酔っ払い和泉子ちゃん


「あしゃくらしゃ〜ん、何でお腹をそんなに突き出して怒った顔になってるんですか〜? ヒック…」
 そう言って信楽焼のタヌキの置物に話しかけたりお腹を擦ったりと完全な酔っ払いのおっさんと化した俺の彼女がここにいた。今日11月18日は、俺の彼女で実のところこの星の人間ではなく一般的な名称としては異星人な紫和泉子の誕生日だ。まあ誕生日だからか誕生日と言うからにはかと言われるとどうもよく分からんのだが、お酒に誘った。異星人、しかも知的生命体で俺たちと何ら変わりのない、しいて言うなら背がちょっぴり低いくらいの女の子の宇宙人種が酒に酔うものなのかという知的好奇心に駆られて誘ってみたわけなのだが、結果この通りのべろんべろんに酔っぱらった彼女が1人出来上がってしまったわけだ。
 まあ酒の飲めないヤツからすると結構羨ましがられたりするんだが、酒を飲んで楽しくなる分にはまだいいんだが、妙に絡んできたりするヤツも多くいたりするのでそんなヤツとは飲みたくはないなぁ〜っと思う。あと、脱ぎ癖のある娘(俺のちびっこい従姉がそうなのだが)とか泣き上戸になる娘(こっちは俺の義妹)も大変だよな? と思う。とにかくそんな従姉やら義妹やらと四六時中付き合っている俺としてはまだまだ可愛いもんだな? と思うわけで。まあ好奇心と言う魔物には際限がないと言うことをまざまざと見せつけられてしまったのだが、それは今に始まったことでもない。目玉焼きを宇宙バクテリアと呼んで毛嫌いしていたり、空の色が和泉子の住んでいた星ではピンク色で夕焼けが群青色だったりと言う地球に住まう俺たちには到底考えられないことをいろいろと教えてもらった。まあ目玉焼きのほうはここ最近になってある程度には落ち着いて見られるようにはなったが、付き合った最初の頃はそれは酷かったなぁ〜っと思う。テレビで目玉焼きのシーンが出てくるだけでカーテンのほうにすっ飛んでこっちをぶるぶるとまるで捨てられえた子犬のような目で見てきたり、はたまた俺が何気なく作っていると、“朝倉さん! わたしが目玉焼きがダメだって分かっているのに何でそんな酷いことをするんですかっ!!” と目をぐりぐり言わせながらぶりぶり怒っていたっけか。そう考えると今では普通に作れるようにはなったので格段に進歩したのか? と思う。
 そうこう考えてる間に和泉子の家についてしまった。昔は公園の一角に別空間を作ってそこに暮らしていた和泉子だったんだが、地球に定住するようになってアルバイトとかで貯めたお金を使ってアパートを借りて住んでいる。もっとも宇宙船のほうは別空間にまだあるらしく今は物置小屋として利用しているらしい。とはいえ女の子の1人暮らしは何かと物騒にもなるので俺が毎日こうやって送り迎えをやっているわけだ。しかし千鳥足てあっちをふらふらこっちをふらふら歩く和泉子は危なっかしいことこの上ないな? とアパートの前まで送ってきてそう思った。部屋は1階の奥の角部屋なのでまあ心配はいらないわけだが…。そう思い部屋の前まで連れてくる。俺はここで普段ならサヨナラとなるわけだが…、
「あしゃくらしゃ〜ん、寂しいですぅ〜。泊まっていってくだしゃ〜い」
 とまあこうなるんじゃないだろうかと予め予想はしていたんだが、予想通りなことを言われてしまう。うちには隣りに俺の保護者代わりなちびっ娘従姉が住んでいて、まあ和泉子に輪をかけて甘えん坊のわがままと来ているものだから俺が和泉子の家に泊まって帰った日には半日くらい床の上に正座をさせられて延々とお説教じみたこと(と言うより甘えん坊の駄々こね)を聞かされてしまうわけだ。それならまだましだが、どこでどう聞いたのか義妹にその週末に1日中またお説教(こっちは本当にお説教そのもの)を聞かされてそれこそ悪夢を見ているかのような気分になってしまう。そんなわけだからお泊りだけはご免こうむりたいのだが…、この捨てられた子犬のような目をしておまけに涙目の上目遣いと言う女の子の必殺の武器を持ってこられると男としては断ることは出来ないだろう。よしんば断ったとして後で、“朝倉さんがわたしを捨てた〜っ!” ってなことを言われてまた厄介事が増えるのは勘弁願いたい…と言うか1年くらい前になるのか、俺がことりとちょっと買い物に行った(それは和泉子へのプレゼントを買うためでもあったんだが)のをどこかで見ていたんだろう。帰ってくる際に出会ったんだがむぅ〜っとした顔で俺のほうを見ているもんだからどうしたのかと問いかけると前述の、“わたしを捨てた〜っ!” 的なことを言われて路上にも関わらずうわーんと大声で泣くものだから周囲の俺に対する目が非常に厳しい目になって和泉子をお姫様抱っこで家まで連れて帰って、誤解を解いたわけだが…。誤解が解けるまで6時間を要したわけで、あれ以来和泉子の言うことはしっかり聞いてやることにしている。そんなわけだから今日も素直に言うことを聞いておこうと思って泊まることにしたわけだが…。


