「お、落ち着け雄二! 俺だって訳が分からないんだから!」
「これが落ち着いていられるかっ! 何でお前ばっかりに女子が集まるんだよ〜っ!!」
雄二が地団駄を踏んでいる。って言うかみんな? そうひっつかれると動けないし暑いんだけど…。はぁ〜っと今日何度目か分からないため息を吐く。今は夜。それも深夜から夜明けに近い時間だ。それなのに薄気味悪いお堂の前で俺は女の子たち全員に腕とか手とか足とかを掴まれて身動きが取れないでいた……。
雄二君のウハウハ? 肝だめし大作戦
前編
「ちくしょーっ!! 姉貴とチビ助はともかく、他のヤツもどうして貴明ばっかりに助けを求めるんだよ〜っ!!」
「だってぇ〜。ゆうちゃんよりたかちゃんのほうがいいんだもん。ね〜。みんな?」
笹森さんが一言そう言う。他のみんなも一様にうんうんと頷いていた。雄二は実に羨ましそうに俺を睨みつけているし…。はぁ〜っとまた大きなため息を一つ。って! 誰だ? 今首筋に息を吐きかけたのは? 回らない首をちょっと回してみると…。
「あっ、先輩がこっち振り向いたッスよ。ちゃる君」
「うん、振り向いた先輩、とても可愛いぞ?…。よっち。早速メモだ…」
「なに君たち、俺の行動をメモに取ってるの?」
タヌキっ娘とキツネっ娘がメモを取っている姿が見える。夏休みの自由課題か何かだろうか…。ってそんなものを自由課題にされてもこっちが迷惑だろう? あ、あの〜、どうでもいいんだけど、もうそろそろ離れてくれないかな? くっついているので暑いのと、ぽよんぽよんした感触があっちこっちから感じて鼻血が出そうなんですけど…。と、そんな俺を見ていた雄二が、
「この恋愛ブルジョアジーめ! 恋愛プロレタリアートの苦労も少しは分かりやがれ!! ちくしょう! 何で貴明ばっかりモテるんだよーっ! この世界に正義はないのか? なあ、教えてくれ! 誰か!!」
虚空に向かって意味不明なことをわめいている。…って言うか鼻水垂らしながら言わないでくれ。怖いから…。そうやってるとタマ姉にアイアンクローされるぞ? そう思ってると案の定タマ姉からアイアンクローをかまされる雄二。哀れと言うか何と言うか…。しかし何でこんなことになったのか。それを話さなければ始まらないだろう。そう、あれは昨日にさかのぼる…。
夏休みも最後半に入る時期。宿題も終わりかけなこの時期に入るとだらだらと過ごしてしまうわけだが…、俺の場合はそうは行かなかった。
「タカ坊! いつまで寝てるの? 起きなさい!」
「タカく〜ん、起きてよぉ〜」
朝、いつものように起こしに来る幼馴染み二人。タマ姉とこのみだ。なかなか起きない俺に業を煮やしたのかこのみのボディーブレスやらタマ姉のキャメルクラッチなんかで起こされる。“ギ、ギブ、ギブ” と言ってようやく開放。完璧に目は覚めるものの最悪の目覚め方だ。これが今年の夏休みの朝の日課…。嬉しさ50%、悲しさ50%と言ったところだろうか。タマ姉とこのみの作った朝食を食べて、くつろぐ間もなく向坂の家に連れて行かされる。で、お姉さまの厳しい監視の下、雄二とこのみとともに今日も勉強と宿題。宿題…、ちなみに雄二はまだ半分も終わってないらしい。
「だぁ〜!! 何でこうも毎日毎日姉貴にしぼられにゃきゃいけねーんだ?! なあ、貴明だってそう思うだろ? あ、あだ、あだ、あだだだだだ…。暴力反対、暴力反対、暴力反対!!」
いつものごとく、アイアンクローをかまされる雄二。そういやここ最近は毎日だよな? タマ姉たちが俺を起こしにくるのって…。ちょっと不思議に思うがまあいいか……。そう考えて横で伸びてる雄二に、“おーい。雄二? 大丈夫か?” と声をかける、が…。ぴくっ、ぴくぴくっ。白目をむいて痙攣している雄二がいるのだった。こりゃ今週から雄二は地獄の日々だな…。そう思うとぐて〜っと伸びてる雄二が何だか可哀想に思えてきた。
