ポケットの中の温もりに
今日11月18日は、異星人で俺の彼女な紫和泉子の誕生日だ。季節は初冬を迎える。当然木の葉は枯れ落ちて道を赤や黄色の絨毯に変える。つい昨日のことだ。いつものように2人で並んで話をしながら帰っていると、なぜか四季の話になった。和泉子の星でも四季はあるらしく、地球によく似た四季なんだそうだ。ただ空や海の色がちょっとだけ違うらしく、当然雨や雪の色も違うらしい。どんな色なんだ? と聞いたところが、“ご想像にお任せします” とちょっとイジワルそうにウインクしながらそう言って微笑んでいた。空はエーゲ海のようなエメラルドグリーンみたいな色で、海は群青色のような藍色のような深い青色で、そこから出来る氷もまた南極の氷のような青い色だったら神秘的できれいなことだろう。などと思っていると驚いたような顔で和泉子がこっちを見つめている。ああ多分思ってたことが口に出たんだろうな? などと考えてると、
「もしかしてですけど、朝倉さん昔UFOにさらわれて私たちの星系に来たとかじゃあありませんよね? いや、他の人の夢を自分の夢のようにを見たり、手から和菓子を出せていた朝倉さんのことですから、有り得ないことではないかも知れませんよ?」
といかにも真剣そうな顔つきで考え込む和泉子の表情が何だか面白い。俺にはいわゆる魔法と呼ばれる不思議な力があった。あったと言う過去形なのは今はもうその力はないからだ。まあその魔法を失う経緯については時間がいくらあっても足りないのでここでは端折らせてもらうが、今はもう使えない。なら何で和泉子が知っているのかだがこの間何かの拍子にうっかり口を滑らせてしまい、洗いざらい全部喋ってしまったからだ。もっともこんな意味不明な能力のことであれやこれや調べられるのはごめんなので、適当にはぐらかしておいたのだが…。何やらかやらと難しい理論話などに耳を傾けながら適当に相槌を打つ俺。と、最近急に寒くなってきたのか吐く息も白くなってきた。それに伴うのかどうかは分からないが和泉子の手や頬が真っ赤っかなわけで。と言うか寒くないのかな? と思って聞いてみると、“寒いですけど、うちにそんな手袋やらマフラーやらを買える力はありませんから…” と微妙に体を震わせてそんなことを言う。確かに住んでるところは昔は公園の中のUFOだったが地球に定住するようになってアパートを借りて住んでいるわけで、バイトとかもやりながら生活しているのだ。まあ高校生で出来るバイトで生活費・食費などを差っ引くとほぼ手元には残らないだろう。どこぞの貧乏女子高生じゃないが、何だか可哀想に思えてしようがない。
と、そう言えば音夢のお古が家にあったなぁ〜…、と思い出し和泉子の手を引いて家まですっ飛んで帰る俺。“ど、どどど、どうしたんですかぁ〜? 朝倉さ〜ん!” と言う和泉子の悲鳴にも似た声を無視して玄関の戸をバーンと開けて中へと入る。“ちょっと待ってろ、いいもの取ってきてやるから” と言い階段を昇りかけて戻り、“あっ、適当にお茶でも入れて飲んでてくれ” と言い残したことを言って今度こそ階段を昇り2階のかつての義妹の部屋に入る。確かこの辺に〜、と探してるといい塩梅で出てくる。傷んでないか? と見るがどこも傷んでいない。今年の春まで使ってたものだしな。そう思った。まあ要らんって言って置いて行ったものだしな? と階段を下りる俺。応接室に入ると椅子に腰かけた和泉子がこっちを見る。手に持ったものを見てるのか、じ〜っと見つめていた。そんな和泉子の仕草を若干微笑ましく思いつつこう言う。“ちょうどいいマフラーと手袋があるからあげるよ。まあ義妹のお古で悪いけどな?” そう言ってマフラーを首に巻いてやった。途端にぽろぽろ涙を零す和泉子。全く感動症と言うか何かだなぁ〜。そう思って頭を撫でてやる俺がいた。
で今だ。昨日あれだけ嬉しそうにしていたのになぁ〜っと赤い目をしてすんすん泣いている和泉子を見ている。曰く、“昨日あれから帰ってちょっとうきうきしちゃってマフラーはず〜っと巻いて手袋はつけたままでいたんですけど、案の定汚してしまいまして…、それで洗って乾かしたら縮んじゃったんですぅ〜。うわぁぁぁぁぁ〜ん。ごめんなさ〜い。朝倉さ〜ん!!” とよほどに悲しかったのかまたぽろぽろと涙を流してしくしく泣き出してしまう和泉子。当然マフラーもなし手袋もなしで手が悴んでいるのか真っ赤なわけだ。頬はリンゴのような赤い頬でどこか東北地方の田舎から出てきて間もない女の子みたいで可愛らしい。まあ起こってしまったものは仕方がないしな…、そう思い、“まあ何だ? なくなってしまったものは仕方がないんだからそうくよくよするもんじゃないよ。それよかこっちのほうが失礼にあたるんじゃないかと思ってたんだし…” そう言って励ましてやる。俺自身は後で音夢がいるって言ったときがちょっとと言うかかな〜り恐怖だが…。
何と言うか義妹のお古じゃあまりにも可哀想だと思ってたしなぁ〜。帰りしなにこの間新しく出来たブティックにでも寄って見てみるか…。そう思い直す俺。資金のほうは今日のために貯めておいたへそくりがあるので大丈夫だし…中身は昨日のうちに入れておいた。とポケットの財布を確かめる。うん、あるな? と…、とにもかくにも今は学校に行かなきゃ…、と長巻のマフラーの一方を和泉子の首に巻いてやる。手袋のない手も何だか冷たそうだから俺の制服のポケットの中に入れてやった。途端にあんなに悲しそうに泣いていた顔が嬉しそうににっこり笑った顔に変わるんだから女の子はどこの星でも同じなもんだよなぁ〜っと思う今日11月18日、俺の可愛い彼女・紫和泉子の誕生日だ。
END