2つのチョコレートの戦い
俺の目の前、2つのチョコレートがでんと置いてある。1つは俺の彼女・水越眞子のやつで、もう1つが…、工藤叶。1年前まで男だと思っていた男装の麗人なわけだ。まあそのことに関してはまたおいおい話そうとは思うのだが、問題は今現在俺が置かれている状況だ。でん! と置かれた先、2人の女の子がぐぐぐぐ〜っと睨み合っている。この状況を簡単に説明すると、今流行り? の“修羅場” と言う状況だそうだ。前に眞子とデート中に見た、ものすごい光景が今俺の目の前に広がっている。と、俺の彼女が機先を制するようにこう言う。
「ちょっと工藤…。人の彼氏にちょっかいかけないでくれる?」
背後からごごごごご〜っと不動明王も真っ青な火炎のオーラを吹き出しながらそう言う眞子。対する叶も、“何もあなたの彼氏だからってそう言う独占は良くないと思うんだけど!” と言いながら眞子の光る眼にも怯むことなく、逆に男装の麗人? だった頃のように飄々と眞子の視線をかいかぐるようにしながら主張ははっきり通すような感じで反論する。まあ叶が女だと知ったのは俺が最初(まあそれ以前にことりは知っていたみたいだが…)なわけなのでびっくりしたのも事実なのだが、とにかくこの状況はヤバすぎる。
まあさして一言だけ言わせてもらうなら義妹がいなかっただけでもましな方か…。義妹・音夢は去年の4月から島の外にある看護学校に行っていて帰ってくるのは土日くらいだからな? で、帰ってきては文句ばかり言いまくるので困っているわけだが、正直今ここに音夢がいたら非常に冷ややかな、それこそ絶対零度のような視線で睨まれ、三つ巴の争いになることは必至なのでいなくて本当によかったとは思うのだ…。しかし何で叶が俺にチョコをくれるんだ? と不思議に思う。まさかな? と一瞬とてつもないことを考えてしまったわけだが、まあこれは俺の妄想であるからいいとして…。と両隣を見るとまだ睨み合っていた。ここにきて、約10分。こんな調子が続いている。ことりは? と今のこの険悪な2人の仲を取り持ってくれそうな唯一の女子を探すのだが…、いない。そうだった。今日は何でも家の用事があるとかで休んでいたんだっけ? ななこに言ってもアワアワ慌てるだけだし、わんこに言ったらそれこそ凶悪な義妹に告げ口されるのは目に見えて分かってるしなぁ〜。環は環で何か勘違いをされそうだし(しかも悪い方向に)、アリスもまあ同じようなものだしな…。唯一残った萌先輩は今年の春に卒業していないし…。杉並は論外。って言うか俺の友達全員ダメじゃないか…。
そう思って頭をかかえる俺。一方未だに睨み合っている2人ではあったのだが、機先を制して叶が動いた。と言うか俺の腕を引っ掴んで立たせると、“朝倉くんはどっちのチョコを先に貰ってくれるの?” と妙にうるうるした瞳で俺の顔を見遣る。ここで前世の因縁だとか今流行り? の厨二病的な文言を言い出すとそれこそ危ない感じになるのだが、叶はノーマルだから大丈夫だった。それだけは良かったのだが…、腕に体を摺り寄せないでくれ〜。妙に形のいいものの感触が当たって気持ちいい…んじゃない!! は、はは恥ずかしくてたまらないんだけどな? とふと眞子のほうを見てみると、スーパー○イヤ人か北○琉拳伝承者が纏う魔闘気の如くゆらゆらと何か得体のしれないものが眞子の周りに揺らめいていた。
「ほほう、朝倉。彼女のあたしがいながらほかの女といちゃいちゃとはいい度胸じゃないの…」
炎が揺れるようなゆらゆらと震えるような声で喋る俺の彼女。危険だ! 危険すぎる!! 俺の第六感がそう告げた。思わず叶の手を振り解き、“お、お、おおおお俺、ちょ、ちょちょちょちょっとトイレに行きたい!!” そう言ってだっ! とその場を逃げ出した。と、後ろを見ると憤怒の形相の眞子と、ぷく〜っと頬を膨らませた叶が後を追いかけてくる。捕まったらどうなるか…。おそらく眞子から鉄拳制裁は覚悟だろう。まあ眞子は普段慣れているから怖いと言ってもそれほどと言った感じがするのだが問題は叶だ。男として付き合っていた期間があまりに長いし、対して怒るようなヤツでもなかったので安心していたわけだが、今のあの顔を見てその考えも変わった。