仲良しの証


「さ、さんちゃんのアホ〜っ!! もう一生家になんて帰ったらへんもん!!」
「そう言って俺の家に来るのはどうかと思うんだけどさ…。一体何があったの?」
 ぷぅ〜っと頬をカエルのように膨らませて、俺の顔を恨めしそうに睨んでくるお嬢様が一人。普段仲のいい二人だけにちょっと意外だなぁって思う訳で…。
「言いとうない…。言いとうないもん…」
 可愛い双子姫の一人、姫百合瑠璃ちゃんはそう言うとこっちを泣きべそを掻きながら寂しそうに俺の顔を見遣っていた。訳を聞いてもこの調子だ…。まあ、大方珊瑚ちゃんとケンカでもしたんだろけど、あの仲良しの二人に限ってそんなことは考えられるはずもなく…。またイルファさん関係? そう聞くとブンブン首を横に振る瑠璃ちゃん。前にも増して顔を膨らませながら瑠璃ちゃんは言う。
「ウ…、ウチが見たい料理番組見せてくれへんかったんやもん…」
 ぽつりそんなことを言うと、うううっと泣きべそを掻く瑠璃ちゃん。へっ? と一瞬間が抜けたような顔の俺。そ、そんなことで? とは思うものの、“料理だけは誰にも負けへん!!” と自負している瑠璃ちゃんのことだ。自分のアイデンティティーを取られたと思ったんだろうな…。うん。
「とにかく!! さんちゃんとは絶交や!! しばらく貴明ん家に厄介になるからな? えちぃけど…」
「えっ? ええーっ?! そ、それは困るよ…。ちょっと待って!」
 前にるーこを家に連れて来たときのことを思い出して、鼻血が出そうなくらい恥ずかしくなる俺。あの時はいろいろ大変だったからなぁ〜。思い出しただけでも顔が火照ってくる。そのるーこも今ではすっかりここ(地球)の暮らしに慣れてきたみたいで…。まあ俺の家ではご近所の手前いろいろとダメだから今は小牧さんの家に厄介になってるんだけどさ…。
「なあ、この洗濯機どう使うん?」
 どかっと着替えの入った荷物を俺の部屋に置くと肩を揉みならふぅ〜っとため息を吐く瑠璃ちゃん。もう居候する気満々で、あちこちと見て回っては俺に使い方なんかを聞いてくる。はは…、ははは。テコでも動かなそうだぞ? これは…。困った。こんなところをあの凶悪お姉様にでも見つかったらと思うと…。ダメだ。悪寒がしてきた。…と、ともかくもこの危機的な現状を何とかしなくては…。と思いふといい案が浮かぶ。このみだ。このみん家にでも居候してもらって、その隙に珊瑚ちゃんの家に行って詳しい動機でも聞かせてもらおう。うん! 我ながらいい案だ。などとうんうん頷いていると…。
「貴明…。全部聞こえとるで?」
 半眼な目で俺の顔をじ〜っと見遣るお嬢様。由真といつの間にか仲良くなってた瑠璃ちゃんは、由真と同じようなあの目をしてこっちを睨む。癖というのはいつどこでもどんな時でも出るもんだとは言ったもので、治さなきゃとは思うんだけどねぇ。でも今こうして出てしまってる訳で…。はぁ〜っとため息をつくと瑠璃ちゃんの顔を覗き込む。うううううっと俺に今にも襲いかからんばかりな目で睨みつけていた。これじゃ言ってもきかなそうだな。また大きなため息を吐く俺がいるのだった…。


 それから一週間。珊瑚ちゃんを探すものの一向に居所が掴めずじまいだった。で、運がいいのか悪いのか俺の中で一番怖いタマ姉にも伝わって(ってどこでどう伝わったのか分からないんだけど?…)、案の定怒られた。まあ当たり前といっては当たり前なんだけどさ。でもタマ姉、なんだかちょっと羨ましそうだよ? そう言うと?
