少女漫画的展開? にも程遠い…
「あ〜っ、ネタが〜。ネタがない〜っ!!」
と俺の隣りでうんうん唸っている声がする。今日7月16日は俺の彼女で少女漫画家な彩珠ななこの誕生日…なんだが、昨日から彼女はこの通りいつものネタ切れ発狂と言うかそんな感じで呻いていた。連載漫画のほうは彼女の担当者とも綿密に話し合っておりまた俺の意見も聞いたりして何とかなってはいるんだが、問題は夏コミに出す漫画のようで…、今まさにわわわと言う感じで週刊誌とかの恋のお悩み談とかを見ながら“ネタがない〜っ!!” を連呼している。俺はそんなには詳しくはないが、夏コミと冬コミと言う2大コミケと言うものがあってななこは毎年応募しているんだとか。応募しても落選するところも多くあると聞くので毎年応募して当選するななこはさすがと言いたい。
で、今だ。その原稿の締め切りを来週後半に控えて、う〜っと頭を抱えているななこ。俺が言うには烏滸がましいが、ななこは少女漫画に固執しすぎているんじゃないか? と思う。何かと言うと、“恋” だの、“愛” だのと言う感じになる少女漫画は、最近の一部の女子にはあまりウケが良くないと聞く。それは多角的に見ていて往々にそう感じる人がいるって言うことだ。まあ男子の中にもこう言う少女漫画の好きなやつはいるだろうし、一概には言えんわけだが…。
「いっそのこと、冒険物とか書いてみたらどうだ?」
と俺は机に突っ伏しているななこに向かって言う。と、ビクンと跳ね起きてダダダダッと走って来て俺の肩をガシッと掴んで、“た、たたたた例えば?!” と鬼気迫る表情で今にも飛び掛からんばかりに聞いてくるななこ。その顔に相当切羽詰まってるんだなぁ〜っと思いつつ、まあ主人公は女の子と言う感じにしてその子がいろいろと冒険の旅に出かけていく…って言う少年漫画の王道のような感じな要素を言ってやる。これでやる気が起きるかどうか甚だ疑問なんだが…。それか、歴史物の改謬作とかはどうだ? 例えば真田幸村が実は姫だったとかと言うフィクションも加えて戦国時代がまだ続いているという設定で…と言う俺自身の最近の趣味も加えて話していく。とななこを見るといつの間にか愛用のメモ書きを持ってふんふん俺の話を聞きながら要点をメモしていっている。メルヘンチックにしようと思うのなら異世界に迷い込んだ主人公の敵視点で書くと言うのはどうだろう。あまり敵からの視点では物語は書かれていないものがほぼなので敢えて逆転の発想で書いてみるのも面白いだろうな? と言うことを話した。むむむむむむ〜っと難しい顔をして展開を考えこむななこの顔は見ていて楽しい。喜怒哀楽すべての要素を含んでいるように見えるからだ。10分くらい難しい顔をしたり笑ってみせたり怒った顔になったり涙を浮かべたりるるるる〜っと鼻歌なんぞを歌ったりしていたななこがばっと顔を俺のほうに向けてこう言ってくる。
「今、ちょうどいい案が浮かんだの! ありがとう! 朝倉くん!!」
そう言ってさっと置いてあるスケッチブックを取り出すとばばばばばっとものすごいスピードで描き始めるななこ先生。アイデアさえ浮かべば後はこっちのものだろう。そう思って俺はお茶でも用意するかな? と台所まで行ってそう言えばケーキを予約していたんだっけか? と壁に掛かってある時計を見るといい時間になっている。一言言って出ようかなとは思ったが、あんなに集中して描いているのに俺が言って腰を折っては申し訳ないと思いそっとしておいて駅前のケーキ屋までケーキを取りに行ったわけだが、これが良くなかったわけだ。
「ど、どどど、どこに言ってたんですかぁ〜? 心配してたんですよぉ〜。気が付いたら忽然と消えていたって漫画じゃないんですからぁ〜。ぐすっ、えぐっ、えぐっ、うわ〜〜〜ん」
とどこぞのぽんこつさんみたく、そんなことを言いながら抗議の声を上げるななこ。良かれとしたことが裏目に出た感じだな? 眼鏡を持ち上げては拭き持ち上げては拭きするものだから、ほぼ眼鏡がずり落ちてしまっている。俺がいないことに気が付いて慌てながら必死で探していたんだろうか、部屋も何となく散らかっていた。泣き上戸な俺の彼女は一旦泣くと1日中でも泣いてしまう癖がある。この癖に気付いたのは彼氏になってからなんだが、何とか治さなきゃなぁ〜っと思う今日この頃。とにかく今のこの状況を何とかしなきゃいけない…と思い、謝ってみるのだが…、如何せん泣き上戸な彼女ときたもんで、なかなか泣き止んでくれない。と言うかいつの間にか俺が浮気をしたって言う話にすり替わっているわけで。どこぞの地域じゃあるまいし、そんな話にすり替えてどうするんだ? とは思うものの、捨てられた子犬のような目で俺の顔をぐすぐす言いながら見つめてくるななこには勝てるわけもなく…。
「よいしょっと。えっへへ〜。朝倉くんの膝枕〜」
と普段のななこなら絶対にこんなことは要求してこないだろうことを要求してきたわけだ。ちょっと酒でも入ったか? と見渡してみて納得。どうやらウィスキーボンボンを俺がいない間に知らない間に気付かずに食べていたんだろう。そこでさっきの行動にも納得がいく。とにかく酒の勢いでしか甘えられない彼女はどうにかしないとな? と今現在、気持ちよさそうに俺の膝枕で悦に入って半分寝かかっている今日7月16日、俺の彼女で少女漫画家な彩珠ななこの19歳の誕生日だ。
END