秋の夕暮れ時、優季とのお茶会の帰りに俺は、ふとあの春の日の夜の優季がつけていた日記の話を思い出した。
あれは優季の思いだったんだろうか? あのルクレツィア姫のように外へ出てみたかったのだろうか? 半年以上も昔のことだけど、今度聞いてみようかな?…。そう思いながら夕暮れの学校を背に、俺は家に帰った。
今宵、夜とぎを申しつけます!
次の日の午後。その日は雄二は親戚の寄り合いがあるとか言って休みだった。優季も家族の法事のために2、3日家を開けるって昨日の紅茶の時間に言っていたことを思い出す。優季の座っている椅子を見る。見ていて、ふと俺の知ってる女の子たちが、あのルクレツィア姫のように“夜とぎを申しつけます!”って言ってきたら俺はどうするんだろうか…。
そんなくだらないことを考えながらぼ〜っと黒板を見つめていた。ちなみに今は6時限目、2年生は合同自由学習という授業を行っている。早い話が“2年生全員での自習”というわけだ。前の黒板には大きく“自習”と書かれてあった。
このみだったらなんて言うんだろう…。そうだなぁ〜…、このみだったら……。
−CASEその1、このみの場合−
「今宵、夜とぎを申しつけるでありますよ! タカくん!!」
このみが一言そう言った。えへ〜っと微笑みながら俺の顔を嬉しそうに見ている。このみのやつ……、夜とぎの意味を知らないんじゃないのか? ああ、やっぱりあの顔は間違いなく知らない顔らしいなぁ…。無邪気そうに俺の顔をニコニコと見つめてるし…。ってだいたい“夜とぎ”って言う言葉はどこから聞いたんだ? お、おばさんからか? そう聞くと……、何も言わずこくんと頷くこのみ。やっぱりおばさんか…。
不敵に微笑むおばさんの顔を思い出しながら、対応策をあれやこれやと考えていると……、
「タカくん、もうこのみとは寝てくれないの? うううっ…」
目をうるうるさせながらこのみが俺の顔を上目遣いで見つめていた。そ、そんな顔をされても……。とは思うが泣く一歩手前のこのみにはそんなことは言えず……。結局…。
「えへ〜。やっぱり気持ちいいでありますよ〜」
と、嬉しそうなこのみの声。やがて、“すぅ〜、すぅ〜”と気持ちのいい寝息が聞こえてくる。俺も静かに目を閉じる。このみの寝巻き越しの温もりを繋いだ手に感じながら……。
まあ、このみだったらこう言って甘えてくるに違いないな…。うん……。で言うことを聞いてしまう俺も俺なんだけどね?……。でも、これがもしタマ姉だったら? たらりと冷や汗を掻きつつ考えてみた。
−CASEその2、タマ姉の場合−
「今宵、夜とぎを申しつけるわ! タカ坊!!」
げっ! た、タマ姉? お、俺ピ〜ンチ!! って何がピンチかよくは分からないんだけど、とにかくピンチなんだっ!! この傍若無人、唯我独尊のお姉様はっ!! 考えてもみてくれ…。夜とぎ…、タマ姉が猫のように飛び掛る…、食べられる俺…、こうなるに決まってるんだっ! って俺はネズミか? そんなくだらないことを考えていた俺に…、
「なによ? タカ坊…。このみとは寝れてもこの私とは寝れないって言うの?」
そう言うとむぅ〜っと不機嫌そうな顔になるタマ姉。このみのやつ、前に俺と寝た時のことをタマ姉に言ったなぁ? だいたいあれはこのみが勝手に潜り込んで…。と言おうと、タマ姉のほうを見てみると、恨めしそうな目をしながらこっちを見てるし!! その顔にしどろもどろになる俺…。
「何でよーっ!! どうして私とは寝てくれないのよー!! …うっ、うっ、うわぁぁぁぁぁぁ〜ん。タカ坊のばかぁ〜!」
何も泣かんでもよかろうに…。とは思ったが涙をふきふき寂しげに俺を見つめてくる、可愛いお姉様には結局逆らえず…。ううっ…。
「ぐすっ、や、やっぱりこの抱き心地〜。最高〜。うう〜ん。えへへっ。ぐすっ…」
ぐえっ!! い、息が出来ない…。俺は結局抱き枕状態でタマ姉の“夜とぎ”に付き合わされてしまった。翌朝目が覚めると、体中が痛くて動かせなかった。うううっ…。
