四つ巴バレンタイン抗争
非常に困った事態になった。と言うのもそう! 世間一般に1人の愛とたくさんの憎悪の怨嗟を招くと言うセントバレンタインデーであり俺のまあ悪友でもある水越眞子の誕生日を明日に控えた日。一通の手紙が俺の家の郵便受けに入っていた。何だ? と思い取り出してみるが差出人は書かれていない。まあダイレクトメール辺りなんだろうな…と思い家の中早速開けてみると、おどろおどろしい字で、“明日は血を見ることになる…注意せよ” と書かれていた。何じゃこりゃ?! と一瞬思ったがまたどうせ杉並かモテない男子のイタズラだろう…。そう思ってゴミ箱の中にポイっと捨ててしまった。さて飯を買いに行くかと思って立ち上がろうとして固まった。な、何だぁ〜? と思って動かせない体の唯一動く目を動かしてきょろきょろ見遣っていると?
「やっほー、お久しぶり〜?」
と言う声が聞こえてくる。その声にはどことなしか聞き覚えがあった。そうこうしてるうちにすぅ〜っと体が入ってくる。そう、それは2年くらいか3年前かに杉並との勝負に負けて校内を探索して回ったときに出会った女の子の霊である霧羽香澄だ。ちなみに妹の明日美ちゃんは今は元気に登校しているのだが、去年だったか一昨年だったか俺はこいつにとんでもない目に遭わされているので、少々警戒している。と言うより俺って霊媒体質になっちまったのか? などと考えながら、
「おい! 何しに出てきた? そんなに行き来が自由なもんなのか霊界って言うところは? と言うか、また前みたいな騒動はごめんだぞ?」
と言うといかにも憮然とした表情で、“何よっ! あたしが出て来ちゃ悪いって言うの? それに前にも言ったでしょ。霊界って言うとこは案外退屈なとこなんだって…” と言う香澄。その表情がいかにもな顔だったわけで何か霊って言うことを忘れてしまう。ぷんすか怒る香澄を宥めつつコーヒーを淹れる俺。相手はふわふわ浮いている存在で実体がないものだからコーヒーは飲めんだろうと思ったのだが、ついいつもの癖で2人分淹れてしまった。と言うか霊体がコーヒーなんて小洒落た物を飲めるのか? あるいはどうやって飲むのかなど不思議がいっぱいあるわけで…、前々から気にはなっていたのだが、ようやくその真相を確かめることが出来るわけだ。
「コーヒー飲むのって久しぶりだなぁ〜。じゃあちょっと失礼して…」
と俺の背中から羽交い絞めにするように体をくっつけてくる香澄。“さあさあ飲んで飲んで?” と言って催促してくる。“お前の分なら向こうにあるんだ、何でこうやってくっつかれにゃならん!” と言うと、“あんた、ほんと何も知らないわねぇ〜。霊って言うものは実体がないんだから誰かに憑りつかないと何も出来ないの!” と頭をはたかれる。ビリビリと何か電気でも走ったかのような感触があった。“おい! 霊って言うのは実体がないから何も出来ないんじゃないのか?” と聞くとふんっとそっぽを向いて、“こう言うことは出来るのよ。それより早く早く、コーヒーが冷めちゃう〜” と言って更に催促してくる香澄。背中に香澄を負ぶったままコーヒーを頂くのだがいつもより味が薄いと言うかほとんど白湯だ。後ろで“インスタントでも美味しいわぁ〜” などと言う声が聞こえて来てるので多分香澄にコーヒー分を吸われているんだろう。そう思った。どこか漫画やアニメでそう言う幽霊の出てくるやつを見たような気がするんだが、全く今の香澄と同じだなと思う。まあ明日はお楽しみなバレンタインデーなので用事もそこそこに寝ようかな? なんて考えて、“俺、もう寝るけどお前はどうする?” と聞くところが、“あたしは幽霊だから寝たくても寝られないし、まあ深夜の散歩でもしてくるわ…” と言って壁をすり抜けて出て行った。霊って言うのは案外暇なもんだな? そう思って眠りにつく俺がいた。
さて翌日になる。2月14日、男と女の愛憎入り乱れる日、すなわちバレンタイン当日だ。ついでを言うと俺の悪友で遊び仲間の眞子の誕生日でもあるので、この間隣りの従姉で俺の担任教師であるさくらに付き合ってもらって島で唯一のファンシーショップで購入した小物を持って出かけた。と彼女の誕生日も近かったんだっけか? などと考えて見て回っているとちょうどいい和風の物を見つけて秘かに予約しておいた。さくらは別の物に夢中になっているのでその隙をついて予約したわけなのだが、その帰り道、“お兄ちゃん、何かボクに隠し事してない?” と見るからに怪しそうに俺の顔を見つめてきたことには正直、“女の勘、怖っ!!” と思った。そのときは何やら時代劇の話で誤魔化したわけだが…。
