忘れん坊さんにはキスのおしおき


「わ、悪かったって! だからこうやって食事にでも行こうかって誘ってるんじゃない?」
 るーは今怒っている。目の前にいるうーに…。上目遣いで睨みつけてやると、しどろもどろになりながらるーの好きなうー・たかあきは、ぺこぺこ頭を下げてそんなことを言ってくる。ちなみに今日は3月1日。本来なら2月30日がるーの誕生日なんだが、うーには2月30日なんてい言う暦はなく…。うーの文化レベルはその程度のものかと思う。とにもかくにも、るーは誕生日を忘れたたかあきに怒っているわけだ。
「たかあきには失望した。毎年この日はおめでとうと言う言葉と、プレゼントの一つもくれていたはずなのに……。一緒に暮らすようになって4年…。4年経ってタカが外れたのか? たかあき…」
 ぷぅ〜っと頬を膨らませてるーはこう言う。今までるーの誕生日は忘れたことなどなかったはずなのに。…まあ最近は大学のほうの用事で忙しいとは聞いているが…。でも恋人の、しかも将来を誓いあったるーの誕生日も忘れるとはどういうことだ?! と一瞬考えて、はっ! と気付く。そう言えば最近、うータマやうーこのやたかあきの女友達がよくうちに遊びに来てはたかあきと何やら話してるような…。も、もしかしてこれは…。るーのことが嫌いになったと言うことか? るーは大熊座に帰れということか? もしそうだったら、るーは悲しい…。せっかく、またうーにやって来れたというのに…。大好きなたかあきと暮らせるようになったと言うのに…。それにもう帰りたくても帰れない…。るーはうーで独りぼっちだ…。そう考えると何だかとても悲しくなってくる。気がつくと大粒のなーが頬を伝って落ちていた。たかあきはそんなるーの顔を驚くように見てこう言う。
「る、るるるるーこ? 怒ってたかと思えば今度は急に泣き出したりなんかして…。一体どうしたんだ?」
「たかあき、るーを見捨てないで…。たかあきに見捨てられたらるーは、るーは…。うううっ…」
 なーが出るのも構わずにたかあきを抱き寄せて、こう言うるー。やっぱり独りぼっちは嫌だ…。そう思った。たかあきはそんなるーの顔を見つめてため息を吐きつつこう言う。
「はぁ〜、見捨てるわけないだろ? 将来の俺のお嫁さんを…。全く今日はるーこらしくないぞ? 突然泣き出したりしてさ…」
 “だって…、最近うータマやうーこのやたかあきの女友達がよくうちに遊びに来て…。全然るーと話してくれなくなったし…。それに…” なー混じりに話するー。全然声になってないとはるーも思う。でも話すたびになーが溢れて出てきてしまうわけで…。なー混じりの上目遣いにたかあきの顔を見ると、申し訳なさそうにるーの顔を見ながらこう言う。
「ご、ごめん。るーこ…。最近テストが続いててさ。このみも分からないって言うから小牧さんやタマ姉たちにテストのことでいろいろ相談しててね? るーこのことをすっかり忘れてた…。今さらこんなこと言っても許してもらえないかもしれないけど、この通り謝るよ…。…ごめんね? るーこ…」
 そう言ってぺこぺこおじぎをしてすまなそうにこっちを見ているたかあき。やっぱりたかあきはるーのことが好きなんだな? そう思うと何だが嬉しさがこみ上げてくる。でもるーを心配させたおしおき必要だな? そう考えてるーはたかあきの頬に…。
“チュッ……”
 とおしおきをする。不意打ちを食らったのか目が点になってるたかあき。なーを拭き拭きいつものように不敵に笑うとるーはこう言ってやる。
「るーのおしおきだぞ? たかあき…。たかあきが何か悪いことをしたらこうやっておしおきしてやるからな?……。さあ、おなかがすいたから何か食べに行くぞ? たかあきも用意をしろ」
 いつものようにるーをするるー。たかあきはと見るとようやく状況が分かってきたのか、頬を真っ赤に染めている。前にやったたこともあるとは思うんだが、それは感謝の気持ちのキスだったように思う。そう…、それはもう4年も前のことだ…。でも今回のキスにはちょっと嫉妬が入ってたな? そう思った……。


「あ、あんまり高いのはダメだよ? 今月はお金があまりないんだからね?…」
「分かってるぞ? たかあきが今月はピンチなのは。るーも同棲中の身だ。たかあきのお金のことくらい分からないでどうする? って言うことであそこにするぞ?」
「…あの〜。るーこさん? 全然分かっていらっしゃらないように思うんですけど…。って! そ、そんな恨みがましい目で俺を見ないでくれないかな〜。わ、わわ分かった。分かったから! キャッシュカードで何とかするから!! はぁ〜。とほほ〜…」
 ステーキ店を指差してこう言うるー。もちろん行く気はない。たかあきのほうを見ると半分諦めたかのようにカードの残高を計算しつつ歩いている。ちょっと意地悪をしすぎたか…。そう思い、たかあきの手を引くとラーメン屋に入るるー。たかあきは鳩が豆鉄砲でも食らったように呆けた顔をしていた。
「へっ? ここでいいの?」
「たかあきが、“今月はお金が苦しい”って毎回のように言ってるからな? だからここでいい。それとも何か? あのステーキ店に連れて行ってくれるのか?」
 “ご、ご冗談を…” と首をぷるぷる振ると取り繕うようににっこり微笑むたかあき。そんなたかあきの顔を見て、るーも微笑んだ。空にはるーの故郷、大熊座が輝きだした今日3月最初の日は、仮のるーの誕生日。たかあきと出会ったあの春の日ももうすぐだ…。

END