このみとみんなのお母さん


 今日5月9日は俺の可愛い妹のような存在であり、なおかつ彼女でもあるこのみの母さんの春夏さんの誕生日だ。でも今年で何歳なんだろう? とふと疑問に思うことがある。でも歳のことはちょっと聞けない。“おばさん”なんて言おうものなら、こめかみをぴくぴく言わせてくるんだから…。で尻を思いっきり叩かれる。腫れて座れないくらいに叩かれる。あの傍若無人で有名な(俺と雄二の間だけだけど…)タマ姉でさえ恐れる人なんだから相当なんだろう。そう思う。この前もタマ姉がうっかり言っちゃって、小一時間お説教を喰らってたっけ? その後で俺と雄二にとばっちりが行ったことは言うまでもな事実だ。
 まあその話は今日は置いておこう。せっかくの春夏さんのお誕生日なんだしね? と言うことでパーティーでもしてあげようって話になってみんなで買い物に来ている。普段お世話になっているので少しはいいものをと思ってみんなで寄せ集めた小遣いで何か買おうってことになり、今洋服店の前に来てるんだけどさ…。
「う〜ん、どれもよくって分からないでありますよ〜。タマお姉ちゃんならどれがお母さんに似合うでありますか?」
「うーん、私はこれかな? 私と春夏さんって体形的に同じだし…。って、このみはこの服が似合うんじゃないい?」
 とまあある意味、女の子特有の話題になってしまっている。しかも、
「このふりふりのスカート…、このみに穿かせたら可愛いと思うか? よっち…」
「そりゃもう先輩もいちころッスよ! ちゃる君。先輩も見てみたいッスよね〜?」
 何でかは知らないけどタヌキっ娘とキツネっ娘も一緒にいるわけで…。何でいるの? って聞くと、“姉御に呼ばれたッス。‘今日はこのみのお母さんの誕生日だから一緒に祝いなさい’って…。一応ちゃるとも相談した結果、お祝いしようって事になったッスよ〜” こう言うとにんまり微笑むタヌキっ娘。ああ、やっぱり元凶はあなたでしたか…。傍若無人のお姉様。そう思いながらこのみとタマ姉のほうを見る俺。楽しそうに話をしていた。
「はぁ、はひぃ〜。なあ、た、貴明。何で俺たち、姉貴にはかなわねーんだろうな?」
「ふう、ふう…、い、言うなよ。雄二…。悲しくなるばっかりだろ?」
 荷物持ち二人…。はあっとため息を吐きつつ、前を歩くお姉様方を見る。タヌキっ娘とキツネっ娘はというとこのみにべったりで、何でも“このみ分の補給”なんだそうだ。このみが俺にする“タカくんエネルギー” と同じなんだろうか? と思ったり…。そう、このみ。ずっと幼馴染みを続けてきた俺たちだったが今は俺の好きな女の子へと変わった。それは前で楽しそうにこのみたちの話を聞いている、タマ姉のおかげだと思う。でも、最近はこのみに何やらかやらと吹き込んでは、楽しんでるように見えるんだけどさ…。はぁ〜っと深いため息を一つ。隣にいた雄二が何やらもの言いたげな顔でこっちを睨んでいたけど当然無視する。でも俺の両親は海外出張で出かけていていないし、タマ姉や春夏さんにはお世話になりっぱなしだよね〜とも思うんだけど、二人とも(最近ではこのみまで)俺の心配をしてくれるんだから…。まあ悪い気はしないけど…。でも俺が他の女の子と話をしているところをこのみに言うのはやめてくれないかな〜? 拗ねたこのみの機嫌を取るのってすごく難しいんだからね? この前だって知らない女の人に道を聞かれて教えてたら、一人でずんずん先に行っちゃって…。ととみ屋のカステラでも直らずに、最後はほっぺにちゅってやってやっと直ったんだから…。ふぅ〜。思い出したら顔が赤くなってきた。
 と考えながら歩いて行くうちに今日のパーティー会場に到着する。ふう〜っと息をつく間もなく、“タカ坊! 手伝いなさい!!” とお姉様の声。“も、もう少し休ませて〜” と口パクで言うと、“あら? お姉ちゃんの言うことが聞けないのね〜?” と口パクで返しては怪しく笑うお姉様。前に俺が小牧さんと話をしているところをタマ姉に見られちゃって…。タマ姉がこのみに告げ口したものだから、翌朝このみがよく見てるドラマの委員長キャラのようになって迫ってきて大変だった。具体的には言えないけど、あの委員長をやってる人がタマ姉に感化されて一度お姉ちゃん化したこのみに似ていて…。女の子が苦手な俺にとってはあれは紛れもない地獄だと思う。うん。今でもちょっと何かがあるとぶすっとした顔で、その委員長のよう、いや、“このみ姉” になって迫ってくるんだから…。それに輪をかけて春夏さんまでもがそのドラマの妖しい未亡人のように迫ってきて…。おじさーん、早く帰ってきて〜!! と心の中で叫ぶ俺がいるのだった。


 今日は私の誕生日。歳のことはまあ内緒よ…。娘の恋人……といっても私にとっては近所の仲のいいお友達の息子さんなんだけどね? 今朝、娘をいつものように迎えに来ては、何だか嬉しそうな顔をしてたしね? 私の旦那は海上自衛隊で単身赴任中。単身赴任といってもすぐ近くなので土・日にはひょっこり顔を出してくれることもあるんだけど…。最近は何だか忙しいみたいで写真で見るか電話でしゃべることが多くなった。それは仕方のないことなんだけど少し寂しいかな? って思うこともある。でも、娘には寂しそうにはしないで常に明るくしようって心掛けている。いつも元気いっぱいの娘にまで私の寂しさが移っちゃったら、タカくんが心配しちゃうしね? それに私には…、6人の可愛い子供たちがいるんだから。このみ、タカくん、タマちゃん、ユウくん、ちゃるちゃん、よっちちゃん…。一人ずつ顔を思い出しては、うふふって微笑んじゃう。私ってば…。こつんと自分の頭を軽く叩いた。
 多分今日は家でパーティーなんかを開く予定なんだろう。昨日娘がこそこそ電話で話しているのを聞いちゃっているので別に用事もないけどこうして駅前の喫茶店でお茶してるって訳。ふと駅前の大時計を見ると5時半を指していた。まあ料理はタマちゃんがいてくれるから心配することもないし…。今日は目いっぱい甘えちゃおう。そして…。ぎゅって抱きしめてあげるの…。ありがとうの意味も込めてね? そう思いながら帰る道、夕暮れの空は街を赤く染めようとしていく。そんな初夏の日、5月9日は私の誕生日よ。うふふっ…。

END