まったく彼女と言うものが出来るとバラ色になると聞いてはいたが、俺の場合はバラ色どころか赤と黒の入り混じった何やらどす黒い色になってるよなぁ〜っと思う。これで我が義妹・音夢がいたら完璧どろどろした色になってるよな? と思うわけだが、神様もそこまでイタズラ好きではなかったみたいでその辺はほっとしているわけだ。が来週末、ひょっとしたら血を見ることになるやもしれんので気は抜けん。取りあえず今日をどうするかが今年の命運を握っていると言っても過言ではないだろう。と、下駄箱に着く。靴を履きかえようと下駄箱を見ると、手紙が3通入っていた。だ、誰から? もしや眞子のファンの女の子からの嫌がらせ? 開けるところにカミソリの刃…はついてないよな? うん。まあ休み時間にでもじっくり読ませてもらおう。そう思い制服のポケットの中に入れて教室へと向かう。教室へ着くとホームルームが始まりがけていて俺はさくら先生から、“純一くんは宿題10倍に出すように教科担任の先生に言っておきます!!” とぷく〜っとリスが頬袋にいっぱい物を詰め込んだときみたいな顔で言われてしまった。さくらが俺の担任になったときから俺がなにか行事ごとで活躍したり、またバレンタインになるとこう言う嫌がらせみたいなことをやって来るわけだ。しかし宿題10倍って言うのはいくら何でもやり過ぎなんじゃないのか? とも考えるわけだが…。今はいいだろう。そんなことより下駄箱の手紙のことが気になって休み時間に入るとすぐにトイレに直行して読むところがどの手紙にも、“今日のお昼、屋上で待っています…” とだけしか書かれていない。1人は言う間でもない俺の彼女の物なんだが、何で眞子がこう言う手紙をよこしてくるのかが分からんわけで…。と言うか萌先輩といつも鍋してるだろうに…。と思う。それに輪をかけて分からないのが3通目だ。明日美ちゃんが書いたにしては字がかくかくし過ぎてるし、何か字体そのものが別人が書いたようにも思われるわけだが…。まあ行けばわかるだろう。とやや安易に考えていたのが間違いであると言うことに気付かされるのはこのあと3時間の後のことになる。
昼になる。いつもなら嬉しい気分に浸れるのだが、今日はやけに気分が重い。多分あの手紙3通のことがこの気分の重さに関係しているんだろう。そう思う。そういや、彼女・叶とろくに口を聞いていなかったな? 朝は朝で“おはよう…” の一言だけだったし、休み時間は休み時間で不機嫌そうにすたすたどこかに行ってしまうのもだから話す機会がなかった。もしや手紙のことをどこかで見ていて嫉妬してあんな態度をしているのではと思うと何だか少し心が痛い。ともかく“付き合って云々” と言われたら“彼女がいるんで…” とはっきり断ろう。そう思いながら階段を上がる。最後の踊り場まで来ると屋上のドアの向こうから話し声が聞こえてくる。何だ? と思いそ〜っ階段を上がって屋上のドア越しに聞き耳を立てると、“誰のを最初に取るかで勝負よ!” と言う悪友の声が響いてくる。何のことだ? と一瞬思って、はは〜んと思った。と同時に意外に俺ってモテ男? とにやにやしてしまう。順当良くいけばやっぱり叶からなんだろうな? とは思うがやっぱりイタズラ心も湧いてきてしまうのだが、前にこう言うことをしてると拗ねられた挙句に1週間ばかり家に泊まり込んで大変だった記憶がある。さくらや音夢には、“お兄ちゃん&兄さんのえっち!!” と言われるわ実に恐ろしい目つきで睨まれるわで大変だったのでここは素直に彼女からかな?…。なんて思っていると突然バンッと扉が開かれる。当然扉に耳を押し付けていた俺はゴロゴロゴロっと屋上に投げ出されてしまうわけで…。
「い、いや、聞くつもりはなかったんだ。そ、そそそそそ、そう、たまたま。たまたま聞こえてきただけで…」
