タマゴサンドな誕生日


「たかちゃん! 今日は花梨の誕生日なんよ? それなのに…。ぶぅ〜!!」
 俺の目の前、膨れっ面の女の子が座っている。と言うのも今日は12月1日。一応ではあるが俺の彼女、笹森花梨の誕生日なわけで……。
「たかちゃん!! 何度も言うようだけど私はたかちゃんの彼女なんよ? 分かってるの?」
 はぁ〜。大きなため息をつく。最近寒くなってきたのか布団に入る時間が早くなってきたようで…。すかぴ〜っと心地よい眠りが俺を支配しているような感じで…。朝目覚めても、ぼけ〜っと微睡んでいる時間が長く感じられるんだよな…。慌てて着替えて制服を着て朝ごはんを急いで食べて、外へ出てみるとこのみが先に待っていることがよくあるんだ。
「えへ〜、今日もこのみの勝ちでありますよ〜」
 このみは微笑みながらそう言う。って言うか今日も言われたんだけどね……。で、夢見心地で登校。ひんやりした空気がまた眠気を誘うんだよねぇ…。朝の登校時って。でも何かこう引っかかるものがあるんだよな…。そんなことを思いながら登校する俺…。で? 今、俺の目の前でぷぅ〜っと頬を膨らましている彼女、笹森花梨の誕生日のことであると気付くのは放課後に入ってからのことで……。
「何を独り言ぶつぶつ呟いてるの? たかちゃん!! 今日が花梨の誕生日だって分かってたんでしょ? ねえ!」
 俺に問いただすようにそんなことを言うと、涙目になりながらもぐぐぐっと睨みつけてくる花梨。って! そ、その目は由真と同じじゃないか? ええっ? …くっ! 由真のやつめ。俺があの目を怖がっているものだからって、何も花梨にまで教えることはないだろ? だ、第一今日はまだ半日あるじゃないか。きょ、今日の帰りにでも…。と花梨の方向を見れば…。
「う、う、うわぁぁぁぁ〜ん。たかちゃんのばかぁ〜!! プレゼントなんてどうでもいいんよ〜!! 私は、自分の誕生日をたかちゃんに覚えていてほしかっただけなんよ〜! それなのに、それなのに〜!! うわぁぁぁ〜ん!」
 そんなことを言うと、とうとう花梨は泣き出してしまう。俺はどうしたらいいのか分からずおろおろ……。
“恋人の誕生日にも忘れるやつは恋愛する資格なんてねぇ〜!!”
 とは雄二の弁だが全くその通りだなと思った。花梨を見ると赤い目をして寂しそうにこっちを見つめている。俺は平身低頭で謝った。だってこれは全部俺の責任だと思ったから。
「ごめん!! 花梨。誕生日のことをすっかり忘れてしまって! 謝っても許してもらえないかもしれないけど…。ごめん……」
 し〜んと静まり返るミステリ研部室。しばらく経って花梨が呟くようにこう言う。
「グスッ…。タマゴサンド…。タマゴサンド作ってきて…。おいしいやつ…。しかも、たかちゃんの手作りで…。分かった? そうじゃないと許してあげないよ? 私は……。エッ、グスッ…」
 って…。ええ〜っ? い、今から? 俺がそう言うと、こくんと会長様。心の中でため息を吐く。まあ幸い放課後に入ったばかりなので購買部に食パンはあるだろうし、卵は食堂のおばちゃんに言えばいいだろう…。調理器具や場所もおばちゃんに無理を言って貸してもらうことにしよう。うん! 決めた! そう考えて俺は言う。
「分かった……。俺が最高のタマゴサンド作ってきてやる! 大人しく待ってるんだぞ?」
 ぷぅ〜っと頬を膨らまし、涙目で寂しそうに俺を見つめている花梨を尻目に俺は部室を飛び出した。


