イルファさんのちょっとした憂鬱


 今日11月26日は私ことイルファがロールアウトされた日、つまりはお誕生日と言うことになります。同型機であるミルファちゃんとシルファちゃんは私より1週間ほど遅れてしまったのですが、それはミルファちゃんとシルファちゃんのわがままのせいだと思うのです。ミルファちゃんは何でも私よりバストを3センチ高くしろ〜っとかわがまま放題言ってましたし、シルファちゃんはシルファちゃんで、“シルファはこのままでいいのれすっ!!” とか何とか言ってぬいぐるみのお家から引き篭もって出て来ようとしませんでしたから…。
 でも貴明さんも大変ですよね? といつものようにいがみ合うミルファちゃんとシルファちゃんを見ながらそう思ってやみません。ミルファちゃんは貴明さん専属のメイドロボになるって言って聞きませんでしたし、シルファちゃんは引き篭もり状態を治そうと私が貴明さんに無理を言ってお願いしたのです。ケンカの火種を起こすのは7割方ミルファちゃんだと言うことらしいですが、私は直接見ていませんから何とも言いようがありません。だけど1つだけ言えることは、その中心にはいつも貴明さんがいるって言うことです。ミルファちゃんはともかくとして、シルファちゃんの対人恐怖症が少しずつではあるものの改善されていると言うことは“姉”にとってはとても嬉しいことです。
 メイドロボにも個性をというコンセプトのもとで考えられて造られた私たち。ダイナミック・インテリジェンス・アーキテクチャと言う珊瑚様独自の理論で、個性を持たせてより人間らしくと言うコンセプトの下で開発されました。でもあまりに個性的過ぎるのではないかと思うのです。私はともかくとして…。とこんなことをミルファちゃんに言おうものなら、
「じゃあそう言うお姉ちゃんはどうなのよぅ〜。瑠璃ちゃんにくっついて離れないじゃない〜」
 と頬をぷぅ〜っと膨らませて言ってくる始末です。“わ、私のことはいいんですっ!!” と言ってやろうかとも思いましたが、そうするとシルファちゃんにも伝わって2人でぷぅ〜っと頬を膨らませて半眼で睨まれて、そうしてゆくゆくは私の愛する瑠璃様の耳にも入って大変なことになるかもしれないのでここはぐっと堪えることにしました。勝ち誇ったミルファちゃんの顔が無性に悔しかったのですが…。
 それにしても、瑠璃様です!! 最近何だか素っ気ないんです。いつもだったら何かしら御用を言って下されるのに、最近は全然言って下されません。珊瑚様に相談してみても、“心配せんでもええよ? いっちゃん” といつものほんわかした顔で言われてしまいました。それに何だか貴明さんにまで敬遠されているみたいです。この間、貴明さんと最愛の瑠璃様とがいちゃついているのを見かけて、心底腹が立って“イルファパ〜ンチ” ってやってしまったのが原因なのでしょうかと考えて…。でも、その後ミルファちゃんとシルファちゃんにこってり絞られて大変だったんですからね? ぷぅ〜っと頬を膨らませて半眼で睨んでくる2人を見て、“貴明さんが瑠璃様のところに来る理由が分かりました” って思わず“瑠璃様といちゃいちゃ事件No.42” を忘れちゃうくらい怖かったんですから…。
 ふぅ〜っと一つ大きなため息をつきつつ今日のお夕飯を買い終わって公園のベンチで黄昏る私。思うことは最近のことばかり。何か私が悪いことをしたのでしょうか? と考えてみても思い当たる節はないし…。こうなればどこがいけなかったのかを直接瑠璃様たちに聞いてみよう。そう思い立ち上がってマンションのほうへ帰ろうとしますが、どうしてもあのことを考えてしまい足取りが重くなってしまいます。マンションが見えてくる頃には夕暮れはとっくに過ぎて夜の帳が下りてくる時間でした。はぁ〜っと深いため息を一つ吐き、扉を一息に開けます。すると…。