などと苦しい言い訳をしていると、明日美ちゃんが深々と頭を下げてくるではないか? いや、何で? と一瞬混乱してると、“また姉がご厄介になっちゃいまして申し訳ありません” と言う。詳しく話を聞くと話はこうだった。バレンタインの前々日の夜、夢枕に香澄が立って、“今年はチョコレートあたしの分も用意しておいて” と言ったんだそうだ。それは眞子や叶のほうでも同じだったらしく。ただ違うのは、“あいつが誰のチョコを一番に取るか競争しようよ” と言うことだったらしい。それにしてもよくお化けとかが苦手な眞子のところにも現れたもんだな? と思ってると、“まあ写真では何回も見てるし、香澄も普通に玄関のチャイム鳴らして入ってきたし、怖いとは思わなかったわよ” と言うことらしい。俺のときは勝手に上り込んでくるのに、まったく…、とか考えてると、バシッと何か静電気が体に走ったような感覚になった。ああ、間違いなくここにあいつがいるんだな? と思う。差し出された4つのチョコレート。ラッピングもそれぞれ個性的だ。叶のは高級そうな和紙にくるまれたもので上品そうな雰囲気だし、眞子のは一般的ないかにも義理チョコ的な感じがする。明日美ちゃん&香澄のは手作り感満載な感じだ。4つ同時に…、なんて言うことは当然できないですよね? 3人+1人(1人は当然見えないのだが…)の顔を見遣る俺。じゃ、じゃあ、と叶のほうに手を伸ばそうとするとバシッと静電気が走ったかのようにはじかれてしまう。おのれぇ〜、香澄のやつめ〜。この状況を楽しんでるな? などと思い叶にアイコンタクトを送る。ふぅ〜っと深くため息をつくと分かったわと言う表情になったので今度は眞子のほうに手を伸ばすとさっきより数倍強い電流が…。“おい、いい加減にしろっ!!” と念を飛ばすと、“ふんっ! あたしの妹に恥かかせるんじゃないわよっ!!” と相当にご機嫌ナナメな声が聞こえてくる。ふっと眞子のほうを見るとなにか怖いものでも見たのか顔面蒼白になって、“あ、あああ、あたしはあとでもいいわ…” などと言いながらさっと持っていたチョコを後ろ手に仕舞った。と明日美ちゃんのほうへと向くとすぅ〜っと横に香澄が立っていた。まさしく背後霊みたいな感じなのだが明日美ちゃんが気付くわけもなく。と言うよりし〜っと香澄が人差し指を口元に持ってきているのが分かって黙っていたわけだが…。まあこいつは妹思いだったからな? そう思い2つのチョコレートを受け取る俺。ぽっと顔を赤らめて俯く横で、にこっと微笑む姉の姿が印象的だったわけだが…。その背後から何かとてつもないどす黒いオーラが流れてくるような感覚があってふっとその方向に振り向くと…。
「そりゃあ、朝倉くんは霊にまでモテるいい男って言うのは分かり切ってるけど、それにしたって彼女である私の目の前であんな顔をされると腹が立ってくるって言うか、私っていったい何なの? って思えてくるって言うか…」
と帰り道、俺の彼女は拗ねた表情を浮かべていた。今回の原因となった香澄は、“じゃ、そう言うことで…” と言うと足早に退散していき、残った眞子たちもそろそろと退散を決め込んで残ったのは結局俺だけだ。今度一回香澄の墓に行って今まで被って来た被害と言うものを延々と話してやる! そうでもしなきゃ俺の腹の虫がおさまらん! とあいつへの彼岸の復讐のことを考えながら歩いているといつの間にか彼女の家の前まで来てしまっていた。いけねっ! と思って踵を返すように足を家のほうに向けて歩こうとしてぐいっと腕を引っ張られる。“どこに行くの?” と叶。“いや、家に帰ろうと…” と言う俺に対して、上目遣いのちょっと怒ったような目つきで、“はぁ〜、やっぱり上の空で聞いて相槌打ってたんだね? いい? 今からしばらく朝倉くんはうちで寝泊まりすることになったからそのつもりで…” ととんでもないことを言ってくる叶。思わず、“なぬっ?” と聞き返すと、“だから、朝倉くんはうちでしばらく寝泊まりすることになったのっ!! 何か文句でもあるの?” そう言ってぷく〜っと頬を膨らませる叶。その顔を見てこれで帰ったら絶対明日は命の危険があると思った。まあ帰ったら帰ったで従姉と義妹に散々に言われることは目に見えて分かってるので、同じ怒られるならこっちのほうが楽かな? と思う今日2月14日は俺の悪友・水越眞子の、その5日後の19日は俺の彼女・工藤叶の、そして4年に1回の29日は俺を恐怖に陥れることが出来る存在・霧羽香澄のそれぞれの誕生日だ。
END
おまけ
それからしばらく工藤家にご厄介になったわけだが、どこをどう叶に説明されたのかは分からないが俺がえらく立派な好青年に思われていた。まあこれは叶がそう言わざるを得なかったと言うべきなのかも知れないが…。で1週間後ようやく家に帰ってくると、義妹と従姉が案の定玄関先で腕組みしながら待っていて横をしゅるしゅるっと通り抜け…られず、捕まってしまい叶の家でどう言う暮らしをしていたのかとかを延々9時間も尋問させられた2月も下旬に差し掛かった21日の夜だった。がくり…。
TRUE END?