ごめんの印


「タカ坊のバカ〜ッ!! もう知らないんだから〜っ!! う、う、うわぁぁぁ〜ん」
 今日7月7日は俺の幼馴染みであり1つ年上のお姉さんであり…、かつ彼女であるタマ姉の誕生日だ。じゃあ何で俺の前、彼女の口からこう言う言葉が出ているのかと言うと…。つまりそれは俺のド忘れから始まった。いや、1週間前までは覚えていたんだ。うん。でも今はこの通りすっかり頭の中から誕生日の“た”の字も抜けてしまっていて…、恨めしそうに俺の顔をじっと睨むお姉様の前、しどろもどろになりつつ言い訳を考えている。いや、このお姉様には言い訳なんて通用しないって言うことは百も承知なんだけど…。女の子に泣かれるのは苦手な俺としては何としても避けたいんだけどさ…。って言うか、もう泣かれてるし…。
「ごめん。タマ姉。この通り謝るから許してよ?」
「き、今日が…、今日が私の誕生日だって言うこと忘れて、しかも他の女の子といちゃいちゃしてたくせに〜っ!! もう知らないわよ〜。お嫁さんにもなってあげないんだから〜。うわぁぁぁ〜ん」
 お、お嫁さん?! びっくりしてタマ姉のほうを見るとぐすぐす泣きながらこっちを嫉妬を込めた目で睨んでいた。ははは、これは相当怒ってるよ〜…。って言うか俺が他の女の子といちゃいちゃ? す、するわけがないじゃない!! 何かの見間違えなんじゃないの? と聞くとますますぷぅ〜っと頬を膨らませて、って言うかもうはち切れるんじゃないかと言うくらいに膨らませて、ぶりぶり怒りながらっていうか泣きながらこう言うタマ姉。
「だ、だって…。だって昨日見ちゃったんだもん…。タカ坊とタカ坊のクラスの委員長さんが二人でコソコソ何かやってるのを!! あんなところでコソコソ何かやるって言えばキスぐらいしか…。って!! わ、私と言うものがありながら〜っ!! どういうことなのよぉ〜っ!!」
 がるるるる…っと言う声も聞こえてきそうなくらいに俺の顔を恨めしそうにじ〜っと見つめるタマ姉。その顔はまるで自分から墓穴を掘って穴に落ちたときの由真のようだった。“って言うかそれって一人ボケツッコミだよ? タマ姉” そう言うと更にぷぅ〜っと頬を膨らませてきそうだ。はぁ〜…。ちなみにこのみと雄二は先に帰ってしまってここにはいない。気を使ってくれてるのかどうかは分からないけど、気を使ってくれているのなら残ってほしかったなぁ〜と思うわけで…。いまだにぐすぐす泣きながら怒りながらこっちを睨むお姉様を尻目にそう思う。“タカくんは他の女の人にデレデレしすぎなんだよ〜っ! もう! この際だからタマお姉ちゃんにうんと怒られるといいでありますよ〜っ!” とはこのみ。言いながら何故だか分からないけどむぅ〜ってむくれてたっけ? って! デ、デレデレ? するわけないだろ? だいたい俺は女の子が苦手なんだし…。雄二は雄二で、“何でお前ばかりそんなにモテるんだ? 教えてくれっ! 誰かっ!!”  と言いながら虚空に向かって喚いてたし…。そのときの顔が異様に怖かったことを覚えている。
 でも、俺自身はモテてるとか、そう言うことじゃないんだと思うんだけどね? 頼み事をしやすいタイプなんだろうね…、俺は…。小牧さんと一緒にいたのだって今度のクラス会のことで相談に乗ってあげてただけだし…。我ながらお人好しと言うかなんと言うか…。でもこの傍若無人を絵に描いたようなお姉様には何を言っても通用しないだろうし…。って言うか、タマ姉が怒ってる理由が分かったよ……。つまり、俺が小牧さんと一緒にいたところをタマ姉に見られていたってことなのかな? 遠くから涙目になりながらこっちを見ているタマ姉を想像して、思わずぷぷぷっと笑いがこみ上げてくる。
「な、何を笑ってるのよ〜っ!! お姉ちゃんに内緒で浮気なんかして〜! もう知らないんだからねっ?! グスッ…」
 そう言うと、睨む目をいっそう強くして俺の顔を睨むタマ姉。その顔には強烈な嫉妬が込められているように見える。怒っているのか泣いているのか分からない声でそう言うとはちきれんばかりにぷぅ〜っと頬を膨らませるタマ姉。そんな彼女の顔が素直に可愛いと思う俺。ふぅ〜っと今日何度目か分からないため息を吐きつつ、顔を真っ赤にしながら、タマ姉の頬にチュッとキスをする。もちろんそれは、ごめんね? と言う意味と、もう一つの意味を込めてるんだけど…。タマ姉はと言うと不意打ちを食らったかのようにほへっと言う顔になってた。でも恥ずかしさがこみ上げてきたのか、ぽっと頬を赤く染めて俯いてしまう。かく言う俺も恥ずかしさのあまり、卒倒しそうだったけどさ…。


 夕方。曇り空からときより陽もさしている道。俺の横、一つ年上の彼女は嬉しそうにニコニコ微笑みながら俺の手を掴んで、夕暮れの町を帰っている。さっきまでの泣き顔はどこへ行ったんだろ…、と思うような満面の笑みをたたえながら…。ちなみにプレゼントはもう買っている。この間、一人で散歩がてらに行った小物屋さんで見つけたネックレスだ。身につけたタマ姉を想像してにこっと微笑んだっけ…。もっともそれは俺の家の二階、俺の部屋の机の上に可愛い包装紙に包まれているんだけどさ…。その横にはメッセージカード…。俺の拙い字でこう書いてあるんだ…。
“Happy Birthday,tamanee.and I’m sorry…”
 ってね?

END