いくのん、誕生日に照れる
今日3月3日は雛祭りじゃなくて、耳の日でもなくて…。あたしの誕生日だ。だからじゃないけど、そわそわしている。なぜって? そ、そりゃあ…、お姉ちゃんとあいつがこそこそ話してるの聞いちゃってるし…。あいつの名前は河野貴明。でもあたしはあいつって呼んでる。お姉ちゃんにはよく注意されてるけどさ…。ちなみにあいつはお姉ちゃんの彼氏なわけで…。まああんな奥手のお姉ちゃんに彼氏が出来たなぁ〜なんて思っちゃうんだけど、あいつもあれでいてなかなかの奥手らしい。いわばお似合いのカップルと言うわけだ。あたしはと言うとこれといって好きな男の子がいる訳でもなく、ごくごく平凡な毎日を送っている。
車椅子生活はもうとっくの昔に卒業して、今は杖を突き突き学校へと通っているあたし。お姉ちゃんはまだ心配そうに見てるけど、お姉ちゃんは過保護だからと、いつも突っぱねている。そんなあたしにこの姉は…。
「郁乃ってば優しいね?」
とこうだ…。こっちが恥ずかしいんだって…。全く…。で今日3月3日。今日はあたしの誕生日。あたしの両親は共働きの上、帰って来る時間が遅い。便宜上この姉があたしの保護者と言う訳だ。でもこの姉があたしの保護者なんてね? いつもそわそわして落ち着きがないし、今だっていつにもましてそわそわしてる。“何でそんなにそわそわしてるの?” そう聞くと…。
「だって…、今日は郁乃の誕生日じゃない? だからね? 誕生日パーティーでもしようかなって…。えへへっ」
「はあっ? 勝手に決めないでくれる? こっちにだって都合って言うものがあるんだから…」
うそ…。本当は都合なんてない。行って帰る、それだけだ。ただこの姉に言われるとどうしても口答えしたくなるって言うか、困った顔が見たくなるって言うか……。心とは反対な行動が出てきてしまうわけで…。自分でも悪いとは思ってるんだ。でもね? やっぱり面と向かっては言えない性分なのかあたしはいつもタメ口を言ってるわけで…。はぁ〜っとため息を吐きつついつものように泣きべそをかいてる姉を宥めているあたしがいるのだった。
で、夕方…。今だ。大きなデコレーションケーキには、あたしの名前と“お誕生日おめでとう” と言うチョコレートで書かれた文字。その前にはあたしの大好きなお姉ちゃんとその彼氏がにこにこ笑顔であたしの顔を見つめている。恥ずかしいからこんなことはしないでって毎年言ってるのにも関わらず、誕生日には必ずと言っていいほどこんなことをしてくる姉…。今年は彼氏もついてだから恥ずかしさも2倍だ。頬が熱い。多分真っ赤に染まってるんだと思う…。ちらっと前を見るとにこにこ顔を更ににこにこ顔にしてお姉ちゃんとあいつは微笑ましそうにあたしのほうを見つめていた。……はぁ〜、もう仕方ないなぁ〜。まあ付き合ってあげるとしますかね? そう思ってふぅ〜っと17本のろうそくを消した。
いつもお姉ちゃんを困らせているあたし。でも、心の中では大好きだよ? そう小さく呟く…。ついでにあいつもね? そう思うと大きなクマのぬいぐるみを抱っこする。ちなみにこのクマのぬいぐるみは、何年も前に両親と姉に買ってもらった物……。そして、今日貰ったプレゼントは机の引き出しの中。大切に保管しておく。そしてお姉ちゃんとあいつが結婚する時に身につけていくんだ…。ありがとうの意味も込めてね?
END