「う、う、羨ましくなんてないもん!! というか話を摩り替えないの!! 全く…」
 そう言ってぶつぶつ小言を言うタマ姉。土曜日だけど、うちの学校はなぜか普通に授業があるわけで…。なんでも最近の学力低下を阻止するために毎月一回はこうやって土曜日に授業をやるんだってさ。雄二はぶつくさ文句を言ってたけど…。っていうか俺も文句はあるけど…。ちなみに今は昼休み。食事もほうほうの体でタマ姉にしょっ引いて来さされた俺は体育館で正座させられている。あのぉ〜。そろそろ足が限界なんですけど…。と言おうと思ったんだけど俺を見つめるお姉様の目には何も言うことが出来ず…。結局昼休み休憩終了までお説教を食らってしまった。
 下校時刻になる。ちなみに今日6月16日は、双子姫の誕生日だ。さてどうしたものか…。あの後で知ったんだけど、珊瑚ちゃんとイルファさんは、来栖川の人に呼ばれて出かけてしまっているらしかった。って言うことを珊瑚ちゃんの先生から聞いたんだが、今どこにいるのか全く見当がつかない。瑠璃ちゃんに聞いても “ウチ、知らへんも〜ん!” って言って拗ねるに決まってるしさ…。頼みの綱のイルファさんまでいないのがかなり堪えた。方々珊瑚ちゃんを知ってる人に聞いたんだけど一様に、“知らないです” ってな具合で全く分からない。うーん…。サスペンスによくありがちだけど誘拐とか? いつもの面々に聞いてみると、
「バカねぇ。それだったら身代金の電話が掛かってくるはずでしょ? まあいなくなっちゃったのはちょっと怪しいけど…」
「体目的かも知れないぜぇ〜?」
 へへへっと怪しく笑う雄二。で案の定タマ姉の必殺アイアンクローをかまされていた。はぁ〜っとため息を一つ。イルファさんもついてるんだからそれはまずはありえないだろうし、珊瑚ちゃんだってぽわぽわしたところはあってもしっかりしてるところはしっかりしてるんだからまずもって誘拐はありえない。…と思う。
「宇宙人だよ!! タカくん!!」
 とはこのみ。あ、あのな? このみ? 仮に宇宙人がいたとしよう。でも宇宙人があんなぽわぽわした子をさらっていくのか? 前にるーこに聞いたんだが宇宙人にも好みがあって地球に来る宇宙人はこのみのような普通の子がいいんだってさ。るーこの情報によるとだけど…。それに予め銀河同盟って言うところに登録していおいた“うー”じゃないと拉致とかは出来ないそうだ。自称宇宙人、るーこの証言によるとだけど…。噛み砕いて説明すると怖々ながらうんと頷くこのみ。はぁ〜っと今日何度目か分からないため息をはく俺がいるのだった。


 タマ姉と雄二、それからこのみとも別れて一人帰る道。結局珊瑚ちゃんは見つからず…。やっぱり警察にでも相談に行ったほうがいいんだろうか? などと考えている俺に…。
「る〜っ、貴明や〜」
 って言ういつもの間延びしたような声が聞こえた。くるりっと振り返ると、一週間探し求めていた人物が…。
「さ、さ、珊瑚ちゃん!! 今までどこに行ってたの?!」
 我ながらびっくりするほどの大きな声でそう言うと走って珊瑚ちゃんの元へ向かう俺。そんな俺に向かい少々はてな顔になりながら珊瑚ちゃんはこう言う。
「長瀬のおっちゃんにな? 頼まれ物があったからそれやっとってん。瑠璃ちゃんにそう聞かんかったん?」
「瑠璃ちゃんは、珊瑚ちゃんと喧嘩したから泊めてくれって言ってきたけど? でも俺の家じゃ何かと問題があるから今は俺の知ってる同級生の家にいるんだけどね?」
 あやふやながら話が見えてきたぞ…。どうやらケンカしたって言うのは嘘のようだ。本当は誰もいない家が寂しかったんだろうね。でもそれならどうしてついていかなかったの? 珊瑚ちゃんに聞くと……。
「瑠璃ちゃん、長瀬のおっちゃんの顔が怖いみたいやねん。前もな? 一緒に行ったときに瑠璃ちゃん、“長瀬のおっちゃんに会うの嫌やー” 言うて駄々こねとってんで〜? ウチはおもろい顔や思うねんけどなぁ〜?」
