「ぐるるるるる…、こうのたかあき…、ぐるるるるる…」
爆発髪の少女が一人、夕闇に沈む学校の廊下を歩いていた。ある男子生徒を探して…。目を逆三角形に尖らせて不気味に吼えながらきょろきょろとあたりを見回していた。
タマゴサンド騒動記
「雨だねぇ〜。たかちゃん…」
しとしとと降る雨空を見ながら、花梨が一言そう言った。ここは第二体育用具室、またの名をミステリ研究会部室。俺はここの部員だ。その俺の前に座って、退屈そうに頬杖を突きながら外を見る女の子…。笹森花梨。この研究会の会長であり、一応、俺の彼女だ。
「たかちゃん! 一応ってことはないでしょ? 正真正銘の彼女なんよ? 私は…」
そう言って俺の頬に手を持って来て自分のほうに向かす花梨。顔を見るとぷぅ〜っと拗ねた顔をしていた。はぁ〜。また独り言か……。そう思って花梨の顔を見ると、さらにぷぅ〜っと頬を膨らましていた。上目遣いで俺の顔を睨んでくる花梨。
「あ、あの……、笹森さん?」
じ〜っと上目遣いで見つめてくる花梨に少々怖くなったのか、俺はご機嫌を伺う。でも花梨は沈黙したままじっと俺の顔を上目遣いで見つめていた。まるでどこぞのお嬢様のようにじ〜っと俺の顔を見つめている。れ、霊が後ろにいるのか? そう思い振り返ってみるが、さっぱり分からない。
「タマゴサンド…。タマゴサンド、買って来て……」
「へっ? タ、タマゴサンド?」
聞き返すとうんと頷く花梨。花梨といえばタマゴサンド、タマゴサンドといえば花梨というほど、俺の中では? こいつのタマゴサンド好きは有名だ。当の本人は、
“私って、そんなにタマゴサンドばっかり言ってる? そっかなぁ〜?…”
などと言ってるがこいつは絶対毎食タマゴサンドでも飽きないだろうな……。現に出会った頃は、“私の体の80%はタマゴサンドで出来てるんよ?”とか言ってるし…。ははは…。そう思って、ふと前を見ると、
「う、ううう〜〜〜〜っ!!」
花梨が俺の顔をぐぐぐっと睨みつけていた。はぁ〜、大きな独り言だよな? 俺……。そう思いながら俺は購買部へと向かった。
購買部に着くと早速タマゴサンドを探す。が…、お目当てのタマゴサンドはどこにもなかった。おばちゃんに聞くとさっき売り切れたんだそうだ。今日は土曜日。室内練習の運動部員なんかが持っていったんだろう。そう思っていると、おばちゃんが思い出したようにこう言う。
「タマゴサンドなら、前にお皿を投げてあたしが叱りつけた子がいたでしょ? その子がさっき持ってたわよ? もし売ってくれそうだったらその子から買って? あんたの友達だから、言えば売ってくれるでしょ? 仲良さそうだったし……」
おばちゃん……。それ絶対間違ってる。あいつは俺のこと仇敵のように思ってるし…。そうは思ったがおばちゃんの微笑みに何も言えず、俺は一言お礼を言ってその場を後にした。
あいつを探してあっちこっちと見遣っていると意外にもあいつは教室にいた。ご機嫌良さそうに昼飯を食べている。……って? そ、それは?
「ちょっ、ちょっと待ってくれ〜〜!!」
「へっ? あっ、ああああああああああっ!! あ、あたしのタマゴザンドがぁ〜〜〜〜っ!!」
するっ…、ひゅ〜っ……。べちょっ!!
