拗ねた顔と誕生日


 突然だけど困った事態になってしまった。今日12月4日…。俺の目の前には嬉しそうに微笑む目が一対…。その後ろでは涙目で地面にのの字を書きながら恨めしそうにじ〜っと睨んでいる目とギロリと俺の顔をまるでこの世に恨みを残して死んでいった怨霊のように睨んでいる目が二対。そう、今日12月4日はシルファちゃんの誕生日なわけだ。元来メイドロボに誕生日と言うとおかしな話かと思うけど、俺はそう言うのもあってもいいと思う。現に今、俺の目の前嬉しそうに微笑むシルファちゃんの顔を見ながらそう思った。と後ろのほうでは、
「いいもんいいもん。ダーリンが浮気した〜ってたまきちゃんやこのみちゃんやみんなに言いふらしてやるんだから…。いいもん」
「た、たた、たかちゃんの浮気者〜っ! 花梨と言う可愛い彼女がいながらなんなんよ〜っ!! ぶぅ〜っ!!」
 部屋の隅っこで体育座りをして黄昏ているのはもう一人の俺の家の(と言うか俺専用の)メイドロボ、ミルファちゃんこと河野はるみちゃん。で、さっきからぶつぶつ呪いの言葉か何だか知らないけど、その言葉を呟きながらこっちを恨みを込めたジト目で睨んでいるのは俺が一応所属しているミステリ研究会会長様、笹森さんだ。ってなに? “彼女”って…。と言おうものなら本格的に呪われそうな感じなのでそれは言わないことにする。でも何で2人が拗ねているのかと言うと、それは俺が不用意に言った一言だった。
「三人とも誕生日が近いんだから一緒にお祝いしない? そうだな〜。準備とかもあるから4日の日くらいにしようよ? ねっ?」
 と…。いや、本当に不用意な発言だったとは思う。特に笹森さんは…。先週イルファさんのお誕生日会をしたことは、ここにいるはるみちゃんとシルファちゃんは知っているけどその前に笹森さんから“12月1日、楽しみに待ってるんよ〜” って念押しに言われていた訳で…。それを反故にして4日にずらそうとしたんだから笹森さんが拗ねるのも当然のことだと思う。でも藁人形に五寸釘はないよなぁ〜っとも思う。ご丁寧に俺の顔写真(どこで仕入れたのかは知らないけど)が貼り付けてあったし…。ひっぺ返すのに苦労したよ。で今日。登校時に会って挨拶しようと思ったら、“超ご機嫌斜めですっ!!” てな顔でぷいっと視線をそらされてしまった。雄二に相談したところで、“恋愛ブルジョアジーの話なんざ興味ねーよっ!!” と目をグリグリさせながら言われそうだし、タマ姉になんか相談しようものなら小一時間お説教を受けて、挙句の果てにこのみを呼んでこのみにまで、“このみ姉” で文句を言われそうなのでそれは絶対の秘密にしておく。って、この前、イルファさんの誕生日のあくる日妙にむぅ〜っとした顔のこのみに言われたんだっけ…。あの時ほど本気で首を括りたいと思ったものだよ。一応俺は誰とも付き合ってはいない。はるみちゃんは“ダーリンと結婚するんだもん” とか言ってるけどね? ははは…、はぁ〜……。疲れる。で何とかこうにか笹森さんを言いくるめて家にまで連れてきたんだけど…。
 まさかはるみちゃんの誕生日も忘れてるとは思わなかった。ここまでくると自分の不甲斐なさがよく分かる。“昨日だったんだね? 誕生日…” おそるおそる聞くと、“う〜〜〜〜っ!!” と非難の目を向けてくる。どおりで昨日の朝はルンルン気分な様子だったのに寝る頃になるとぷぅ〜っと頬を膨らましてたっけ…。後悔先に立たずとは昔の人はよく言ったものだなぁ〜と思う。誕生日会自体別に4日にしなくてもそれはそれでよかったんだと思う。うん。でもなぜかその時は4日という日にちしか出てこなかったわけで。しかも4日の日がシルファちゃんの誕生日だっていうことをすっかり忘れていた俺はこうしてシルファちゃんを除く二人から睨まれているわけで…。
「ご主人様! 早くケーキに火をつけるのれす! ミルミルとかりかりはおとなしくシルファのお誕生日を祝うのれすよ〜。ふっふーん」
 いかにも得意げに言うシルファちゃん。まあ、今までが今までだっただけにこれも仕方のないことなんじゃないのかな? とも思う。うん。だって笹森さんには怪しい実験にいつも借り出されているみたいだし(これを言うとはるみちゃんも同じなんだけど…)、はるみちゃんとは家でいっつも俺をめぐっての抗争を繰り返している。まあ勝つのは九分九厘はるみちゃんのほうなんだけどさ…。で、その被害に巻き込まれてひっちゃかめっちゃかにされるのはいつも俺なんだけど…。この間も、どう言うわけだか知らないけどお料理対決になっちゃって大変だったんだからね? お腹がはちきれるかと思ったくらいいっぱい料理を食べさせられて…。よくよく考えてあんないっぱいの料理を一人で食べられたもんだと思った。でも味はどっちかって言うとはるみちゃんの方が美味しかったよな? そんなことを思いながら拗ねている二人の方を見る俺。相変わらず体育ずわりをしてのの字を書きながら涙目で睨んでいるはるみちゃんと、ぷぅ〜っと頬を極限にまで膨らませて未だにギラギラした目つきで俺を睨んでいる笹森さん。そんな俺の態度にちょっとお冠なシルファちゃんはにこにこ顔からちょっとむぅ〜っとした顔になりつつこう言ってくる。
「ご主人様! 何をぼ〜っとミルミルやかりかりのほうばっかり見てるんれすか?」
「いやさ、もう許してあげようよ…。笹森さんだって悪気があったわけじゃないんだからさ…。はるみちゃんだって同じようなものでしょ?」
 ぷぅ〜っと頬を膨らませたシルファちゃんを尻目に、相変わらず床にのの字を書きながら俺の顔を見遣っているはるみちゃんと、ぷく〜っとまるでフグのように頬を膨らました顔の笹森さんを横目に窺いながら妥協点を探ろうとする俺。何とか合わないものかな〜…。と考えてみるけど、これと言って妥協点が見出せない。はるみちゃんもシルファちゃんも笹森さんとは全然違う趣味をしてるし、それにシルファちゃんなんか夜のおトイレだって一人で行けないんだから…。一緒に寝ているはるみちゃんを起こして行ってるそうだから、はるみちゃんにちょっと同情しちゃうよねぇ〜? と横を見ると今までのにこにこ顔がウソのように、ぷぅ〜っと頬を膨らませて笹森さんのようにジト目でこっちを睨むシルファちゃん。って俺、また独り言? 自分で自分を指差しながらそう聞く俺に、
「ど〜せ…、ど〜せシルファは夜一人でおトイレに行けなくてお漏らししちゃう子れすよ〜。怖い夢を見ておねしょしちゃう子れすよ〜。何れすか? ご主人様! 笑いたかったら笑うといいれす!! あ〜はっはっはっはっはって!!」
「いやさ、そこまで言ってないと思うんだけど…。って言うか自分で自分の欠点をさらけ出すのはやめようよ…。俺の言葉で傷ついたのならこの通り謝るから…。それから三人仲良くお祝いしよ? ねっ?」
 そう言って頭を下げる俺に、“わっ、分かればいいのれす。分かれば…” と言いつつもいつもの笑顔に戻るシルファちゃん。と向こうのほうを見てみると相変わらずどよどよとした雰囲気が漂っている。ふう、仕方ないか。そう思いどよどよした空気の渦中の二人に近づく俺がいるのだった。