 ちなみに長瀬のおっちゃんというのは由真の一族の人であって、由真のじいさんの親と長瀬のおっちゃんって言う人の父親の親が兄弟らしい。珊瑚ちゃんが教えてくれた。って言うかそんな裏事情があったなんてねぇ。ちなみに長瀬のおっちゃんって言う人も由真のじいさんと同じ顔なんだそうだ。まあ、おっちゃんって言うくらいだから、40代後半くらいの人だろうと思う。俺の推計によると? だけど…。
 てくてく歩くこと約五分。草壁さんの家が見えてくる。珊瑚ちゃんはちょっと怒ったような顔になっていた。ピンポーンとチャイムを押し、草壁さんとちょっと話をしていると…。
「優季姉ちゃんどないしたん? なんやぁ〜、アホ貴明かいな……。って!! さ、ささささささんちゃん?!」
「瑠璃ちゃん! ちょっと待ちぃ!!」
 慌てて隠れようとする瑠璃ちゃんに珊瑚ちゃんは言う。いつものぽわぽわした様子もなく普通に怒っている珊瑚ちゃん。こんな珊瑚ちゃんを見たのは生まれて初めてだったから正直驚いた。珊瑚ちゃんに見つかり逃げようとするもののいつになく怒っている珊瑚ちゃんの声にビクッとなる瑠璃ちゃん。
「ダメやろ? 嘘ついて貴明や優季姉ちゃんに迷惑かけて…。今回は100%瑠璃ちゃんが悪いで? ちゃんと謝り……」
「うううっ…。さんちゃん、ごめんなさい」
「ウチやない…。嘘ついて迷惑かけた貴明と、1週間瑠璃ちゃんが迷惑かけとった優季姉ちゃんとにや。それはウチも悪かったけどな? 瑠璃ちゃん独りぼっちにしてもうて…。ごめんな? そやけどそれとこれとは話は別やで? なっ?」
 珊瑚ちゃんに怒られ、声にならない声で泣きながら俺と草壁さんに謝る瑠璃ちゃん。俺と草壁さんはどうしていいのか分からず苦笑いをうかべるだけだった。


「うううううっ、ごめんな? 貴明…」
 帰り道、近くの公園のベンチに俺たちはいた。未だにうるうると目にいっぱいの涙を溜めて、そんなことを言う瑠璃ちゃん。珊瑚ちゃんに叱られたことがよっぽど堪えたみたいだ。落ち込んでるよ…。顔を見ただけで分かるって言うか元々顔に出やすいタイプだからね。瑠璃ちゃんは…。ちなみに珊瑚ちゃんはというと…、“いっちゃんのメンテ、どうやったかおっちゃんに聞かんとあかんねん” とか何とか言って先に帰ってしまっていて今は二人だ。
「まあ、嘘をついたことは悪いことだけどさ。でも瑠璃ちゃんは寂しかったんでしょ? 寂しい時、他の人に頼りたいって言うのは人間の本能なんじゃないかな? 俺だって両親が海外に行っちゃった時は、寂しくてよくラジカセのボリュームを上げてたもんね? だからさ。あの…、なんて言ったらいいのか分からないけど…、寂しい時は素直に寂しいって言えばいいんじゃないかな〜って……」
 そう言ってフォローすると俺は瑠璃ちゃんに向かいにっこり微笑む。それがまた瑠璃ちゃんの涙腺を緩める。“う、う、うわぁぁぁぁぁぁぁ〜ん!!” 大きな声で瑠璃ちゃんは泣いた。可愛い双子姫の誕生日、今日6月16日。雨が止んだ街の公園。夕方7時、日はまだ暮れない。曇り空の隙間から暮れかけの赤い空が顔を覗かせている。そんな中、泣いている双子姫の一人、瑠璃ちゃんの背中を優しく撫でる俺。と? どこからか嫉妬の炎がメラメラ燃えていることに気づいた。ベンチの後方、そ〜っと振り返ると大きな楠の陰からこっちをじ〜っと恨みがましい目つきで見つめる一体のメイドロボ…。ははははは…、あの特徴的な耳のカバーは間違いない。イルファさんだ。っていうことは? その横を見ると、案の定ぽわぽわした表情で、こっちを微笑ましそうに見つめているもう一人の双子姫。
「瑠璃ちゃんと貴明、ええ雰囲気やなぁ〜。なあ、いっちゃん? って、いっちゃん? そんなハンカチ噛み締めてどないしたん?」
「く、悔しいんですっ! 私がいない間、瑠璃様と貴明さんがあんなラブラブな関係になっていたことがっ!! 瑠璃様も瑠璃様ですっ! 私というものがありながら…。くぅ〜っ!!」
