困らせトリオのバレンタイン


「今年もやってきました〜。バレンタイン! 去年は誰のを先に取るのかが競争の主題だったけど今年は味で勝負よ!」
 と、朝倉くんの言っていた幽霊? の霧羽さんがそう言う。まあここ数年毎回この時期になると姿を見せては私や眞子を引っ張りまわすわけだから朝倉くん曰く、“環の神社でお祓い受けたほうがいいのかもな?” と胡ノ宮さんの神社のほうを見ながらそう言っているわけだけど。まあ霊は霊でも悪霊じゃないんだから祓えないんじゃないのかな? と思うわけだ。しかし眞子は平気なの? いつもは幽霊とかお化けとか全然ダメなくせに、と眞子のほうを見ると意外にも平気なようだった。
「また去年みたくズルしようとか考えてたら環から教えてもらった霊にも効果的なお守り袋で鉄拳制裁だからね!?」
 と神社のお守り袋を右手にはめてぐぐぐっと握りしめる眞子。見ると朝倉くんの言うように手から炎が噴き出しているように見えてちょっと怖い。霧羽さんも、“や、や〜ねぇ〜。そんなことしないわよ” とやや恐々としている。まあ妹の明日美ちゃんが可愛いのも分かる。私も一目見て可愛いなと思った。だとしてもバシバシ彼の頭を叩いて強引に明日美ちゃんのところまで来させることは反則じゃない? と思うわけだ。まあ去年はそのせいで朝倉くんに迷惑かけちゃって、“あいつに文句を言わんと気が済まない!!” とちょうど誕生日の1週間と少し経った4年に一度の29日(が霧生さんの誕生日だけど)一緒に彼女のお墓のところまでやって来てはあれやこれやくどくど文句を言う彼について行ったわけだけど、その日の夜にちょっと涙目の彼女がひょっこり壁から顔を覗かせて、“ねえ、ちょっと。あんたも一緒についてきてたでしょ? 酷いと思わない? 何もあそこまで酷くないのにあんな風に言わなくったっていいじゃないのさ〜” と半分ぶりぶり怒って半分涙目な彼女がこんなことを言う。そのとき霊って言うものを初めて見たんだけど、何だかもっとおどろおどろしいものを想像していたせいか拍子抜けしちゃったわけで…。もっとも呪おうと思えば呪えるんだろうけど、彼女からはそんなに言うほどの邪気は感じられなかった。胡ノ宮さんがいればもっと詳しく分かるんだろうけど、私はその辺はちょっと分からないのではあるんだけど、半分ぶりぶり怒って半分涙目な幽霊だなんて今までもこれからも見たことも聞いたこともないわけで。取りあえずお茶を入れて出す私がいた。
「それは毎年何のかんの言いがかりをつけてくるあなたが問題じゃなくて? 私もちょっとだけだけど迷惑被っちゃってるし…」
 とお茶を飲みながら言う私。彼女はと見ると…、もう全泣き状態だ。“そ、そこまで、そこまで言わなくったっていいじゃないのよぉ〜。う、ううう、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜ん” と泣くさまは昔一度だけ見たことのあるアニメ映画のぽんこつな魔法使いの女の子そのままだった。“もう分かった。分かったから泣き止んで〜” とは言ってみるものの全然泣き止んでくれない。その間に置いてある小物とかがガタガタ動き出したりしてびくってなっちゃったわけだ。いわゆるこれをポルターガイスト現象って言うのかな? 杉並くんが見たら大喜びで飛びつきそうだけど…。で結局10分少々泣かれてしまい小物がびゅんびゅん飛び回って部屋の中はひっちゃかめっちゃかになっちゃってた。まあ幸い重いものはなかったので割れたり壊れたりすることはなかったけど。でも霊体でもやっていいことと悪いことがあるってことで正座させてお説教しちゃう私はどうかしてるのかな? と朝気がつくとベットの上で寝ていて、夢でも見たのかな? と思って目を擦りながら辺りを見てみると飲みかけのお茶が2つ机の上に置いてあって。その横のタブレットのカバーが広がっていて…。何かなぁ〜っと思っておもむろに電源を入れてみると、いたずら書きみたくあかんベーと舌を出している絵と、“また来るからねっ!” と言う彼女の字だろう字が書かれていた。それから毎週の如く彼女は私の家や眞子の家や彼の家にやって来てはあれやこれや文句を言う。霊界はつまらないだの転生したら何に転生させられるか分からないから容易に転生願いは出されないだの…、あの世のことをくどくど言う。もっとも生前は賑やかしかったと明日美ちゃんから聞かされていたので基本恨んだり呪ったりは絶対にないと思う。その頃にはもうみんなにも認知されていて、“香澄ちゃん、今日は私のところに来たよ” と言われる始末なわけで…。彼は半ば呆れ顔で、“あいつぅ〜” って頭に手を持って行ってやれやれと言うポーズを取ってたっけ?
