梅干しをつけましょ?
「梅干しかぁ〜。この青梅としその酸っぱいのが食欲を誘うんだよね〜」
「こら〜っ!! そこ、口ばっかし動かさんで手ぇ動かしぃ〜!! それからさんちゃんから離れろ〜っ!!」
双子姫の一人・瑠璃ちゃんが俺の顔を睨んでこう言う。今日6月16日は俺の双子の後輩、姫百合珊瑚ちゃんと姫百合瑠璃ちゃんの誕生日だ。今年は何だか知らないけど、瑠璃ちゃんが和食に目覚めて“これからは和食や〜!” とか何とか言いだしてどう言う訳か梅干し漬けを手伝わされている。いや、梅干しは毎年漬けているらしいけど、“今年はちょっと本格的に漬けるんや〜っ!” って言うことらしい。と言っても天日で3日間ほど干された梅を大小選り分けていくって言うごくごく単純な作業なんだけどさ。でも、恐るべきはその量。一体何年分くらいなんだろうか…。と思うくらいすごい量の梅が部屋中に茣蓙引きで置かされている。珊瑚ちゃんが言うには…、“長瀬のおっちゃんにな? 頼まれてん。瑠璃ちゃんの作る梅干しが食べたい〜って…。ウチあんま料理とか出来へんやんか。そやから瑠璃ちゃんやたかあきやいっちゃんたちに手伝ってもらおう思て…” と言うことらしい。でも何故に誕生日? と思ってると、“梅が安かったからや” と瑠璃ちゃんの声。また独り言で呟いてたのか…。いい加減この癖早く直さないとなぁ〜っと思ってふっと顔を上げる。
「お、重いのれす…。ミルミル!! ちゃんと持ってるんれすか?」
「持ってるよ〜。ううう…。ダーリンも品定めばっかりしてないでちょっとはこっちも手伝ってよ〜!!」
大きな壺を持ってあっちによろよろこっちによろよろしながら運んでいるミルファちゃんことはるみちゃんとシルファちゃん。今にも落としてしまいそうだ。幸いこっちはもうすぐ終わりそうなので手伝ってあげようと立ち上がると俺の手をギュッと掴む手がある。見るとイルファさんだった。“ダメですよ〜? 貴明さん。手伝っては…。あれくらい持てないとメイドロボ失格なんですから…” と言って俺を優しく制止させる。どうやら今回は何かの試験らしい。まあもともと病院の介護ロボとして開発された訳だから重いものを持つことなんて造作もないことなんだろうけどさ。でもイルファさん? あの2人って今、俺の家の同居人なんですよ? あとで俺がどんな目に遭うか……。とは思うもののイルファさんのほうを見てぎょっとなる。いつぞやの不良さんのような顔になっていた。あの“イルファパンチ”は俺のトラウマになっているので逆らうことは出来ない。はるみちゃんとシルファちゃんの俺を非難する目が印象的だった。きっと帰ってからまた2人にくどくどお説教(と言うか泣きべそをかきつつ怒る)を受けるんだろうなぁ〜。その顔を見つつ必死に謝る俺の姿も…。そう思った。
梅を並べていく。いわゆる選別作業というわけだ。いろいろな粒の梅の実を選別していく。“傷がついてたり小さかったりなんかした梅はこっちや” と瑠璃ちゃん。あっ、なるほどね? 梅干しにはなるべく傷のついてないものを選びたいのか…。そう思って慎重に見ていく。イルファさんたちは俺が見たものをもう一度見てベランダに作った臨時の梅置き場に並べていく。約1時間ほど掛かってやっとすべての選別が終わった。
「後はこれを漬けていくだけだね?」
そう言うと、うんと頷く珊瑚ちゃん。大きな壺が1つに小さな壺が2、3個ある。多分大きな壺のほうに選別した傷のついていない梅を漬け込むんだろう。そのためのシソと塩も用意しているんだから…。でもそれだけでは小さな壺には足りないんじゃないのかな? そう思って聞いてみると?