傍若無人でやきもち焼きで妙に子供っぽいタマ姉のことだ。絶対こう言ってくるに決まってる。タマ姉のぷぅ〜っと膨れた顔を思い出してふふふっと心の中で微笑みながら次を考えてみた。次は…。花梨か…。
−CASEその3、笹森会長の場合−
「今宵、夜とぎを申しつけるんよ! たかちゃん!!」
か、花梨? 女の子が苦手な俺にとっては花梨は苦手中の苦手だ。こいつに付き合うようになってからいいことなんて一つもない。逆に悪いことのほうが多いんじゃないのか? …が、一応は女の子なんだよな。花梨って…。そう考えていると……。
「たかちゃん!! 前にも言ったけど、花梨は普通の女の子なんよ? 分かってるの? ねえっ!!」
じぃ〜っ…と恨めしそうに俺を見つめてくる花梨。身勝手というか傍若無人というか…。あのお姉様と同じような気がする……。って、何? その手に持ってるものは? 不思議そうに俺がそう聞くと…。
「ふっふっふっ…。たかちゃん。この笹森会長をなめてもらっちゃ困るんよ…。一緒に寝てくれなきゃこれで呪っちゃうかんね? 死んじゃっても知らないんよ〜…。あたしは…」
そう言うと花梨はどーんと自分で効果音を出しながら手に持ってたものを見せる。って! わ、藁人形? しかもご丁寧に俺の顔の写真まで貼ってあって、む、む、胸のところに五寸釘が刺さってあるじゃないかぁ〜っ!! …普通の女の子だったら、そんな藁人形とは持ってない気がするんですけど…。と、花梨は不気味に微笑みながら…。
「文句は?」
…ございません。ご満悦な花梨の顔。その顔を見ながら俺は、悪魔だ…。正真正銘の悪魔だ…。心の中でそう思うのだった…。その夜は案の定気持ちよさそうに俺の横で寝る花梨の姿があった。とほほ……。
花梨だったら本当にやりそうな気がする…。ぶるぶるぶる……。じょ、冗談じゃないぞぉ〜。心の中で、くわばらくわばら……、と雷よけのおまじない? を唱える俺。って! 花梨は雷様じゃないんだから…。と一人ボケツッコミをして次を考えてみる。次は……、珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃんか…。
−CASEその4、珊瑚&瑠璃・双子姫の場合−
「今宵、夜とぎを申しつけるで〜!! 貴明〜☆」
珊瑚ちゃんがそう言って俺の手をぎゅっと掴む。って! 後ろから強烈な視線が…。そ〜っと後ろを振り返る俺。当然と言うか案の定と言うか、そこには瑠璃ちゃんが…、“貴明ぃ〜。さんちゃんにくっつくなぁ〜。殺すぅ〜っ!!”ってな目をして睨んでるじゃないかぁ〜!! って、そもそも珊瑚ちゃんは夜とぎって言う言葉の意味、分かってるの? 俺がそう聞くと…。
「ウチ、知ってるで〜。夜とぎ〜。男の人が女の人とスキスキスキ〜って寝ることや〜。いっちゃんも前に瑠璃ちゃんにやっとったで〜?…。なあ。瑠璃ちゃん♪」
知ってたんですね…。言葉の意味を…。珊瑚様…。うううっ…。にっこり微笑みながら言う珊瑚ちゃん。…って! イルファさんがっ?! 瑠璃ちゃんに? そう聞くとにこにこ顔であれやこれや話す珊瑚ちゃん…。…って、さ、珊瑚ちゃん? 後ろから強烈に怖い波動を感じるんだけど…。そんな俺に珊瑚ちゃんがあっけらかんとした顔でこう言った。
「瑠璃ちゃんもいっちゃんも、貴明スキスキスキ〜っやから大丈夫や〜☆ なっ? 瑠璃ちゃん」
「う〜っ。さんちゃん、いじめっ子や〜! そ、それもこれも……、全部アホ貴明のせいや〜っ!!」
そう言ったものの珊瑚ちゃんの微笑みには勝てず、俺の手をぐいっと引っ掴んで歩き出す瑠璃ちゃん……。って俺の意思は? 俺の意思はどうなったんだ〜っ? ぐいぐいと両腕を引っ張られる中、俺はそう思った。
で、結局……。恨めしそうに俺を見つめるイルファさんをよそに、川の字になって寝ることになったのは言うまでもない…。とほほほほ……。
瑠璃ちゃんは、まあそんなとこだろうな……。珊瑚ちゃんもいつも通りだろう。って! 俺にはイルファさんがちょっとと言うか、かな〜り怖い気がする。例えば後でお返しが来るとか…。考えれば空恐ろしい…。ぶるぶるぶる……。次だ! 次!!