昼からは自由時間になるので俺は雄二と本屋に行く。タマ姉はこのみに誘われて今日は映画に行った。案外怖いのが平気なこのみと怖いのが全然ダメなタマ姉。立場が変わるとこうも違うのかと言うことを思い知らされる。嫌がるタマ姉をずるずる引っ張って行くこのみ。そのあまりなギャップの差に思わず笑ってしまった。
「タマ姉がお化けとか幽霊とか苦手だって言うこと、雄二は知ってたのか?」
「ああ、って言っても俺もチビ助に引っ張っていかれるところで気付いたんだけどよ? って貴明、これ! 緒方理奈の写真集だってよ? っと、おおおおっ! まばゆいばかりの白ビキニ! 俺の緒方理奈コレクションがまた一つ増えたぜ…。ふふふふふっ」
本を物色する。雄二は当然というか何と言うか、ファンである緒方理奈の写真集のところで声を出しながら見ている。まあ、これが雄二だからな。そう思って適当な雑誌を手に取った。雑誌を広げる。え〜っと、なになに…。怪奇特集? いかにも笹森さんが喜びそうな内容だな。そう思ってページをめくっていると。
「だーれだ?」
むにっとやわらかい感触が俺の背中に…。って! この声はひょっとしてもしなくても…、分かるよなぁ〜。はぁ〜っとため息を吐きつつ目を覆っていた手をどかせて振り向く。案の定、ミステリ研会長様が何か面白いものでも見つけたかのように嬉々とした表情で立っていた。雄二のこめかみがぴくっと動いたのは周知の事実だ。
「で? たかちゃんたちは何の本を読んでたの?」
「ああ、俺は適当に読んでて…」
「お、俺も普通に参考書とかを読んでたぞ? うん」
雄二……。そんな緒方理奈の写真集をしっかり胸に抱きしめて言っても全然効果はないと思うんだけどな? ほら、笹森さんだって疑わしい目で見てるし…。と、俺の手に持っていた雑誌に目を留める笹森会長。
「あっ、たかちゃんもちゃんと部員としての活動をしてるんじゃない…。こんな優秀な部員がいて会長は嬉しいんよ。うんうん」
俺の持っていた怪奇特集の雑誌を手に取ると嬉々とした表情になる笹森さん。変な方向に行く前に退散だ。そう思い雄二のほうに目をやると…。緒方理奈のもう一つの写真集を見ている。食い入るように、まるで水着の中まで見通すかのように、広目天のような目でじ〜っと一点を見つめている。俺一人で逃げようかとも考えたが生憎と店の中は涼を求めてくる客も多いため非常に混雑していた。はは、ははははは。逃げられない。やがて会長様が、にまぁ〜っと不気味な微笑みを浮かべて俺の顔を見つめるとこう言ってきた。
「ねえ、たかちゃん。肝試しなんてどうかなぁ〜? たかちゃんのお友達とかも集めて…。あっ、もちろんゆうちゃんも一緒に。暑い夜のひと時の涼しさ…。思い出作りとしても結構盛り上がると思うんだけど〜?」
やっぱり…。と、横を見ると雄二がなにやら不敵な笑みを零してぶつぶつ何事かを呟いている。何を呟いてるんだ? 耳を澄ませてみる。
「姉貴に復讐。あわよくば他の女の子とウッハウハ。ふふ、ふふふふふふ……」
虚ろな目でどことも知らない方向に目を遣りながら雄二は怪しく笑いながらそんなことを言っていた。何ともその顔が怖かった俺は顔を背ける。聞いてはいけないような内容だったので聞こえない振りをした。で? 背けた先を見ると笹森さんがこれまた怪しく笑っていた。まあ、笹森さんは何となく分かる。不思議なものとかオカルティックなものには目がない性分なんだから…。でも雄二は?…、何なんだろうと考えていると…。