俺が声をかけた拍子にあいつの手からタマゴサンドが滑って床に落ちる。あっ…、ま、またやってしまったか?…。あいつはこっちをぎろりと睨む。見ると唇を噛み締めている。噛み締めている唇がぷるぷる震えていた……。
「ま、また…。またあんたなわけね? この前も、その前も、あのときも…」
こそあど言葉でそんなことを言うと由真女史は俺の顔をぎろりっと睨んでくる。そう、こいつの名前は長瀬由真。俺にいろいろ勝負を挑み、自爆してはこっちを睨んでくる厄介なやつだ。ちなみに本人は心外だと言っている。自分を知らないやつだ…。
「どうしてくれるのよっ!! あたしのタマゴサンド!! 購買部にあれ一つだけだったのよ?! いつも誰かに取られちゃうから、今日はツイてるなって思ってたのにっ!! 弁償して!! 弁償!!」
「なっ? わ、分かった、分かったから…。そんな顔して睨まないでくれ〜っ!!」
どこぞのマシンガン女のように喋りまくる由真女史。そんな由真の迫力に押され何も言えない俺。って由真もタマゴサンド好きだったの? そう聞くと、ぷいっとよそを向きながら……、
「そうよ……。だから今日の最後の楽しみに取っておいたのに…。弁償してよ!! してくれなきゃ地獄の果てまであんたを追いかけてやるんだからっ!!」
そう言うと、またぎろりとこっちを睨む由真。に、逃げられない…。肩をわなわな震わせて睨みつける由真の顔を見て俺はそう確信した…。
由真を連れて一度ミステリ研に戻る。ちなみに由真は怪訝そうな顔で俺を睨んでいた。俺が隠れてエッチなことでもするんじゃないかと思ったんだろうなぁ。まだ疑ってるわけね。俺のこと…。はぁ〜あ。ため息をつきながらガラガラッと扉を開けると花梨が机の上に突っ伏していた。
「あっ! さ、笹森さん! だ、大丈夫?!」
「た、タマゴサンド〜。タマゴサンドはぁ〜? たかちゃん…」
ここでないと言ったら花梨はガクッとなるだろうな…。そうなってくれたらどんなにいいことか…。でも、そういうことは言えない俺…。雄二に“女に弱いくせに甘いんだからな…”ってよく言われるが全くその通りだよな…。そう思った。って、笹森さん? な、何でこっちを睨んでいるのかな〜?
「ふっふっふっ…。たかちゃ〜ん。わ、私の、私の命の次に大事なタマゴサンド…。床に落として捨てたんだってね〜……。ふふっ…。ふふふふふっ……。こ、この恨み、晴らさでおくべきか……」
ふお〜っ、ふお〜っと、ヤバそうな荒々しい息を吐き出しながら、俺の顔を睨みつける花梨。お、俺が考え事をしてる隙に、つ、告げ口しやがったなぁ〜!! 由真〜っ!! だいたい落としたのはお前じゃないか?! ええっ?! 何で俺のせいになるんだっ!!
って、由真は? 後ろを見るがそこには誰もいなかった。
「あ、あは、あは、あはははははは……。に、逃げろ〜っ!!」
花梨は狂気に満ちた顔でこちらを睨みつけてくる。そう言うと俺は一目散に逃げ出した。血相変えて追いかけてくる花梨。後ろを振り向いて謝ろうとは思ったが…。
「たかあき〜〜っ!! 待て〜〜っ!! 折檻しちゃる〜〜っ!!」
とか言って、まるで鬼の如く追いかけてくる花梨に弁明も通じようはずもなく……。まるで花梨があの傍若無人なお姉様のように見えたのは絶対秘密だ…。
そうこうして花梨から逃げていると…、俺を陥れた女、由真発見。あいつめ…。意気揚々と廊下をスキップなんかしているぞ…。くそ〜っ、俺がこんなになってるっていうのに…。……つ、捕まえて道連れにしてやる!
…その時、俺は女の子が苦手だと言うことを忘れていた。気がついたのは翌朝、目が覚めてからのことだ。目から火が出るほど恥ずかしかったことを日記に記しておこう…。はぁ〜……。
で、今現在、由真の手をガシッと掴み、そこらへんにいた女生徒の手をもう片方の手でガッシリ掴んで走り出した。由真が何やら怒鳴っているが気にしない。元はこいつが悪いんだから…。