「約束だかんね〜。たかちゃん。花梨会長の世紀の大実験のお手伝いしてくれるの…。もし破ったらこれで呪っちゃうんよ〜。ふふふっ」
 そう言うといつもの呪いの3点セットを取り出して怪しく笑う笹森さ…じゃなかった会長様。その横からにこにこ笑顔の俺専用? メイドロボ、はるみちゃんはこう言ってくる。
「わ〜い。一日ダーリンと誰にも邪魔されずに過ごせるんだ〜。美味しいものいっぱい作ってあげるね? あ〜っ、寂しかったら一緒に寝てあげてもいいよ〜? だって私はダーリン専用なんだから〜。うふふ〜」
 そんなこと言ったらまた誤解がうまれる〜っ!! と横を見れば、案の定会長様が藁人形を取り出して、“メイドロボなんかに現を抜かしてるたかちゃんが悪いんだかんね〜?” とか何とか言って藁人形を打ちつけようとしてるしっ! シルファちゃんはシルファちゃんで“そんなにミルミルのことが好きだったらず〜っとミルミルと一緒にいるといいれすっ!!” と言っていつもの段ボール箱に入って背中を向けて、“今日はシルファのお誕生日なのれすよ? それなのにこのらめらめご主人様ときたら、ミルミルやかりかりのほうばっかり見てるんれすから…。……寂しいのれす…”って言ってるし…って最後のほうがよく聞き取れなかったけどなんて言ったのかな? って? 好き? そう思うが早いかはるみちゃんが飛びついてくる。当然ぽよんとした感触も俺の胸に押し付けられるわけで…。
「わーい。ダーリン、私のこと好きだったんだ〜。私もダーリンのことだいだいだ〜い好きだよ〜っ!!」
 こう言ったらもうダメだ…。悪夢が俺の頭をよぎる。と目の前にはどよんとした目つきの会長様。後ろにはいつの間にか立ち上がってぷぅ〜っとはち切れんばかりに頬を膨らませてはこっちを睨むシルファちゃん。前門の虎、後門の狼とは言ったもの。今の状態が全くそれだった。と会長様が突然大黒柱のところに例の藁人形を持ってくる。“たかちゃん殺して花梨も死ぬんよ〜っ!!” カンカンカンカンッ!! 最悪の状況だ。シルファちゃんも会長様の見様見真似で、“ミルミル、覚悟するのれす〜っ!!” と言いながら会長様と同じように藁人形を打ち付けている。っていうか何で二つもあるの? それ以前にシルファちゃん、こう言うの苦手じゃなかったの?
 って!! そんなことはどうだっていいんだ。まずは笹森さんを取り押さえなくっちゃ…。と思って藁人形に五寸釘を打ちつけている笹森さんを取り押さえようとしてむにっと柔らかいものを掴んだ。いや、掴んでしまったと言うほうが正しいのかな? と、“あんっ。たかちゃんってば大胆なんだから…” と妙に色っぽい声を出してぽっと顔を赤くする笹森さん。自分の手を見る。むにむにっと掴んだほうを見て声にならない声をあげた。と同時に、
「ダ、ダダダダダーリン!! 何そんな子のおっぱいを掴んでにやけてるの? あたしのを掴めばいいじゃないのよ〜!! せっかくダーリン好みにおっぱい大きくしてもらったのに〜!!」
 とはるみちゃんが今まで以上にぷぅ〜っと頬を膨らませて俺の方を睨みながらじりじり近づいてくる。
「ふ、ふふふ不潔れす!! ご主人様! かりかりのおっぱいを掴むなんて…。でもミルミルのじゃなかったらけれも良かったれすけど…。れすけど今日はシルファの誕生日なのれすよ?! らめらめご主人様!!」
 ギロリと睨みつけるように俺の顔を見ながら近づいてくるシルファちゃん。笹森さんは笹森さんで、“花梨の大事なところを掴んじゃったたかちゃんはもう花梨をお嫁さんにするしかないよね〜” と言いつつじりじりとこっちへ近づいてくる。ついには壁際まで追いつめられる俺。“さあ、どの子を選ぶ(の?・の〜?・のれす?)” と詰め寄る3人。顔を見るとこめかみがぴくぴく動いてる。と一瞬の隙を突いて逃げ出す俺。と3人は…、
「に、逃げる(なぁ〜!!・ないでよ〜っ!!・なれす〜っ!!)」
 と言って町内を追いかけまわす今日12月4日、俺の同級生でミステリ研会長様のの笹森さんと、俺専用のメイドロボ・はるみちゃん、それに俺のところに来ているもう一体のメイドロボ・シルファちゃんの合同誕生日会だ…。

