俺の彼女が忙しすぎる!
今日7月18日は、俺の彼女で売れっ子少女漫画かな彩珠ななこの誕生日だ。まあ世間一般に誕生日くらいはゆっくりとデートとかに行ったりするものなのだが、俺の彼女に至ってはそんなわけにもいかず。というより売れっ子少女漫画家というわけで毎日毎日机にかじりついていると言う日々を送っている。夏コミに出す予定の原稿も併用しているため最近寝不足気味で学校に来ては授業中に眠りこけている光景もよく見るようになって彼氏としては甚だ心配なわけなのだが、本人曰く、
「大丈夫だから……」
の一点張り。まあ目の下の隈がはっきり出ていて“大丈夫”も何もあったもんじゃない。悪いとは思ったが編集さんに電話をかけて来月号の休載を申し入れた。向こうさんは“困るんだよねぇ〜” とか何とか言っていて横から彼女も“頑張りますから” とか何とか言っていたわけなのだが、俺は強引に休載の意向を告げる。向こうさんも渋々ながら了承と相成った。とにかく不健康ここに極まれりと言う状況なもんで、彼氏である俺がななこの体調管理等いろいろ面倒を見ているわけで。ななこ曰く、“マネージャーさんが出来たみたい” と言って微笑んでいたっけか。
とにかくもう1人2人絵の上手いやつでも欲しいよなぁ〜っと思う。かく言う俺はどうなのかと言うことなのだが、絵に関しては美術1が物語るように全くと言っていいほど絵には程遠い、ほとんどどこぞの“画伯”が書くとんでもなく訳の分からないものになってしまうのがオチなわけだ。かと言って知り合いにそんな絵の上手いやつなんているわけもない。さくらんぼは小さいときに1回賞をもらったことはあるが、あれ以来絵は見かけてないしな? 義妹に関しては皆無だろう。と言うかこの前島の外の看護学校から帰って来たときにお使いを頼まれて出掛けたんだが、こんな感じのものだと言う絵を渡されて、それを探しまくっても見つからず帰って、“なかったぞ?” と言うところが、“本当に探しました?” と明らかに疑いの目を向けてくるものだから、“そこまで言うなら自分で探してこい!” と言ってやる。義妹はぶつぶつ文句を言いながら出かける…。帰ってくるなり、“あったじゃないですかーっ!! どこを探しているんです?” とギロリと逆半月形の目をこっちに向けてくる。“ちょっ、えっ? あったの?” と言うところが、“ちゃんと分かりやすいように絵にも描いておいたのに…” と上目遣いに怖い目をして睨んでくる義妹。“あの‘絵?’で見つけられたら誰も苦労はせんわいっ!” などと心の中で呟いたつもりが、どうやら口に出していたらしくその後はお決まりのキャメルクラッチを極められて、“ノーッ!!” と義妹の手をタシタシ叩くことになったのは言うまでもない。で肝心の物はどこにあったのかと言うと、それはいつもの場所に置いてあったらしく…。とにかくあんな美術系でも分からん? ものを描く義妹はどうかしてると俺は思う。と言うか古代の象形文字か甲骨文字かも分からんものを描くくらいだったら素直に名前でも書いておけと言いたい。
とにかく俺の周りに絵心の知れたやつはななこだけなものなので、ななこが倒れると作業のほうもストップしてしまうわけだ。売れっ子少女漫画家で学生でもありと、二足の草鞋を履いてる彼女だが学業のほうは俺より遥か上を言っているわけで。普段休み時間にもかりかり漫画制作に勤しんでいるのにどこをどうすればあんな上のランクが取れるんだと思う。とにもかくにも今日は1日寝かしておいてやろう。そう思いもうふらふら状態のななこをベットまで誘導するのだが、これがまた難しいわけで。一応眼鏡は掛けてはいるんだがこっくりこっくり舟を漕いでいるので足元が疎かになっていて危ないったらありゃしない。“ななこ〜。ベットはすぐそこだから起きてくれ〜” と言っても、どこぞの爆睡眠り姫でも憑依したのか、“漫画描くの楽しいよ〜。うふふぅ〜。くぅ〜…” と言いながらおぼつかない足取りで歩いている。が、寝ながら歩けるなどと言う特異な真似は出来るはずもなく。蹴躓いてこけそうになっていた。俺がしっかり手を握っていなかったら今頃絶対向こう脛を打って、“はうあっ!!” と悶絶していたことだろう。ふらふら状態で何とかベットのところまで来た。ここまで要した時間約10分。目と鼻の先にあるベットまで10分も要するなんて普段なら考えられんことなのだが…。まあ2日くらい寝ていない彼女なんだろう。そう思いベットに寝かせるとふぅ〜っと安堵の息が出る。まあ今日はこのまま帰るかと思って立ち上がると…。
袖のくしゃくしゃ感にもう少し睡眠を多く取ってくれと思う気持ちと同時に何だか嬉しい気持ちもあったりする。と同時に恥ずかしさもあってか顔を赤らめてしまう自分がいるわけで。あの後無意識に握ったんであろうななこの指を袖からひっぺ返すのに骨が折れてしまった。まあ何とかひっぺ返して帰ることにしたんだが、得てしてこう言う彼女ほど眼鏡を外すと美人になるんだなと改めて思った。いや、掛けていても可愛いんだが。ずり落ち気味に上目遣いに見つめてくる顔は眼鏡フェチじゃない俺でも、“可愛いな” と思ってしまう。と言うか俺はもう眼鏡っ娘スキーにでもなったんじゃないのか? などと1人悶絶しながら帰っていると、警察のお兄さんに職務質問されること数回、近所の奥様方や子供から怪しい目つきで見られたり、“変なお兄ちゃんがいるよ〜っ” と指を指されること数十回、ととんでもなく疲れた。まあかったるいことこの上ないのだが、それでもあの寝顔は可愛かったなぁ〜っと1人ニヤニヤ顔が止まらない今日7月18日、売れっ子少女漫画家で俺の彼女な彩珠ななこの誕生日だ。
END