「ちょちょ、ちょっと?! あんた女の子が苦手だったんじゃないのっ?」
「うるさい!! 俺を置いてけぼりにした罰だっ!! きりきり走れっ!! きりきりっ!!」
「あうあっ、お、お助け〜〜〜〜っ!!」
「な、何であたしまでぇ〜。あ、あんまり早く走らないでよ〜っ。貴明くん…。って、痛い、痛いってばぁ〜。うっ、ううっ、うわぁぁぁぁぁ〜〜〜ん」
ふと愛佳の声がして、横を向くと俺の左手に愛佳の右手が握られていた。顔を真っ赤に染めながら俺の手を見つめて走る愛佳。そこで、初めて由真と一緒に連れ出した女生徒が分かる。
そうこうしているうちに花梨は疲れてきたんだろうか。だんだんと声が遠くなっていった。やがて声は聞こえなくなる。ほっと一息つくと握っていた右手を離す。が…、
「あうあ〜っ!! は、離すなぁ〜…。ひぃ〜〜っ!!」
どんがらがっしゃ〜ん…。由真は慣性の法則に抗えず、壁に衝突してしまった。殺ってしまったか? と思い壁を見ると、白パンツを派手に露出して、由真が壁とキスしたままぴくぴく痙攣していた。
「ゆ、由真がっ……。由真が〜っ!! 貴明くん!!」
「ああ…、見事な最期だったな……。ありがとう。お前の死は無駄にはしない……」
「ちょ、ちょちょ、ちょっと!! 誰も死んでなんかない!! それに、あたしのお尻に話しかけるな!!」
死の淵より復帰したのか、お尻に話しかけていた俺を蹴飛ばして立ち上がると、由真は俺の顔をこれとない表情で睨んだ。いつもの怖い顔より数十倍も怖い顔をして俺を睨んでくる。ぎろりと睨むその顔はまるでさっきの花梨と同じようだった…。
「こうのたかあき〜っ…。もう許さない、許せない、許すもんですか〜っ!! そこに直りなさい!!」
3段活用のようにそんなことを言うと、由真はびしっと俺を指差す。挑戦的な目だ……。
「ゆ、由真〜。ちょっとやめてよ〜っ!!」
愛佳が制止に入る。委員長マジックと言うか何と言うか、愛佳の一言で由真は我を取り戻したようだ。俺はほっと安堵のため息をつく。落ち着いたところで状況の分からない愛佳が俺に聞いてくる。
「……ねえ、貴明くん。何かあったの? あたしと由真の手をいきなり引っ張って…」
「えっ? あっ? ああ……。それは…」
しどろもどろになりながら言い訳を考える俺。由真が怖い顔で俺を睨みつけたまま今までの経緯を話す。が、話を聞いていると俺が全面的に悪いようになるので、補足を付けておく。まあ、そりゃ一番の原因は俺なんだけどね?…。
「ふぅ〜ん。そうなんだ…。でも不運だよね? 貴明くんも由真も、笹森さんも…」
そう言って何かを思案するような感じの愛佳。今頃花梨はどうしてるんだ? ほかの人に被害が出てなきゃいいけど……。
その頃…、2年B組では…。
「おらぁ〜。河野貴明〜!! どこ行った〜!!」
「ひぃぃぃっ!! 気持ちいい苦しい〜〜っ!!」
貴明の腐れ縁の友達、向坂雄二にコブラツイストをかけている、ミステリ研会長・笹森花梨の姿があった。むにゅっとしたものが雄二の体に纏わりついてくる。姉には劣るもののこれはこれでいいものだと雄二は思った。周囲はさながらプロレス観戦のようだ。
“おーとーせっ、おーとーせっ!!”
うねりのような勢いで怒涛の如く押し寄せる歓声。その声をバックに雄二は落ちた。花梨は一人…、
「タマゴサンド……、ぐるるるるる……。たかあき……、許さない……、ぐるるるるる……」
悪魔のようにそんなことを言うと、2年B組を出て行った。後には、雄二の嬉々とした表情の屍があるだけだった……。
愛佳に事情を話し、とりあえず2年B組に戻ることにした俺たち。まあ由真は隣のクラスだが、今は放課後なので問題はない。……というか原因はこいつなんだっ!!
“タマゴサンドなんかのためになんであたしが……。だいたいあたしは被害者なのよっ?!”