−CASEその5、ルーシー(るーこ)の場合−
「今宵、夜とぎを申しつけるぞ……。たかあき」
大きく“るー”をしながらるーこは言う。あ、あの、るーこ様? 夜とぎって言う意味をご存知なのでしょうか? 大きく“るー”をしたままのるーこに俺は聞いた。途端に不敵に微笑むるーこ。
「愚かだぞ…。たかあき。るーもそれぐらいは知っている。うーとうーが一緒に抱き合って寝ると言うことだ。……それにるーの裸を見たたかあきに、そんなことが言えるのか? それに、“るー”ではるーの裸を見たものはるーと一緒に寝る決まりになってるんだぞ?……」
そう言うと俺の顔を恨めしそうに見遣るるーこ。い、いや、るーこさん? って! あ、あ、ああああれは、し、し、仕方なかったんですよ? そ、それに、俺はちゃんと目を瞑りながら洗いましたんです……。と意味不明な敬語になる俺。そ、それに、はは、裸なんて……。と言おうとしたが、あの感触がまた脳裏に蘇ってくる。途端に真っ赤になる俺。そんな俺を不敵に微笑みながら…、
「たかあきもまだまだだな……。ふふふっ……」
と、そう言うるーこ…。そんなるーこに何も言えない俺。宇宙の真理とやらを一度聞いてみたいと思う俺だった。で、結局…、
「すぅ〜、すぅ〜」
抱き枕状態で俺を抱きしめるるーこ様。俺は果たして幸福なんだろうか? それとも不幸なんだろうか…。気持ちのいい寝息の横で、そう考える俺であった…。うううっ…。
るーこ様…。やっぱり地球的な考えではあなたの考えは分かりません…。僕は……。第一、俺は目を瞑って洗ったんだぞ? その辺は誤解しないように…。次はっと…、ああっ、睨む目が怖いけど、二人っきりになると甘えてくる、“いわゆるツンデレ系”の由真か……。
−CASEその6、由真の場合−
「今宵、夜とぎを申しつけるわっ!! 河野貴明!」
いっ? 由真か? って、今なんて言ったんだ? お、俺の聞き間違いかもしれないけど、夜とぎって言う風に聞こえたんだけど? そう聞くといつもの睨みをしたまま由真が俺を睨む。って! じょ、じょじょじょ冗談じゃないやい!! 女の子が苦手な俺だけどこいつは別の意味で苦手だっ! 何よりあの目が怖いんだ! って、由真がこっちをあの恐ろしい目で睨んでる!! ギョッ! となる俺に向かって…、
「こ、ここここの、あ、ああああたしが誘ってるのよ!! それをむげに断わるんじゃないでしょうねぇ〜?」
学校の帰り道、由真は俺の顔に人差し指を突きつけて、どこぞの同人作家のように強気な態度でこう言う。でも、顔は真っ赤だ。俺と二人っきりのときはまるで借りてきた猫のように大人しくて甘えん坊なのにな…。世間ではこういうのをツンデレ系って言うらしいが、由真はまさにそれだな? と俺はそう思っている。と……、
「と、とにかく、今日はあんたのうちでお泊まりさせてもらうんだからねっ?! もし居留守なんて姑息な手を使ったらただじゃ済まさないんだから〜っ!!」
びしっと人差し指を俺のほうに向けてそんなことをのたまう由真。逃げられない。逃げられない。俺は心の中でそう思った。で、結局……、
「すぅ〜、すぅ〜」
手を繋いで幸せそうに俺の横で眠っている由真の姿があるのだった。はぁ〜あ…。
まあ、元はいいとこのお嬢様なんだからな…。あいつは…。そう思いながら、教室を見渡してみる。と、ある女子が俺のほうに向かって小さく手を振っているのが見えた。って! あれは由真? さすがはツンデレ系。手を振り返すと、ぽっと頬を赤らめながらも、ぷいっとそっぽを向いてしまう。その姿を見ながら次を考えてみた……。
−CASEその7、愛佳の場合−