 で、一昨日の晩のこと、親が留守な私は眞子の家に泊まりに行ってたんだけどそこでいつものごとく現れた彼女に前述のようなことを言われる。勝負事はなるべく避けてきた私なんだけど、彼に関することには一応彼女としてのプライドがあるもんで受けて立つことになったわけだ。自信があるのか、“味ではあたしが一番有利ね?” と彼女が言う。“でもあんたの場合結局妹の明日美ちゃんが作ったもんじゃないのよ?” と眞子。“そ、それはそうなんだけど…。って言うか仕方ないじゃない! あたし幽霊なんだから〜っ!!” と少々涙目になって言う彼女。はぁ〜、ほんとに幽霊なのかしら? と思って涙目の彼女と、眞子の中に割って入る私。
「はいはい、そこまでそこまで。料理は愛情って言うものでしょ? そこで争うんであって今こうやって言っても何の解決にもならないんじゃなくて?」
 と私が言うと、“そうだったわね。ごめんなさい” と彼女に向かって謝る眞子。“わ、分かればいいのよ、分かれば…。…グスッ” と鼻を鳴らして上目遣いに眞子のほうを見つめながらそう言う彼女が何となく実在の人間っぽくって面白い。朝倉くんが何かとぶつぶつ文句を言いながらも世話を焼くって言うのも分かる気がした。まあそんな感じでバレンタインチョコレート味勝負が始まったわけだけど、私自身チョコレートの手作りは1年前のあのバレンタイン以来なので、ほぼ忘れているわけで…。どうだったけ? と考えながら取りあえず市販で購入した板チョコを割る。湯煎にかけて溶かして〜っと…。ここでラム酒を隠し味にちょっと入れておく。ちょっと掬って舐めてみる。う〜ん、いつも食べてる味にちょっとラム酒の風味が加わっただけだ。悩む。とそう言えばとこの間の雑誌に載っていたトリュフの作り方を思い出す私。確かこの辺に…とゴソゴソ探して、見つけた! ココアパウダーはあったっかな? と本を片手に探す。そんなこんなでバレンタイン前日は遅くまで作業をしていた。翌日は早くに目が覚める。勝負の日だからか、パッチリ目が覚める。昨日作っておいたトリュフは〜っと見ると、うん、うまく固まってる。ラッピングを施して完成! と。後は彼にこれを渡して食べてもらうだけだ。どんな感想が聞けるかな? そう思ってドキドキしながらいつもの桜並木を通る。ここの桜も1年中咲いていた頃とは違ってやや殺風景に見えるけど、もう後1ヶ月もすると咲くんだね? と思うと何だか嬉しく感じちゃう。学園の大学部の門をくぐった。


「で今回は味で勝負と言うことか?」
 と俺は言う。まあ凡そ明日美ちゃんの横に立っている女の霊体の仕業なのかも知れんが、そんなことを言って後で憑りつかれて酷い目に遭うのは俺なので敢えて言わないことにしておく。まあ今年は味勝負と言うことなのだそうだが、俺にはチョコレートの味なんてどれも同じだろ? と思うわけなんだが…。この真剣そうに見つめてくる4人(まあ1人は実体はないんだが…)を目の前にそんなことを言うと何をされるか分かったもんじゃないのでその辺は飲み込んでおいた。今日は悪友・眞子の誕生日だと言うことで一応プレゼントを買って朝、いの一番に渡しておいたわけなのだが、叶はやや不満そうに見つめていたっけか…。まあ21日にはもっといいプレゼントを渡してやるから…と隣りの席でちょっとばかりぶすっとした顔で座っている彼女に言うと一気に氷解するような笑顔でうん! と頷いていたっけか。まあ香澄は霊体だから今度また命日に行く予定なのでその時に香木でも購入してやるから我慢しろ! と念を飛ばすと、“まあ分かったわ。その代わり高いものにしてよっ?! 前に来たときに供えたあんな線香じゃ許さないんだからねっ!!” とどこまでも俺に貢がせようとするわけで…。こいつが実際生きていたらろくなもんじゃなかっただろうな…。そう思った。
