イルファさんの不良さんリターンズ


 今日11月26日は、私ことHMX−17a・イルファがロールアウトされた日、人間の皆さんに例えると誕生日ということになります。昨年は見事に瑠璃様や珊瑚様や貴明さんたちに2週間ほどツンツンされて非常に悲しい思いをしたのですが、それでも最後は冗談だって分かってほっとしたら何だか涙が零れてきちゃって皆さんの手前で泣いてしまいました。後で分かったことなのですが、このドッキリ企画を考えたのは貴明さんだったということだそうです。その時には心底腹が立って最早恒例となっている“イルファパンチ” をお見舞いしてやろうかとも思ったのですが、よくよく考えてみると私の愛する瑠璃様にも甘えることが出来ましたし、高価なプレゼントも頂いたのでそれはなしにしました。もっとも、ミルファちゃんとシルファちゃんの目が怖かったと言うのが本当のところなのですけど…。
 で、今年。今年も何かあるのかなぁ〜? と思って身構えてますが、こういう身構えた時に限って何も起こらないのが世の常で、今のところは何もなく普通に過ごしているわけなのですが、もう少し刺激的なことがあってもいいのではないかと思い、夕べ珊瑚様にお聞きすると…。
「ん〜、ウチはやりたい〜思てるんよ? でも肝心の貴明がな、今年はなんや大学の試験に備える〜言うて、勉強しててな? そやからいっちゃんの誕生日もウチらとみっちゃんたちとですることになったんよ。つまらんなぁ〜…」
 そう言ってはぁ〜っとため息を吐かれておられました。“そう言えば貴明さんも来春卒業しちゃうんですね?” と言うと寂しそうにうんとうなずく珊瑚様。私の愛する瑠璃様は、“貴明なんておらんでもええわ!!” などと言っておられますが、実際のところは寂しいんでしょうね? 口では毎日文句ばかり言ってますがどことなしか寂しそうにしてますから…って! 何を私は瑠璃様の恋敵に塩を送っているのでしょうか。それにしても貴明さんです。大学のお勉強も大変でしょうけど、もう少し珊瑚様や瑠璃様に接して差し上げてもよさそうなものなのに…。
 そう思うとだんだんと貴明さんに対しての嫉妬心がメラメラ盛り上がってくるのが自分でも分かりました。大体貴明さんは女の子に対して免疫がなさすぎなんです。それは私たちメイドロボに対しても同じなんですから…。もともと介護用に作られた私たちですからお風呂などに入るのは当たり前なんですよ。女の子が苦手にもほどがあるっていうものです。それなのに、珊瑚様や瑠璃様や環様たちと楽しそうにお話しされて…、遠目で見てはいっつも悔しい気持ちでいっぱいなんですからねっ! と言うかあれだけ女の子に囲まれて体を密着させると飛び退いちゃうっていうことは…、どういうことなのでしょう? まあまたいつぞやの不良さんみたくなって迫ってみれば分かること…、そう思いながらいつもの充電ポッドに身を任せて眠りにつく私がいたのでした。


