大きな雨傘の中で


「傘、大きめのにしておいてよかったな?」
 今日もしとしとと雨が降っています。そんな中大きな雨傘の中、私と私の大好きな彼とで歩きなれた道を帰っているところです。でも私は思うの。“小さめの傘でも別に良かったんじゃないのかな?” って…。私にしてみればちょっと大胆すぎる発言ですが、学校公認の恋人さん同士なんですからもう少し何かアクションがあってもいいんじゃないかな? と最近そう思うようになりました。まあお姉ちゃんが学校の先生(しかも私たちのクラスの担任じゃあね?)と言うこともあってか彼は送り届けるのが仕事? みたいな感じで毎日そうやってます。もちろん彼の話は面白いしいろいろ飽きさせない工夫も垣間見られるのですが…。何分スキンシップが足りなさすぎる! 私は最近そう思うようになりました。
 この間の今日と同じ雨の日に彼ってば傘を忘れたとかで、私が傘に入れてあげるって言っても、“俺なら走れば大丈夫だから” とか何とか言って走って帰っちゃいまして…。後を追いかけてついていくとちゃっかり杉並くんの傘に入れてもらってて、“彼女の傘には入らずに男友達の傘に入れてもらうなんて!” とちょっとむぅ〜っとした顔になっちゃったこともありましたっけ…。とにかくスキンシップが彼には足りない! と思いながらちょっとした作戦なんかを考えてみることにしました。お姫様抱っこは…、今の私たちのレベルじゃ到底無理な話なのでなしにして、負ぶってもらうって言うのも足を挫いたわけでもないのに…、と思ってこれもパス。手を繋ぐのは恋人さん同士になってからプライベートのときにやってもらっているので、今更感がものすごくしますし。う〜んと考え込む私に彼がこう尋ねてきました。
「なあ、ことり? さっきから真剣そうな顔をして、いったい何を考えてるんだ?」
 傘の横の彼の顔は心配そうに私のほうを見つめてます。心を読む力があったらきっと、“何か悩みでもあるんだろうか?” と言うようなことが感覚的に分かるのでしょうけど、その力は桜が散ったあと、なくなってしまいました。まあ今までこの不思議な力のせいでいいことも半分に嫌なこともあったのでなくなった当初は苦労もしたけど、良かったかな? なんて今ではそう思えるようになってます。それは一概に私の隣り、心配そうに見つめてる彼のおかげなのかも知れません。そう思うと彼にはとても感謝しなくてはいけないんですけど…。でも、もうそれは1年以上も前の話であって、今現在私がこうして悩んでるのを見つめている彼の顔を少しばかり恨めしく思いながら、こう言いました。
「ねえ、純一くん? 私たち、付き合いだしてもう1年以上になるよね? なのに手を繋ぐだけで後は…」
 少々上目遣いに言う私の口に人差し指でし〜っとすると、“じゃあ腕を組んで歩くか? こう密着させて…” とそう言う素振りを見せる彼。上目遣いに彼の顔を見遣ると、“えへへっ” と何だかイタズラが成功した時の子供のような顔をして私のほうをにやにや笑いながら見ています。その顔に少々カチンときた私はこう言いました。
「じゃあ早速そうしちゃいましょう。うんうん」
 言うが早いか彼の腕に自分の体を押し付けるようにしながら彼の顔を上目遣いに窺う私。びっくりしたような驚いたような彼の顔が何だか面白い。そう感じてもっともっとそんな顔が見たいと思ってぐいぐい彼の腕に自分の体を押し付ける私。そんな私の行動に少々困惑したのか、“あの〜、ことりさん? これはどう言うことなのでございましょうか?” と彼。そんな彼に上目遣いのまま、
「だって、純一くんが、“腕を組んで歩くか?” なんて言うから実際そうしたまでですよ? 何か問題でも?」
 と私。本当は私だって恥ずかしいんですが、純一くんの一言にカチンと来ていた私はギュッと彼の腕に自分の体を押し当てて歩きます。杉並くん辺りが見てたら絶対明日は質問攻めに遭うだろうな? なんて考えつつ、でも今日は私のお誕生日なんだし…とも考えて歩きます。純一くんはもう諦めたように別に何も言わず島の中心にあるこの春新しく出来た小物店へと足を向けて歩き出していました。少々混んでますね? やっぱり人気のある店が島に出来たせいなのかな? なんて考えつつ、彼と2人小物を見ていると、ちょんちょんと背中を突かれます。何だろう? と後ろを振り返ってみるとそこには…。


「どうだったの? ことり。朝倉くんの腕の感触は?」
 ともちゃんがそう言いながら私の顔をにこにこ笑顔で尋ねてきます。みっくんは純一くんにともちゃんが私にしてるような同じ質問をしているみたいで…。実はこの2人、今日が私のお誕生日だって分かっててこそこそ後をつけてきたんだとか…。はぁ〜、お休みの日の午後は絶対誰かに遭遇するだろうなぁ〜とは思ってたんですけど、私の親友に遭遇するとは…。そう思いながらごにょごにょ言っている私。彼のほうはと見ると私と同じように言葉に詰まってました。その後、みっくんとともちゃんに近くの喫茶店に引っ張られて延々根掘り葉掘り今日の出来事について尋ねられたことは言う間でもありません。まあその分、ケーキとか奢ってもらって彼は、“今月ピンチだったからちょっと助かった…” って言ってましたけどね?
 帰り道、みっくんたちと別れてまた2人になります。“しかし今日は疲れたなぁ〜。…でもことりの困った顔とかが見られてちょっと安心したって言うかなんて言うかだけど…” と傘を差しながら彼が言います。“なんで困った顔で安心するの?”、私が首を傾げてると私の考えたことが分かったのか彼は、“ああ、ごめんごめん。別に困った顔が見たかったかそう言うんじゃなくて、俺と一緒にいるときはいつも笑顔でいるときが多いからさ。怒ったり困ったり拗ねたりする顔も見てみたいなぁ〜って思ってただけだよ。他意はない。うんうん” そう言ってうんうん首を縦に振る彼。言われてみて確かにそうかも…って私自身もそう思いました。だから早速私はぷぅ〜っと頬を膨らませて、“もう、純一くんは〜…” って拗ねる私。でも途中で笑ってしまって後が続きませんでしたけどね。
 夜、雨の音を聞きながら今日の出来事を頭の中で纏めてみます。たまには怒ったり拗ねたりしてもいいんだよね? 受け止めてくれるんだよね? 純一くん…。そう思うと何だかほっと落ち着ける場所が見つかったような感じがして、にっこり微笑みながらベットに潜る私。スタンドの電気を消すときに彼から貰ったネックレスを見てまたにっこり微笑みました。そんな今日が昨日に変わる6月20日、私のお誕生日です。

END