「こ、こ、今宵、よ、夜とぎに付き合って〜。貴明く〜ん!!」
わたわた慌てながら愛佳が俺にそう言ってくる。って、愛佳? 何か文法が違ってない? 付き合って〜ってどういうこと? 夜とぎって言うのはそもそも付き合うんじゃなくて…。いや、合ってはいるんだけど…、何か違うんだよね? と、俺は思った。愛佳はさらにわたわた慌てながら……、
「う、う、う、うわぁ〜ん。そんなことはどうでもいいから、と、とにかく一緒にいてほしいのぉ〜…」
訳を聞くとこうだ。今日はたまたま愛佳の親父さんたちは旅行に行って留守なんだってさ。小生意気なあの郁乃も、友達の家に御呼ばれに行っていないらしい。で、ついでを言うと昨日怖い映画を見てしまって一人きりの家が怖くなったらしかった。って何で俺の家? 愛佳は友達も多いんだから…。そう言うと、何故か寂しそうな顔をして、
「ダメ? だよね?…。やっぱり……。ううん、いいの。気にしないで? …それじゃあ」
そう言うと、いかにも寂しそうに立ち去ろうとする愛佳。ちょ、ちょちょちょっと待ってよ! と、俺は呼び止める。呼び止めて、くるっと振り向いた愛佳はとても嬉しそうで…。その顔に“期待”という二文字がありありと見えて。結局…。
「うう〜ん。舌平目が平泳ぎ〜。むにゅむにゅ……」
一晩中、愛佳の怪しい寝言に付き合わされる俺がいるのであった。とほほ……。
愛佳のほうを見てうぷぷっ…、と吹き出してしまう。って愛佳がこっちを不思議そうに見てる。何もなかったように自習課題に取り組む俺。そんな俺のほうを、はてな顔になりながらもにっこり微笑む愛佳。ああ…、あの笑顔がみんなを和やかにさせてくれるんだろうな……。微笑む愛佳を上目遣いで見ながら次を考えてみる…。
−CASEその8、イルファさんの場合−
「今宵、夜とぎを申しつけますっ!! 貴明さん!!」
イルファさんが少々怒った口調でそう言う。って、い、い、いいーっ?! と思わず吉本新喜劇の芸人のようなゼスチャーをしてしまう。な、ななな何でイルファさんが? そう思った。だいたいイルファさんは瑠璃ちゃん一筋じゃなかったの? そう聞くと頬を膨らませながらこう言うイルファさん。
「だって…、最近瑠璃様ときたら…、“貴明今日何しとるんかなー?”とか、“アホやけどさんちゃんと同じくらい感謝しとるんやで?…。ウチは…”とか、最近貴明さんのことばっかり! 瑠璃様のことが大好きなこの私を差し置いてですよ?! どうしてくれるんですか?! 貴明さん!!」
そ、そんなこと言ったって……。とは思うが、瑠璃ちゃん一筋のイルファさんには弁明など通じるはずもない。ますます怒りながら言い寄ってくるイルファさん。
「ですから! ミルファとシルファも呼んで今日は貴明さんの家に行って寝取らせて頂きますっ!! …そうすれば瑠璃様も諦めて頂けるでしょうし…。と言うことで、貴明さん。覚悟しておいてくださいね?…。ふふふふふふっ…」
あ、あの〜。イ、イルファさん? それだと返って逆効果になっちゃうんじゃないかなぁ〜。俺はそう思った。そうは思ったが俺を睨むイルファさんに言う事も出来ず…。結局……。
「「「すぅ〜、すぅ〜」」」
3人の女性型メイドロボと仲良く川の字で寝かされる俺であった。う、う、うわ〜ん。
瑠璃ちゃん一筋なイルファさん。俺と瑠璃ちゃんが寝たと知ったら、絶対こう言ってくるに違いない。じょ、冗談じゃないぞぉ〜。もしそうなって雄二にでも知られようものなら…。ただでさえ珊瑚ちゃんたちやるーこのことで反感を買ってるんだ。メイドロボと…、しかも3人の女性型メイドロボと一緒に寝ようことになったとすれば……。や、やばい! やばすぎるっ! 次だ! 次っ!!
