アルティメッドタマゴサンド
「つ、ついに、ついに見つけたんよ。究極のタマゴサンドの作り方を!!」
ドドーンと言う効果音が出てきそうな勢いで花梨はこう言った。ここはいつものミステリ研部室。半ば騙されて入部させられた俺ではあったが、今ではそれもいいかなと思っている。雄二なんかは“騙されて入れられたって言うのに…。お人好しっつうか何つうか…” って言いながらため息をついてるけどね?
「で? 笹森さ…、あっ、か、会長。いったいどんな作り方なんですか?」
“部室では会長って呼ぶこと!” って言う大きな張り紙を指差しながら、ぷぅ〜っと頬を膨らませる会長様。無言の圧力に押され言い直すと今度はにっこり笑顔で答えてくれた。
「私がいつも買っている雑誌の何年か前に号にね? “古い文献の切れ端に最古のタマゴサンドの製法発見!”って言う記事が載ってあるのを見つけてね? 記事がぼろぼろで読みにくかったから出版社に問い合わせて製法の書いてある文献の写しを送ってもらったんよ〜」
実に嬉々とした表情で話す会長様。これは何か裏があるなぁ〜とは思ったが、そういうことを言うと必ず、ううう〜っ!! とこちらを涙目で睨んでくるので言えるはずもなく。何で俺の知ってる女の子は涙目になって睨むんだろ? といつも不思議に思う。このみのが移ったとか? と一人くだらないことを考え込んでいると会長様が嬉々とした声で、こう俺に言う。
「ねえ、たかちゃん。一緒に作ってくれないかなぁ〜? アルティメッドタマゴサンド…」
やっぱりね? でもその“アルティメッドタマゴサンド”っていうのはなんなんだ? そう聞くと途端にむっとしたような顔になる会長様。少々怒ったような口調でこう言う。
「“究極の”って言ったでしょっ?! “究極の”って!! だから“アルティメッドタマゴサンド”なんよ!! 分かった?! もう…、しっかりしてよね? 名誉あるミステリ研部員がそんなんじゃこれから先やっていけないんよ…。ミステリ研部員第一号・たかちゃん!」
はは、はははははは……。いつの間にか会長様に主導権を握られてしまっている。まあ本気になれば取り返せるんだけど。そうなった場合後が恐ろしい気がする。この間も、俺がちょっと文句と言うか意見と言うか…、を言ったら急に怒ったような泣いたような顔になって…、
“いいんよいいんよ…。これで呪っちゃうんだからね?! グスッ…”
って言いながら五寸釘と藁人形を持って涙目でこっちを見つめてるんだから…。あれで俺が“いやだ”とでも言おうものなら、本当に“丑の刻参り”をやりそうだったんですぐに謝ったんだけど、それが今のこのような現状になってしまった。なんであの時“いやだ”って言っておかなかったのかと後悔してるんだけど、元来女性恐怖症のある俺はそんなことは言えず、結局言うことを聞いてしまう羽目になってしまった。我ながら情けないとは思うんだが、あの怒ったような泣く寸前のような顔を見せられると誰も逆らえないと思う。現に今もそんな顔してるし…。はぁ〜っとため息をつく俺がいるのだった。
「材料はだいたい揃えた…。後はこれを調理していくんだけど? どうすればいいの?」
あれから一週間、花梨の言う“アルティメッドタマゴサンド”の材料が揃う。どれもこれも産地直送なので見る目にも実際にも高かった。まあ、春に山火事を未然に防いだとか何とかで正式に同好会として認められ、今は多少のお金も入っているのでそれも使わせてもらっているんだけど…。でもこれだけの物になるとなぁ〜。第一ダチョウの卵って……。
「本当はヒクイドリって言う卵の方がいいんだけど…。ほら、急だったからダチョウの卵で手を打ったんよ〜♪」