「で結局こうなるのか…。はぁ〜、甘えん坊ここに極まれりだなこりゃ…」
 布団の中で横の幸せそうな寝顔を見ながら明日どう言い訳を考えようかと思案を巡らせる俺がいるのだった。保護者代わりの従姉は何とか言いくるめれば許してもらえそうなのだが、問題は義妹だ。どう言ったところで、“兄さんのぉ〜、えっち、スケベ、バカバカバカ〜っ” となることは目に見えている。それだけならまだいいが義妹の場合、“裏音夢”を通り越して“超・裏音夢”と言う新たな進化形を出してくるのは明らかなわけで。とにかくどこでも甘えてきて厄介なことこの上ない。ツンデレと言う言葉が以前流行ったがその“デレ”の部分をさらに飛躍させたかのような感じになる義妹。それだけならまだまだ何とか耐えられるのだが、隣りの保護者代わりの従姉も一緒になって甘えてくるともう体が持たないと言うかそんな感じになるわけで…。
 と、和泉子のぷにゅぷにゅぷにぷにした体がまるで俺を抱き枕にしたかのように抱きついてくる。寝間着に着替えさせるのにも一苦労だったのになぁ〜っと、あのぷにゅっとしたお餅みたいな肌を思い出しては鼻血が出そうになる感覚を必死で堪える俺。そんなこんなでやっとこさ着替えさせて布団を敷いて寝かせて自分も雑魚寝で寝ようと思ってよくよく俺の服を見るとしっかりと俺の服を掴んでいらっしゃる。無意識にそうしたのか本当は起きてるのかは分からないが、掴んだ手を放そうとするとくるんと向きを変えてくるわけで…。あまりに不自然…と言うか起きてるだろう絶対これ!! と思って、“おい、和泉子。手を放してくれ” と言うところが、“嫌ですよ〜、朝倉さん、こうでもしないと一緒に寝てくれませんもん。たまにはわたしも音夢さんやさくらさんみたいに甘えてみたいんですからねぇ〜” そう言ってますます力を入れて引っ張ってくる。ぐいぐい引っ張る手に体のほうが慣性の法則に抗えず覆い被さるように和泉子の横に…。顔を見るとえへへっとイタズラっ娘のイタズラが成功した時のように顔をくしゃりとさせて笑っている。その笑顔がとても可愛らしく思えて何だか別に寝るのがバカらしく思えるようになった今日11月18日、俺の彼女・紫和泉子の20歳の誕生日だ。

END