−CASEその9、郁乃の場合−
「今宵、夜とぎに付き合ってもらうわっ!! ……た、た、貴明…」
郁乃が頬を赤らめながらそう言う。こいつには初めて会った頃から、何かと意地悪なことを言われてきたが、それが姉・愛佳への気遣いだと分かった時、俺はちょっとこいつのことが好きになった。もともとこいつの場合、無類のお姉ちゃん子だったので俺と愛佳が一緒に寝た? ときのことを羨ましく思っているんだろうな……。
「ちょっと! ちゃんと聞いてる? あたしの話。全く…。それだから姉とも全然進展しないんじゃないの?」
ぶつぶつ文句を言う郁乃……。まあ、こいつも何だかんだ言って愛佳のことが大好きなんだよな…。って! 今の話とは関係ないじゃないかぁ〜!! う〜っと俺を睨みつける郁乃。ひょっとして羨ましかったの? 俺がそう聞くと途端に顔を真っ赤にさせて……。
「う、う、羨ましくなんてないもん!! と、とにかく! 今日はあんたの家に行って一緒に寝るんだからね? ね、寝るだけだからね? あ、あんたなんか大っ嫌いなんだから〜っ!!」
顔を真っ赤にしながら睨んでいるのか、見つめているのか分からないが俺の顔をじ〜っと上目遣いに見つめてくる郁乃。迫力というか何と言うか…。で? 結局…。
「くか〜、くか〜…」
いびきを掻く郁乃の横で耳を塞いでいる俺がいるのであった。と、とほ〜。
まあ、あいつが遠慮の塊のような愛佳の妹だなんて、今だに信じられないんだけどね? でも姉妹で似ているところもあるんだと俺は思っている。現にあの食いしん坊なところとか…。この間も3人でスコーンを食べてるとき、愛佳のほうが多く食べたとか言って怒ってたしな。ははは…。ぷぅっと膨れた郁乃の顔を思い出しながら次を考えてみた。
−CASEその10、ちゃる&よっちの場合−
「今宵、夜とぎに付き合ってもらうっス!! 先輩!!」
タヌキっ娘が、俺に向かってそんなことを言う。って! 夜とぎって言う意味、知ってて言ってるの? 俺がそう聞くと、キツネっ娘が……。
「当たり前だ…、先輩…。このみがこの間嬉しそうに話してた。私も一度でいいからやってみたいと思って、こうして先輩に話してる…」
と、ちょっと恥ずかしそうに言ってくると、しゅん…、と俯くキツネっ娘。そんなこと言われたってだな……。そう言うと、タヌキっ娘が急に寂しそうな顔になって……。
「ダメっスよね? やっぱり……。…もういいっスよ? 先輩…。それじゃあっス…」
俺に背を向けると、しおらしくその場を去るタヌキっ娘とキツネっ娘。その後姿がやけに寂しそうに見えて…。思わず声を掛けてしまった俺。…と、一瞬にして気が付いた!! にまぁ〜っと薄気味悪い笑みを浮かべるタヌキっ娘とキツネっ娘…。怪しく笑う二人を見て“そうだ…。タヌキもキツネも人を化かす生き物だったんだ……”と思ったが時すでに遅し…。がしっと両腕を掴まれる。タヌキっ娘のぷにゅっとした感触が…。
「さあ、早速先輩の家にゴーっスよ!! ちゃる君!!」
何も言わず俺の左手を体に寄せてくるキツネっ娘。タヌキっ娘も同じように腕を絡ませてくる。タヌキっ娘のぽよんぽよんした感触が俺の腕に当たるごとに赤面してしまう。そうして否応なく二人の凸凹コンビの婦警? さんに捕まった間抜けな泥棒のように連行される俺……。で、結局……。
「すか〜、すか〜」
「くぅ〜、くぅ〜」
一瞬の油断が命取りになることもあるんだと思う俺であった。うううっ……。
あの娘たちは女の子が苦手な俺にワンポイントで攻撃してくるんだよね。攻撃してるって言うことも知らずに仕掛けてくるからこっちとしてもどう対応したらいいのか分からなくなるんだよ…。特にタヌキっ娘はね? ふふ〜んて言う表情でぎゅって体を摺り寄せてくるんだ……。こ、こ、怖い! つ、次〜っ!!
