デンジャラスシスター、音夢


「毎年毎年、何で兄さんの掃除の手伝いをしないといけないんですか? 帰ってきてからも…。全く…」
 今日12月28日は、俺の義妹・音夢の誕生日だ。まあうちの学校は島の中にあるので小・中・高と一貫エレベーター方式で上がっていくのだが、どう言うことか義妹は、“看護学校に行く!” とか言い出して今は島の外にある看護学校に通っているわけだ。で、いつもの年なら今日くらいに帰ってくるのだが、今年に限って一昨日のうちに帰ってきたわけで、掃除も何もしていない俺に対して、ぶつぶつと文句を言っている。まあこれは毎年のことなので耳にタコが出来ているのだが、義妹の場合、“裏音夢” って言う俺にとっては最終兵器に等しい能力を持っているので、何と言うか非常に厄介なわけだ。
「だからな? 昨日のうちにやっておこうと思ってたんだよ。それをお前が“服を買いに行きたいから付き合ってください!” って言うから…」
「それだったら何で毎日掃除しておこうとか、毎日でなくても1週間に1回くらい掃除をしようとか思わないんです? 見てくださいよ! この埃! どうやったらこうも積もるんですか?」
 まるでどこぞのドラマの姑の嫁いびりのようにタンスの淵を指で滑らせて、俺の前、“ここまで埃を溜まらせていたんだ!” と言うように見せる義妹。顔を見るとこめかみがピクピク動いている。はっきり言って恐ろしいことこの上ないのだか、それを2年前まで毎日見てきた俺にとってはなぜか懐かしく思い、ふっと笑みが零れた。と俺のこの微笑みに些か恐怖を感じたのか音夢は今までぷぅ〜っとした顔から少々引きつった顔になってこう言う。
「に、兄さん? な、何を不気味に微笑んでいるんです?」
 不気味とは失敬な! とは思ったが、音夢のこんな顔は滅多にお目にかかればないわけで、俺としてはもっと見てみたくなった。と言う訳でにんまり微笑んだまま音夢のほうに近づく。手を掴み動かせないようにすると更に顔を近づける。まじまじと音夢の顔を見る。さっきとは打って変わっての恐々とした顔があった。普段こんな顔は人前はおろか俺の前でも見せない義妹だからか、ついつい見入ってしまう。何分かそうしていただろうか。まあ、正確には1分も経っていないがそう感じてしまう。と、股間に鈍い衝撃が…。な、なんだぁ〜? と思いつつ股間のほうを見てみると、義妹の足が俺の大切なところへ当たっていた。ああ、これでこそ我が義妹だ。そう思いつつ、意識の底へと引き摺りこまれる俺がいたのだった。


 全くうちの兄さんときたら、せっかく4か月ぶりに帰って家でくつろごうと思ってみたらこれなんですから…。たまったものではありません。と言うかもう少し自立した生活を送ってほしいものだと思うんですよ? 掃除はたまにしかしないし洗濯物も4日に1回しかしないし…。洗面所に行って正直驚いて声も出なかったこともしばしばあるんですから…。もう少しそのかったたるい性格を何とかしないと、本当にお嫁さんの来てがなくなりますよ? そう心に思いながら、気絶した兄さんの顔をまじまじと見つめる私。一応急所に軽く蹴っただけだから少ししたら起きるのは分かってる。今回は私もやりすぎたかなぁ〜っと少し反省。でもでも私の顔に自分の顔を近づけて何をする気だったのかな? と考えて…。や、やっぱりキスするつもりだったのかな? と思うと何だか顔が火照ってくる私がいて…。と、う…、んと兄さんの声。どうやら気がついたようですね?…。


「だ、大丈夫ですか? 兄さん。私、そ、その…、け、けけけけ蹴り上げちゃったから…」
「あっ? …ああ、まあ何とか使えそうだな? それよりお前、あそこであれはないぞ…」
 本当は無茶苦茶痛いわけだが、俺も男なわけなので我慢して微笑んだ。一応義妹は看護学校に通っているわけなのだが、そこの体育の授業に護身術と言うのがあったみたいで…。まあ昨今の治安の悪化が原因なわけなのだが。この前も女性が帰宅中に襲われるという事件もあり、いよいよ物騒な世の中になってきたなとは思っていたんだが、こんな極々平和な家庭内で起こるとは思っても見なかった。まあ、“自分の身は自分で守る” と言うことはごもっともなことなのだが、冗談で近づいた兄に対してこの仕打ちは如何なものか…とも思う。と、少々顔を赤らめながら義妹はこんなことを言ってくる。
「に、兄さんがいけないんですよ? わ、私の顔に自分の顔を近づけて…。あ、危うくき、ききき、キスされそうだったんですからね?…
 最後のほうがちょっと聞こえにくかったのだが、どうやら俺にキスをされそうになることが怖かったらしい。どこをどう見てキスされそうになるのか不思議なくらいなのだが、音夢自身ではそう言う危機感があったらしい。らしいのではあるが、どこを見て兄が義理とはいえ妹を襲おうとするのか聞いてみたい気もする。ましてやこんな色気も何もない凶悪で大草原のようなつるぺた胸の(まあ幼児体型と言う言葉がぴったりくるのだが…)義妹を襲うなんて言うのは、どこぞの物好きにしか行なえないと思うんだが…。、まあ萌先輩やことりだったとしたら理性が飛んでいたかもしれないが…。まあお前に限って言えばそんなことは絶対にないので安心しろ…とばかりに音夢の肩をポンポンと叩く俺。
 と義妹のほうをふと見ると、何やらぷるぷる肩を震わせて上目遣いの涙目でおまけに頬をはちきれんばかりに膨らませてこっちをじろりと睨んでいらっしゃる。“も、もしかしてだけど…、独り言?” 恐る恐る聞いてみるとこくんと首を縦に振った。こっちを見る目は完全に裏音夢仕様だ。何とか取り繕おうとは思うがこうなってしまった音夢はもうだれにも止められない。口は災いの元と言う諺があるが今の俺が全くそれだ。でその後の惨状は誰も語られない。ただ一つ言えること、それは…。“キャメルクラッチとスピニングトゥーホールドと四の字固めはやめてくれ〜っ!!” と言うことだけだった。そんな年も押し迫った今日12月28日は俺の義妹、朝倉音夢の誕生日だ。ぐふっ……。

END