「笹森さん! ぜひ参加させてくれ! こんな面白い企画、そうそうねーんだからな? 俺にいつもアイアンクローかましてくる姉貴に一泡ふかせてやるぜっ。ふふふふふ。それにあわよくば貴明になびいている女の子たちを俺のものに出来るかもしれん…。あっ、とついでにこいつの女友達も誘っていいか?」
やる気満々なのか雄二はそう言って俺の肩をパンパンと叩く。顔を見ると妙ににやけた顔だった。これは何かウラがありそうだなぁ〜っとは思ったが、薄ら笑いを浮かべている雄二が妙に怖く感じた俺は何も言えなかった。今思うに何であの時声をかけなかったんだろうか? と悔やまれてならない…。
「ほ、ほんとに? やったぁ〜。笹森探検隊再結成なんよ〜っ!!」
そう言って俺に抱きつく笹森会長。雄二が恨みを込めた目で俺たちを見つめる中、ぷにゅぷにゅした感触が俺の顔を更に真っ赤にさせたことは言うまでもなかった。
「おい、雄二。ほんとに参加するのか?」
「はぁっ? 何を今さら…。姉貴の弱点は犬だけじゃなかったんだぜ? これをうまく利用しないわけにはいかないよなぁ〜。打倒姉貴!! ふふふふっ。今から楽しみだぜ…」
帰り道、さっきのことを雄二に聞く俺。雄二は何かぶつぶつ呟きながら笑っていた。そばで見てると非常に気味が悪いのだが、まあたいていこんな時は悪巧みを考えている時の顔だろう。そう思う。でもって俺はというと、実は俺も怖いのは苦手なほうだ。まあ、タマ姉ほどじゃないけど…。でも苦手な部類に入るんだよなぁ〜。はあ、と大きなため息を一つつく。雄二はと見るとスキップでもしそうな勢いで俺の横を歩いていた。妙ににこにこした雄二は……。
「な〜にしけた顔してんだ? まあ肝試しなんつうもんは祭りの一環でやることじゃねーか? それによ、こんなところに心霊スポットなんてあるか? ねーだろ? だからまず大丈夫だろう。…って俺はそう思うけどな? 姉貴には俺が伝えておくからお前はチビ助と委員長と、あの双子姫たち、まあお前の女友達にでも伝えておいてくれ。じゃあな」
そう言うとルンルンと鼻歌なんかを歌いながら雄二は帰っていく。後ろ姿がとても怪しかった。ふぅ〜っとため息を吐くとこのみの家へと向かう。歩いてると、陽が西に傾いた頃だった。それにしても今日はうだるような暑さだったよな。これこそ酷暑って言うんだろうな。そう思いながらてくてくと歩く。このみの家が見えてくるころにはあたりは夕焼けから夜の帳が下りてくる時刻だった。
「あら、タカくんじゃない。ちょうどよかったわ。お夕飯、食べていきなさいな」
ピンポーンとチャイムを押すと春夏さんが出てくる。俺の顔を見ると何かにつけていろいろと世話を焼いてくるこのみのお母さん。まあ、俺の両親が海外赴任の際に“よろしく頼みます”とお願いしていたし…。それに春夏さんを怒らせると鬼のように怖いので素直に言うことを聞くことにする。“おじゃましまーす”と言い、中へと入ると…、
「あれ? タカくんだ。わーい。タカく〜ん」
俺の声が廊下に響くのもつかの間。たったったったっと走ってくる足音。もしかしなくても俺の幼馴染のこのみだ。ぼふっと俺に抱きついたこのみはくりくりした目で見つめてくる。その顔に戸惑いつつも笑顔になる俺。春夏さんはそんな俺たちを“よきかなよきかな”って言うふうな瞳で見つめていた。
夕飯をよばれる。春夏さんの料理は相変わらずうまかった。普段ご飯は1膳しか食べない俺でも3膳もおかわりしてしまうから不思議だ。このみも2膳おかわりして美味しそうに今、ご飯を食べている途中…。とこのみが俺に聞いてくる。
「ねえ、タカくん? このみに用事があったんでしょ?」