−CASEその11、玲於奈・薫子・カスミ(九条院三人娘)の場合−
「今宵、夜とぎを申しつけますわっ!! 河野貴明さん!」
そんなことを言うと俺の顔をぐっと睨みつけてくる3人組。って! な、何で? 今まで散々俺とタマ姉の仲を引き裂こうとしてたじゃないの? そう言うと、不適に笑いながら言う3人組のリーダー、…確か、玲於奈さんって言ったっけ。
「何を一人でぶつぶつ言っていらっしゃるのです? それでよくもまあお姉様の彼氏だなんて言えますこと…。いいですこと? わたくし達はまだあなたのことをお姉様の彼氏だなんて認めてはおりませんのよ?」
いや、あれはタマ姉に頼まれただけで…。と言おうと思ったが、ギロリと睨む3人組にそんなことなど言えるはずもなく…、って! 何でこっちを睨んでくるの? って!! またまた俺…、独り言?
「お、お姉様に頼まれただけですって?! よくもまあぬけぬけとそんなことが言えますこと…。それに…、わたくし達のお姉様に対する悪逆非道の数々、もう勘弁なりません!! そこにお直りなさいっ!! 河野貴明さん!!」
ぐぐぐっと俺の顔を恨めしそうに睨みながら、玲於奈さん? はそう言う。薫子さん? とカスミさん? も、こっちをぐぐっと涙目で睨みつけてるし…。って! 俺は三匹の蛇に睨まれた哀れなカエルか? にに、逃げなくては…、とは思ったが3人組の視線が俺を釘付けにして動きが取れない。怒りに震える玲於奈さん? は、俺の顔をギロリと睨んで一言…。
「河野貴明さん!! この落とし前はきっちりさせて頂きますわ!! と、とにかく、こ、こっちへ来なさいっ!!」
お、落とし前? 落とし前って何? って!! う、うわぁ〜っ!! 玲於奈さんの手が伸びてくる。ズルズルと引き摺られて行く俺……。で、結局……。
「ちょちょ、ちょっと! て、手が邪魔ですわ!! 河野貴明さん!!」
などと言われながらも川の字で寝かされる俺がいるのであった。う、う、うわぁぁぁぁぁ〜〜〜んっ!!
いや、いくらなんでもそれはないだろう…。と一人でツッコむ俺。あのタマ姉一筋な娘たちがねぇ〜。絶対にありえないことだよ…。もしあったらそれは地球最後の日だろうな…。と非常に勝手ながらそう思っている。そういやあのおかっぱ頭の娘はどことなく金太郎さんみたいで可愛かったな…。ははは…。そんなことを思いながら次を考えてみた…。
−CASEその12、春夏さん(このみママ)の場合−
「今宵、夜とぎを申しつけるわ! タカくん!!」
げっ! お、おば……。突然頬をむぎゅ〜っと抓られる。抓っているのはもちろん、このみのお母さんであり、俺の最も恐れる人。柚原春夏さんだ…。
パワフルなこのみの母さんであり、俺の親のいない間、俺の親代わりをしてくれている、俺の第二の母さんって所だろうか…。抓るのを止めると、今度は俺の顔を見つめるとこう言ってくる。
「あら、タカくん。私のこと、そんな風に思ってくれてるんだ。嬉しいわね〜。でもね、タカくん。私はお母さんじゃなくてお姉さんって呼んで欲しいなっ! って…。てへっ」
い、いや、ちょっと待て、今のは口には出してないぞ? な、何で分かるんだ? そ、それに“てへっ”て? い、いや今はそんなことじゃないんだ。春夏さんってもしかして、ニュータイプなんじゃ…。そ、そういや昔見たガンダムアニメのキャラクターの声に似てるし…。じょ、じょじょじょ冗談じゃないぞ〜。MSに乗る春夏さんを想像してみた……。怖かった。
「タカくん!! ちゃんと聞いてる? 私の話…。つまりは…」
たまには家に来いっと…。遠慮ばっかりしてると、“耳の穴から手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタ言わしたろかぁ〜っ!!”ってなことらしい。で、結局…。
「えへへ〜、嬉しいでありますよ〜。……でもなんでお母さんまで一緒に寝てるの?」
「たまには、お母さんだってこのみやタカくんと一緒に寝たいって思うじゃない? それにお父さん、出張でいないし…」