おわり

おまけ

「う、う、うわぁぁぁぁ〜。さ、さささ、寒い〜っ!! し、ししし死んじゃう〜! 死んじゃうってば〜!! ななな、中に入れて〜っ!!」
「そんなこと言ってもだ〜れも聞こえないんよ〜。たかちゃん。ふふふっ…。実験は始まったばっかりなんよ〜。たかちゃんはだらしがないなぁ〜。あっ、とはるみちゃんとシルファちゃんも手伝ってね?」
「うん、分かったよ。花梨ちゃん。……元はといえばダーリンが悪いんだからね〜。誰が好きなのかはっきり決めてくれないから…。ぶぅ〜
「わ、わわわ分かったれす…。ミルミルの言う通りれす…。 そしたらシルファもこんな怖いことをしなくて済んだんれすからね? このらめらめご主人様は…
 あの後、運悪く捕まってしまった俺。会長様の実験に寒空の下、下着一枚で小一時間家の庭に放置されていた。って言うか始まったばっかりなの? この実験……。ダンダンダンと窓ガラスを叩こうものならご近所中に俺のこのあられもない格好を目撃されかねないし、このみにでも見つかってしまえばそこでジ・エンドとなってしまうわけで…。でも、唐辛子の腰蓑に腕輪、首飾りと言うある意味死んだほうがましな状態の格好で俺は寒い真冬の空の下…、こうして扉を叩いている。外は冬の寒風が吹き荒ぶ。が、俺の心の中のほうがもっと酷く吹き荒んでいるよなぁ〜…。そう吹雪にも南極のブリザードにも似たような状態で…。そう思いつつ庭の扉を必死に叩く今日12月4日、誕生日を忘れたからっていくらなんでもそれはないんじゃないのかな? と思うシルファちゃんの誕生日だ…。……くしゅんっ!!……。

ほんとにおわり