間、家庭訪問があった。と言っても俺の両親は海外に行っているので、代わりにタマ姉が俺の親代わりを引き受けることになったんだけど…。後で小一時間雄二と正座をさせられて、生活態度に関してああだのこうだのと文句を言われて、最後に俺を向坂の家のほうに引越しさせると言う話になったことは言うまでもない。父さんや母さんはそっちの方がいいと言っているんだけど、俺はやっぱり独りの方がいいわけで…。それにこの傍若無人のお姉様のことだ。何をされるか分かったもんじゃない。この前だって大変だったんだからね? 久寿川さんとタマ姉と愛佳とが何かの理由かはもう忘れたけど、俺を取り合って、雄二をはじめクラス中の人から白い目で見られたんだから…。そう思い起こして丁重にお断りを入れる俺。タマ姉のぷぅ〜っと頬を膨らました顔が印象的だった。
 一応、愛佳の誕生日プレゼントは買っておいた。春色の可愛いワンピースだ。と言っても俺一人じゃこんなものを選べることなんて出来やしないわけで…。このみと郁乃にもついてきてもらったわけだけど、二人して俺の顔を睨んでくるものだからまいった。かと言って俺一人で選ぶとなるとやっぱりお菓子になっちゃうので二人についてきてもらったわけだけど…。
「タカくんも少しは女の子の気持ちを理解して欲しいでありますよ〜っ!!」
「そうよそうよ! やっぱりあんたはお姉ちゃんの気持ち、分かってな〜い!!」
 とユニゾンしながらそう言って俺の顔をギロリ。その後は例の如くととみ屋でカステラを買わされる俺がいるのだった。とほほー…。でも郁乃も友達が出来てよかったね? 心の中でそう言う。まあこのみはああ言う性格だから誰でも仲良くなれるんだけど、郁乃は人見知りが激しいから俺も愛佳も心配だったんだ。でも、今じゃ友達がいっぱいいるので二人でほっと胸を撫で下ろしているところ…。もっともこんなことを本人の前で言おうものなら拗ねて1週間くらいは由真のような目つきで睨まれることは分かっているのでそれは言えない。でもこのみなんかと話をしている姿を見ると、“良かったね? 郁乃…” って思ってしまう。
 で、今俺は、愛佳の秘密な場所…、いわゆる書庫へと向かっている。あそこを守ってもう1年近くなるんだね? 早いものだよなぁ〜。でも生徒会に言われたときには正直危ないって思ったけどね? 久寿川さんが分かる人で本当に良かったよ…。そう思いながら書庫の前に到着。がらがらっといつものように戸を開ける。忙しそうに書庫を駆け回る愛佳の姿が…ってあれ? どこにもいない。鞄とかは置いてあるから着てることは確かなんだけど…。きょろきょろと辺りを見回してみるけどやっぱりいない。どこにいるんだろう…。耳を澄ませると微かだけど、規則正しい息遣いが聞こえてくる。ああ、これはやっぱり…。そう思って奥のほうを覗くと案の定…。


「うううぅ〜、は、恥ずかしいよ〜」
「い、いや、寝息が聞こえて来るものだったから奥の部屋に行ってみたら…。で、でも寝顔がすごく可愛かったから、つい…ね? ご、ごめん! 愛佳。機嫌を悪くしたのならこの通り謝るよ…」
 夕方、あたしは上目遣いに彼の顔を見つめます。そんなあたしに彼はぺこぺこ頭を下げていました。河野貴明くん…、あたしの隣りでぺこぺこ頭を下げているあたしの大好きな彼。…彼と付き合いだしてからもう1年になるんだよね? ふとそんなことを思うとちょっと恥ずかしくなって下を向く。1年前のあの彼氏彼女ごっこはいつの間にか本当の恋へと変わってしまっていました。あたしはこの通り、恋愛に対してはちょっとと言うかかなり奥手で鈍感なので、彼氏なんて出来ないだろうと思ってたんだけど…。やっぱり不思議です。だからいつも彼に聞くことがあるの…。
“どうしてあたしなんかを好きになっちゃったんですか?”
 って…。そしたら彼は恥ずかしそうに頬をぽりぽりかきながら、
“俺にも良く分からないよ…。俺も女の子が苦手だったしね? でもいつもみんなのために頑張ってる愛佳のことは大好きだね? …ってそう言う理由じゃダメかな?”
 って、あの優しい微笑みを浮かべながら言ってくるんですのよ? 毎回そんなことを聞くたびにあたしは頬が真っ赤になっちゃって、向坂くん辺りから羨望の眼差しで見られているんですけど…。でも今日は変なところ、見られちゃったなぁ〜。はぁ〜っとため息…。そう思ってふと貴明くんのほうを見ると…。
「ちょ、ちょっと俺の家に寄ってくれない? 渡したいものがあるからさ…」
 と恥ずかしそうに頬をぽりぽりかきながらそう言う貴明くん。顔を見ると真っ赤になっていました。かく言うあたしのほうも真っ赤になったことはいうまでもありませんけどね? 二人して真っ赤になりながら歩いているなんて他の人から見たらどうなのかなぁ〜。そんなことを思うと何だかおかしくなってきちゃった。うふふって微笑むあたしにちょっとはてな顔になりながら尋ねてくる彼。
「ね、ねえ愛佳? 何か俺面白いこと言った?」
 って…。ううんとあたしは首を横に振るとこう言うんですのよ?
「貴明くんがあたしの彼氏で本当に良かったなぁ〜って…。そう思ってただけだよ?」
 本当にそう思ってるんだよ? 貴明くん…。真っ赤になって照れる彼をにこにこ顔で見るあたし。彼は相当恥ずかしかったんでしょうか…。突然あたしの手を握ると、“も、もうすぐ暗くなっちゃうから急ぐよ! 愛佳” って言って早足になってすたすた…。あたしの顔からぼっと火が出たことは言うまでもありませんでした。そんな今日5月1日はあたしのお誕生日ですのよ?

END

おまけ

「あ、あのさ…、愛佳? 俺はプレゼントしただけだよ? なのに何でこんなご馳走作ってくれるの? しかもそんな格好で?…」
「だ、だってねだってね? 貴明くん、独り暮らしだって貴明くんのお姉さんから聞いたし、それに向坂くんが“貴明はメイド好きだぜ〜”って教えてくれたから〜…」
 た、タマ姉、余計なことを吹き込まないで〜…。って言うか愛佳? 何度も言うようだけど、タマ姉は雄二のお姉さんであって、俺のお姉さんじゃないんだよ? あれから家に来た愛佳は、どう言う訳か俺の料理を作ってくれているわけで…。作ってくれることは非常にありがたいことなんだ。うん。でも、何でうちに食材があんなにあるんだろう。って言うか何故にメイド服なの? まあ犯人は決まってるんだ。傍若無人なあのお姉様とその弟…。でもメイド好きは雄二であって俺じゃないのになぁ〜。はぁ〜っとため息をはきつつ、郁乃はおなかをすかせて待ってるんだろうなぁ〜。姉妹揃って食いしん坊さんなんだし…、って思いながら、かいがいしく俺の料理を作る愛佳を見つめているそんな今日5月1日午後6時半……。その後、例の如くあ〜んってやられちゃう俺がいたんだけどね? はあ〜……。

TRUE END?