このみの家で春夏さんとこのみに両腕を掴まれて一緒に寝る俺がいるのであった。と、とほー。
凶悪的だ…。凶悪的過ぎる…。と心の中でそう思った。35歳にしてあのプロポーションを誇る春夏さんだ。何をされるか…。でもこれってもしかして援助交際? 不倫? そ、空恐ろしい。妄想の中とはいえ、こんなことが知れたらおじさんに殺されかねんぞ? そう思いぶるぶると頭を振る俺であった……。
キーンコーンカーンコーンと終礼のチャイムが鳴る。やっと今日も全授業が終わったなぁ…。ふぅっと深く息をすると身支度を整える。鞄の中身はちゃんと整えたしプリントも貰った。さあ、帰ろう。帰りに今夜の食糧を買いに行こうと思い席を立つと?…。ガシッと肩を掴まれた。掴まれた先を見てみると…。
「こ、河野貴明〜!! 話はよ〜っく聞かせてもらったわ…。何よ? あの妄想はっ? それに、あ、あた、あたしは“ツンデレ系”なんかじゃないわっ!!」
げっ!! ゆ、由真か? でも確か由真って隣のクラスじゃなかったっけ? と思い辺りを見回して、はっ! と気付く。そうだった……。今日は2年生全員での合同自由学習だったんだった。どおりでわいのわいのがやがやしてるなぁ〜と思った。今、気が付いた。っていうか、今の今まで忘れてた…。
そう思って辺りを見回すと…。俺の知ってる女の子たちがジト目で睨んでいたり、また恥ずかしそうに上目遣いでちらちらと見てたり、はたまた涙を溜めて恨めしそうに睨んでいたり……。一瞬ここは南米のアマゾンの奥地か? と思わせるくらいだった。
「そうだよ!! たかちゃん! 笹森会長は部員をそんな呪ったりはしないんよ? 実験以外は…」
花梨がこんなことを言う。って! 実験じゃ呪ってるんですか? 俺のこと…。ええっ? 会長様……。どおりで最近あちこちが重いような感覚に襲われていたんですが…、すべてあなたの仕業だったんですね?
「えっ? ほんとに? たかちゃん!」
花梨は嬉しそうにそう言う。こ、こいつは! とは思ったが、他の子の手前きつく言う事も出来ず…。由真の不敵に笑う顔が印象的だった。と、例の3人組もやってくる。って! に、睨んでるじゃないかぁ〜!!
「「「男の風上にも置けない男!! やっぱりお姉様は渡せない!!」」」
こんなことを言うと、ぎろりっとこっちを睨んでくる。特におかっぱ頭の子は…、ぐりぐりぐりっと目を爛々と光らせながら睨んでいた。もう、こうなったら愛佳に…。と思って愛佳のほうに目をやると?
「た、貴明くん…。あ、ああの、ああああたしたち、ままままだ、こっ、ここここ高校生だし…」
一人妄想の世界へ入って行ってしまっていた。ギロリと睨む目、目、目……。そ、そういや雄二は? 雄二はどこに行ったんだ? と、そこで俺は思い出す…。そうだ…、雄二は親戚の寄り合いで今日はいないんだった…。だ、誰でもいいから助けてくれ〜っ!! と、辺りを見回すが……。
「ほんとにタカくんに夜とぎを申し付けちゃうでありますよ〜っ? えへへっ!!」
な、なぜかこのみの声がするんだけど…。と振り返る。振り返った瞬間、石化した。だ、だってそこには……。
「うん。今度本当に夜とぎを申し付けちゃお〜っと。ねっ? タカ坊…。ふふふふふふっ……」
幼なじみのお姉様と、妹ちゃんが恨めしそうにこっちを見ていた。戦況は著しく悪化の一途を辿っている。俺が勝てる可能性は0%に等しい。自分の蒔いた種とはいえ、ここまで酷くなるとは思っても見なかった。休んでいる優季に向かって、
“優季〜〜っ、カムバァ〜〜〜ック!!”
と、こう叫ばずにはいられなかった俺であった…。
おわり
おまけ
ずるずるとまるで罪人のようにタマ姉たちに引き摺られていく俺。これから罪人の死刑執行だっ!…、とでも言わんばかりにただただ歩くタマ姉たちと俺…。途中でタヌキっ娘とキツネっ娘に出会い、タヌキっ娘に妄想と同じようなことをされ、さらに途中で珊瑚ちゃんや瑠璃ちゃん、イルファさんたちに出会う。このみがイルファさんに俺の妄想事を言うと?