由真が俺の顔を睨みながらぶつぶつ文句を言っている…。う、うるさいやい!! もともとお前がタマゴサンドなんか買わなきゃこんなことにはならなかったんだっ!! 俺はそう思った。
責任転嫁も甚だしいな…、俺…。自分でもそうは思ったが、そう思わざるを得ない俺の心境も分かってくれ!! と言いたい…。そんなことを思いつつ、教室に戻ると…、
「「ひっ、ひいいいぃぃぃぃぃぃぃっ!!」」
先に教室に入った愛佳と由真の悲鳴が木霊する。後ろに誰もいないのを確かめて俺も教室へ入った。そこには……。悦に入った顔で気絶している雄二のぐにゃりとした体が横たわっていた。
「お、おい! 雄二。しっかりしろっ!!」
「ふふっ、ふふふふふふふふふふふふふっ……」
雄二は狂気の世界か魔界にでも入ったかのように不気味に微笑んでいる。い、いったい何があったんだ? 他のやつに聞いてみると……。
「隣の隣のクラスの笹森さん? が、“おらぁ〜。河野貴明〜!! どこ行った〜!!”って、お前のことを探しに来てだな……。向坂が“貴明か? いんや、知らねぇぜ?”とか何とか言うと、突然プロレスラーみたいに襲い掛かって来てだな…。それでこの様さ。最も向坂の野郎は女子に抱きつかれて嬉しそうな顔してたけどな?」
花梨……、タマゴサンド欠乏症にでもかかったとでも言うのか?…。って…。そ、そんなことはどうでもいい!! 早く花梨を探さないと……。関係ない被害者が増える一方だ。と、愛佳が言う。
「貴明くん。もう一度学校の中、探してみようよ…。また被害者とか出てるかも知れないし……」
「ああ、そうだな…。愛佳…。…って、由真!! どこへ行くんだ?」
こそこそと教室を出て行こうとしている由真に俺は一瞥をくれてやる。途端にこっちを見る由真。こっちを見ると虚勢を張ったように睨んでくる。ううっ…。と一瞬怯んだが負けずに俺は睨み返す。
「お前……、まさか逃げ出すつもりじゃないだろうな?」
そう言って由真の手を握り締めてこっちへ引っ張る俺。虚勢を張って無言のまま俺を睨みつける由真…。鬼のような形相に内心ぎょっ! となるが、こんなことをやっているうちにも被害者が増えてしまう。そう考えた俺は二人の手を引くと歩き出した。
夕方の空は今日も雨。下校時刻を遥かに過ぎ、いよいよ最終下校の鐘がなる頃、俺たち3人はまだ花梨を探していた。教室、職員室、購買部、食堂と見てまわったがどこにもいない。さすがに疲れてくる。と、どこからか奇妙な声が聞こえてくる。な、何だぁ? 耳を澄ませてみる。どうやら体育倉庫の中から聞こえてくるみたいだ。
抜き足差し足忍び足で近づいてみると……。
「るーるる、るーるる、るーるーるー」
「べんとらー、べんとらー」
何かるーこの声が聞こえるんだけど? それに耳を澄ませてみると、今、俺たちが追いかけているあのミステリ研会長のお声も…。な、何でだぁ? そう思い怖いもの見たさで壁の向こうをちょっと覗いてみる。が…、
「なっ? 何? あの格好?」
ニワトリと卵がいた……。いや、実際にはニワトリと卵の着ぐるみを着た、るーこと花梨なんだが……。ってそんな着ぐるみ、どこから借りたの? 何でそんな格好してるの? そもそも何で学校の体育倉庫なんかで踊ってるの? 何で?
……と、次から次へと疑問が噴き出してくる。…が、そんな俺たちの疑問をよそに…。
「るーるる、るーるる、るーるーるー」
「べんとらー、べんとらー」
奇妙な踊りは続く……。愛佳は見てはいけないものを見てしまったかのように、ぶるぶる震えながら俺の背中に隠れているし……、由真は由真で固まっているし…。と、そうこうしていると……。
「あっ! たかちゃん!! 発見!!」
花梨に見つかった!! まだ、あのタマゴサンドのことを根に持っているのか、花梨は俺の顔をじ〜っと見つめていた。慌てて逃げようとするもるーこに呼び止められる……。
「たかあき、どこに行く……。見かけによらず臆病だな…。たかあきは……。ふふっ……」
るーこは着ぐるみを着たままそう言って不敵に笑った。その顔になぜか無性に腹が立った俺は、るーこの前に行くと柔らかそうな頬を軽く抓ってやる。
「るーっ!! たかあきは失礼なうーだ! るーは何もしていないのに頬を抓った…。“るー”ではお尻ペンペンの刑だぞ……。たかあき…」