「珊瑚様〜、瑠璃様〜。うううっ、えぐっ、えぐえぐっ…」
 珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんが泣いているイルファさんの頭を優しく撫でている。今日はイルファさんの誕生日だって2週間ぐらい前に珊瑚ちゃんから聞いて、ただ祝ったところで面白くないと思った俺は、ドッキリ企画を思いついたわけで…。ミルファちゃん…じゃなかった、はるみちゃんとシルファちゃんにもお願いして2週間ほど、イルファさんにツンツンしてみたんだ…。イルファさんなら分かるかな〜って思ってたんだけど、この通り…。後で俺がこの仕掛けの張本人だってバレたら間違いなく“イルファパンチ”の餌食だろうな…。一応プレゼントは用意してある。と言ってもはるみちゃんとシルファちゃんに日曜日の朝早くに無理矢理起こされて、プレゼントを買いに付き合わされたって言うのが現状なところなんだけど…。途中雄二に会って“た、助けてくれ〜” って言う俺に向かい、睨みつけるような顔で“この恋愛ブルジョアジー!! いつか革命が起こるからなっ!!” と皮肉たっぷりに言われてしまった。革命ならもう起こってると思うんだけどな…。うん。現に毎日が戦争状態な我が家に限っては…。今朝も大変だったんだから…。と恨めしそうに見遣る雄二に心の中でそう言う俺がいるのだった。
 と買い物のほうもこれまた大変だった。俺の腕に自分の胸を密着させるようにしながら歩くはるみちゃんに対し、ふんっと膨れたような顔をしてわざと俺たちの前を歩くシルファちゃん。ぽよんとした感触が歩くたびに俺の顔を紅潮させることは言うまでもない事実。と、シルファちゃんがこっちを見る。明らかに非難の目だったことは言うまでもない。どんなのがいいのか一応二人に聞いたんだけど、まるっきり正反対の意見だった。と言うかシルファちゃん…。ウェディングドレスはどうかと思うんだけど…。“あれがいいのれすっ!! ご主人様” と言うシルファちゃんに言うと…。
「イルイルはルリルリと結婚したいって言ってたのれすっ! れすからあれを贈れば喜ぶことは間違いないのれすっ!」
 いや、喜ぶのは間違いないと思うよ? でも現実問題あんなもの高くて買えないし…。倫理上の問題にもなるでしょ? と却下してはるみちゃんのほうを見てみると…。はぁ〜っとこれまた深いため息をつく羽目になってしまった。
「ダーリンダーリン!! これなんかお姉ちゃんに良さそうだよ〜?」
 そりゃあね? ミンクの毛皮のコートを着たイルファさんはとても魅力的だとは思う。思うんだけど…。それって自分のお小遣いで買えるの? 絶対無理でしょ? と言うと恨めしそうにこっちを睨むはるみちゃんとシルファちゃん。“じゃあどんなのがいいの’(れすか?・よ〜っ?)” と言う二人のその顔がやっぱり似てるよなぁ〜っと思ったのは俺だけの秘密だ。で、肝心のプレゼントのほうはと言うと、俺が選んだ普通のブラウスにスカートと言う具合になった。二人とも未練たらたらで自分の選んだプレゼントのほうを見ては俺の顔をぷぅ〜っと頬を膨らませて見てたけど…。余談だけどその日の夕食は非常に味気ないものだったことを付け加えておこう…。
 で、今だ。感極まったように泣きじゃくるイルファさんを宥める珊瑚ちゃんや瑠璃ちゃんや俺たち。正直ここまで泣かれるとは思ってもみなかった。察しのいいイルファさんのことだからすぐに分かるだろうと思っていたらこの通り…。未だにぐしゅぐしゅ鼻を鳴らしているイルファさんが何だか普通のどこにでもいる女の人のように思えた今日11月26日。瑠璃ちゃん専属メイドロボ・イルファさんの誕生日だ…。

END

おまけ

「お姉ちゃん嬉しそうだったね〜。ねーっ、ダーリン。うふふっ」
「う、うん。そうだね? それより何でそんな期待を膨らませた目で俺の顔を見つめているの?」
 パーティーの帰りしな、はるみちゃんはそう言うと俺の顔を期待を込めた目で見つめていた。右前方のシルファちゃんも同じような顔だ。でも俺には何のことだかさっぱり分からなくて、はてな顔になってしまう。と、シルファちゃんがぎぎぎぎっとこっちに振り向く。振り向いたときの顔は、今まで何やらかやらと怒られてきた俺の範疇を超えるほどに怖かった。しかも半分泣き顔だから余計に怖い。とシルファちゃんが泣きべそをかきかきこう言う。
「らめらめご主人様らとは思ってましたけどここまでらめらめらったなんて…。いいれすか! ご主人様!! 来週の今日はシルファのお誕生日なのれすよ? それなのにこのらめらめご主人様ときたら〜っ!! うううううう〜っ!! あっ、ついでをいうと一日前がそこのぱーぷーメイロロボのお誕生日なのれす」
「ぱーぷーメイドロボって何よ〜? ぱーぷーメイドロボって! ふーんだ。未だに夜一人でおトイレにも行けないお子ちゃまメイドロボに言われたくないわね〜。ダーリンだってそう思ってるよね〜? ね〜。ダーリン」
 そう言いながら腕を極めるのはやめてくれない? 血が通わなくなるって言うか、現にもう通わなくなっているのか冷たい感じがするんだけど…。でもそうか。二人の誕生日ってちょうどイルファさんの1週間後くらいなんだよね? どおりで最近にこにこしてたわけだよ…。と思ってある恐怖が俺の頭を掠める。そう、ミステリ研会長様・笹森さん。かの怪しい実験に借り出されている俺にとって彼女の存在は忘れることなんて出来るわけがない。死ぬ思いをしたことも数十回。実際死にかけたことも数回ある。そんな笹森さんの誕生日なんだ。今年は一日か二日ずらそう? なんて言うと何をされるか…。現に“12月1日、楽しみに待ってるんよ〜” とか何とか言って五寸釘と藁人形を持って怪しく笑っていたりするし…。かと言ってこの二人を敵に回すと内外から非難決議を出されて(特に雄二辺りから)、一気に孤立してしまうことは必至だし。さてどうするかなぁ〜…。と思いつつ家へと向かう今日11月26日。この二人のメイドロボのお姉さんで瑠璃ちゃん専属メイドロボ・HMX−17aことイルファさんの誕生日だ。

TRUE END?