プラネタリウムへ行こう
「さて、今日の星空を見てみましょう…」
と暗いドーム内にナレーションの声が聞こえてくる。今日6月20日は俺の隣りで星空を見上げているんだろう彼女・白河ことりの誕生日なわけだ。突然だが、プラネタリウムのチケットと言うものを、今俺の学園の教師として働いているちびっ娘な従姉・さくらからもらった。と言うか注いでを言うと俺の担任教師でもあるんだが…。“本当はお兄ちゃんと一緒に行きたかったんだけど、ボク職員会議とかいっぱいあって行けそうにないから、誰かほかの子…、あっ! そう言えばお誕生日だったね? 今日…。こ、こほん。ことりちゃんでも誘って行って来たら?” とチケットを2枚もらう。“あっ、でもボクも後でお兄ちゃんと行きたいから行った感想とか後で聞かせてねー” そう言うとブロンドヘアーのツインテールをたなびかせながら職員室のほうに行ってしまう。まあ今日は彼女の誕生日だったわけだが、別段どこそこへ行くと言う予定もなかったので帰りしなに島のこの前オープンした小洒落た小物雑貨店にでも寄ろうかとか考えていたわけだが、これは非常にありがたいと思って、早速ことりを誘おうとして廊下を見ていると、暦先生と何やら話し込んでいる。割って入るのはさすがに失礼かと思い待たせてもらおうと廊下の隅に立っていると、暦先生が気付いたらしく、“おーい、朝倉〜” と手招きしているのが分かった。何の御用で? と2人のほうへ行く俺。ことりは、“お、お姉ちゃん、もういいよ〜” とか何とか言っている。まあ遠慮の塊みたいな俺の彼女のことだから、多分今回も俺に遠慮しているんんだろうなぁ〜っと思う。って言うか彼氏彼女の間柄なんだから遠慮も何もないだろうとは思うんだが…。とにかく話を聞く。
まあ言わずもがなな内容だったな? と島から唯一の脱出機関であるバスを待ちながらそんなことを考える。まあ往々にして自分の誕生日なのに遠慮して上手く言い出せない妹のために姉が一肌脱いだ形なんだろう。俺に、“なあ朝倉、今日だけ妹に付き合ってやってくれんか? 帰りは今日だけ午後11時まで許してやるから…” と、とんと自分の胸を叩いてこう言う暦先生。いつもは6時でも遅い! と言って送ってきた俺に鬼のように怒るくせに…、とは思ったがこれはある意味チャンスかも! と思う。何のチャンスなのかは俺自身にもよく分からんのだが、とにかく彼女とデートするって言うことは素晴らしくいいことだろう。そう思って、“分かりました! 妹さんは責任をもって預からせて頂きます!!” と最敬礼みたくしながら言う俺。そんな俺にうふふっといつの間にか彼女は笑顔になっていた。
傘の花がぱっと開く。今日も生憎の雨だ。まあ梅雨時なんだから仕方のないことなんだが、大きめの傘にしておいてよかったなぁ〜なんて思う。ことりも傘は持ってきているのだが、“たまには相合傘って言うのもいいよね?” なんて少々イタズラっ子みたいな微笑みを俺に向けて腕を組みながらバス停までの道のりを歩いた。しとしとと降る雨の音、そして時々ぱららと木の上から相合傘に落ちる雨の雫が何とも小気味いい。バス停まで来ると雨も少々小降りになってきた。“どこに連れて行ってくれるのかな? 朝倉くん” とにこにこ顔のことりに、“それは行ってからのお楽しみだ” と言う俺。まあ俺自身行ったこともない場所なのでこう言うしかなかったんだが、プラネタリウムは俺がまだ小さかった頃ばあちゃんはさくらと行った思い出がある。と言っても星には興味も何もなかったのでドームに映し出される星々を見ながら寝てしまっていて、後でさくらからぶつぶつ文句を言われた記憶があるなぁ〜。まあ今回はそうならないように気をつけなければ…、と思って自分の顔をパンパンと叩く。“気合入ってるね? 朝倉くん” とクスクス笑いながらことりはそんなことを言った。
しかし島の外に出るのは何ヶ月振りだろうか。親父の名代で義妹の参観に行ったとき以来だから約10ヶ月ぶりになるな? そう思いながらバスに揺られる。一番近い場所は〜っとプラネタリウムのチケットの中の案内と実際のバス停の案内とを見ていくともう3停留所後に迫っていた。この辺の地理には全く明るくない俺なので、地図を見ないと分からないのだがことりはもっと分からないという顔であちこち見遣っている。まあ女の子で地理が得意なんていう子なんて俺の知りうる限りでは見たことがない。まあさくらが俺とどっこいどっこいと言う感じだ。そんなわけなので“もうすぐ降りるぞ?” とことりに教えてやった。“そうですか。じゃあ下りる準備をしなくちゃですね?” とにこにこ顔のことり。やがて降りる停留所にバスは着く。何人か降りたのでそれに続いた。降りてみて分かったことだが見える距離にはないな。もっとも今日が雨だから雨煙のせいで見えないのだろうけど。とまた傘を開いて歩き出す俺たち。大通りを歩くうちそれらしい大きなドーム型の屋根が見えてきた。
