ゲームで勝負!!


 今日8月31日はあたしの誕生日。だから、あいつに“デートでもしない?” と誘われた。だからこうして待ってるんだけど…。なかなか現れない。ほ、ほんとは嫌だったのよ? ただあいつが必死で頼み込むから仕方なく来てあげてるんだから…。でも、心のどこかではちょっと嬉しかったりもするんだけどさ…。夏休み最後の日と言うこともあって駅前はかなり混雑してる。これじゃあいつも見つけにくいだろうな? そう思って場所を変えた。人の往来の激しいコンコースの前に移動する。ここならあの鈍感でおバカなあいつにでも見つけられるだろう…。そう思っていると案の定…。
「由真〜。遅れてごめ〜ん!!」
 と言う声。ぐぐぐっといつもの睨みで見つめてやる。あいつはいかにも怖そうにぶるぶる震えながらこう言うの。
「あ、あの…、由真? そ、そそそ…、その…、怒ってる?」
「あったりまえでしょっ?! あたしはもう30分前に来てたんだからねっ?! だいたいあんたは来るのが遅〜い!!」
 こう言うあたし。でも実はウソ。本当は10分も待ってない。でも、こうでも言っておかなきゃこいつは埒が明かない。こいつの周りはライバルがたくさんいるし…。って。あ、あたしは別に好きなんじゃないんだからね? だいたいこんなヤツあたしには不釣合いって言うか何ていうか…。そ、それに今日だってあたしが誘ったわけじゃないんだから…。朝はちょっとドキドキしてたけど…。
「ゆ、由真? どうかしたの? 顔が赤いけど…」
「だぁ〜っ!! うるさいうるさいうるさ〜い!! さっさと行くわよ?! 貴明!」
 そう言うとあたしはのしのしと歩き出す。“ちょ、ちょっと待ってよ、由真〜” 情けない声とともに後からついて来る貴明。何分か歩いただろう。目的地の映画館まではまだ遠い。ちょっぴり可哀想だったかな? そう思ったあたしは、貴明の腕に体を寄せる。途端にびっくりしたような顔になる貴明。その顔が妙に面白くて、もっともっとくっつけてやった。
「ゆ、ゆゆゆ、由真? こ、ここここれはどういう風の吹き回し? む、むむむ胸が当たってるんですけど…」
 へっ? と思い貴明の腕を見ると、自分の胸がしっかり貴明の腕に食い込んでた。慌ててひっぺ返すといつものように唇をぷるぷる言わせて睨み付けるあたし。貴明は“べ、別に俺がやったわけじゃないでしょ?” って言ってるけど、こう言う甘々な雰囲気を作ってしまうあんたが悪いんじゃない…、と心の中で言った。
 そうこうしてるうちに目的地に到着。早速チケットを買いにいく貴明を遠くに見つめている。いつも会えば挑戦状を叩きつけてた時とは違うな…。何だかあの頃が懐かしい。そう思い今度は空を見つめる。空は変わったのかしら…。あたしたちが見るこの大空は…。ちょっとアンニュイな気持ちになってきちゃった…。それもこれも全部あいつのせいだわ。あたしの大好きな貴明。あいつにあたしの心は狂わされちゃったのよ…。って、だ、ダメダメ!! またあいつの術中にハマるとこだわ。首をぶんぶん横に振っているところへちょうどあいつが戻ってくる。ぱっと顔を見るといつもの優しい顔であたしのほうを見つめてる。
「ど、どうしたの? 由真。そんな首をぶんぶん振ってさ…」
「な、何でもないわよ…。それよりチケット取れたの?」
 “うん、一応ね?” と言ってチケットを見せる貴明。早速映画館の方へ…。って、映画館の必需品を買ってないじゃないのっ! もう…、これだから…。はぁ〜っとため息をつくと、“ちょっと待ってなさいよ! 一人で勝手に入ったりしたらただじゃおかないんだから!!” とあいつの顔をぐぐぐっと睨んで定番のポップコーン売り場へと向かう。と、ジュースは…。これかな? かこんっ! と自販機の音がしてジュースを2つ取り出す。てくてく歩いて貴明の元へ向かうとあいつはぼ〜っと待っていた。
「さあ、必需品も買ったし、入るわよ!」
「う、うん」
 そう言って何気なく時計を見た貴明はギョッ! とした顔になった。あたしも時計を見る。うん? チケットブースの開演時間を見る。げっ! 30分もオーバーしてるじゃない!! あの作品は前から見たいと思ってた作品なのに…。くぅ〜っ!! “それもこれもあんたが遅れてくるのが悪いんだからっ!” とは言いたいけど、実はあたしも遅れてきてたんだし、それに開演時間を間違えたのはあたしだし…。ぐぐぐ、何も反論できないのが悔しい…。けど仕方ないか…。これはあたしのミスなんだから。でもなぁ〜。見たかったなぁ〜。映画…。長編ラブロマンス物で、とても悲しくも美しい物語なんだって…。愛佳から聞いたし、テレビのダイジェストを見ても思わずうっと来ちゃう作品なんだから。最近のニュースの話題はそればっかりだ。まあ一年もしたらテレビで放映されるかもしれないし…。それまで待つかな? そう思った。
「どうする? 由真…。次の開演時間まで待つの?」
「もういいわよ。そこでポップコーンでも食べて、それから散歩でもしながら帰りましょ…」
 そう言って、ベンチを指差すあたし。大きな木の下にあるベンチは木の陰で涼しい。貴明のほうを見ると何事か考え中みたい。こうやって見ると貴明って意外とかっこいい。愛佳も“河野くん河野くん”言うわけだ。そう思いつつぼ〜っと見とれてたあたし。と突然貴明がこう言う。
「ねえ、由真。映画もお釈迦になっちゃったし…、お詫びと言っては何なんだけど散歩ついでにゲームセンターに行かない?」
 って…。一瞬ハトが豆鉄砲を食らったようになるあたし。貴明の顔を見ると、何か嬉しそうに笑ってる。“な、何よ? 何をそんなに笑ってるの?” って言ってもにこにこ微笑んでるだけだ。こいつはごく稀に突拍子もないことをするから困るんだけど…。まあそれはごく稀であって普段は女の子に弱い情けない男なんだけどね? でも…、今の台詞は…。どうなんだろ? と考えてると貴明が心配そうにあたしの顔を覗き込んでこう言ったの…。
「由真? どうかしたのか? さっきから黙り込んでるけど…」
「な、何でもないわよっ!! バカみたいなこと考えちゃったわ。全く…。さあ、今日こそは勝たせてもらうんだからね?」
 そう言ってバッと立ち上がるあたし。ゲームセンターか…。ふふふっ。こいつにしてみればなかなかいいところじゃない。あたしも何だか行ってみたかったのよね。ゲームセンターは映画館から5分ほどの距離にある。だからちょうどお昼だったし、お昼を摂ってから向かうことにする。駅前の立ち食い蕎麦屋で軽く一杯すませる。あっ、お代は割り勘でいこうってあたしは言ったんだけど、貴明が“お昼くらいは俺に奢らせてよ…” って言うもんだから奢ってもらっちゃった。えへっ。


