多忙なお引っ越し
今日7月18日は、少女漫画家で俺の彼女な彩珠ななこの誕生日だ。大学生活も2年目に突入して多忙さの中にもちょっとずつ余裕が出始めてきた今日この頃なんだが、ななこに至っては全然余裕が感じられない。というのも、大学生と漫画家の2足の草鞋を履いているうえ、この度、新たな刺激を求めて引っ越しを敢行したわけだ。平生女の子は荷物が多いと言うのはつき物なんだが、俺の彼女もご多聞に漏れずその口だった。まあ漫画家と言う職業柄か資料が大半を占めるわけだが、それでも重い荷物を抱えてふらふら覚束ない足取りで歩くななこにはあまり無理はさせられんな? と思う。
家は内見に付き合ったんだが、すごく新しい感じの今風の家だった。築2年ほどのものらしい。ななこ曰く、“一か所にいるとどうしても考えが固執してしまうから気分を変えるために…、ね?” と言うことらしい。まあ考えが固執して同じような感じの作品が多くなることは漫画家界隈では多いそうだ。まあ漫画には詳しくない俺からしてみてもマンネリ化した漫画はあまり好きじゃないのでこの引っ越しには賛成なんだが…。どう見ても荷物がすごく多いので運び屋は大変だろうな? と考えてると…。
「今、ちょっとお金がないから朝倉くん、手伝って…くれないかなぁ〜?」
と上目遣いに両方の人差し指を突き合わせて言ってくるななこ。この前入ったお金はどうしたんだ? と聞くと、新しい資料とか画材とかに使ってしまって残りは生活費だけなんだそうで…。それでこの間から俺にコケティッシュな態度をとってたのか…と思う。まあかったるいことこの上ないのだが俺が手伝わんと1人で頑張ってしまう癖があるななこだから手伝わにゃならんだろうな? と思って渋々ながら了承した。
と言うことで、段ボール箱に資料である衣装やらなにやらを詰め込んでそれをピストン運動みたく運び、3時間ほどで何とか運び終えたわけだが、これがなかなかに厳しかった。PCやらタブレットなんかの精密機器もあったりしたのでそれを運び出すのに1時間、運んで引っ越し先に入れるのに1時間とまあそんな感じだったわけだが…。まあ引っ越し先が元の住所と早々遠くないところだったんでそれだけは救いだったなぁ〜っと思ったが。とにかくななこにはもう少し計画的に引っ越ししてほしいもんだと思う。まあそれだけ神経を使う仕事なんだろうことは重々分かっているつもりなんだけども…。
えっちらおっちらと運び入れ、すべて運んで元通りに直すのに計5時間はかかったかな? と思う。それもようやく終わって一息ついていると、ななこがどこかに電話を入れていた。ああ、多分引っ越しそばでも頼んでいるんだろう、そう言えば腹が減ってきたな? と思って聴いていると、何かが違うことに気が付いた。というより分かってしまったと言うほうが近いだろう。まあこれも売れっ子漫画家の彼女を持った男の性かと思っていたわけなんだが…。
「ごめんね、朝倉くん。引っ越し早々手伝わせちゃって…」
と済まなそうに上目遣いに言うななこ。そんなななこにまあこうなることは分かっていたと言うことを言うと、あははは…と照れ隠しかどうかは分からないが申し訳なさそうに微笑んで、“ごめんね” ともう一度謝るななこ。で、出稿はいつだと聞くと、うっ! と喉を詰まらせる。まさかとは思うが、明日か? と更に聞くと、観念したようにうんと首を縦に振った。まあ凡そこうなるとは思ってはいたが、まさか実際になるとは思ってもみなかったのでびっくりしているわけだが…。まあ慌ただしい引っ越しにこれまた慌ただしい出稿作業と、多忙も多忙、超多忙な俺の彼女で売れっ子少女漫画家な彩珠ななこの20歳の誕生日だ。
END
おまけ
次の日になる。出稿作業も一段落して、ようやく落ち着けると思ってデートに誘ってみたところOKをもらった。一旦自分の家に帰ってあれやこれや準備をして待ち合わせ場所の駅前の大きな噴水の前で待っていると、きれいな服を着た淑女がこっちに歩いてくる。な、何だぁ〜? と思いながら見遣っていると俺の視線に気が付いたのか急におどおどしだした。ああ、間違いない。ななこだ。そう思ってこっちから出向いていくと、“うひゃおうっ!!” と素っ頓狂な声を上げた。改めて彼女を見る。どこからどう見ても清楚な感じの淑女だ。しかしこんな格好で出てくると言うことはプロポーズ待ちか、あるいはまた漫画のネタの題材かどちらかだと言うことは容易に理解できる。まあ後者のほうなんだろうけども…。と思いきや、何だかもじもじしているななこ。取り合えず喫茶店でも…、と言って近くの喫茶店に入る。まあこう言うシチュエーションはななこの描いた漫画によく登場するし、俺もまあ満更じゃない格好で来ているので冗談に、“俺と結婚してくれ” ってなことを言ってしまったわけだが、どこをどう真に受けたのか、リンゴのような赤い頬でこくんと頷くななこ。さすがにこの状況はヤバいので、今のは冗談だ! と言うと、途端にぷぅ〜っと頬を膨らませてくる。そこからブリブリ怒るななこを宥めすかしているうちにあっという間に夕方になって高級イタリアンなお店に手を引っ張られて連れて行かされた俺の彼女・彩珠ななこの誕生日の1日後の話だ。がくり…。
TRUE END