「まあ、貴明さん。そ〜んなことでしたらミルファにお任せ致しましたのに…。だってあれですもんね〜っ? 女の子のお股を覗くような人(犯罪者)ですもの……。ロボットですけど…、しかもクマのぬいぐるみですけど…、うふふっ…」
あ、あの〜、い、イルファさん? 僕、何かしましたっけ? あなたに恨まれるようなことは…。…と、みんなのほうに振り向くと? みんなの見る目が強烈に痛いや…。うううっ…。このみやタマ姉なんぞはもう野生化してるしっ!! で、あれやこれやと言い争っているうちに、ついに最終兵器がやって来てしまう。買い物帰りなんだろうか…。両手に食材の入ったビニール袋をぶら下げていた…。
「タカくん、このみ、タマちゃんに…、みんな? どうしたの? こんなところで…」
ああ…、短い一生を終えるのか…。おとーたま、おかーたま、先立つ不孝をお許しください。心の中でそう思いつつ、口から泡を飛ばして喋りまくるタヌキっ娘とキツネっ娘。そして…、ニコニコしながら聞いている春夏お姉さん。
「そう、タカくんの妄想の中に、私も入ってるんだ。春夏さん、何だか嬉しいわぁ〜。私もこのみに負けないくらいにおしゃれしちゃおうかしら〜? うふふふふぅ〜」
そう言うとにこにこ顔の春夏さん。そんな春夏さんに娘のこのみはこう言った。
「お、お母さん。もう35歳なんだから……」
言った途端に、ぴくっ! 俺は見た!! この目ではっきりと、見た!! 春夏さんのこめかみに怒スジが浮かんだところをっ!!…。言ってしまったこのみの顔はもう顔面蒼白状態だ…。
「そ、そうですわ。おばさま。もうお年なんですから……」
ぴくっ! ぴくっ! タマ姉。地雷踏んでる。しかもピンポイントに。的確に…。言ったタマ姉は、“し、しまったぁ〜っ!!”ってな顔をしてるしっ!! 春夏さんの見る目が強烈に怖い。そこへ、気がつかないのか花梨が言ってはならないことを言ってしまう。
「このみちゃんのおばさん……。そんな顔をしてると小じわが増えるんよ?」
ごごごごごごごごご……。そんな音がした。後はどうなったか知らない。だって俺は逃げたから…。みんなには悪いと思う。でも俺だってまだ死にたくないんだ。こんなところで死ぬなんてごめんなんだ。許してくれ! 許してくれ! みんな!! 川原から女の子の悲鳴やら叫び声やらが木霊のように聞こえてくる中、俺は必死で逃げ帰った…。家に帰り着く頃には日はとっぷりと落ちて、星がきらきら輝く頃だったと今日の日記に記して置こう。
で、翌日の雄二との会話…。ちなみにこのみ、タマ姉、花梨、るーこ、由真、愛佳と郁乃、3人組…、昨日、俺が妄想した女の子たちはことごとく休んでいた。タヌキっ娘とキツネっ娘、それにイルファさんたちもおそらくは…。南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏…。と心の中で念仏を唱えながら雄二の話に聞き入った。
「昨日、俺が帰ってきても姉貴のやつ、まだ帰ってきてねーみたいでよ…。あまりに帰りが遅いんで探しに行ったんだ。そしたら姉貴のやつ、川原で寝てやがってよぉ〜。うわ言みてえに“プルプルプルプル〜…”とか、“胸がキュンキュンする”とか訳の分かんねーこと言いやがってよ…。胸に栄養が行き過ぎて頭がパーになっちまいやがったんじゃねーのか?…。ありゃあ…。なあ、貴明。お前何があったか知らねえか?」
「雄二……、世の中には知ってはいけないこともあるんだ……」
俺はそう言って、ぽん、と雄二の肩に手を乗せる。目を見つめて、“もうこれ以上言うんじゃない。言ったら殺られるぞ?…”心の中でそう言った。雄二も俺の心の声に気づいたみたいに、何も言わずこくんと一つだけ頷くと自分の席に戻っていく…。もう木枯らしも吹こうかとも思われる、そんな初冬の寒い朝だった……。
ほんとにおわり