「“るー”とか、お尻ペンペンとか、そう言う問題じゃない!! お前は何でこんなところでニワトリの着ぐるみなんかを着て踊っているんだ!!」
抓られた頬をさすりながら、俺に非難の目を浴びせてくるるーこ。るーこのほうに目をやっていた俺は、何か悪寒を感じ後ろを振り返る。何故か知らないが、愛佳と由真が俺の顔を睨んでいた。特に由真は般若のような顔をしてこっちを睨んでいる。横を見ると……。
「たーかーちゃーん……。ルーシーちゃんはあたしの命の恩人なんよ? タマゴサンドエネルギーの尽きたあたしにエネルギー補充してくれたんよ? その命の恩人に〜……。ぶぅ〜っ」
ぷぅ〜っと頬を膨らせる花梨。タマゴサンドエネルギーって何だ? って言うか、何で卵の着ぐるみ着てるの? 訳が分からない。それにるーこのことをつけまわしていたのは、花梨じゃないか? 横目で睨みつける花梨に、おどおどとしながら俺は聞いた。
「ちょちょ、ちょっと待って! タマゴサンドエネルギーって何だよ? それに笹森さん? 笹森さんは前にるーこのことつけまわしてたんじゃないの? “宇宙人がどうとかー”って言いながら…」
「そうだよ? たかちゃん。でも考えてもみてよ…。こんな可愛い留学生の女の子が宇宙人なはずないじゃない。も〜、たかちゃん…。熱でもあるんじゃないの?」
昔の事などすっかり忘れているのか…、そんなことを言って、俺のおでこに自分のおでこを持ってきて、熱を測ろうとする花梨。後ろからは強烈な憎悪と嫉妬の視線が……、前からも嫉妬の炎をメラメラと燃やして立っていらっしゃる、るーこ様のお姿が……。
「破廉恥だぞ。たかあき……」
るーこはそう言うと、俺の顔をぎろりと睨む。体感気温が2、3度下がった。急に怖くなって後ずさると、どん! と、何かにぶつかった。ぶつかった先を見てみると、今にも泣きそうな愛佳と、憤怒の形相の由真がいた。この人たちがいたんだ…。俺は自分の運命を呪った……。
「た、た、貴明くんの…、貴明くんのエッチ〜〜〜っ!!」
愛佳は非難の目を俺のほうに向けると……、“ううう〜〜〜っ!!”と泣きべそをかきながら、俺の顔を睨みつける。その横を見れば…、案の定……、
「こ〜う〜の〜た〜か〜あ〜き〜っ!! 許せない、許さない、許すもんですか〜っ!!」
また3段活用のようにそんなことを言うと、由真は阿修羅の如くぎろりと俺を睨んでいた。
「うっ、うわっ!! ちょちょ、ちょっと待ってよ!! 俺が何をしたんだ?」
「しらばっくれるのもいい加減にしなさいよ!! 今までの数々の狼藉…、あたしに対する悪口…。おまけに何? あたしたちの前でいちゃいちゃいちゃいちゃ…。そんなにいちゃつきたいんだったらね、よそでやりなさいよ! よそでっ!!」
由真はそう言ってぷぅ〜と頬を膨らまして俺を睨む愛佳のほうにやってくると一緒になって俺の顔を睨む。るーこは厳しい目を俺のほうに向けたままだ…。
「ちょちょ、ちょっと待ってよ!! 何で俺がお前たちに睨まれなくっちゃいけないんだ?」
訳が分からないまま俺はそう言った。そう言った俺によほど腹が立ったのだろうか。由真はぎろりと俺の顔を睨みつけたままこう言う。
「あんたねぇ〜……。あ、あたしはともかく……、愛佳とルーシーさんはあんたのことが好きなのよっ? そんな二人の前でいちゃいちゃいちゃいちゃ…。少しは考えたらどうなの?!」
ま、愛佳とるーこが? そう思って二人のほうを見ると顔を真っ赤にして俯いていた。由真はますます俺の顔を睨んでくる。その顔に急に怖くなった俺は花梨のほうを見る。と……、
「たかちゃ〜ん。こんなに可愛い彼女と言うものがありながら、浮気なのかな〜っ? ひょっとして……」
実に疑わしい目で俺を睨む花梨。半眼で睨むその目にちょっとと言うかすごーく恐怖を感じた俺は……。
「いや、違う、俺は愛佳やるーことは何ともないんだ。ましてや由真なんかとはこれーっぽっちもないっ!!」
そう花梨のほうを見て言うと、後ろから強烈な嫉妬の炎が湧き上がる。そ〜っと後ろを見てみると…、
「見損なったぞ、たかあき。るーにあんなことをしておいて……」
「ま、待て!! るーこ…。今それとなーく俺を破滅させるようなこと言ったろ?」
るーこが恨めしそうに俺を睨んでそう言った。もちろん俺には身に覚えがない。