 翌日、いつものように瑠璃様たちを送り出した後、仕舞いこんでいた学ランを取り出す私。この学ランは来栖川エレクトロニクスの所長の長瀬様(私たちメイドロボからするとお父様と言うべき人なのですが)、が学生時代に応援団に所属していたと言うときに着用していたと言う代物なのですが、珊瑚様が“男の子のメイドロボも作ってみたいなぁ〜” なんて言い出しまして、私がその実験体に選ばれて仕送られた衣服の1つなのですが…。そう思いながら、その学ランを着込みます。もちろん胸にはさらしを巻きます。少しきつくなったかしら。と言うことは胸の大きさもちょっとアップしてるってことですね? ミルファちゃんも、“また大きくなっちゃった” って言って自分の胸を見ながら嬉しそうに微笑んでましたから。情報機器の感度情報に必要なものと言うことでこの前メンテナンスを行なったときにバストアップをしたのですが、シルファちゃんは家事専門と言うことで?(本当のことを言うと対人恐怖症がまだ完全に治ってないのですが…。姉としてはとても不安なのですけど)この計画には参加してませんでしたから、帰ってくるなり、“乳お化けが2人になりやがったのれすっ!!” って言いながら私たちの方を恨めしそうに見つめてましたけど…。ボタンはせずに前開きのままにして、学生帽をやや斜めにかぶって鏡で見るとどこをどう取っても“不良さん”ですね。そう思いつつ瑠璃様の通っておられる学校へと向かいました。
 向かう途中で井戸端会議中の奥様方が私のほうを見てひそひそ話しておいででしたけど、恥ずかしさを我慢して学校へと向かいます。“そもそも私がこうして恥ずかしい格好までして学校に忍び込む原因を作ったのは貴明さんなんですからね?” と普段の私なら言いもしないことをぶつぶつ呟きながら歩いてようやく学校へ到着しました。昼休みは大抵食堂にいると言うことなので食堂の方に…。と、後ろから…。
「ちょっとあなた? 見かけない顔に制服ですけどどちら様?」
 と聞きなれない声がして後ろを見ると、ウェーブがかった髪型にリボンが特徴の女子が1人立ってました。確かイルファデータによると生徒会長さんだとか。早速ラスボスですか? でも、イルファデータには不可能の文字はないのです! ポケットに忍ばせておいたカエルのぬいぐるみをおもむろに取り出してにっこり微笑むと全力で校庭のほうへ投げつけてやりました。“ま、待って〜” と言いながら生徒会長さんは追いかけていきます。落下地点はおそらく草むらの中ですから当分は帰ってこないでしょうね? 作戦勝ちです。
 と、肝心の貴明さんは〜っと…。いた! いました。ミルファちゃんや珊瑚様や私の愛する瑠璃様も一緒です。しかも、瑠璃様ったらあんなに楽しそうに……。むぐぐぐぐっ。私でも滅多にお目にかかったことがないのに、あんなに、あんなに楽しそうにお話をされちゃって…。目には涙、いいえ! これは汗! 汗なんです!! が、だばだば流れて心にも滝のような汗がそれこそ土砂降りの雨のように流れてきて、ふと気が付くと貴明さんの前、仁王立ちで立ってました。
「河野貴明、今ここで決闘を申し付ける!!」
 颯爽と現れた私。突然の私の来訪にちょっとみんなびっくりしたようで声を失っていました。と、私の愛する瑠璃様が、
「イ、イルファ? 何であんたがここにおるん? って! 何やねんな、そないな恥ずかしい格好して…」
 こう言って私のほうを少々驚いたように見つめながらそう言ってきます。わ、私だって恥ずかしいんですっ!! でも瑠璃様は貴明さんといちゃいちゃいちゃいちゃ…。許しません! たとえ天が許しても私は許しません!! “イ、イルファさん? と、とりあえず落ち着きましょう?” そう言って手を高々と挙げながらぶるぶる震えている貴明さん。多分この格好に恐ろしい記憶が呼び起されちゃったのかも…。でも一発“イルファパンチ” をお見舞いしないと私の気が収まりません。ロボット三原則もこの際無視ですっ!! ミルファちゃんは、“お、お姉ちゃん。お、お、落ち着いてよ〜!!” と少々ビビりながら言っていますがこれが落ち着いていられるものですか! とにかく! 貴明さんに鉄槌を下さなければ収まりません! そう思って貴明さんの胸倉を掴んで今にも一発お見舞いしてやろうかという刹那…。
「いっちゃん! いじめ、格好悪いで?…。それに今日いっちゃんの友達がここに集まった理由って何や〜思うん?」
 そう言って少々険しい目つきで私のほうを見つめる珊瑚様。“へっ? それってあの…。も、もしかしてとは思うのですけど、私のお誕生日の相談か何かですか?” と言うと一応にみんながうんと頷いていました。“お姉ちゃんのお誕生日くらいちゃんと覚えてるよ〜。ダーリンだってこの通り参加してくれるんだから〜。私だけお祝いしてもらってないのに〜。ふんだっ!” そう言ってちょっとぷぅ〜っと頬を膨らませるミルファちゃん。へなへなへなっとまるで糸の切れた操り人形のように腰砕けで座り込む私。そうして私の不良さんリターンズは呆気なく終わりを迎えるのでした。


 夜も帳を降りて貴明さんの家。シルファちゃん曰く、“ご主人様とシルファのおうち(と、お邪魔虫一体なのれすっ!)” と言うことらしいです。後で聞いた話なのですが、今年はみんなで私のことを無視して最後にサプライズでびっくりさせようとする作戦だったようです。まあ昨年とほぼ同じ感じだったわけですが、昨年よりもひどくなってるような気もしてなりません。ミルファちゃん曰く、“お姉ちゃん、すぐ気付いちゃうから今年は本格的にやろうってダーリンが言い出したんだよ〜?” と言って、はっ! と口を押えてます。やっぱり元凶は貴明さんだったんですね? そう思うと無性に腹が立ってきました。でも“イルファパンチ”はしません。その代わりと言っては何なのですが…。
「イ、イルファさん? 何で俺の腕に胸を押し当ててくるんですか? は、はるみちゃんのまねですか? って耳に息を吹きかけないで〜っ!!」
 お色気で迫る私がいたのでした。別にミルファちゃんのまねではありませんが瑠璃様に毎日やっていることをやっているだけで…。でもミルファちゃんも同じようなことをやってるんだと思うとあながち私たちが姉妹であることは間違っていないのかも…。ミルファちゃんは、なるほど〜と言うような顔で私たちのほうを見つめながらメモなんて取ってますし、珊瑚様は“いっちゃんと貴明、ラブラブやぁ〜” と言っていつものほんわか笑顔。シルファちゃんは向こうの部屋の隅っこで何やらぶつぶつ言ってます。多分、“イルイルと一緒にいたければ一緒にいればいいのれすっ!!” とこう言っているのでしょう。時々こっちのほうを見てはふんっ! とそっぽを向いていますから間違いはないかと…。で肝心の私の愛する瑠璃様はと言うと、
「貴明、エロエロや〜」
 と言って面白がって言っています。が、前述のとおり瑠璃様には毎日のようにやっている私からするとぷぷぷっと笑いがこみあげてくる訳で…。そんな今日11月26日の夜7時、私ことHMX−17a・イルファのロールアウト、もとい、お誕生日なのでした。

END