ああ、そうだった! すっかりこのパワフルな柚原家の皆さんに振り回されて言えなかった。さっき雄二と話していたことをこのみに伝える。こう見えてホラー映画とかは大丈夫なこのみ。お化け屋敷なんかでも平気な顔でいることが多い。まあ、その点は珊瑚ちゃんと同じかな? そう思う。ただ…、このみの場合、宇宙人がものすごーく怖いらしい。夜道で絶対に会いたくない存在が宇宙人らしかった。そんなこと言ったら実際会ってるるーこはどうするんだ? と言いたいが宇宙人であることを知っているのは俺だけなので、ここではあえてそのことは言わないでおくことにした。
「わあ、肝だめしだって〜。明日が楽しみだなぁ〜」
「このみ! 一人でとことこ行くんじゃないのよ…。全くこの子は…。あっ、ちょっと聞いてよ、タカくん。このみったらねぇ〜…」
春夏さんが話し出す。もともと話が好きな春夏さんは話し出すと止まらない性分だ。このみのことを身振り手振りで話す春夏さんに、ちょっとぷく〜っと頬を膨らませて口をとがらすこのみを横に適当に相づちを打つ俺がいるのだった。
自分の家に帰ってくる頃には午後9時を悠に超えて10時が近くなっている、そういう時間帯だった。そこから電話を掛ける。まず最初に愛佳の家。次に珊瑚ちゃん・瑠璃ちゃん・イルファさんのマンションと由真の家。最後に草壁さんの家と電話を掛けた。愛佳は、
「怖いのはちょっと苦手なんだけど〜…。でも思い出作りにはいいよね? それにあたしが危なくなったら貴明くん助けてくれるよね? あっ、そうだ! 郁乃も一緒に連れてってもいい? あの子も家でたいくつそうだし…」
「お姉ちゃん?! あ、あた、あたしはたいくつなんてしてない,もん!!」
横から郁乃の声だろうか、ワーワー言ってる声が聞こえる。愛佳と郁乃はとても仲のいい姉妹だと俺は思う。郁乃はちょっと恥ずかしがり屋さんだけどね? でも、愛佳? 何か途中で声が聞きとりにくかったんだけど…。まあ、いいや。そう思って受話器を置くと次にピポパと、電話を掛ける。次の電話先、珊瑚ちゃんたちはというと?
「貴明と肝試しや〜。楽しみやなぁ。瑠璃ちゃん?」
「いやや〜。ウチは行きとうない〜!!」
「あ〜ら、よろしいんですか? 瑠璃様? 珊瑚様や私が貴明さんに“きゃあ”とか言いながら抱きついちゃっても…。まあ別に私は気にしませんしね…。この際ですからミルファちゃんもシルファちゃんも呼んで一度肝試しというものを体験しようと思ってますけど〜? ついでに貴明さんに甘えちゃいますけど〜?」
イルファさんの意地悪な声が電話口の向こうから聞こえてくる。“イルファ、イジワルやぁ〜…” と瑠璃ちゃんの声。で案の定、“貴明のアホ〜!!”と電話口の向こうから大声で怒鳴られる。ははは、はぁ〜。結局、イルファさんの言葉巧みな話術によって瑠璃ちゃんも行くはめになってしまった。はぁ〜、当日俺を“ううううう〜っ!!”って言いながら睨んでくるんだろうなぁ〜。この後掛けるお嬢様と同じように…。はぁ〜っと今日何度目か分からないため息。これからもっと大変なところに電話を掛けなくちゃいけないっていうのに…、気が滅入ってしまう。いっそのこと忘れてしまおうかとも考えたが、そうも出来ない訳で、結局電話をすることにする。
「ふふん、これはあたしに対する挑戦ね? いいでしょう…。その挑戦、受けて立つっ!! 逃げずに来なさいよ! 河野貴明!! もし逃げたりなんかしたら地獄の果てまででもあんたを追いかけて、捕まえて必ず参加させてやるんだからっ!!」