 …と目隠しをされる。相手を見ながら食べると絶対的に彼女である叶に軍配が上がってしまうからと言うことらしい。まあ彼女びいきも多々あるのだが叶は料理上手なほうだ。眞子は萌先輩と鍋料理に関わっているのでまあまあ上手いほうだろう。明日美ちゃんもお姉ちゃんである香澄にいろいろ教えてもらっていたため料理のほうは大概はイケる口だ。この間弁当の1つをもらって口にしたんだが結構美味かった。俺の義妹や従姉がそうだったらどんなに良かったことだろうと思ったくらいだ。まず1つ目を頂く。中にバナナが入っているのか結構美味い。美春がいたら速攻で勝負はあっていただろうが、そこはそれ。美春は今、天枷研究所のほうに行っていていないわけで。ああ、わんこがいたらすごい喜んでただろうなぁ〜っと思いつつ、次のを頂くことにした。次のはちょっとビター風味のものだ。まあ甘いものが食えんやつにはちょうどいいだろうが、俺は生憎と甘いのもイケる口なもんで苦さが残るチョコレートはちょっと苦手なんだが、これはこれで美味いと思った。で最後のチョコレートを頬張る。ほお、トリュフか…。甘みもあってかつチョコ本来のほろ苦さもあるな。美味い。…と、3つのチョコレート全部を頂いた。目隠しを外される。“さあどれが一番美味しかったのか教えなさいよっ!!” と眞子が言うので正直に最後のやつが上手かったと言うと、途端にニコニコ顔になる俺の彼女。“2番目は誰ですか?” と明日美ちゃんが聞いてくるので、素直に最初のやつだと言うと、これまた嬉しそうに微笑んでる。“まあ1、2番は本当に甲乙つけがたかったんだがな?” と言う俺。と言うかもう誰がどのチョコを作って持ってきたか分かってしまったわけで…。ズーンと重たい表情の眞子に、
「い、いや。あれはあれでイケる口だったぞ? ただ俺の好みにはあわなかったというか…」
 と言うが早いかぶおっとどこぞの気弱で大人しいが黄金の右拳がすごい破壊力などこぞの女子生徒のごとく右手に炎のオーラを噴き上げる眞子。“ふぅ〜ん、この間あんたが‘最近甘いものばっかり食わされてるような気がする…’って言うからせっかく甘くないものを作ってみたらこの調子で…。ふぅ〜ん、分かったわ…” などと言いながらのしのしこっちに近づいてくると思ったら、唸りを上げた右腕が俺の顔目掛けて飛んできた。そう言えばそんなことをこの間萌先輩の鍋のお相伴を預かってるときに言ったような言わなかったような気がするわけだが…。と、取りあえず戦略的撤退! とばかりに逃げ出す俺。もちろん彼女と後輩とその背後の霊体も一緒に逃げる。がすぐに捕まってしまい、破壊力抜群な右ストレートを腹に一発喰らって伸されてしまった挙句、誕生日プレゼントに高級そうなネックレスを買わされて夕食まで奢らされてしまい、彼女からこれ以上となくものすごい恐ろしい視線を受ける羽目になって、晩は晩で、夜な夜な出てくる霊体に悩まされることになる原因を作った今日2月14日は俺の悪友・水越眞子の、それから7日後の21日は俺の彼女・工藤叶の、さらに7日後(本当は8日後なんだが、4年に1度しかないので7日後にしておこう)は俺に憑いているんであろう霊体・霧羽香澄のそれぞれの誕生日だ。ってどうでもいいがこれ以上食べ物を頼まないでくれ〜っ!! 諭吉さんが…、諭吉さんがぁ〜……、がくり…。

END