 で、ゲームセンターへ到着。この日のためにどれだけ練習したことか…。ふっふっふっ。今日こそ勝たせてもらうわ!! と勢いよく中へ入る。ちょうど格闘ゲームが空いていた。“あれにする!!” と言って、あたしは勢いよくそのゲームの筐体に座る。貴明はと見るとあたしの前にもう座っていた。チヤリーンとコインを投入。
「前みたくズルして負けたりなんかしたら、別れちゃうんだからね?」
「ああ、分かってるよ。もうそんなことはしない。やるからには全力でやってやる!」
 そう言いあう。戦いが始まった。ちなみにこのゲームは少し前にアニメでやっていたキャラクターを使ったゲームであたしもちょっとお気に入りだ。そう言えばこいつも見てるって言ってたっけ。キンキンキン! と剣戟の音。なかなかやるわね? でも! これならどうかしら? 空中に舞うあたしのキャラクター。ここから一気に、回転キーック!! ちっ、バリアーか…。
「バリアーなんて男らしくない!!」
「無茶言うな!!」
 言い争う。って! 今度はこっちがピンチじゃない!! 体力ゲージがだんだん危なくなってきた。ここはバリアー!!
「そっちこそバリアー使ってるじゃないかっ!!」
「いいじゃないのよ!! お互い様でしょ?!」
 戦いは続く。体力ゲージはあと僅かしか残ってない。それはあいつも同じだけど。もう一撃喰らったら終わりね。最後の一撃か…。ふふっ、面白いじゃない。そう思い間合いを詰める。あいつも同じことを考えていたんだろう。間合いを詰めてきた。拳が届くところでお互いストップする。さてここからどうするか…。あいつのキャラは接近戦は確か苦手なはず…。ふふっ、ふふふふふっ。河野貴明敗れたり! あたしのキャラ接近戦用だからこれでチェックメイトね? そう思って最後の一撃を喰らわせようとした瞬間…。
「と、飛んだぁ〜っ?!」
 あたしのキャラを飛び越えて、背後に立つあいつのキャラ。そして、金色の手刀があたしのキャラの背後を襲った。…負けた。あたしのキャラの特性を読んでの見事な攻撃。あいつの方をちらりと見ると、Vサインを作ってニコニコ笑ってた。その顔を見て、無性に腹が立ったあたしは…。
「きょ、今日はちょっと調子が悪かったのよ。いつもだったらあんたなんか簡単にやっつけちゃうの!」
 と負け惜しみを言う。“本当に〜?” といかにもな顔で言う貴明。“ふ、ふんっ! ほ、本当よ! じゃあ次はあれで勝負しましょ?” と別のゲームの筐体を指差すあたし。死闘は続いた……。


「結局みんな勝てなかった…」
「でもいい線行ってると思うよ。俺は…」
「うっさい! 全部後一歩と言うところまで追い詰められて、あたしがヘマして奇跡的に勝ったあんたに言われたくないわっ! くぅ〜」
 夕方、ゲームセンターから出てくる。結果は見ての通りの惨敗。何で? と思えるほど、貴明は追い詰められると強くなる。あたしはと言うとその逆だ。最後の一手で甘さが出てしまって負け…。いつものことなんだけど、何でかなぁ〜って思っちゃう。“でも、あんたといると毎日が楽しいよ。貴明…” とは声を出しては言えないけど、そう思う。
「見てなさい! 河野貴明! 今度こそギッタギタにしてあげるんだから!!」
 そう言っていつもの如く、唇をぷるぷる言わせて睨み付けるあたし。でも心の中でこうも呟くの。“今日はありがとう” って…。夏の終わりと秋の始まりを告げるセミとコオロギの声がそこかしこから聞こえる今日8月31日。逃げるあいつの背中を追いかけるあたしのお誕生日だったんだよ? えへへっ…。

END