そう言うと鼻歌交じりに作業に取り掛かる会長様。ダチョウの卵を茹でて頃合いを見計らって取り出す。殻は相当固いので俺が金槌で叩き割った。が、なかなか割れない。何とか叩き割って殻を割ると、中から10人前? もある程の大きな卵の白身が見えた。実際これを食べるとなると大変だな〜っとは思うんだけど、にこにこしながら嬉しそうに涎までたらしている花梨の顔を見ているとそんなことも言えず……。ふぅ〜っと大きなため息をつく俺。でもまあ、卵はタマ姉とかこのみとか小牧さんにお裾分けすればいいんだし、何とかなるか…。そう思い作業を続けた。
約10分後…。たららたったた〜んと言う効果音? を出して花梨が俺に出来上がったばかりの“アルティメッドタマゴサンド”を見せる。早速試食を…、と思い手を伸ばすと、バチンと手をはたかれた。な、何で? と思い会長様のお顔を見てみると…、超ご機嫌斜めですっ! てな顔になっている。まあ、花梨のタマゴサンド好きは今に知ったことじゃないし……、とは思うんだがこんなにいっぱいあるんだから一つくらい分けてくれてもいいと思うんだけど? そんなことを言うと急に泣き出す会長様。
「うっ、うっ、うわぁぁぁ〜ん。たかちゃんのばかぁ〜!! 今日が何の日か覚えてないの〜? うわぁぁぁ〜ん!」
思わず、へっ? となる俺。今日は12月1日だよな。朝カレンダーを見たときに“ああ、今年も後一ヶ月で終わるのか…。早いもんだよなぁ〜…”って妙な感傷に耽ってたし…。後は……。って?! ああっ!! 思い出したよ……。って言うか今の今まで忘れてたよ。前を見ると、泣きべそをかきながら、“うううっ……” と恨みがましい目でこっちを見つめる会長様。そうだった…。今日は花梨の誕生日だったんだ……。忘却の彼方へと言うほどすっかり忘れてたよ。もう針の穴ほどにも覚えていなかったよ……。ああああっ!! ど、どどど、どうしよう…。
慌てふためきながら、花梨のほうを見れば…。って、会長様? 何で柱に藁人形と五寸釘を持っていって、今にも打ちつけようとしていらっしゃるのでございましょうか?
「私の、私の誕生日も忘れるたかちゃんは〜、こうしてやるんよ〜っ!!」
カンカンカンカン…。ぷぅ〜っと頬を膨らませて目にいっぱい涙を浮かべながら藁人形に五寸釘を打ち付ける会長様。慌ててひっぺ返すと、また泣きながら抗議してくる。その抗議は支離滅裂だ。
「うわぁぁぁ〜ん。たかちゃんが花梨にお嫁さんになってって言っても、花梨はたかちゃんのお嫁さんになんかなってやらないんよ〜!! うわぁぁぁ〜ん」
お嫁さんって、会長様…。将来俺のお嫁さんになる気なの? って! 今はそんなことは言っていられない。とにかくも謝らなければ…。うううっ…、と目にいっぱい涙を浮かべて、恨めしそうに泣きべそをかいている会長様に向かって土下座をして謝る俺がいるのだった。
「私を泣かせた責任、ちゃんと取るんよ? たかちゃん…」
「分かりましたです。会長様…。とほほ……」
帰り道、腕を組んで歩く俺と会長様。むにっとした感触に思わず鼻血が出そうになる。お構いなしの会長様は更にぎゅっと、まるでプロレス技でもかけてくるかのようにさらに胸を密着させてくる。仕方がないと言えば仕方がないんだけど、この状況はさすがにやばいんじゃないのか? そう思う。だって……、雄二を含む男子生徒の目が、“リンチだ、明日来たら絶対リンチにしてやるっ!” って言ってるしっ!! 明日からしばらく休もうかと本当に思った今日12月1日、俺の隣で嬉しそうに手を胸にぎゅっと当てている会長様、笹森花梨の誕生日だった。
END