 楠の陰、そんな話も聞こえてくる。って言うか丸聞こえなんだけど…。瑠璃ちゃんはと見ると、泣き疲れたのかそのまま眠ってしまっていた。このまま置いてく訳にも行かないので、背中に背負う。とぽよんぽよんした感触が背中に当たって一気に顔が真っ赤になる俺。でもあのイルファさんを前にして言い訳が言えるはずもなく。前に珊瑚ちゃんの実験でイルファさんが学ランを着て学校に来たときのショックが未だに覚めず…。幅長の学ランを見ただけであの時の恐怖をぶるぶる震えだしてしまう俺。イルファさん恐怖症とでも言うのだろうか…。頭で考えるより体が先に動いていた。
「あああっ! ま、ままままま待ちなさ〜い!! 貴明さ〜ん!!」
「る〜っ☆」
 はぁ〜っと深いため息を一つ。逃げる俺。追いかけるイルファさんと珊瑚ちゃん。どこか間抜けな泥棒と間抜けな刑事のアニメや漫画のような感じだ。そのうち足も疲れてくる。瑠璃ちゃんを負ぶっているのもあるけど最近あまり運動とかしてなかったから疲れてダメだ。立ち止まりふぅ〜っと息をついていると…。
「ふっふっふっ。捕まえましたよ〜…。貴明さん。さあ、おうちに帰ってじっくり聞かせてもらいましょうか…。私の瑠璃様になさっていたこと全部…」
 イ、イ、イルファさん? 目がとってもl怖いし、掴んだ腕が引き千切れるように痛いんですけど…。と言おうと思ったんだけど、イルファさんの俺の見る目があまりに怖いので(ってそんなことを言ったら本当に引き千切られそうなので…)、それは言わないことにする。珊瑚ちゃんも追いついて…。
「貴明と瑠璃ちゃん、ラブラブやぁ〜。よかったな? いっちゃん」
「全然よくありませんよぅ〜!! 珊瑚さまぁ〜」
 ぷぅ〜っと膨れっ面のイルファさん。そんなことを言うと俺の顔を上目遣いで恨めしそうに睨んでいる。っていうかあれはもう泣きべそ顔だった。さっきからぽよんぽよんした感触にたまらくなっていた俺はイルファさんに交代してもらう。と、立ちどころに機嫌がよくなるイルファさん。そんなイルファさんが本当の人間のように思えてしまった。
「さあ、帰りましょうねぇ〜。瑠璃様。うふふっ」
 そう言って瑠璃ちゃんを背中に負ぶって嬉しそうにスキップも出そうな勢いで帰るイルファさん。その後ろを歩く俺と珊瑚ちゃん。珊瑚ちゃんが夕日に照らされた俺の顔を見ながら言う。
「貴明、いっつもあんがと〜。貴明がおらんかったら、こんな毎日おもろくなかったやろからな…。ほんま感謝してる…」
「俺のほうこそ珊瑚ちゃんや瑠璃ちゃん、それにイルファさんと出会って毎日とっても充実してるよ…。まあ最も今じゃ充実しきって逆に疲れてるって言うのが事実なんだけどね? でも毎日が楽しいって感じてるのは本当だよ? だからさ…、ありがとう」
 俺はそう言うとにっこり微笑んだ。珊瑚ちゃんもにっこり微笑む。前では目を覚ましたのか瑠璃ちゃんがイルファさんに、“イ、イルファ? 何であんたがおるん? っておんぶ? ……い、い、嫌や〜。降ろして〜な〜っ!! 恥ずかしい…” って言いながら暴れてる。だけどイルファさんは、“ダメですっ! 私がいない間に貴明さんといちゃいちゃしてた罰ですっ!! 家に帰り着くこうさせて頂きます!! だいたい瑠璃様がいけないんですよ? 私というものがありながら…。ぶつぶつ……” と言って瑠璃ちゃんが落ちないようにしっかりと抱きしめながら後ろ目に俺の顔を頬を膨らませながらギロリと睨んでいた。イルファさんの “瑠璃ちゃん愛” がますます上がったような感じがするのは俺の気のせいだろうか…。瑠璃ちゃんは “見とらんで助けて〜な〜っ!!” と言う風な目で俺たちを見てるんだけど…。あのイルファさんの目には敵わず。ごめんね? 瑠璃ちゃん…。心の中で謝ると、はぁ〜っと俺は今日一番のため息をついた。横を見れば珊瑚ちゃんがいつものぽわぽわした顔で微笑んでいる。俺は珊瑚ちゃんの顔を見つつ苦笑いをうかべた。


 珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんとイルファさん。仲良しの秘密は俺には分からない。でも、ひょっとしたらこの雰囲気こそが仲良しの証なんじゃないのかなっ? 心の中で思った。可愛い双子姫の誕生日、今日6月16日。雨の止んだ夕暮れの空には一番星が輝いていた。

END