二人の会長様
「今日は花梨の誕生日なんだから生徒会の仕事なんてしなくてもいいんよ〜っ!!」
「ダメですっ! 河野さんにはまだやってもらわないといけないことがあるんですからっ!!」
俺は今2人の女の子に両手を掴まれて引っ張り合いの真ん中にいる。右手を引っ張っているのはミステリ研会長・笹森花梨。一応俺の彼女になるのかな? って! 向こうから怖い目で睨んでいるんで彼女と言うことにしておこう。左手を引っ張っているのは現・生徒会長である久寿川ささらさん。タマ姉と同じ高校3年生だ。しかし何故俺がこの2人に引っ張られているのか、それを説明しないといけないだろう。そう、あれは1時限目の終了時…。
「た〜かちゃん」
と言う声とともに背中にむにっとした感触が襲ってくる。ぼっと火がついたように顔が真っ赤になる俺。女性恐怖症じゃないけれどいつもこうなるんだよね。って言うかこれが女性恐怖症って言うのかな? ってそんなことはどうでもいいや。とにかく離れてもらわないと…。そう思い、
「なに? 笹森さん。って言うかちょっと離れてくれない?」
と言う俺。途端にすっと離れる笹森さん。いつもならもっとくっついてくるのにどうしたんだろ? そう思い、振り返るとなぜか彼女はもじもじしていた。ちなみに今日12月1日は笹森さんの誕生日。俺は昨日プレゼントを贈った。というのも、今日は生徒会のお手伝いで出なければならないので…。先日いかにもオカルティックで怪しげな通販サイトを見つけ、そこで購入した水晶髑髏の置物をプレゼントしたんだけど、それがえらく気に入ったみたいで昨日は一日中にこにこしてたっけ…。
「あのね? 昨日もらった水晶髑髏で実験してみたいんよ…。出来ればって言うか、たかちゃんは正式部員なんだから手伝う義務があると思うんよ!!」
実験って何をするの? と聞いてみると怪しく微笑む会長様。何かとてつもなく嫌〜な感じがするんだけど…。と思い、ふと生徒会の仕事を思い出す俺。うまくこの嬉々とした会長様のご機嫌を損ねずに断れる方法はないものかと、考えあぐねているうちにキーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴る。“じゃあ、放課後待ってるんよ〜” 嬉々とした顔のまま、さらにスキップまで踏んで教室を出て行く会長様。はあ、しょうがない。生徒会の仕事は明日にさせてもらおう…。そう思う俺。でも……。
「ダメです!! 河野さんの割り分は決まってるんですよ? ちゃんとやってもらわないと…」
昼休み。生徒会室へ行って久寿川さんに事情を話すとなぜかむっとした表情でこう言われる。笹森さんはああいう性格だから絶対に引かないだろうし、かと言って女土方と言われて恐れられている久寿川さんに言っても聞かないだろうし…、って言うか今の相談事も全然聞いてくれてないし。それに、久寿川さんの後ろには、キング・オブ・卑怯とまで言われているま〜りゃん先輩がいるし…。ああっ! 困った…。こう言うときにどこからか、“お困りですか?” って言いながら出てきてくれる魔法使いさんのテレビをこのみと昔に見たような気もするんだけど…。しかしどうするんだ? この状況…。
タマ姉に言っても、“自分で何とかなさい!” ってぷぅ〜っと頬を膨らましながら言われるのがオチだし…。このみも同じだし。雄二に言おうものなら、それこそ“この恋愛ブルジョアジー、言うに事欠いてまたかっ!!” って苦みばしった顔でこう言われることは明々白々だし…。小牧さんに言っても多分分からずにおたおた慌てるだけだろうしなぁ〜。どうしよう…。時間は刻々と過ぎていく。けど何にも浮かばず結局…。
「い、い、痛い痛い! 腕がちぎれるよ〜っ!!」
