素直になれない


 む〜っと睨みつける目が一対。その矛先は俺だった。今日12月28日は我が義妹にして最恐の女の子である朝倉音夢の誕生日。だがプレゼントも何も、いや誕生日であったことさえ忘れていた俺は当然のことながらプレゼントも何も用意してなくて…。
「別に構いませんよ。兄さんは私のことなんてこれっぽっちも思ってないんですもんね!」
 きつい目を俺に向けてそんな事を言ってはぷぅ〜っと頬を膨らませる音夢。まあ、久しぶりに家に帰って来たんだしそれに今日が自分の誕生日だから絶対俺が何か言ってくれるものだと思ってたんだろうけど……。見事に俺が忘れていたものだから、ご機嫌が超斜めになってしまった。
 余談だが義妹は今、看護学校に通っていて、冬休みで島に帰ってきている。まあ普段ぐーたら生活が身についてしまった俺は、掃除などは一つもせず…。散らかし放題に散らかしていたものだから帰って来た義妹に小1時間ほど説教を食らってしまった。それで不機嫌になり、今はもっと不機嫌になってしまっている。顔を見るともうこめかみがぴくぴく言っていた。
「だからごめんって謝ってるだろ? 何回も…」
「兄さんのはただ謝ってるだけじゃないですか!! おめでとうの言葉の一つでも掛けてくれたら私だってこんなに怒る事もなかったのに…。もういいですっ! 私なんてどうせ…」
「どうせ? その後は何だ? っておい!! 音夢!」
 言うが早いか音夢はだ〜っと家を飛び出していく。腕を掴む暇もなかった。はぁ〜、かなりかったりぃがもともと俺がまいた種であるので後始末をつけなければならない…。そう思い音夢の後を追いかけた。


「兄さんのバカ…」
 私はそう呟く。桜並木の桜も散り今は何もない。そんな道を私は歩いている。兄さんはことりと付き合っている。まあ、学園一のアイドルがあんなぐーたらな兄さんと付き合ってくれるなんてまずないことなので私としても嬉しい。でも…、妹の誕生日も忘れる兄さんのことを考えるとだんだんと腹が立ってくる。美春でも誘って気晴らしに行こう。そう考えて、美春の家に電話をかける私。案の定、美春はすぐにOKを出してきた。
 それにしても、兄さんだ。初音島にせっかく帰って来て、久しぶりに会ったって言うのにあの体たらく。おまけに私の誕生日のことなんて全然覚えていない。労いの言葉の一つも掛けて欲しいのにそれもない。おめでとうの言葉の一つも掛けて欲しいのにそれもない。あ〜っ!! 考えただけでも腹が立ってくる。
 どうせ兄さんはことりのことで頭がいっぱいなんでしょっ!? ふんっ! そう思いながら、美春を待つ。5分ぐらい待っただろうか。遠くか聞きなれた懐かしい声が聞こえてきた。
「音夢せんぱ〜いっ!!」
 そっちのほうに向くと案の定、体をぴょんぴょんしながらの美春。ふふっ、変わってないよね? そう思いふとその横を見ると?
「に、兄さん?!」
 そう、そこには兄さんが立っていた。あまりに唐突なことなので、自分自身どう言う顔になっているか分からず、多分変な顔になっているだろう。そう思う。そうしている間にも兄さんはやってきてしまう。
「い、いやな? お前を探してる途中で美春に会ってな? そしたらお前と待ち合わせしてるって聞いたもんだから…」
 分が悪いのか頬をぽりぽり掻きながら横を向きつつそう言う兄さん。私も急な出来事だったから慌てて声も出ない。美春はそんな私たちのことを知ってか知らずか、いつものマイペースな声で、
「今日は三人でデートですよぉ〜」
 なんて言う。“デ、デデデデート?!” 私は内心汗々になる。兄さんも、“ち、ちちち違うだろっ?! お、俺はただ音夢に謝りたかっただけで……。……ええ〜い! こうなったらヤケだ! 今日は俺のおごりだ!!” なんて言う。全く、素直じゃないんですからね? 兄さんは…。そう思う。さっきまでのツンツンした気持ちはもうなかった。


「は、はひぃ〜。お、お前も少しは持ってくれ〜!!」
「何言ってるんですか? 自分で“今日は俺が荷物もちになる”って言ってたじゃないですか? 責任はしっかり果してもらわないと」
 辺りは夕闇から本格的な夜になろうとしていた。俺は両手いっぱいに荷物を持ってよたよた歩いている。先を歩いているのは我が義妹にして、悪の化身・音夢だ。とは言っても俺自身そう言ってしまったのは事実なわけであり。はぁ〜っとため息を一つ。
「さあ、家までもうすぐなんですからちゃっちゃと歩いて下さい!!」
 そう言うと我が義妹は俺の手を掴むと走り出す。相変わらず遠慮というものを知らない我が義妹・音夢。でも一瞬どことなしかその表情が寂しげに見えたのは俺の気のせいだろうか…。そんな今日12月28日は我が義妹にして、やきもち焼きな女の子、朝倉音夢の誕生日だ……。

END