女の子特有の嫉妬感と言うかそう言うものが如実に表れているような顔だよなぁ〜。と思いつつ逃げる。で…、どうにかこうにか振り切ったみたいで壁にもたれてふぅ〜っと一息。と言う間もなく、目隠しをされる。“だ〜れだ?” と妙に甘ったるい声が聞こえるがその奥の怒りに打ち震える声を俺が聞き逃すわけもなく…。“眞子ちゃんか、もしくは叶ちゃんかな〜?” と普段使ってもいない“ちゃん付け” で呼んでみる。すると、“せいか〜い! 正解者はこれから楽し〜いお時間で〜すっ!” と言う声。振り返りたくはなかったが、このまま振り向かないで後ろから鉄拳を喰らわされるのも嫌だ。そう思って手をどかして後ろに振り返ると、案の定妙ににこやかな俺の彼女と女友達がいた。もっともにこやかなのは表面上なだけで実のところ怒りを通り越しているだけなのかもしれないが…。
今は夕方5時半。普段なら帰ってのんびりと過ごしている時間帯なわけなのだが、今日に限ってはそう言うわけにもいかず…。前を行く音夢ばりな二人の女にあれやこれやと小物を買わされ、挙句荷物持ちなんかをやらされる羽目になってしまった。まあ美味そうなチョコを2つもらったがチョコ2つと今のこの状況とでは割に合わん!! と思うわけなのだが…。
「何? 朝倉。何か文句でもあるわけ?」
「ないですよね〜? 女たらしで優柔不断な朝倉くん♪」
叶…。いつからそんな毒舌キャラになったんだ? まあ眞子はいつも通りのツンデレキャラなわけだが…。あの後妙な連帯感が出来たのか眞子と叶はいつの間にか仲直りしていた。全く女って言う生き物はいがみ合っていても共通の敵が現れた時点で、コロッと態度が変わるんだからなぁ〜。これを卑怯と言わずして何と言うのか…。などと考えつつ荷物を両肩にふぅふぅ息を切らせながら歩いている。
不意に前を向くと、2人の女の子が手を差し伸ばしていた。1人はふんっ! とそっぽを向きつつそしてもう1人は微笑みながら…。“あんたばっかり荷物を持たせて後で恨まれても困るからね?” とそっぽを向いた女の子、俺の彼女はこう言いながら荷物をふんだくって俺の手を掴むと体を寄せてくる。その横から、“全くその通りだな? 朝倉” と男声でそう言うとペロッと舌を出していたずらっ子っぽい笑みで俺の顔を見遣りつつ荷物を取ると俺の彼女と同じように体を寄せてくる俺の友達。両方から抱き抱えられる形で歩いているとぽよんぽよんした感触が両腕から感じてしまい妙に恥ずかしくなって俯く俺。そんな俺をよそに、ケーキでも食べに行こうと言い合う2人。もちろんその代金を出すのは俺なんだろうけど…。はぁ〜っと深いため息を一つ。昨日金を下ろしておいて本当に良かったと思った今日2月14日は俺の彼女・水越眞子の、そしてその5日後2月19日は俺の男友達? だったが今は女友達な工藤叶の誕生日だ…。
END
おまけ
余談ではあるが、その週末のこと。今日のことをどこを尾けてきたのか知らんがわんこと杉並に尾けられていて後で帰って来た義妹にわんこから聞かされたんだろう小1時間くどくど正座でお説教された挙句、翌日学校に行くと俺が女たらしだという噂が校内中に知れ渡っていて、学園中のすべてのやつからじろじろと軽蔑の眼を向けられたことは言うまでもなかった。
ことりやななこやアリスなどからは、“説明してっ!” と言ういかにもな目で壁際まで迫られてあれやこれや弁明するのに骨が折れた。まあ弁明は何とか出来た訳なのだが…。ほとほと困り果て参ったとばかりに机に突っ伏しているところへ今度は環がぷぅ〜っと頬を膨らませながらやって来て、いきなりグイッと腕を掴まれたかと思うと、眞子や叶にやらされたことと同じことをさせられる…。で教室中がまた悪意に満ちた雰囲気になる。ほとんど爪弾きみたいにされ、もういやだ〜っと思いつつ昼休み。机の上でぐて〜っとなっているところへ目をらんらんと光らせた眞子から問答無用で鉄拳制裁を受け、ぐお〜っとなっているところに叶から文句をぶつぶつ言われ続け真っ白になったことは言うまでもなかった。ぐふっ…。
TRUE END?