「ちゃうねん。たかあき。そっちはな? はちみつ漬けのほうやぁ〜」
そう言うとるーこのようにるーっとする珊瑚ちゃん。梅のはちみつ漬け? そう聞くとうんっと大きく頷く珊瑚ちゃん。“さんちゃん大好きやもんなぁ〜。そう言うの…” と言ってははぁ〜っとため息を吐く瑠璃ちゃん。一体どんなものなんだろう。そう思ってると、“何やぁ〜? たかあきぃ〜。そないに欲しそうな顔してからにぃ〜。でもこれはウチとさんちゃんの物なんやから、あげへんで〜?” とイジワルそうに言う瑠璃ちゃん。そんな瑠璃ちゃんにイルファさんがにっこり微笑んだままこう言う。
「あらぁ〜。瑠璃様〜? そう言っておいて貴明さんたちが来る前に去年漬けておいた梅のはちみつ漬けの味をチェックなさっていたのは、あれは私の見間違いでしたでしょうかねぇ〜? うふふっ…」
まるで小悪魔チックに微笑みながらも俺の顔をギロリと見つめてくるイルファさん。まあイルファさんが瑠璃ちゃん一筋なのはよく分かってるつもりだけど、でもはちみつ漬けの味をチェックしただけで俺の顔を睨むのはどうかと思うのですけどね?…。とぶつぶつ呟いていると、
「そりゃあお姉ちゃんは瑠璃ちゃん一筋だからね〜? あたしがダーリン一筋なようにね〜? ね〜? ダーリン」
と後ろからギュムッと抱きしめられる。とともに柔らかな感触も背中に当たってくる。ちらっと上を見ると案の定俺専用メイドロボ(自称)はるみちゃんが抱きついていた。って言うか、“はるみちゃん、背中に当たってるんだけど…。胸が…” とこんなことを言うと益々嬉しそうに胸を押し付けてくるので迂闊なことは言えない。それに…。“あんな乳お化けなミルミルよりシルファの方が可愛いと思うのれすよ? それなのにこのらめらめご主人様ときたら…” と向こうの部屋の隅っこでぷぅ〜っと膨れた顔をしているのか分からないけど、多分しているんだろうシルファちゃんの背中越しの声がまるで呪詛のように聞こえてくる。はっきり言って思いっきり家と同じじゃないか! こうなってくるともう笑うしかなかった。
家へと帰りつく。いつも珊瑚ちゃんたちの家に行くと大変だけど、案の定今日も大変だった。そう思ってソファーにぐったり体を預ける俺。あの後、例によって例の如く、今夕食の準備に追われている2人の言い争いに発展、それがイルファさんに飛び火して、最早恒例となってしまった“イルファパンチ”の洗礼を受ける羽目となった。でもってそのお詫びに瑠璃ちゃんが去年漬けたというはちみつ漬けをくれたわけだけど…。今日は俺にお詫びって言うことではるみちゃんたちがいつもより豪勢な料理を作ってくれるんだってさ。
さてさてどんな料理が出来上がるか…。今から楽しみ。でも…、とふとはちみつ漬けの入った瓶を見る。珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんが漬けた梅のはちみつ漬けか。去年は俺やイルファさんたちがいなかったから2人で漬けてたんだよね? 大変だっただろうなぁ〜っと感慨深げに瓶を見つめた。そう思いつつ今日の料理が非常に楽しみな夕食時。
厨房は忙しそうにばたばた…。かく言う俺は手持無沙汰なので何か手伝おうかと思い厨房へ行くけど、一生懸命頑張る姿が今日の主役の双子姫のように見えて言うのをやめた。ちなみに料理のほうはとても美味しくて、ご飯を3杯もお代わりしたことを今日の日記に書いておこう。特にデザートのかき氷は絶品だった。ハチミツのトロリとした甘さの中に梅の酸っぱさが加わってそれに氷のシャキシャキ感がたまらなく美味しかったなぁ〜。はるみちゃんとシルファちゃんに今度レシピを教えてもらってタマ姉たちにも食べさせてやりたいなぁ〜っとも思ったそんな今日、6月16日は俺の後輩の双子姫、姫百合珊瑚ちゃんと姫百合瑠璃ちゃんの誕生日だ。
END