「ここらしいね? 行ってみようよ。朝倉くん」
とドームを目の前にして嬉しさ爆発と言う感じに嬉々とした表情で俺の手を引いて歩き出す。雨のほうはもう止みかけだ。傘をたたむと今まで降っていた雨も雲の中に隠れたみたいにどんよりした空が広がっている。さすがに平日は空いているのか客はまばらだ。そんな中彼女と一緒にチケットを出して中へと入る。暗いドーム内には俺たちのほかカップルらしい客が3組くらいいた。火星が最接近してスーパーマーズと言う感じに良く見える状態がここ数日続いているらしい。元来星には興味のない俺はふ〜んってな具合に聞いていたんだが、俺の保護者兼後見人であるさくらに“もう! お兄ちゃんはすぐそうやってかったるいで済まそうとするんだから〜” とぷくっと頬を膨らませて言われてしまい、さくらの家で天体望遠鏡を出して見た。まあ肉眼では見えなかった火星の赤茶けた面などが見えてすげぇ!! と驚いたもんなんだが。そうこうしているうちに辺りは暗くなっていく。そろそろ始まるんだな? そう思い横を見ると、彼女が何だかとても和やかそうな顔で俺の顔を見てにっこり笑っていた。
「今はふたご座からかに座に替わる時期なんだね? 黄道十二宮か〜。それぞれ物語とかがあって楽しかったなぁ〜」
と俺の隣りひとしきり感動した彼女がそう言う。まあ俺も普段何気なく見上げている夜空にあれだけの星が瞬いているのかと思うとちょっと見られないのが悔しい気分になったりした。と、彼女のお腹が可愛く鳴る。途端にぽっと顔を赤らめる彼女が可愛らしい。そういや昼から何も食べてなかったなぁ〜なんて考えてプラネタリウムを後にしようと通路を行く途中であっ! と彼女の声が出る。立ち止まり彼女の声の元を見て納得。黄道十二宮それぞれのペンダントがあった。ここまで来たのはいいがプレゼントを買いそびれていた俺にとっては願ったり叶ったりな状態だったので、“欲しいのか?” と聞いてみると、“別にいいよぉ〜” と遠慮している。星座は確かふたご座だっけか? と思ってふたご座のペンダントを手に取った。“もう彼氏彼女の間柄なんだから遠慮とかはなし! って言うよりことりはもっとわがままになってもいいと思うんだけどな?” と笑って言う俺に、“そう…だね? 朝倉くん” とことりはにっこり微笑んで言う。2人っきりでいるときは下の名前で呼ぶようにしようって言ってたのはことりのほうなのだが、いつもの癖か学園で呼んでいる名前のほうを口に出している。まあそこがことりらしいと言えばそうなんだけどな。と、俺の腹の虫がぐぅ〜っと鳴る。うふふっと笑ってたことりの腹の虫も可愛く鳴った。2人してあははっと笑いあって、じゃあ何か食べて帰ろうとプラネタリウムの近くにあったファミレスへと足を向け歩き出す。そうだ! 誕生日なんだし何かあっと驚かせてやるか…。なんて考えながらファミレスの扉をくぐる今日6月20日、学園のアイドルにして俺の彼女・白河ことりの誕生日だ。
END
おまけ
「今日は素敵なお誕生日プレゼント、ありがとう。純一くん」
少々涙交じりな声でこういう彼女。サプライズと言うことでトイレに行くと言って席を立ち、隠れて厨房のほうに駆け寄ってささやかではあるんだが、ケーキを予約してきた。出てきたときのことりの顔と言ったら…、本当に驚くと人間あんな顔になるんだな? と思った。まあ昔は人の心が読めてしまうと言う初音島の魔法の体現者の1人だったことりも今は普通の女の子なわけなのでこんなどっきりはどうだろうかと思って仕掛けてみたわけだが、功を奏したわけだ。でも昔のことりより今のことりのほうが付き合ってみて違和感がないと言うのは俺の思い過ごしだろうか? 心が読めると言う能力もある意味残酷な能力だったんだろう。何となくだがそう思った。って! こんな楽しい時間に何をかったりぃことを考えてるんだ? 俺は!! そう思い、“ファミレスを出たらまた公園にでも寄ってみよう。雨も上がって雲の切れ間から星が見えるかもよ?” と言う俺に、“じゃあホタルも一緒に見に行こう? この間お散歩してたら1匹飛んでるのを見かけたんだよ” と微笑みながら話す彼女。そんな普段通りな会話に華が咲く夕暮れのとあるファミレスの中でのこと。虫よけスプレーとか買わなくっちゃな?
TRUE END