 購買部で食パンを買う。菓子パンやおかずパンなどはもう売り切れてないが、食パンだけはいつも売れ残っている。って、何で学校の購買部に食パンなんて置いてあるんだ? 俗にいう学校の七不思議って言うやつか? ま、まあいいだろう。考えると空恐ろしい気がするし…。
 ちなみに今は放課後を10分程度過ぎたあたりなので、パンはそんなに怪しまれずに買えた。って当たり前か…。卵は…、そうだなぁ。食堂に行っておばちゃんにでも聞いてみるか…。もしかしたらまだ残ってるかもしれないし。そう考えててくてく歩いて食堂へ行く。ちなみにここのおばちゃんはご近所の高岡さんだ。今年の春まで気が付かなかったんだけど…。タマ姉に言われるまではね…。
 早速おばちゃんに事の次第を伝えると?
「ああ、いいよ。使っとくれ。卵も余ったやつで悪いんだけどさ。まあ今朝持って来たやつだから腐っちゃいないと思うけど…。あっ、でも一応はお金貰っとくね。ルールだからさ…」
 そう言っておばちゃんはにこっと微笑む。“ありがとうございます”とお礼を言うと、早速タマゴサンドを作り始める。卵を茹でて殻を剥く。包丁で細かく切って、マヨネーズをかけて混ぜているとおばちゃんがきゅうりやレタスなどの食堂の余りを分けてくれた。購買部で買った食パンを斜めに切ってと…。
 ふぅ〜っとため息を一つ。完成だ。これで果たして会長様のご機嫌が直るのかどうか…。不安だが、元は自分のせいなので何も言えない。そう思った。


 作ったタマゴサンドを手にミステリ研部室へ戻る。ガラガラと戸を開けるとぷぅ〜っと頬を膨らましたまま花梨が座っていた。
「悪かったよ。花梨……。誕生日忘れて…。お詫びに作ってきたんだ。これ……」
 そう言って、サンドイッチケースを見せる俺。膨れっ面な花梨の顔が見る見る笑顔に変わっていく。でも、急に居住まいを正すと、ぷぅ〜っと元の不機嫌そうな顔に戻る花梨。
「たかちゃん…、なに? これは?……」
「だからタマゴサンド…。言っとくけど俺の手作りだからな。これ…。味は俺の味にしてあるから花梨の口に合うかどうかは保障できないけどさ…」
 ぱかっとタマゴサンドを入れていた容器のふたを開けると、出来立てのタマゴサンドの香りがぷ〜んと部室一面に漂う。ごくっと唾を飲む花梨。だけど食べようとはしない。下を向いて上目遣いに俺の顔を見つめてくるだけだ。って、何で食べないの? そう聞くと、
「だって、だってさ…。たかちゃんが本当にこんなものを作ってきてくれるなんて思ってもみなかったから…。ちょっと言い過ぎたんよ…。ごめんね?…。たかちゃん」
 そう言うとしゅんとなる花梨。すまなそうに見るその顔を見ながら俺はこう言う。
「俺のほうこそごめんな…。大事な彼女の誕生日も忘れるなんて…」
 と、続きを言おうとしていると、突然花梨の人差し指が俺の唇を塞ぐ。ふっと顔をあげると花梨が微笑んでいた。
「もういいよ、たかちゃん。それよりタマゴサンド一緒に食べよ? 何てったってたかちゃんの手作りなんだからね?」
 にっこり微笑みながら花梨はタマゴサンドを手に取ると、ぱくっと一口、そのタマゴサンドを口の中に入れる。もぐもぐと食べて、ごくんと喉をタマゴサンドが通っていく頃には満面の笑みに変わっていた。
 俺も手に取るとタマゴサンドを食べる。自分で作ったのをほめるのはどうかとは思う。だけど我ながらこれはうまいと思った。料理の才能があるのかな? 俺って……。
「ちょっと! たかちゃん! そんなにパクパク食べたら私の分がなくなっちゃうんよっ!! たかちゃんはそこまでっ!! 後は私の分なんだからねっ?」
 そう言って、タマゴサンドのほうに持っていこうとしていた俺の手をぱちんとはたくと、実に恨めしそうな顔で花梨が睨んでくる。その顔がまるで子供のようで、思わず心の中でぷっ! と吹き出しそうになった。
 で……、食べ終わる頃には、いつもの会長様に戻り…、
「じゃあ、今日もUFOを探すよ!! たかちゃん!!」
 いや、いつもの会長様より数倍元気になった会長様とともに、夕暮れの校舎の屋上で怪しげな踊りを踊らされる俺がいるのだった……。とほほ…。

END