思い出の切り株


 今日11月3日は私の誕生日。だから今、隣りにいる彼と一緒にウインドウショッピングなんかを楽しんでいるところなんです。街の街路樹はもう秋色に染まっている箇所もあって、とてもいい雰囲気…。彼が言うには、今年も暖冬だって言うことらしいです。私は暖かい冬も好きですけど、やっぱり冬らしい冬もたまにはいいな…。そう思いつつ、彼のほうを見るとこっちを不思議そうに見つめていました。
「どうしたの? 何か真剣そうに悩んでるみたいだったけど…」
「ううん、ちょっと今年の冬のことで考え事をしていただけだから…」
 こう言うと彼の顔を見てにっこり微笑む私。でも、一つだけ残念なことがある。それは…、一本のイチョウの木。昔私がこの町に住んでいた頃…、もうかれこれ10年くらい前になるだろうか、街のどこからでも見られる大きなイチョウの木があった。私がこの町で彼と初めて会った場所もそのイチョウの木だ。でも彼はもう覚えてないかもね? そう考えると不思議なくらいに懐かしく、そして寂しく感じてくる。“ちょっと付き合ってほしいところがあるんですけど…、いいですか?” と私。内心ドキドキしている。だって心臓の鼓動が外にまで聞こえそうなんだもの…。彼は…、“別にいいけど…、でもどこに行くの?” とちょっと不思議そうに聞いてくる。
「行けばきっとわかりますよ? 行きましょ? 貴明さん…」
 そう言って彼の手を優しく掴むと歩きだす私。はてな顔の彼の顔をがおかしくて、“うふふっ” って笑ってしまう。そんな私の顔を見て、彼はますますはてな顔になっていた。


 彼と手を繋ぐ。温かな彼の温もりが私の手を通して伝わってくるのが分かった。とてもいい気持ち。晩秋の風はやや冷たく私たちの間を吹き抜けていく。でも私と貴明さんの間を通り抜けてく風は温かな風になっているんだろうと思うんです。これは私だけの秘密ですけど…。てくてくと歩きます。途中でよった小物店で可愛いアンティーク調の置物を見つけて見ていると、“欲しいの?”と貴明さん。“いえ、ただいいなぁ〜って思って…” と私。でも本当はちょっと欲しいなぁって思ってるの…。と私の心を見透かしていたのかニコッと微笑むと、
「俺も実はプレゼント何にするか迷っちゃっててさ…」
 と照れ笑いを浮かべる彼。そんな彼のことがもっともっと好きになってしまいました。“ちょっと待ってて?” と貴明さんは私にの背中を押してお店の外に出すと再びお店の中へ…。何をやっているんだろう…。ウィンドウ越しの彼の後ろ姿を見つめる私。やがて、にこにこ顔で戻ってくると、きれいにラッピングされた箱を私のほうに差し出すとこう言うんです。
「優季、お誕生日おめでとう…」
 って…。照れ屋な彼は顔を、真っ赤にしてこう言うの。私も顔がリンゴのように真っ赤になっているんでしょうね? だって…、なんだか顔が熱いんだもの…。彼のプレゼントを手にしっかりと抱きとめて歩く私。やがて目的地が遠くに見えてくる。貴明さんも分かったみたい。“あっ” って小さな声が聞こえてきたんだもん。うふふっ…。
 そう、そこは寂れた神社。何を祀っているのかさえ分からないくらいの神社。その境内に一本の大きなイチョウの切り株があります。かれこれ10年くらい前、古い木に登っていた私と同い年くらいの女の子がその木から落ちて大怪我をしたってニュースが流れたのは…。そこでこのイチョウの木も切られたんですけどね?…。切られるまでどれくらいの長い年月を過ごしてきたんだろうと思えるほどの切り株。当時の私のお気に入りの場所でした。昔、ここの近くに住んでいた私は一人でよくここで遊んでたっけ。木があったときも、切り株になっちゃった後も…。遠くで仲良く遊ぶお友達を見ては羨ましいな…、私も入れてほしいなってそう思ってた。何度も行こうとしたけれど出来なかったの…。なぜって? それは今からじゃ想像も出来ないけれど、昔は“超”がつくくらいの引っ込み思案だった私だったから…。誰とも話せないし、遊び相手もいなかった。だからこの神社で一人遊んでいたの。そう、私の横で懐かしくその場所を眺めている彼に出会うまでは…。
 その日も私は一人で遊んでた。家はお父さんとお母さんの口喧嘩がたえなかったから、私はいつも一人この神社で遊んでいたの。珍しい落ち葉や木の実なんかを切り株に並べて、早くお父さんたちが仲直りできるといいなぁ〜って思ってたんです。もちろん神様にもお願いしたりもしましたよ。そのとき、
「高城さん!」
 私の名前を呼ぶ声が神社の向こうから聞こえて来たの。見ると同級生で私の唯一のお友達の貴明くんがこっちに歩いてきていたんです。当時私は“貴明さん”じゃなくって“貴明くん”って呼んでたんだよね? えへっ。“どうしたの? 貴明くん” って聞くと、
「今日は雄二たち、家の都合でどこかに行っちゃってさ。このみはこの間の体育大会で頑張りすぎちゃったのか風邪引いちゃって、しばらくは家で休養するって…。だから僕一人だけで、散歩してたんだよ…。でも家の近所にこんなところがあるなんて知らなかったなぁ〜…」
 そう言って辺りを見回す貴明くん。その表情がとっても面白くて思わず“ぷっ” って噴き出しちゃった。貴明くんは驚いた顔になっちゃって…、“ど、どうしたの? 高城さん? 僕、何か言った?” って真面目に返すものだから余計に面白くて最後は笑ってお話しするのに、30分くらいかかっちゃったんだよね? あのときはごめんなさい…。
 でも、それからここは私と貴明くんの二人だけの遊び場になったんだよね? そう、向坂くんたちにも内緒の2人だけの遊び場に…。