はは、ははははは……、逃げられない。きっと電話口の向こうで、俺のことを思い出して掛かってきた電話を睨みつけながら唇をぷるぷる言わしてるんだろうなぁ〜。はぁ〜。そう思って電話を切る。もうこれで最後かな〜っと思って“あっ!”と思い出す。肝心な人を忘れてたよ…。みんな一緒にって言ってるのに、仲間外れはまずいだろう…。それにしても俺って女の子が苦手って言うわりに女の子の友達が多いよな…。不条理さに頭を抱えながら、受話器を取って掛ける。
「貴明さんが守ってくれるなら…。って、えへへっ。こんなこと言うと貴明さん大変だね?…。だっていろんな女の子を守らないといけないもの…」
冗談っぽく笑う彼女。草壁さんはそう言う。春の夜、真夜中の校舎であったちょっと不思議なお話…。その主人公が今受話器の向こう、くすくす笑っている彼女なわけで…。“あ、あのねぇ…” 溜め息を吐きつつそういう俺。草壁さんは、“ごめんね?” くすくす笑う声が受話器の向こうから声が漏れていた。まあ、何だかんだいって俺はあの笑顔が好きなのかもね…。そう思った。
受話器を置く。ふぅ〜っと大きなため息を一つ。そういや雄二のほうは大丈夫なのか? タマ姉は幽霊とかお化けとかがものすご〜く苦手だ。このみとおばけ屋敷に入ったことは前にも言ったが、出てきたタマ姉を見てびっくりしたんだよな? 涙をポロポロ流しながらこのみに肩を借りて出てきたんだから…。俺たちが駆け寄るとヘナヘナヘナって座り込んで、“う、うう、うわぁぁぁぁぁ〜ん!!” って泣き出すんだ。タマ姉の怖いものって犬だけじゃなかったんだな…。雄二にそう言うと…。
「ああ、そうだな。姉貴がお化けをねぇ…。って! こ、こいつは使えるぞっ! 俺にいつも教育とか何とか言ってアイアンクローをかましてくる姉貴に復讐だ!! ああ…、夏が、夏が楽しみだぜ!! クククッ……」
って言って何か妙案でも浮かんだのか怪しく笑ってたっけ。途中からひそひそ声で言うから聞こえなかったけどな。でもなぁ〜。お化け嫌いなタマ姉が素直にうんと言うかどうか…。アイアンクローの餌食になってなけりゃいいんだけど…。そう思い受話器をまた取る。トゥルルルルル、トゥルルルルル、と呼び出し音。しばらくして、ガチャっと言う音。雄二かな? そう思って声を出そうとした時、受話器の向こうからぐしゅぐしゅと鼻を鳴らす音とともに涙声で…。
「こ、向坂ですけど…」
と言う声。ああ、もう間違いないや…。雄二に怖い話を聞かされて肝試しに行くから着いて来いとかって言われたんだろう。お化けがダメダメなタマ姉は怖い話を聞かされるだけでダメダメ人間になっちゃうんだよな…。雄二もいくらタマ姉に恨みがあるって言ってもそこまでしなくてもいいだろうに…。小さくため息をついて俺は言う。
「タマ姉? 俺だけど……。雄二から肝試しのこと聞かされたんだろ? …あのさ、別に行きたくなかったら俺が雄二に頼み込んで行かせないようにしてあげるから…。タマ姉、こういうの苦手でしょ?」
「べ、べべ、別に苦手じゃないわ! …ぐすっ。…で、タカ坊。一体どんな用事なのよ?」
涙声で否定されても意味はないと思うんだけど? はぁ〜っとため息。雄二に変わってもらう。タマ姉とは一転、嬉々とした声が聞こえてきた。
「おお! 貴明か? どうだった? そっちは?」
「ああ…。俺の知ってる女の子は全員参加だって…。で、そっちは…、って言わなくても分かるか…。はぁ〜」
「おう、まあそういうこった。んじゃ明日学校裏の神社で待ってるぜぇ〜。姉貴に復讐だぜぇ〜。思いっきり怖がらせてやるからな…。ふふふふふふ…。じゃあな、貴明。時間は9時半だぞ?」
念押し気味に雄二はそう言うと電話は切れた。切れる瞬間、“ひぃっ!” っていうタマ姉の悲鳴が聞こえたような気がするんだけどなぁ…。大丈夫かな? タマ姉。明日はなるべくそばにいてあげようっと…。そう思いながら俺も受話器を置いた。
後編へ続く