夕暮れと私と…
“にゃ〜……”
私は目が覚める。秋の日の昼下がり…。外は日が西に傾き始めていた。何時なのかな? そう思い壁に掛けてある時計を眺める。3時半。気持ちのいい風に誘われて夢の世界から帰ってくるのに時間がかかっちゃった…。えへっ。頭をこつんとやってから起き上がる。
頼子はおなかを空かせたんだろう。私がいつもあげているキャットフードの前で、しきりに声を上げていた。立ち上がって頼子の前まで来ると頼子は私の足にじゃれ付いてきた。
「くすぐったいよ…、頼子…」
そう言いながら、キャットフードを頼子専用のをお皿に入れて、床に置く。頼子は美味しそうに食べていた。その間に冷蔵庫の中にあるミルクを取り出す。
「…ちょっとだけ冷たいから、暖めてあげるね?」
そう言うと小さいお鍋を用意する。これはこの前彼とデートに行ったとき、彼が買ってくれたものだ。今の私の宝物でもある。その小さいお鍋にミルクを注ぎ、少しだけ暖める。頼子用の違うお皿に少しだけ暖めた牛乳を注いでやると、頼子は美味しそうに舐めた。
頼子を見つめていると、私は穏やかな気持ちになる。体を撫でてあげると気持ちよさそうに、ゴロゴロ…、と喉を鳴らした。しばらく撫でてあげていると頼子は食べ終わったんだろう。にゃ〜…と鳴くと、私のベットの上にちょこんと乗った。あそこが頼子の一等席だ。自慢げにまた、にゃ〜…と一鳴き…。
その姿に私はなんだか可笑しなって笑ってしまった。ふと、日記用のノートを買うのを忘れていたことを思い出す。服を着替えて出掛ける頃には頼子はすっかりいい気持ちなのか私のベットの上で眠ってしまったみたい…。丸くなって眠っている頼子を、また優しく一撫でするとそっと扉を閉めて部屋を出た。
夕焼けが赤く映えるアスファルトの上をこつこつと歩く。商店街のアーケードにつく頃には夕陽が山に沈む頃になっていた。いつもの文房具屋さんで日記用のノートを買う。お礼を言って表へと出ると、
「よっ、美咲じゃないか。どうしたんだ? 何か買い物か?」
彼の声が聞こえてくる。ふっと後ろを振り返ると、私の好きな彼が買い物なんだろう荷物を持って立っていた。にこやかな笑顔は内気な私とは全く違うもの…。でもそんな私のことを好きって言ってくれた彼、朝倉純一さん。
「こ、こんばんは。朝倉さん…」
そう言ってぺこっと頭を下げる。上目遣いで彼を見ると、彼はたおやかに微笑んでいた。
「で、美咲は文房具屋なんかに用事でもあったのか?」
「はい、ノートを買っていました」
そう言って日記用のノートを袋から取り出して彼に見せる。でも日記と言うことは彼には内緒だ。日記は毎日書いている。そう、それは彼と初めて出会った日から…。二階の窓から初めて彼を見つけたときから書いている。でも、その日記には1ヵ月くらい抜けている部分もある……。その部分は空けておこう……。再び日記を書き始めたとき、私はそう思った。
でも、その日記帳も昨日で終わり。今日からまた新しい日記帳だ。そう、彼と私のこれからの物語を記すための……。
秋の夕暮れ時……。私は大好きな人と家路へ向かっている。いつも言いたい言葉。言えない言葉…。今日は何だか言えそうな気がした。思い切って声に出してみた。
「いつもありがとうございます…。あのっ…、普段のお礼と言っては何なのですけど…。私の家に来ませんか? お夕飯、ごちそうしますから……。ねっ? あ、あのっ…、純一さん…」
って……。そう言ったけど、彼の顔はまともに見れずに頬を赤らめてしまう私。彼も私の顔を桜色に染まった顔で見つめている。それはそうだろうと思う。だって私は今、勇気を出していつもの“朝倉さん”ではなく、“純一さん”と呼んだのだから…。彼は驚いた顔をしていたけど、またすぐにもとの優しい笑顔に戻って…、
「じゃあ、お邪魔させてもらおうかな?……。美咲…」
そう言って私の手を取って歩き始める。秋の夕暮れ時、大好きな彼と手を繋いで私は家路に着く。今の私と今の彼…。そんな二人を繋げてくれた小さな恋のキューピットがいる家へと……。
END