「あれから8年だっけ…。でも変わってないよね。ここは…」
「はい、そうですね? ねえ、貴明さん。覚えてますか? ここで一緒に将来の夢について話したこと…」
 そう言って私は8年前に座った切り株へ腰を下ろしました。しばらく辺りを見回していた貴明さんも私の横に座ります。“貴明さんの夢って確か宇宙飛行士でしたよね?” そう聞く私に、ぽっと顔を赤くしながら、“も、もうその夢は諦めたよ…” って言う貴明さん。“じゃあ、今の夢は?” って聞くと、赤くした顔をもっと赤くして、
「優季とこうして二人で笑ってることかな? ってさっきから俺ばっかり喋ってるけど、優季もあったよね? 将来の夢…。あのときは上手く話をすりかえられちゃったけど、優季の夢って何だったの?」
 私の顔をまじまじと見つめるとこう聞いてくる貴明さん。途端に私は完熟トマトのように真っ赤になってしまいます。あのときの夢…。今も変わってないもの……。だから私はこう言うの…。
「貴明さん、女の子に夢を聞くなんて野暮ってものですよ?」
 ってね? “な、何だよ〜? それ〜” ってちょっと拗ねた言い方をする貴明さん。でもこれだけは教えられません。だって…、本人の前で言っちゃったらやっぱり恥ずかしいですもん。よいしょっと切り株の上に乗ると、気持ちのいい秋風が長い髪の毛をさらさら揺らしていきます。立ち上がる貴明さんの背中に、えいって抱きつく私。貴明さんはもう火が出るほどに真っ赤になると、
「優季、お、お、降りてくれない? む、胸があああ当たってる…」
「きゃっ!!」
 飛びのくと恥ずかしそうに貴明さんの顔を上目遣いで見る私。おそらく顔は貴明さんと同じように真っ赤だろう。だってこんなに火照ってるんだもん。でも、それもお似合いかもしれませんね? そう思うと自然に笑みがこぼれる。そんな今日11月3日は私の18回目の誕生日です…。

END