「前は毎日あたしのお手伝いしてくれていたのに……。今じゃちっともお手伝いしてくれなくなったし……。男のコ苦手も含めてだけど…。そ、そりゃあたしは男のコ、苦手だよ? でも、男のコ苦手を治すのお手伝いしてくれるって言ったの、貴明くんのほうじゃない…。うううっ……」
愛佳は涙目になりながらこう言う。ぐすぐす鼻を鳴らして俺の顔をぐぐぐっと睨む。今にも涙が零れ落ちそうだ。この時で俺の敗北は決定的だった。だったにも関わらず俺は、
「そ、そりゃあ、お、お、俺だって用事と言うものがあってだな……。致し方なく…」
「そう……。それで愛佳やルーシーさんたちや、あ、あたしを振る気なんだ……。いい根性してるじゃない? 河野貴明〜!!」
由真はそう言うと激しくこっちを睨みつける。俺の体が強張ったことは言うまでもない。こ、こうなったら、花梨を連れて逃げてやるっ!! そう思い横を振り向くと…、
「ふぅ〜ん……。たかちゃんて、結構モテモテ君だったんだねぇ〜」
俺の顔を半眼で睨みつけるお嬢様が一人……。その目は“どういうことか説明してっ!”とでも言わんばかりだ。逃げ場を失い壁際に追い詰められる俺。目を爛々と光らせて詰め寄ってくる同級生4人組。その目を見て完全な敗北を悟った……。
「いいのかなぁ〜? 由真ぁ〜。いくらなんでもこれじゃ貴明くんが……」
「いいのよっ!! こいつにはいろいろ恨みもあるしっ!! それに……、ごにょごにょ……」
左の席の愛佳と由真はそう言って俺の顔を見る。愛佳は申し訳なさそうに、由真はしてやったりと言う表情だ。って、今由真が俺のほうを見て何か呟いてた気が…。まあ、気にすることもない。こいつは俺に相当なライバル心を燃やしているんだから…。
右の席を見る。るーこと花梨は嬉しそうに俺の顔を見つめていた。ちなみにここはファミリーレストラン“ブルースカイ”だ…。ウェイトレスさんの格好が大胆で女の子が苦手な俺には、かなり嫌だったんだけど…。みんなにしょっ引いてこられた。
ちなみにあの後、俺は……。はぁ〜。思い出すのも悲しいや……。うううっ…。ただ一つ言えることは、ここにいる4人みんながグルだったと言うことだ。これから俺はこの4人を、“タマ姉予備軍4人衆”と呼ぶことにしよう…。そう思った。
「タマゴサンドスペシャルミックス〜。楽しみだなぁ〜っと」
俺がげっそりしてるって言うのに、まるで人事のようにこんなことを言う花梨。傍若無人と言うか何と言うか…。仮にも俺の彼女なんだから、もうちょっと遠慮というものを覚えてほしいと思うのは俺の間違いだろうか?
と、隣を見ると、るーこが怪しげな行動に出ていた。得意げに俺の顔を見遣ると…、
「どうした? たかあき。たかあきも何か頼め…。るーがおごってやるぞ?」
そう言って例のマッチ棒を取り出し自慢げに胸を張るるーこ。って、まだ持ってたの? それ……。そう思いはぁ〜っとため息を吐くと俺は言った。
「…とか言って、マッチ棒を出すんじゃない!! るーこっ!! マッチ棒では何も買えないの!! 宇宙の理論と地球の理論は違うの!! 宇宙では当たり前でも地球では当たり前じゃないの!!」
「るぅ〜…。……たかあきはビタミン不足だぞ? イライラしすぎだ……」
「だぁ〜っ!! ……愛佳ぁ〜。助けてくれぇ〜!!」
頭を掻きむしりながら俺は、このメンバー中、唯一の常識人、愛佳に助けを請う。が…、
「貴明くんは、もうちょっと反省するべきだよ? だ、だって……、誰が好きなのかはっきりさせてくれないし……」
今までの俺とるーこの話をまるで聞いてなかったのか、上目遣いで俺の顔をぷぅ〜っと頬を膨らませながらそんなことを言ってくる愛佳。そんな愛佳に俺は何も言えなかった。って、最後のほうが聞こえなかったんだけど?
「と、とにかく!! これから一週間、あんたに奢ってもらうかんねっ! もし逃げたら地獄の果てまで追いかけてやるんだからっ!!」
由真はそう言うとぎろりといつもの目で俺を睨む。逃げられない…。逃げられない……。うううううっ……。タマ姉予備軍4人衆を前に、俺は涙をちょちょ切らせながらそう思った。ファミレスの外を見れば今日も雨……。俺の心は土砂降りの大雨だと思う梅雨の終わりのある昼下がりだった……。
END