双方向から腕を掴まれて右往左往する俺。“たかちゃんは花梨の彼氏なんよ〜っ!! だから離れてよ〜っ!!” と右手をぐいぐい引っ張る笹森さん。“そっちこそ離れてください! 河野さんはこれから生徒会の仕事が山ほどあるんですからっ!!” と左手をぎゅっと掴んで離さない久寿川さん。両方の顔を見るとぷぅ〜っと頬を膨らませながらギロリとお互いの顔を睨んでいる。笹森さんは見慣れているせいかそれほど驚かないんだけど、久寿川さんのそういう顔は見たことがないんでついつい見惚れてしまう俺。と右のほうから何やらどす黒いオーラが漂い始める。ぎょっとして右のほうを見てみると笹森さんが怪しく笑っていた。
「浮気だね? たかちゃん…」
そう言うと右手をすっと離す笹森会長、い、一体何を? と思っていると、どことなしか取り出だした藁人形に五寸釘、それに金槌といういわゆる3点セットを持って壁に打ちつけようとしている。しかもご丁寧に顔の部分にはどこから仕入れたのか分からないが俺の顔写真が貼り付けられているし! 慌ててひっぺ返す俺と久寿川さん。
「うわ〜ん。今日は花梨の誕生日だからたかちゃんと一緒に遊ぼうって思ってたのに〜っ!! それをなんよ〜。たかちゃんは生徒会長さんの肩持って〜っ!! これじゃあ花梨がいらない子みたいないんよ〜っ!! だからたかちゃんを呪い殺して花梨も後から死のうって思ってたのに〜。う、う、うわぁぁぁぁ〜ん」
はぁ〜っとため息をつく俺。久寿川さんのほうに向き直り、
「久寿川さん、悪いんだけどさ。今日は生徒会の仕事は出来ないよ。一応ではあるんだけど今日は俺の彼女の誕生日なんだ。だからごめんなさい…。あっ、もし良かったら雄二にでも頼んでみるけど…。雄二のことだからすぐにOKなんだけどさ…」
グスグス泣いている笹森さんを横にこう言うと深々と頭を下げる俺。久寿川さんもグスグス泣いている笹森さんのほうを見ながら、“仕方ないですね…” と言う顔になるとこう言った。
「しようがないわ…。仕事のほう、明日からで結構よ…。今日は向坂さんでも呼ぶことにするわ…。でも明日は忙しくなるからそのつもりでいてください。……本当は河野さんのほうがいいんだけど…」
最後のほうがちょっと聞こえなかったんだけど、まあいいか。そう言うと去っていく久寿川さんの背中は少し寂しげに見えた。と横を見ると未だにグスグス泣いているミステリ研会長様。はぁ〜っとため息をつきつつ、こう言う。
「一緒に遊びに行こうよ? ねっ? 笹森さん」
「グスッ、グスッ…。別に気を使わなくったっていいんよ〜…。ど〜せ花梨はいらない子なんだから〜…」
ぷぅ〜っと頬を膨らませてグスグス鼻を鳴らせている笹森さん。拗ねている顔がまるで子供のようだ。はぁ〜。困った…。俺の彼女はいったん拗ねると手がつけられないんだったよ…。どうするかなぁ〜……。と考えて、ふといいアイデアが浮かぶ。これなら彼女も機嫌が直るだろう。俺はかな〜り危ない目に遭うんだろうけどさ…。まあ仕方ないか。そう思い言った…。
「ハックション!! ああ…、やっぱりこんな目に遭うんだね? 俺は…」
「ふふん、いいじゃない。これで実験は成功したんだから〜。これが幻のマヤの水晶髑髏だって言うことも分かったし〜、言うことないんよ〜。ねぇ〜。たかちゃん」
いや、その水晶髑髏1000円で買ったまがい物なんだけど…。催眠術もわざとかかったように見せてたんだけどね? とは言えない俺。あの後実験をしようと言うことになり…、と言うか笹森さんのご機嫌を直すためにやったんだけど、まさか上半身裸にされて、“キタキタ踊り” を踊らされるとは思っても見なかったよ。はぁ〜。これは家に帰ってすぐ風呂にでも入らないとヤバいかもしれない…。ぶるぶる震えながら帰る道すがら、嬉々とした表情で俺の彼女はこう言ってくるんだ…。
「また実験付き合ってね? た〜かちゃん」
ってね? 夕陽もきれいに映える今日12月1日はちょっとワガママで小悪魔的で、でもとっても可愛い俺の彼女、笹森花梨の17歳の誕生日だ。
END